INTERVIEW|映画『脳男』茶屋刑事役・江口洋介インタビュー
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2015年2月16日

INTERVIEW|映画『脳男』茶屋刑事役・江口洋介インタビュー

INTERVIEW|“正義”の意味を改めて問うバイオレンスミステリー超大作『脳男』

茶屋刑事役・江口洋介インタビュー(1)

先天的に並外れた記憶力と知能、肉体を持ちながら、人間としての感情を一切持ち合わせない、美しき殺人者“脳男”――正義の意味を改めて問う『脳男』が2月9日(土)より公開となる。主演の脳男に生田斗真。脳男に出逢い、その謎に挑む精神科医に松雪泰子。そして、脳男と対峙する無骨な刑事・茶屋を演じているのが江口洋介だ。三者三様の衝撃的な結末を迎える、このバイオレンスミステリー超大作の魅力を、出演者の江口自らが語る。

Text by TASHIRO ItaruPhotographs (portrait) by JAMANDFIXStyling (portrait) by HASEGAWA AkioHair & Make (portrait) by YUHMI Katsuhiko

CGなし! 五感を刺激する映画ならではの迫力

照明の落ちた暗い劇場に轟く、身体を揺さぶる強烈な爆発音。真っ赤な炎でいっぱいになるスクリーン。ハートウォーミングな作品も多い昨今の日本映画界にあって、『脳男』は映画館で観てこそ、真価が体感できる数少ない作品のひとつだ。

「爆破シーンは本当にすごいです。全編すべて、CGじゃないですからね。爆薬を入れて、ビルを爆破させて。ここまでやるかって感じなんですけど。あの大音量ですからね、家のスピーカーだったら、飛んじゃいますよ(笑)」

観賞後に残るのは頭のなかが痺れるような感覚。劇中の世界観に、身体中が支配されてしまい、いつまでたっても現実に戻れない気さえする。

「たった数日間のストーリーで約2時間の作品なんだけど、ものすごく濃いものを観てしまった感覚に陥りますよね。淡々と時が積み重なっていくなかで、『あぁ、ここがエンディングか』というような予想を観客に少しもさせないような力強さ、重厚感が作品中ずっとつづいている。世界観が最初から最後まで途切れないんです。

映画『脳男』 03

© 2013 映画「脳男」製作委員会

映画『脳男』 04

© 2013 映画「脳男」製作委員会

息抜きのシーンがひとつもなくて途切れず、ズーッと、ジーッと物語が進んでいく。そういう意味でも、本当に見応えのある作品になったと自負しています。見終わって映画館から出ても、なんか頭がジンジンするとか、自分でも説明できない気持ちになるとか、視覚だけでなくて聴覚や感情など、人間のいろんなところを数時間で刺激するのが映画の特性。僕自身も、そういう映画をいっぱい観てきましたし、皆さんにもその気分を味わって欲しかった。今の日本の映画界のなかで突出した作品になればとおもいながら僕自身も演じ、実際にそういう作品になりました」

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茶屋刑事役・江口洋介インタビュー(2)

「頭がグチャグチャになるラスト」

そんな作品のメガホンをとったのは瀧本智行監督。江口とは昨年公開の『はやぶさ 遥かなる帰還』につづく共作となる。

「『はやぶさ』のときとは役柄もストーリーもまったくちがって、監督自身も『今回の作品は特に自分の趣味性が高くてスイマセン』なんて言いながらやられてましたけど、こっちも『いや、もう、面白くてしょうがないです。携われて幸せです』と応えていました。瀧本監督って、ワンカットを長くしつこく回して役者も追い詰めるし、もう、すごいんですよ(笑)。けど、そこが瀧本さんならではの手綱の引き方というか、最終的には過激なシーンも下品にならないですし、やりっ放しにもしない。大人が楽しめる作品になった要因のひとつはそこにあるとおもっています。

撮影そのものも、物語の時間軸に沿ってわりと進んだので、撮るたびに物語を構築していく実感が役者の側にもありましたし、僕も『エンディング、どうなるんだろう』と期待しながら演じていました。だから、撮影中、みんなで飲みに行ったりしても、あんまり作品の話にならなくって(笑)。脚本家もプロデューサーも、全員が常に未だ見ぬラストに向かっていって、やっと出来上がったという達成感はすごくあります」

