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2023年5月12日
「懐かしく、慕わしく」 日本文化とおもてなしの真髄を味わう -古民家煉り-|TRAVEL
TRAVEL|「懐かしく、慕わしく」 日本文化とおもてなしの真髄を味わう -古民家煉り-
「古民家煉り」の純粋な客への寄り添い
おもてなし-相手に対し、心のこもった待遇やサービスを行うこと。
2013年に東京オリンピック招致のアンバサダーが壇上で紹介したことで日本に息づく文化、精神として世界に広まり、流行語大賞にも選ばれた言葉であり概念の「おもてなし」だが、語源は「もてなす」と「表なし」。もてなす自体の意味は「ものを持って成し遂げる」、ここで言う“もの”とは物であり心。表なしは、つまり裏もなし。表裏なく区別なく接するという意味である。おもてなしは、特別な作法や振る舞い、待遇が求められる茶道とも密接な関係があり、平安時代から室町時代にかけて茶道が発展するにつれ、その精神も広まったとされる。茶道の世界で活躍した千利休は、お客様ひとりひとりに最高の時間と空間を提供することを「おもてなし」と考えたとされている。
2013年に東京オリンピック招致のアンバサダーが壇上で紹介したことで日本に息づく文化、精神として世界に広まり、流行語大賞にも選ばれた言葉であり概念の「おもてなし」だが、語源は「もてなす」と「表なし」。もてなす自体の意味は「ものを持って成し遂げる」、ここで言う“もの”とは物であり心。表なしは、つまり裏もなし。表裏なく区別なく接するという意味である。おもてなしは、特別な作法や振る舞い、待遇が求められる茶道とも密接な関係があり、平安時代から室町時代にかけて茶道が発展するにつれ、その精神も広まったとされる。茶道の世界で活躍した千利休は、お客様ひとりひとりに最高の時間と空間を提供することを「おもてなし」と考えたとされている。
Text & Photogragh by by IJICHI Yasutake
福岡空港から車で40分。のどかな自然に囲まれた新しくも懐かしい宿
昨今言葉では多用される「おもてなし」だが、それを実現、体現するのは意外に難しい。相手に失礼にならないよう最低限のルールやマナーを守りながら、尚且つ相手に満足してもらうために、相手に敬意を持って相手のことをよく考えたうえで行動する。関係性は1×複数ではなく、あくまでも1×1。そのうえ、同じ人でもタイミングや環境が変われば気持ちや体調、好みも変化するから、そうした変化にあわせて、“この時”“この場所”“この人”のためだけの心のこもった「もてなし」が必要となるし、もてなす側だけでなくもてなされる側も相手を敬い、互いに心地よく過ごそうという感謝とリスペクトも欠かせない。
日本の「旅館」には、この「おもてなし」の精神が深く根付いている。今、日本の宿泊施設数は増加傾向にある一方で増えているのはシティホテルやリゾートホテル。旅館は減っている。ホテルにはホテルの良さがあるが、旅館にも旅館の良さがある。ホテルは世界各国にあるが、旅館は日本にしかない。つまり、日本文化そのものと言ってもいいはず。年月によって劣化していくのではなく年月は年季となって味わい深くなっていき、世の中の進化や流行はおさえながらも、変わらない本質的なことは守っていく。日本の文化や精神、歴史や伝統が根付いているのが、「旅館」の魅力とも言えるはずだ。
今回訪れた「古民家煉り(こみんかねり)」では、そんな旅館の神髄をまざまざと見せつけられた気がした。場所は福岡県宮若市。福岡空港から車で40分程度。空港を出て数分であっという間にビル群を抜けると、山々や田んぼが広がるどこか懐かしい風景を抜けて、誘われる。
