これが最初で最後のアンジェリーナ・ジョリー・ピット作品か――

奇しくも現地時間9月20日（火）に離婚を申請したことが明らかになったブラッド×アンジェリーナ夫妻の、『Mr. & Mrs. スミス』以来10年ぶりの共演映画が公開される。

長年連れ添った夫婦役を演じた『白い帽子の女』は、アカデミー賞®女優であり、国連の人道支援などで世界中から注目されているアンジェリーナが、出演・監督・脚本・製作を務め、ひとりの女性として抱える苛立ちや不安を赤裸々にさらけ出したオリジナルストーリーである。

監督としては2011年に『最愛の大地』でデビューを飾り、2014年にはアカデミー賞®に３部門ノミネートされた『不屈の男 アンブロークン』を発表し、話題となったアンジェリーナ。本作では初めて「アンジェリーナ・ジョリー・ピット」の名前でクレジットを出しているが、離婚が成立してしまうと、これが最初で最後の「アンジェリーナ・ジョリー・ピット」名義の作品となってしまうだろう。

また、この作品はふたりがハネムーンの地としても選んだ美しいマルタ島にて、2014年夏に撮りあげた“愛の結晶”の映画である。ふたりは夫婦を演じ、ブラッドは映画制作を公私共に全面的にサポート。もろく壊れてしまいそうな妻に翻弄されながらも、優しく受け入れる小説家の夫を熱演している。

この作品のアンジェリーナはとにかく痩せている。役柄なのか、頬はこけ、ロングドレスから見え隠れする白く美しい脚も折れそうなくらい細い。虚ろで表情のないその顔が、見ただけで、「妻」が抱える闇の深さを否応なく感じさせる。やがて隣の部屋を覗き見することに憑かれてしまう彼女を見ていると、見ているこちらも、その闇に引きずり込まれそうになる。南フランスの綺麗な浜辺やクラシカルなリゾートホテルの様子と、笑顔のないアンジェリーナの表情、何かを悩んでいるかのようなブラッドの表情が対照的な作品である。

物語は淡々と進むので、『Mr. & Mrs. スミス』のようなスピード感はない。しかし、愛の形は違えど、この作品も夫婦の抱える不安を赤裸々にさらけ出したビターでエモーショナルなラブストーリーである。

また、脇を固める俳優も豪華である。『イングロリアス・バスターズ』のメラニー・ロラン、『わたしはロランス』のメルヴィル・プポー、セザール賞の常連である『預言者』のニエル・アレストリュプ、『コックと泥棒、その妻と愛人』のリシャール・ボーランジェがこの物語に深みを持たせている。ニエルとリシャールのカフェでのやり取りが本当に微笑ましい。

アンジェリーナ・ジョリー・ピット出演・監督・脚本・製作作品『白い帽子の女』は、９月２４日（土）シネスイッチ銀座ほかで公開。

1970年代、南フランスにアメリカ人の小説家ローランド（ブラッド・ピット）と、その妻ヴァネッサ（アンジェリーナ・ジョリー・ピット）はヴァカンスに訪れる。ローランドはカフェに入り浸り、妻はほとんどの時間をホテルの部屋で過ごしている。ふたりの人生にもたらされた思いがけない不幸に向き合うことができず、心が離れてしまっていた。ある日、ヴァネッサは部屋の壁にある小さな穴を好奇心から覗いてみる。ハネムーンで滞在している若いカップル（メラニー・ロラン、メルヴィル・プポー）の寝室が見えた。愛情から生まれる優しい言葉や親密なしぐさを、壁越しに観察するヴァネッサ。またローランドも愛を謳歌する若いカップルに魅了され、二組の夫婦の距離は自然と近づいていく。ふたりは彼らを介入させることで自分たちの夫婦関係を改善しようとするが、深い孤独を抱えるヴァネッサは混乱してしまう。「君は幸せになることを拒んでいる」ローランドは哀しみをのり越えて、また一緒に歩みたいとヴァネッサに寄り添うが――

『白い帽子の女』
監督・脚本・製作：アンジェリーナ・ジョリー・ピット
製作・ブラッド・ピット
撮影：クリスティアン・ベルガー
音楽：ガブリエル・ヤレド
出演：ブラッド・ピット、アンジェリーナ・ジョリー・ピット、メラニー・ロラン、メルヴィル・プポー、ニエル・アレストリュプ、
リシャール・ボーランジェ
２０１５年/アメリカ/１２２分/配給：ビターズ・エンド、パルコ
(c)2015 UNIVERSAL STUDIOS