MOVIE|1950年代、不朽のビート文学を完全映画化『オン・ザ・ロード』
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2015年4月7日

MOVIE|1950年代、不朽のビート文学を完全映画化『オン・ザ・ロード』

MOVIE|試写会に5組10名をご招待!

ビート・ジェネレーションの姿がスクリーン上に蘇る

1950年代、不朽のビート文学を完全映画化した『オン・ザ・ロード』(1)

1950年代ビート文学の代表作、ケルアックの『路上/オン・ザ・ロード』。何度も映画化の話が持ち上がっては、頓挫してきたという“幻の企画”が、ウォルター・サレス監督の手によってついに実現。OPENERSでは8月30日(金)のロードショーに先駆け、8月19日(月)18:30からおこなわれる試写会に、読者5組10名を招待する。

Interview & Text by TANAKA Junko (OPENERS)

青年から大人への道のり

1957年に発表されたジャック・ケルアックの『路上/オン・ザ・ロード』。ボブ・ディランに「ぼくの人生を変えた本」と言わしめ、ジム・モリソンやジョン・レノン、デニス・ホッパー、ジム・ジャームッシュに多大な影響を与えた不朽のビート文学。その後のカウンターカルチャーの時代には、“ヒッピーの聖典”となった青春小説の名作である。

 

MOVIE|『オン・ザ・ロード』 02

描かれているのは、行き当たりばったりの旅をとおして自由を求め、人生の真実を見出そうとする若者たちの姿。恋愛と友情、セックス、ドラッグ、ジャズに彩られた青春模様は、だれもが通過する「青年から大人への道のり」に光を当て、生きることのはかなさや孤独をあぶり出す。

わずか3週間で書き上げたという逸話とともに語り継がれるこの小説は、全米とメキシコを放浪したケルアックの実体験がベースになっている。ゆえに主要な登場人物にはそれぞれ実在のモデルがいる。物語の語り手であるサルはケルアック自身で、もうひとりの主人公ディーンはニール・キャサディ、彼らの友人カーロはアレン・ギンズバーグ、オールド・ブルー・リーはウィリアム・バロウズといった具合に。『路上/オン・ザ・ロード』は、ビート世代を代表する作家たちの、交友関係やライフスタイルをうかがい知ることのできる貴重な資料でもあるのだ。

8年越しで実現した“幻の企画”

発売から半世紀以上が経過したいまも、若者たちの心を揺さぶりつづけている青春小説をハリウッドが放っておくはずもなく、過去には何度も映画化の話が持ち上がったという。が、ケルアック独特の即興的な文体と、起承転結のないストーリーがネックとなり、ことごとく企画は頓挫。

最終的に映画化の権利を買い取ったのは、映画界の重鎮フランシス・フォード・コッポラ。監督候補にジャン=リュック・ゴダールや、ガス・ヴァン・サントの名前が挙がったこともあったが、結局実現には至らなかった。それでも“幻の企画”を諦めなかった彼の元に、救世主のごとく現れたのがブラジル人監督のウォルター・サレスだ。

南米大陸を縦断した、若き日のチェ・ゲバラを描いた2003年の作品『モーターサイクル・ダイアリーズ』に感銘を受けたコッポラは、すぐさまサレスに映画化の話を持ちかけた。それから8年。サレスと脚本家のホセ・リベーラは、原作の核となるエッセンスを忠実に抽出。サルやディーンが発する重要な台詞を引用しながら、そこに息づく感情を繊細にすくい取り、まさしく完全映画化と呼ぶにふさわしい作品を完成させた。

MOVIE|試写会に5組10名をご招待!

ビート・ジェネレーションの姿がスクリーン上に蘇る

1950年代、不朽のビート文学を完全映画化した『オン・ザ・ロード』(2)

人生のすべては路上にある

父の死に打ちのめされた若き作家サル・パラダイスにとって、ディーン・モリアーティとの出会いは青天の霹靂だった。アメリカ東部育ちのサルは知的で内省的。対照的に西部のデンバーからやってきたディーンは、社会の常識やルールにまったくとらわれず、セックスやドラッグを奔放に楽しむ男だった。

劇中でサルはこんな台詞を口にする。「ぼくにとってかけがえのない人間とは、なによりも狂ったやつら、狂ったように生き、狂ったように救われたがっている、なんでも欲しがるやつら、あくびはぜったいしない、ありふれたことは言わない、燃えて燃えて燃えて、あざやかな黄色の乱玉の花火のごとく、爆発するとクモのように星々のあいだに広がり、真ん中でポッと青く光って、みんなに『ああ!』と溜め息をつかせる、そんなやつらなのだ」

たちまちディーンの刹那的なまでに型破りな生き方と、彼の美しき幼妻メリールウに心奪われたサルは、彼らとともに広大なアメリカ大陸へと飛び立っていく。さまざまな人との出会いや別れを経験しながら、ディーンとのかけがえのない絆を強めていくサル。しかしふたりのこの上なく刺激的な“路上の日々”は、永遠にはつづかなかった――