「旅」と言うと、その地域の有名なレストランや料亭、史跡や寺社仏閣、博物館や美術館、酒蔵やワイナリーなどに訪れたくなるものだが、ここはその類のものではないだろう。季節で移ろう木々や花を愛で、虫や鳥の鳴き声に包まれ、木や緑や畳や障子の香りを感じ、選りすぐりの旬の素材とシェフの想いと技が掛け合わさったプレートの数々に魅入り、こだわりの詰まった日本酒やワインに酔いしれ、温泉に癒され、瞬時にキャッチアップされる期待や好みにあわせた柔らかなサービスを堪能する。日本旅館の「おもてなし」を存分に享受して最高の時間と空間を五感で楽しむ場所が、古民家煉りである。
オープンは2021年7月。コンセプトは「懐かしく、慕わしく」。部屋は全室離れで6室。元々あった古民家を改修したものと思いきや、使わなくなった木材を調達してイチから建てたものだそう。戸を開けて部屋に一歩足を踏み入れると畳の香りがふんわり舞ってくる。畳の香りに落ち着きを覚えるのはなぜだろう。日本人特有のDNAに起因するのか。古民家煉りでは香りはとても大事な要素になっていて、畳や障子、木の香りだけではなく、シャンプーやトリートメントも畳の原料のいぐさの香りのものが採用されている。庭に出れば、草や花の香り、雨上がりにはみずみずしい何とも言えない香りが漂う。
大きな窓から望むのは、古民家煉りのスタッフが自ら土を運び、木や緑や花を植え、毎日雑草を抜き、コケを手入れしているという庭。トカゲやカエルなんかが戯れているのも見かけることができる。夜は虫の鳴き声に包まれながら静かな眠りに誘われ、朝は明るい陽の光と鳥の鳴き声で目が覚める。これから年月をかけていくと、この庭もさらに味わい深いものになっていくのだろう。
日本文化を各所で体現している古民家煉りらしく、日本独特の季節の変化にあわせて設えも変化させているという。例えば、冬は陶器の花器は夏はガラスに。お茶菓子も毎月変え、柚子湯(冬至)や菖蒲湯(端午の節句)などの季節湯も欠かさない。通常置かれているちゃぶ台は冬になるとこたつになる。それも、こたつは「亥の子の日」から出すというこだわりよう。亥の日とは、江戸時代、亥が火を免れる神使いと言われたことから、「亥の子の日」がこたつ開きとされたことに由来している。
そして、古民家煉りが何より大事にしているのが、「おもてなし」。「6室あったら6パターンのおもてなしがある」と言い、初めてのお客様がお出迎えの際の表情で「緊張されているかな」と読み取れば緊張を解きほぐし、会話から興味や好みを汲み取ればその内容やテンポも柔軟に変化させる。2回目以降のお客様であればデータだけではなくスタッフ個々の会話をヒントに部屋のレイアウトや備品を変えたりすることもあるという。
歴史を辿ってもいつから「旅館」が存在していたかはわからないが、江戸時代には幕府と京都の朝廷を結ぶ五街道に旅館の原点となる旅籠(はたご)や湯治場(とうじば)の温泉宿があったと言われている。日本古来の生活習慣や四季折々の表情が昇華され堪能できるのが旅館。都心で育った人も、自然の中で育った人も、一様にどこか懐かしさを感じられて、理屈抜きの遺伝子レベルで落ち着ける場所。古民家煉りはオープンからまだ2年足らずだが既に多くのお客様にリピートされていると言う。それは、旅館として、お客様に何を伝えたいかというのが世の中に迎合することなく軸を持っていながら、ひとりひとりのお客様の気持ちに対してきちんと寄り添ってくれる。小さな気づきと地道な実行の積み重ねがあるからこそ、多くのお客様に愛されているのだと思う。もちろん、料理にもそんな「おもてなし」の心が随所にちりばめられていたので、その点はまた後半で触れたいと思う。
古民家煉り(こみんかねり)
場所|福岡県宮若市乙野667-3
場所|福岡県宮若市乙野667-3
問い合わせ先
古民家煉り
Tel.0949-52-6380
https://kominka-neri.com/