特集|2014年国際映画祭速報|第67回カンヌ国際映画祭
MOVIE|第67回カンヌ国際映画祭
各部門の受賞作品を最速リポート!
5月14日より南仏の高級リゾート地で開催されていたカンヌ国際映画祭が、25日に閉幕した。一昨年と昨年はひどい悪天候に見舞われ、肌寒い日ばかりが続いたが、今年はコートダジュールの陽光が燦々と降り注ぐ好天に恵まれ、雨が降ったのは僅か2日だけであった。
コンペティションに限らず、実在の人物や事件にスポットを当てた作品が多かった今年のカンヌ。現地で取材をつづけていた映画ライター、吉家容子さんの総評とともに早速振り返ってみることにしよう。
Text by KIKKA Yoko
Edited by TANAKA Junko(OPENERS)
Photographs by Cannes Film Festival
トルコ映画が32年ぶりにカンヌを制覇
映画祭の華であり、日本からも河瀬直美監督の『2つ目の窓』が出品された注目のコンペティション部門の審査員は、1993年の『ピアノ・レッスン』で女性監督初の最高賞に輝いたジェーン・カンピオン(審査委員長)以下、ソフィア・コッポラ監督、ニコラス・ウィンディング・レフン監督、俳優のウィレム・デフォー、ガエル・ガルシア・ベルナルらの総勢9名であった。
映画ライターの吉家容子さんは、今年のカンヌをこう評する。
カンヌの常連監督による粒揃い作(出品数は18本)が並んだ今年は、実在の人物を描いた作品が監督賞と男優賞を獲得。この2賞には納得できたが、サプライズだったのは女優賞に輝いた『Maps to the Stars』のジュリアン・ムーアだ。
もちろん、薹(とう)が立った蓮っ葉(はすっぱ)な人気女優に扮したジュリアン・ムーアの好演も光ってはいたけれど、主演だとは少々言い難く、むしろスッピン状態で映画に出ずっぱりだった『Two Days, One Night』
それと審査員賞にも違和感が……。83歳の老練監督、ジャン=リュック・ゴダールと25歳の気鋭監督、グザヴィエ・ドランの同時受賞という話題性は大きいが、才気あふれるドランの監督作『Mommy』は審査員特別大賞に値するほど、素晴らしい出来だったのではないかと思う。
反対に長編映画2作目での審査員特別大賞受賞となった32歳の女性監督作『The Wonders』の方こそが、審査員賞あたりが妥当ではないかと。これは女性監督に何らかの高位の賞を授与したいという審査委員長の意向が働いたのかもしれない……と勘ぐりたくなるような結果だった。
気になる最高賞のパルムドールは、前評判の高かった3時間超(!)の静謐な『Winter Sleep』。トルコ映画がパルムドールを受賞したのは、1982年の『路』(ユルマズ・ギュネイ監督)以来、実に32年ぶりのこと。これは受賞も頷ける秀作! 私見ではあるが、このヌリ・ビルゲ・ジェイラン監督は自作に出演せずに、監督業に徹したときの作品の方が断然出来がいい。
長編部門 女優賞
ジュリアン・ムーア
『Maps to the Stars』
製作国|カナダ、ドイツ
監督|デヴィッド・クローネンバーグ(David Cronenberg)
独特な世界観で知られる鬼才デヴィッド・クローネンバーグ。最新作では、自身も活動の拠点とする「ハリウッド」の裏側を痛烈に描いてみせた。ここは欲望うずまく映画の都。富と名声を求めて、世界中から老若男女が集う。ジュリアン・ムーアは、なんとか役にありつこうと奮闘する“落ち目”の女優を演じ、カンヌで初の栄冠を手にした。ムーアは2002年に『エデンより彼方に』でベネチア国際映画祭の女優賞を、翌2003年には『めぐりあう時間たち』でベルリン国際映画祭の最優秀女優賞(銀熊賞)を受賞しているため、今回の受賞で世界三大映画祭のすべてを制覇したことになる。
長編部門 審査員賞
『Mommy』
製作国|カナダ
監督|グザヴィエ・ドラン(Xavier Dolan)
25歳にしてすでに5つの長編映画を完成させ、そのすべてが国際映画祭に出品しているグザヴィエ・ドラン。監督や脚本だけでなく、衣装のコンセプトや編集までも手がける映画界きっての切れ者だ。18歳で発表した衝撃の処女作『マイ・マザー』。どこまでもすれ違い、傷つけ合う母親と息子の関係を描いた本作は、ドラン自身の経験に基づいた自伝的作品だといわれている。そして今回、念願のコンペティション部門初出品となった『Mommy』では、ADHD(注意欠陥・多動性障害)をもつ息子と、そんな息子に手を焼く母親という、処女作とは異なるアプローチで母親と息子の関係を描いてみせ、絶賛を博した。
長編部門 パルムドール
『Winter Sleep』
製作国|トルコ、フランス、ドイツ
監督|ヌリ・ビルゲ・ジェイラン(Nuri Bilge Ceylan)
トルコ映画100周年という“記念イヤー”に、最高賞のパルムドールを手にしたヌリ・ビルゲ・ジェイラン監督の『Winter Sleep』。日本では一本も劇場公開されていないため、まだまだ知名度が低いが、カンヌでは2003年に『冬の街』、2011年に『昔々、アナトリアで』で審査員特別大賞を二度受賞、2008年の『スリー・モンキーズ』では監督賞を受賞するなど、国際的に高く評価されている人物だ。アナトリアに建つ小さなホテルを舞台に、家族の愛憎劇を描いた『Winter Sleep』は、批評家から絶賛されたものの、3時間16分という上映時間から賞レースでは苦戦を強いられるという予想が大半だった。だが蓋を開けてみれば、出品作品のなかで一番上映時間の長い作品が、昨年に続いて栄冠を手にした。
長編部門 監督賞
『Foxcatcher』
製作国|アメリカ
監督|ベネット・ミラー(Bennett Miller)
長編部門 男優賞
ティモシー・スポール『Mr. Turner』
製作国|イギリス
監督|マイク・リー(Mike Leigh)
長編部門 審査員特別大賞
『The Wonders』
製作国|イタリア、スイス、ドイツ
監督|アリーチェ・ロルバケル(Alice Rohrwacher)
長編部門 審査員賞
『Goodbye to Language』
製作国|フランス
監督|ジャン=リュック・ゴダール(Jean-Luc Godard)