MOVIE|『オン・ザ・ロード』 04

MOVIE|『オン・ザ・ロード』 05

ケルアックの分身であるサルを演じるのは、『コントロール』で脚光を浴び、ニール・ジョーダン監督の『ビザンチウム』にも出演しているサム・ライリー。サルをさすらいの旅に誘うディーンには、『トローン:レガシー』の主演で、一躍ハリウッドの若手注目株に躍り出たギャレット・ヘドランドが抜擢された。

さらに『トワイライト』シリーズのブレイク前から出演が決まっていたというクリステン・スチュワート、エイミー・アダムス、ヴィゴ・モーテンセン、キルスティン・ダンストら豪華キャストが集い、ビート世代の狂騒をスクリーン上に蘇らせている。

事前準備に膨大な時間を費やしたというサレス。まずはケルアックの足跡を辿るドキュメンタリーを制作した。撮影をはじめる前には、ケルアックの分厚い伝記を書いたジェラルド・ニコシアを講師に招いて、俳優陣に特訓を施したのだという。このあたり、できるだけ原作に忠実であろうとしたサレスの想いが見て取れる。

さらに『バベル』『ブロークバック・マウンテン』で二度のアカデミー賞に輝くグスターボ・サンタオラヤが、音楽にビート文学と密接な関係にあるジャズを導入。作品に躍動感を与えている。また撮影監督のエリック・ゴーティエ、美術のカルロス・コンティといった『モーターサイクル・ダイアリーズ』の一流スタッフが、気心の知れたサレス監督を力強くサポートしている。

MOVIE|試写会に5組10名をご招待!

ビート・ジェネレーションの姿がスクリーン上に蘇る

1950年代、不朽のビート文学を完全映画化した『オン・ザ・ロード』(3)

最後にサレス監督の独占インタビューをお届けする。『路上/オン・ザ・ロード』との出合いから、ビート世代について、たっぷり語ってくれた彼の生の声に耳を傾けてほしい。

お互いへの信頼がこの映画を可能にした

――原作『路上/オン・ザ・ロード』に出合ったときのことを、いまでも覚えていますか? 読み終わったあと、どのような気持ちになりましたか?

あれは1970年代のなかば、ブラジルの大学に通っていたときでした。当時は軍事政権下のつらい時代でね。あらゆるメディアやアートフォームが検閲されていました。『路上/オン・ザ・ロード』も出版されなかったから、英語で読むしかなかった。すぐに登場人物の自由さや語り口に魅了されました。それは私たちの暮らしぶりとは真逆のものだったからです。やがて1986年にブラジルでも出版されると、まるでそれが前兆であったかのように、国も民主主義に回帰しようとしていました。わたしにとって、この小説はあまりにも大きな存在すぎて、当時は映画化しようなんて思いもよらなかったですね。

――熱狂的なファンがいる原作を映画化することは、ワクワクする経験でしたか? それとも恐怖を伴うものだったでしょうか?

どんな映画であっても、監督というのは、パラシュートが開くかどうか分からない状態で、飛行機から飛び出すような覚悟が必要だと思うんです。監督だけではなくて、役者も撮影スタッフも同じだと思いますが、監督はそのなかでも崖に一番近いところに立つ覚悟が必要だと思っていて、その覚悟は常に持ちつづけています。

それがオリジナルのストーリーの場合、多少ちがうかもしれません。ですが、今回のように原作がある作品の場合は、映画の方向性というものになにかしら共鳴しなければいけない。個人的な意味でも興味を持って、自分で戦いに挑む姿勢が必要です。原作に描かれた状況や場面をどうやって実現するか。そこからはじめなければいけないわけです。

原作にインスパイアされて映画化するという意味では、チェ・ゲバラの『モーターサイクル・ダイアリーズ』につづいて今回が2回目です。その場合、きちんとスクリーン上に再現できるかという、大きな責任を伴います。同時に最初のテンション(=緊張感)をずっと持ちつづけられるかという難しさも。そのため、『モーターサイクル・ダイアリーズ』『オン・ザ・ロード』の両作とも、撮影に入る前に2回旅をしなければいけませんでした。先ほど述べた覚悟が自分に備わっているかを自問する旅です。『オン・ザ・ロード』においては特にそうで、自分が「準備はできた」という気持ちになるまで、徹底的に調べなければいけないという状況でした。

『モーターサイクル・ダイアリーズ』においては4年間、『オン・ザ・ロード』においては6年間、自分の人生の大きな部分をその事前準備に費やしました。まずは原作者がなにを表現したかったのかということを理解すること、彼らが生み出したストーリーをどのように調理するか思案すること。そういった作業が必要なわけで「本当に自分にそれができるのか」という不安をどうにか減らして、撮影に挑むことが大事なのではないかと思っていました。

――キャスティングはいつ、どのようにおこなわれたのでしょうか。なにか印象深いエピソードはありましたか?