そして、エンドロールとともに圧倒的な音圧で流れるのはプログレッシブロック、希代の名曲「21世紀のスキッツォイド・マン」だ。

「これから脳男はどこへ向かうんだ? なんておもってたら最後にあの、キング・クリムゾンですからね。もう、頭がグチャグチャにされます(笑)」

生田斗真との壮絶なアクションシーン

江口演じる茶屋は無骨な刑事。“脳男”生田とのアクションシーンも、この作品の見どころのひとつだ。

「あのシーンはひと晩かけて朝までずっと、生田クンとふたりでやっていました。だからもう、リアルですよ、完全に。疲労感も(笑)。それから、その後の生田クンのシーンも絶品だし、松雪さんの『そうだったのか』というラストも、すごいですよね。感情が揺さぶられるというか。観ている人は茶屋の結末があって、脳男の結末があって、それで松雪さんの結末の時に、ちょっとおかしくなるというか、殺意とはなにか? みたいな常識のバランスが崩れるんです、きっと。圧巻ですよね、最後の2、30分くらいは」

映画『脳男』 09

© 2013 映画「脳男」製作委員会

無骨な男を演じることも多い江口だが、今回の茶屋は特別に感じたという。

「尊敬する原田芳雄さんや松田優作さんのようなアウトローを観てきた世代なんでね、自分のなかではそういうものに近い表現ができるかなという感覚は当初からありました。医者や新聞記者など、体制のなかのアウトローはいろいろ演じてきたんですけど、あそこまでのアウトローっていうのは、なかなか演じる機会は少なくて。監督と話しながら、髪型まで含めて茶屋という人間像を作っていきました」

INTERVIEW|“正義”の意味を改めて問うバイオレンスミステリー超大作『脳男』

茶屋刑事役・江口洋介インタビュー(3)

まったく異なる役を演じる

活躍のつづく江口だが、今年はテレビドラマの主演作もすでに始まっている。それは、フジテレビ系列で毎週日曜・夜9時に放映中の『dinner』だ。

「これまた全然違う話(笑)。イタリアンレストランが舞台なんですけど、主が倒れて、経営が危うくなったところに現れる、江崎というひとりのイタリアンシェフが僕の役。その再生の仕方が普通ではなくて、この男ならではの価値観で立ち向かっていく。そんな話です。大枠で言ったらコメディとおもって観てくれたら面白いかと。見どころのひとつはセット。イタリア料理屋のホールや厨房をリアルに造っていて、そこに制作側の挑戦がある。そんなセットを見ただけで嬉しくなりますし、こっちのテンションも上がります」

まったく異なる役を演じ分ける江口。しかし、観る側は、その振れ幅の広さに感激し、それぞれの作品の世界観に浸って、ただ、ただ、楽しめばいいのだ。

「『脳男』ですが、見方によっては、善と悪の判別がなかなか難しい少年犯罪みたいな社会問題、それから、今の日本の危うくてバランスの悪い時代状況も反映しているとおもうんです。けれど、それを社会派の映画でなく、きちんと娯楽作品として仕上げているのがすごいところ。茶屋を始めとする3人が、きっちりとそれぞれの正義を通して生きているっていう部分を、きちんとエンターテイメントの世界のなかで表現している。

この作品を観て『こういうものは良くない』っておもう方もいるかもしれませんが、それは、逆に言えば、それだけ作品がなにかを強く訴えているということ。僕もどういう風に説明していいのかわからない部分もいっぱいあって、本当に『観てもらえればわかる』としか言えないんですけど、ぜひとも映画館で体感してもらいたい。自分で観てなにを感じるのかを、期待しながら楽しんでもらいたい。それによって別に、社会に対して、どうのこうのというのではなくてね。この作品が約2時間の娯楽物である限り、これ以上の映画はなかなかないはずです」

『脳男』

2月9日(土)から東宝系で全国ロードショー!

監督|瀧本智行

脚本|真辺克彦、成島出

出演|生田斗真、松雪泰子、江口洋介、二階堂ふみ、太田莉菜

配給|東宝

2013/日本/125分/PG-12

http://www.no-otoko.com/

           
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