INTERVIEW|『フランシス・ハ』 ノア・バームバック監督独占インタビュー
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2015年4月1日

INTERVIEW|『フランシス・ハ』 ノア・バームバック監督独占インタビュー

INTERVIEW|愛すべき不器用なニューヨーカーのリアルをスタイリッシュに描く

映画『フランシス・ハ』 ノア・バームバック監督独占インタビュー (1)

思わず2度見してしまうほど、なんとも風変わりなタイトルと、現代のニューヨークが舞台でありながら、どこかヌーべル・バーグの面影を漂わせるモノクロ映画『フランシス・ハ』。たった4館からスタートし、口コミで全米233館まで拡大公開となり話題を呼んでいる本作を手掛けたのは、『イカとクジラ』(2005年)でアカデミー賞脚本賞にもノミネートされたノア・バームバック監督だ。9月13日(土)の日本公開を前に、バームバック監督にスカイプ独占インタビューを敢行。不思議なタイトルの理由から、バームバック監督の現在のパートナーであり、本作で主演と共同脚本を務めたグレタ・ガーウィグとの製作当時のやりとり、そして先日閉幕したばかりのベネチア国際映画祭で主演男優賞を受賞するなど、若手注目株のアダム・ドライバーについて、その魅力を存分に語ってくれた。

Interview & Text by WATANABE Reiko(OPENERS)

絶妙なキャスティングと脚本執筆の舞台裏

ニューヨーク・ブルックリンで親友ソフィーとルームシェアをする27歳の見習いモダンダンサー、フランシス。ダンサーとしてもなかなか芽が出ず、女の友情を優先するために彼氏と別れたものの、まさかの展開でシェアを解消する事態に陥り、フランシスは自分の居場所を探してニューヨーク中を転々とするはめに。果たして彼女の行く末は……?

──『フランシス・ハ』というちょっと変わったタイトルに決まったのはどのタイミングだったのでしょうか?

実は、もともとは『フランシス』というタイトルだったんだけど、すでに1980年代にジェシカ・ラング主演の同名タイトルの映画があったから、できればオリジナルのタイトルをつけたいと思っていたんだ。いずれにせよ、名前をタイトルに入れ込みたいとずっと考えていて。イニシャルでもラストネームでもよかったんだけど、映画の最後で偶然こういうタイトルにしよう、と決まったんだ。まさにアクシデント的でもあるんだけど、結果的には脚本にも生かすことができて、すごくよかったと思ってるよ。


──主演も務めたグレタ・ガーウィグと共同で脚本を手掛けられたそうですが、その点でなにか苦労はありましたか?

最初のうちは、どちらかが単独で書いた場面があったりもしたけど、お互いに直しを入れたり、討論したりしながら一緒に脚本作りをしていったから、ここは彼女、ここは自分というように、振り分けをして完成させたわけではないんだ。そういう意味ではとても楽しいコラボレーションだった。まさに共同作業だったね。

──主人公を27歳という年齢設定にした理由は?

27歳になったのは、当時のグレタと同じ年齢だったから。大学を卒業してしばらくたって、でもまだ30代でもないという、まさに宙ぶらりんな状態なんだけど、かといって遊んでいられるわけでもなく、大人の人生設計をしていかなければならない年齢なんだ。

MOVIE|『フランシス・ハ』 01

MOVIE|『フランシス・ハ』 02

──キャスティングがとても魅力的でした。グレタは最初、ヒロインをやるつもりはなかったそうですね。

ぼくは彼女以外の女優を最初から考えていなかったよ。彼女はおそらく脚本を書いている段階では、自分が俳優として参加するのを前提に取り組むんじゃなくて、あくまで脚本家の立場で客観的にアプローチしたかったんだと思う。