キャスティング自体は、わりと早めの2005年にはじまったんです。クランクインは2011年だったので、ちょうどキャスティングから撮影まで5年半かかったことになります。

最初に会ったのがカミール役のキルスティン・ダンスト。カミール(実在したキャロリン・キャサディ)の感受性や知性を、彼女なら表現できるのではないかと思ったからです。クリステン・スチュワートに会ったのは、ショーン・ペンの『イントゥ・ザ・ワイルド』に出演していたころ。もともと『路上/オン・ザ・ロード』は、一部を暗唱できるくらいに彼女にとって重要な本だったようです。本のなかに登場するメリールウと同じ16歳だったということもあり、彼女にはこの役を提案しました。

キルスティン・ダンストとクリステン・スチュワート、このふたりの出演者が決まった少しあと、オープン・リーディング(公開オーディション形式の読み合わせ)をロサンゼルスでおこない、そのときに出会ったのがギャレット・ヘドランドでした。ギャレットは2つのシーンを読み、そのあとに自分が書いた文章を私たちに読み聞かせてくれたんです。おもわず聞き入ってしまいましたね。それは、彼がミネソタからロサンゼルスに向けて、バスで街を出て行ったときの体験を描いたものでした。とても心を動かされましたし、原作の『路上/オン・ザ・ロード』と同じような旅を、ギャレットは実際に体験したんだということが分かりました。

そこから2008年の経済危機の厳しい打撃を受けて、資金がなかなか調達できず、製作は遅れに遅れました。ようやくクランクインの目途が立ったのが、キャスティングから約6年の月日が経ったころ。役者もそれぞれ売れっ子になって仕事が増え、撮影前の状況とは随分変わってきました。それでも、わたしとしては、最初の直感に従いたいという気持ちが強かったので、キャスティングはなるべく同じでいきたいと考えていました。ありがたいことに、俳優陣もわたしと同じように、このプロジェクトに対して信頼を置いてくれていました。お互いへの信頼がこの映画を可能にしたんだと思います。

MOVIE|『オン・ザ・ロード』 08

――ビート世代のことを過去の存在として捉えていますか? それとも、現代の若者のなかにも同じ精神が息づいていると思いますか?

それを考えるには、結局「ビート世代ってなんだったのか?」という定義に戻らなければいけません。「実際になにをもたらしたのか?」ってね。ひとつ言えることは、冒険心と好奇心に溢れ、それを自分の直接的な体験として求めたということです。そして常に心の自由を求めて行動していました。

基本的に彼らが生きていたのは、アイゼンハワーやマッカーサーの時代で、保守的な方向に向かっていかなければなかったわけです。いまでもその影響は色濃く残っていると思います。1960年代や1970年代が、自由な社会の基礎になったことは確かだと思いますが、私たちがいま実際に目にしていること――若い男女がより自由を求めて生きようと思うと、不安や恐怖を覚えるという状況は、残念ながらあまり変わっていないように思います。

ある権力に向かって対立し、ストリートに出てみずから行動を起こす。そういう意味では、現代の若者のなかにもビート世代の精神は息づいていると思いますし、彼らを駆り立てた衝動を想い返すとき、同じような力が沸いてくるのだと思います。ケルアックやギンズバーグ、ダイアン・デ・プリマ、ファーリンゲティ、グレゴリー・コーソ……彼らはいくつもの川の流れをせき止めていた道を開き、大海へ流れるように道筋を示してくれました。それが1960年代の性の解放であるとかあたらしい文学史に繋がっていくわけです。

彼らはなによりも独創的であろうとしました。ケルアックはギンズバーグとちがうものを表現していたと思いますし、ファーリンゲティともまたちがうと思います。ビート世代は自由を求めて戦いに挑んでいたんですね。それはいま、この現代にも通用することだと思いますし、彼らの言動から学ぶことは多いと思います。

MOVIE|『オン・ザ・ロード』 08

『オン・ザ・ロード』試写会に5組10名をご招待
日程|8月19日(月)
時間|18:00開場 18:30開演
会場|ブロードメディア・スタジオ試写室
東京都中央区月島1-14-7 旭倉庫2F
応募締切|8月12日(月)午前10時

応募は終了しました。
たくさんのご応募ありがとうございました。

『オン・ザ・ロード』
8月30日(金)よりTOHOシネマズ シャンテほか全国順次公開
監督|ウォルター・サレス
製作総指揮|フランシス・フォード・コッポラ
原作|ジャック・ケルアック著『オン・ザ・ロード』
脚本|ホセ・リベーラ
出演|サム・ライリー、ギャレット・ヘドランド、クリステン・スチュワート、エイミー・アダムス、トム・スターリッジ、キルスティン・ダンスト、ヴィゴ・モーテンセン
配給|ブロードメディア・スタジオ
2012年/フランス・ブラジル/139分/R-15/原題『On The Road』
http://www.ontheroad-movie.jp/

© Gregory Smith

           
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