INTERVIEW|映画『横道世之介』沖田修一監督インタビュー
LOUNGE / MOVIE
2015年2月16日

INTERVIEW|映画『横道世之介』沖田修一監督インタビュー

INTERVIEW|時代設定を越えた普遍的な青春ストーリー

映画『横道世之介』沖田修一監督インタビュー(1)

出逢えたことがうれしくて、おかしくて、そして──。大学に入学した18歳の横道世之介と、彼に関わり、その16年後、彼との思い出を温かな気持ちで思い出す人々を描いた、吉田修一原作の青春小説『横道世之介』が映画になる。メガホンをとったのは『南極料理人』『キツツキと雨』で、一躍脚光を浴びた気鋭の映画監督、沖田修一。ストーリーの主要な舞台となる1987年当時は「まだ小学校5年生でした」と笑う沖田が、この作品に込めた想いとは? 2月23日(土)に公開となる本作を、沖田本人が語る。

Text by TASHIRO Itaru
Photographs (portrait) by JAMANDFIX

若手実力派のふたりが共演

物語は、主人公・横道世之介が長崎から、進学のために上京してくるところから始まる。演じたのは若手の実力派、高良健吾。実際に、おなじ九州の出身で、沖田とは3本つづけて共作する間柄だ。

「原作を読み終えて、なんか高良クンっぽいなとおもったんです。九州から上京したというおなじような体験があって、方言もナチュラルに喋れる。世之介の気持ちもよくわかるのではないかと。今回は、ずっと温めていた高良クンの主演作で『ならば、おもう存分やってやれ』とおもってやりました(笑)。

 

世之介は特に変わったところのない普通の青年。誰にでもあるような体験をしていて、普通の感情を持ったキャラクターです。その彼が大学に入っていろんな人と出逢い、1年の月日が流れていくというのが基本の話。だから、世之介の方から狙っていくようなアクションはせず、ごく普通に、そこにあるモノと場所で自然な芝居を、と高良クンとも話していました。18歳で若いですからね。誰もがそうでしょうけど、そのころは自分が『いつか死ぬ』なんてことをまったく考えなくていい。1987年の設定ですけど、その時代に生きているということも別に意識しなくていい。高良クンも言っていましたけど、いまの若い人だって、いまが2013年だと自覚して生きているわけじゃないですから」

 

そして、世之介に恋する富豪のお嬢様・与謝野祥子を演じたのが吉高由里子だ。

「祥子は変わっているといえば変わっていて、結構、漫画的なキャラクター。実際に人が演じた場合、どうしても現実離れしてしまう部分もたくさんあって、そのバランスをどう図るのかという点で、吉高さんも気を遣われてました。ただ、根っこのところは18歳の普通の女の子。単純に生まれた環境が特別だから、話し方とか、普通の人とはちょっとちがうところがあるだけだって、僕自身は説明していました。あとはもう、高良クンもそうでしたけど、吉高さんにも、膨らませるだけ膨らませてもらって、という感じですね」

1987年といえば、日本はバブル経済のまっただ中。当時を知る人には懐かしいカルチャーも数多く登場。時代を表現する緻密なディテールも、この作品を特別なものにしている。

「嘘はつかないように、小物ひとつとっても87年当時にあった本物を、とおもいまして。僕はその時、まだ小学校5年生でしたから、わからないことも多かったんですけど、そのころを知るスタッフに教えてもらいながら作り込みました。けど、僕自身も意外と覚えているんですよね。斉藤由貴さんのAXIAのポスターとか、5/8チップスとか(笑)。着る服も、髪型も、87年という設定は損ねないよう気を遣いました。

 
映画『横道世之介』 06

©2013『横道世之介』製作委員会

映画『横道世之介』 07

 

けど、ロケ地は苦労の連続。当時の大学生は下北沢の駅前で待ち合わせて、イタめし屋で食事というのがトレンドだったそうですけど、いまの駅前には当時なかった、映っちゃいけないものがいっぱいあったりして。下北では撮れず、イタめし屋も、当時と内装も備品もおなじというところはなかなかなくて。それで、作品の中ではあえて祥子が来そうもないようなゴチャゴチャした街で、初めて見る大きなアメリカン・バーガーに手掴かみでかぶりつくという設定にしました。素をさらけ出さねばならない食べ物の方が、祥子と世之介が心を通わせる初デートという狙いがはっきりするのではないかとおもったんですね。そういう具合に、どこまで本物にこだわって、どこからアレンジして表現するかという、80年代の出し方と引き方のバランスは、今回すごく難しくかった点です」

INTERVIEW|時代設定を越えた普遍的な青春ストーリー

映画『横道世之介』沖田修一監督インタビュー(2)

誰もが共感できる普遍的な“青春”

ディテールにこだわる一方で、沖田が砕身したのは誰もが共感できる、普遍的な青春の表現。80年代をまったく知らない世代の心にもきちんと届くような作品にすることだった。