キャスティングはとてもうまくいったと思っている。ニューヨークの若手俳優たちと一緒に仕事ができたのが、今回はとても楽しかったね。全員オーディションで決まったんだ。

──フランシスの友人レヴ役のアダム・ドライバーは、その後の活躍も目覚ましいですね。

アダムのことは、当時はまだテレビドラマの『Girls(ガールズ)』も放映されていなかったからよく知らなかったんだけど、グレタは2年ほど前の彼の舞台を見ていて、すごくいい俳優だとは聞いていた。オーディションでの彼は、すごくエキサイティングで、パフォーマンスもすばらしかった。レヴはマイナーなキャラクターなんだけど、アダム自身が持っているユーモアによって、シーン全体に命を吹き込んでくれたと思う。実は新作でも彼に出演してもらっていて、ぼくのなかではかなりお気に入りの俳優なんだ。

──ソフィーを演じたミッキー・サムナーとグレタの息がピッタリで驚きました。

実は、ソフィー役はなかなか決まらなくてね。ただ才能があるだけでなく、グレタを相手に親密さが表現できる役者じゃないといけなかったから難しかったんだ。ミッキーは最初、別の役でオーディションに参加してたんだけど、クランクインが近づいてもまだソフィー役が決まらずに困っていたときに、ミッキーのことを思い出して彼女に読み合わせをしてもらったんだ。そうしたら、グレタととても相性がよくて、素晴らしい駆け引きをしてくれた。まるで古い親友みたいなやりとりだったよ。

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映画『フランシス・ハ』 ノア・バームバック監督独占インタビュー (2)

疾走感あふれるリアルなセリフの応酬

──デヴィッド・ボウイの『モダン・ラブ』をバックに、フランシスが街を駆け抜けるシーンがとっても印象的で、まさにこの映画そのものを象徴しているかのようでした。

実はあのシーンは脚本の段階では2行くらいの簡単なシーンで、どういう音楽をつけるかどうかも、まったく決まっていなかったんだ。でも、フランシスというキャラクターの“喜び”や“スピリット”が、あのシーンで表現できるんじゃないかと考えた。

難しい局面に直面したときも、持ち前のエネルギーでなんでも克服できるというキャラクターを、肉体的かつ映像的に捉えられるんじゃないかと思ってあのシーンを撮ったんだ。実際ニューヨークに住んでいると、なかなかああいった喜びのシーンというのはつづかないものだけど、だからこそ、観客にとっても一番印象に残るシーンになったんじゃないかな。でも、実際ああいう形で映像化できたのも、脚本にあの2行があったからなんだよね。

──映画のなかで「Undateable(非モテ、恋愛対象外)」「Ahoy sexy!(ヤッホー、美女よ)」といった言葉がよく出てきましたが、会話のキャッチボールがリアルですよね。

「Undateable」はグレタのルームメイトが使っていた造語さ。ふざけあってそんなやりとりをしていたらしい。「Ahoy sexy!」も、掛け合いから自然にでてきたフレーズだね。ただ、どちらも台本どおりの言葉で、即興で使ったフレーズではないんだ。ちなみにこの映画で即興のセリフは一言もないんだよ。

MOVIE|『フランシス・ハ』 04

MOVIE|『フランシス・ハ』 05

──そうなんですね。台本どおりとは思えないくらい、自然な演技でした。演出の秘訣はどのあたりに?

ある意味、計算された実験とも言えるんだけど、今回に限っては、グレタ以外の役者には事前に台本を渡さなかったんだ。自分が出演するシーンのページだけを読んでもらったから、全体のなかでそれぞれの役柄がどんな機能を持っていたのかはわからなかったはず。でも最終的には、それがすごくいい結果につながったと思う。役者によっては難しいと思ったかもしれないけど、今回の作品にはフィットしたスタイルだった。

作品や俳優によってアプローチは変えているんだけど、いつも共通しているのは、脚本の完成に長い時間をかけていること。ぼくは思い通りの脚本ができるまで、決して現場入りはしない。セリフがキャラクターを形作っていく場合が多いからね。今回はこれまでの作品とはちがって、あまりリハーサルをせずにテイクをたくさん重ねたんだけど、それもキャラクターの動きを明確に打ち出すためなんだ。セリフは同じでも、動きが変わると表現も変わってくるんだよ。

