MOVIE|ベネット・ミラー監督最新作、御曹司による金メダリスト殺人事件を映画化した『フォックスキャッチャー』
MOVIE|御曹司による金メダリスト殺人事件を映画化したオスカー最有力作品
ベネット・ミラー監督最新作『フォックスキャッチャー』
なぜ大財閥の御曹司は、金メダリストを殺害したのか――。1996年に起き、全米を震撼させた事件を映画化したベネット・ミラー監督による『フォックスキャッチャー』が2月14日(土)より全国ロードショーされる。
Text by YANAKA Tomomi
人気喜劇俳優スティーブ・カレルが猟奇的な御曹司を怪演
世界的な化学メーカー、デュポン社の創業者一族の御曹司がレスリングの金メダリストを殺害し、アメリカはもとより、世界中で報道された1996年の事件。この謎に満ちた事件の真相に切り込んだベネット・ミラー監督の最新作『フォックスキャッチャー』。昨年のカンヌ国際映画祭の監督賞を受賞したことにはじまり、世界中で賞賛を浴び、オスカー最有力と目される作品が日本でも公開される。
『カポーティ』(2005年)や『マネーゲーム』(2011年)を代表作にもち、入念なリサーチで知られるベネット・ミラー監督。今回もこれまでと同様、入念かつ緻密なリサーチを敢行。事件の知られざる裏側に踏み込み、実録スリラーの枠を超えた人間のドラマをつくりあげている。
猟奇的な御曹司デュポンを演じるのは、人気喜劇俳優としても知られるスティーブ・カレル。これまでのコミカルなイメージを一新して不気味な存在感を吹き込み、悲哀や憂鬱を体現した怪演を見せた。また、ダブル主演を務めたチャニング・テイタム、実力派として名高いマーク・ラファロとの濃密なアンサンブルが物語の底知れない深みを感じさせる。
じわじわと崩壊していく富豪と金メダリストの主従関係
レスリングのオリンピック金メダリストでありながら、経済的に困窮していたマークに大財閥の御曹司デュポンから届いた突然のオファー。それは、デュポン自ら率いるレスリング・チーム“フォックスキャッチャー”で、次のオリンピックで世界制覇を目指そうというものだった。
その夢のような話に飛びついたマークは破格の年棒で契約を結び、デュポンがペンシルバニア州の広大な所有地に建造した最先端の施設でトレーニングを開始する。しかし、デュポンの度重なる突飛な言動、マークの精神的な混乱がエスカレートするにつれ、ふたりの主従関係はじわじわと崩壊。ついにはマークの兄でおなじく金メダリストのデイヴがチームに参加することで、誰もが予想しなかった悲劇へと突き進んでいく。
派手な視覚効果もなく、台詞も極端にそぎ落とされた映像世界。だからこそ全編にみなぎるただならぬ緊迫感。孤独な大富豪とストイックなレスラー兄弟の関係がもつれてゆく物語をとおして、アマチュア・スポーツ界の歪んだ内幕、さらにはアメリカという国家の歴史と闇さえも覗かせるベネット・ミラー監督の手腕が光る作品だ。
『フォックスキャッチャー』
2月14日(土)より、全国ロードショー
監督│ベネット・ミラー
出演│スティーブ・カレル、チャニング・テイタム、マーク・ラファロ、シエナ・ミラー
配給│ロングライド
2014年/アメリカ/135分
http://www.foxcatcher-movie.jp
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