「先ほど、高良クンとの話をしましたけど、どの年代にも通用する作品に、というところは強く意識しました。原作通りの1987年なんですけど、それはたまたま87年だった、という立ち位置が映画の場合は一番良いだろうと。ストーリー自体も、どの年代の人が読んだって共感し得る話という印象で、だから、映画も普遍性を心がけました」

そうして誰もが「自分もそうだったよなぁ」と学生時代を懐かしく思い出すのだ。

 
映画『横道世之介』 10

映画『横道世之介』 13

 

「19歳くらいのころって1日があっという間で、結局なにをしていたのかわからない1年間だったりする。僕もそうでした(笑)。けど、その1年で人は、本人にしかわからないかもしれない、得難い経験を数多くしている。平凡な世之介のそんな1年を追った作品ですから、『平坦な映画ですね』とか『あんまり起伏がない、なにも起こらない』なんて言われることもありますけど、そんなことはなくて、友達が妊娠したり、自分が夢中になれるものを見つけたり、意外といろいろ起きている。入学してからのわずか1年間だけど、世之介本人にしてみたら内容の濃い1年間だぞと。そういう18、19歳のころの時間感覚みたいなものを、映画でも再現できたらいいなとおもう気持ちはありました」

 
映画『横道世之介』 11

©2013『横道世之介』製作委員会

映画『横道世之介』 14

 

市井の人を描くということ

世之介はその後、どうなるのか。祥子は? 実在すると思い込んでしまうほど、リアリティに溢れた人物描写に、観客はグイグイと引き込まれ、最後の最後まで目が離せなくなる。2時間40分という大作ながら、時間はあっという間に過ぎていく。

「本当に役者のみなさんが達者で。18~19歳同士の会話が頭に浮かんだら、すぐアドリブで言い合っちゃうとか。なんて言うんですかね……。無駄話が多いというか、そういう普通の感じを映画の中で再現できたらいいなとおもって、高良クンを始め、みんなに話したりしていました。だから、今回は若い者同士の感覚で作り上げていった気がしています。我ながらなかなか良い方法だったなぁと(笑)。吉高さんも、そういう意味で非常に勘の良い女優さんですし。なんか、高良クンとのふたりのやり取りを普通にお客さんとおなじように楽しんだっていうか、監督がそんなに楽しんでちゃいけないんですけど(笑)」

胸に染み入るエンディングの後で、心に浮かぶのは、その人の人生のなかにおいては誰もが主人公なのだという事実。世之介の生きざまに、目頭が熱くなり、自然と笑顔になる。

 

「いわゆる庶民の生活を作品で描くということは、ずっとやりたいなとおもっていまして。よく『食事のシーンが多いね』とか、『食べているところを撮るの好きだね』って言われるんですけど、そういうシーンにこそ生活感が出る。だから、多くなってしまうのかもしれませんね。今回も、僕はずっとそういう気持ちで撮っていましたし、日常を“画”にして庶民を描くというのが、好きというか、楽しいというか。そういう庶民を愛くるしくおもう。それはこれからも絶対変わらない僕のスタンス。手を替え、品を替え、サスペンスを撮ったとしても普通の人を描く。それはこれからもきっと変わりません」

沖田修一|OKITA Shuichi
1977年、埼玉県出身。日本大学芸術学部映画学科卒業。短編『鍋と友達』(02)が第7回水戸短編映像祭にてグランプリを受賞。初の長編作品『このすばらしきせかい』(06)を監督。TVドラマの脚本・演出を経て、監督・脚本を手掛けた『南極料理人』(09)で商業映画デビューを果たす。同作では第29回藤本賞新人賞、新藤兼人賞金賞ほか日本シアタースタッフ映画祭監督賞を受賞するなど監督としても高い評価を得た。『キツツキと雨』(12)では、東京国際映画祭で審査員特別賞、ドバイ国際映画祭で最優秀男優賞(役所)、最優秀脚本賞、最優秀編集賞を受賞。第4回TAMA映画賞では、最優秀新進監督賞を受賞している。

 

映画『横道世之介』 19

 

『横道世之介』一般試写会に10組20名様をご招待!

そしてOPENERS読者に朗報。2月1日(金)18:30からニッショーホールで開催される一般試写会に10組20名を招待します。ご希望の方は下記ボタンよりご応募ください。

日程|2月1日(金)
時間|18:00開場 18:30開映
会場|ニッショーホール
東京都港区虎ノ門2-9-16
応募締切|1月29日(火)午前10時まで

応募は終了しました。
たくさんのご応募ありがとうございました。

『横道世之介』
2月23日(土)より新宿ピカデリーほか全国ロードショー
出演|高良健吾、吉高由里子、池松壮亮、伊藤歩、綾野剛、きたろう、余貴美子
原作|吉田修一
監督・脚本|沖田修一
脚本|前田司郎
主題歌|ASIAN KUNG-FU GENERATION「今を生きて」(キューンミュージック)
配給|ショウゲート
2012年/日本/160分
http://yonosuke-movie.com/

©2013『横道世之介』製作委員会

           
Photo Gallery