とはいえ、監督として現場ですべてをコントロールしたい、というわけじゃなくて、演出するうえで完璧な環境作りはするけど、俳優たちに自分を驚かせてほしいし、まったく予想もしないところに連れて行ってほしいと思ってるんだ。

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映画『フランシス・ハ』 ノア・バームバック監督独占インタビュー (3)

>どんな人生においても誰もが直面する夢と現実の葛藤

──夢を追うイメージの強いニューヨーカーのリアルな姿として、フランシスの選んだ現実的な選択が非常に興味深いです。

フランシスというキャラクターは、リアルに人生を送る人物として描きたかった。最終的に彼女が到達する場所は、映画のなかではとても小さなところではあるんだけど、彼女の人生においては非常に大きな決断なんだ。

フランシスはとても頑固で、あらゆることに否定的で、どんどん大変な状況に追い込まれていっても、周りの忠告に耳を傾けない。グレタは脚本の段階から、フランシスのことを愛情を込めて「ちょっと狂ってる」と言っていたほどなんだ(笑)。

でも、まさに表裏一体であるとも言えるんだけど、見方を変えれば、フランシスは誰よりもロマンチックで、希望に満ちていて、ポジティブでもある。現実においても、誰にだって多かれ少なかれそういう部分はあるでしょ? だから最終的には彼女にもいい結末が待っている、という方向にもっていきたかったんだ。

 

──監督やグレタさんはある意味夢を叶えているとも言えますが、フランシスの人生をどう思われますか。

映画製作の現場においても、たとえすべてが計画どおりに進んで、運さえ味方してくれたとしても、現実には妥協しなければいけないことの方が多いんだ。この作品を撮っていたころ、自分はすでに40代前半だったんだけど、ぼくだって27歳のフランシス同様にいろんな悩みを抱えていたよ。

フランシスがこの映画で経験する旅は、置かれた状況に関係なく、誰の人生にだって起こりうることなんだ。人は誰だってある程度現実的な決断をしていかなければならないし、それとおなじように魔法みたいなことだって起きうるんだ。

フランシスの視線の先には、いつだってソフィーがいる。たとえ彼女にとってのドリーマー的人生はいったん終わったとしても、それと同時に、夢が現実になっているともいえる。ソフィーがいるからこそフランシスは、自分が魔法に満ちた現実に生きていることに気づくんだ。

MOVIE|『フランシス・ハ』 07

Noah Baumbach|ノア・バームバック
1969年9月3日アメリカ、ニューヨーク市ブルックリン生まれ。ニューヨーク州ポキプシー町にあるヴァッサー大学で学び、24歳のときにラブコメディ『彼女と僕のいた場所』(1995年)で監督・脚本デビュー。 2005年、高校時代の実体験を基にした『イカとクジラ』がアカデミー賞®脚本賞にノミネートされるなど、各映画賞を席巻し世界的に有名となる。2010年、ベン・スティラー主演『ベン・スティラー 人生は最悪だ!』でヒロインとしてグレタ・ガーウィグを起用。公開待機作として、アマンダ・セイフライド、ベン・スティラー、ナオミ・ワッツが出演する『While we're young』が控えている。 脚本家としての活動は、ウェス・アンダーソン監督『ライフ・アクアティック』(2004年)『ファンタスティックMr.FOX』(2009年)で共同脚本を担当したほか、アニメーション『マダガスカル3』(2012年)の脚本も執筆している。

『フランシス・ハ』
9月13日(土)よりユーロスペースほか全国順次公開
監督|ノア・バームバック
脚本|ノア・バームバック、グレタ・ガーウィグ
出演|グレタ・ガーウィグ、ミッキー・サムナー、アダム・ドライバー
配給|エスパース・サロウ
2012年/アメリカ/86分/原題『Frances Ha』/モノクロ
http://francesha-movie.net/

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