連載エッセイ|#ijichimanのぼやき「秋葉原編」
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2021年3月24日

連載エッセイ|#ijichimanのぼやき「秋葉原編」

第27回「オタク文化とカレーの街・秋葉原」

ひたすら肉体の安全無事を主張して、魂や精神の生死を問わないのは違う(三島由紀夫)」――日本初のコールドプレスジュース専門店「サンシャインジュース」のボードメンバーの伊地知泰威氏の連載では、究極に健康なサンシャインジュースと対極にある、街の様々な人間臭いコンテンツを掘り起こしては、その歴史、変遷、風習、文化を探る。第27回は、サブカルチャーとカレー、昭和の面影を残す街、秋葉原を案内する。

Photographs and Text by IJICHI Yasutake

世界的なサブカル聖地「AKIBA」

コロナの影響でインバウンド事業は大ダメージを受けているが、2018年に東京を訪れた外国人旅行者は約1500万人、消費金額は約1兆2000億円だそう。そんな外国人に人気の観光スポットだったのは、浅草、銀座、新宿。それから渋谷。そしてそれらに並んで人気があったのが秋葉原だった。その理由は「サブカル」。
秋葉原はそもそも高度経済成長期に電機街に発展した。おそらく50歳以上の人たちにとって秋葉原は電気街のイメージ。どちらかと言うと僕もそっち寄り。その後、ファミコンをきっかけにゲームブームが到来するとホビーの街に。ゲームがアニメやコスプレに派生。さらにはAKBをはじめとしたアイドルの情報発信地に。
21世紀になってこれらのコンテンツが海外にも活発に発信されるようになって以降、秋葉原は世界的なサブカル聖地「AKIBA」となった。
とにもかくにも、「オタク」「アキバ系」なんて呼称も、ひと昔前は社会性や社交性に欠ける人を指すようなちょっと嘲弄する時に使う言葉だったが、今はある領域に特化したスペシャリストだったり、とことん突き詰めるストイックな人を指すときにも使う、ポジティブな意味合いに転換されるようにもなった。
そんなわけで、秋葉原は、唯一無二と言っても過言ではない独自の立ち位置を築いた。
さて、実は僕は、秋葉原のことはほとんど知らない。総武線と日比谷線の乗換駅という点で中学時代に使っていたことはあるけれど、降りたことはなかったし、ゲームもアニメも人並みに以上に嗜んでいた自負はあるけれどどういうわけか秋葉原には行っていない。
それが今年になってからトレカ・フィギュアショップの「OTACHU」に行く機会が生まれ、必然的に秋葉原を訪れる機会が増えた。そうとなればある程度リサーチして楽しむ他ない。
まず初めて知ったのは、秋葉原がカレーの激戦区だということ。隣町の神田(神保町)がそうであることは言うまでもないことだけど、秋葉原もそうだった。そのわけは定かではないけれど、秋葉原は観光地化が進むに従い人が増え、飲食店の数も増えた。
秋葉原はホビーの聖地。趣味の街に多く集まるのは男性だから、「安く」「早く」「腹いっぱい」を満たすものが〇必。その3つを満たすカレーが広がっていったという説がひとつある。
で、その数ある人気カレー店の中でチョイスしてみたのが「アールティ」。ここは北インドのカレー、インドの屋台料理が美味しいと評判のお店。とはいえ、インドカレーに北/南の違いがあることを知らなかったし、屋台料理を他所で食べたことないから、その良し悪しを相対比較で判断ができない。
秋葉原のメインストリートから離れ昭和通りをこえて神田川沿いのビル2F。ランチはドリンクとサラダ付。カレー1種を選ぶのが800円。3種選べてナンの他にサフランライスとチキンまで付いても1200円。極めてリーズナブルである。
海老でもチキンでもカレーそのものの味わいがしっかりしていて各々の個性がある。ギトギトもしていない。(具が違うだけで味が一緒のカレーは多いし、脂っぽいカレーも多い)全体的にショウガが効いているのもいい。お店は知らないと気付かなそうな風体だけど、これだけの評判を得ているのにはちゃんと訳があるということだ。
秋葉原散歩して疲れてきたら、「どうする?茶でもする?茶店ないかな」となる。アキバの茶店と言ったらメイド喫茶。元祖は2001年にオープンした「キュアメイドカフェ」と言われている。そこからあっという間にメイド喫茶マーケットが出来上がったわけだ。
実はアキバを歩いているとそこかしこに客引きのキャッチがいる。歌舞伎町以上の数だけど、全部メイド喫茶のキャッチだ。それだけ熱心に誘ってくれるメイド喫茶は一体どんな体験価値を提供してくれるのか。コト消費全盛の今、単なるコスプレカフェで終わることはあり得ないから、期待に胸を躍らせて行ってみるといい。
「お帰りなさいませ、ご主人様」
僕が訪れたのは、「アキバ絶対領域+e」。ここは人間に恩返ししたい猫の国。エレベーターを上がれば入国。やさしく迎え入れられ、席につくと「魔法をかけるから目をつむって」と言われ、気がつくと自分も猫になる(猫耳を装着)。猫ちゃんを呼ぶときは「にゃんにゃん」と呼び、カフェメニューを食べる前には“秘密の魔法”をかける。「おいしくなーれ。にゃんにゃん」。これで格別の美味さになる。
オプションで、一緒に撮影したり、ライブが見れたり、、とにかく色んなプランが用意されている。秋葉原で買い物して疲れたらここで一息、、、、にはちょっとおすすめしないかもしれない。しかし、いわゆるオタク的でありながら、原宿的ポップ感も組み込まれた世界観。ご常連との距離感の取り方、新規客の楽しませ方、ガールバーのようなおもてなし。よく考えられたコミュニケーション戦略である。いずれにしてもここに訪れる際は、一切の羞恥心・恥じらいは排除するのが正解ということだ。
「萌え萌えきゅん」
さて、そんな秋葉原にも昭和の色気漂う老舗はある。1954年(昭和29年)創業の「赤津加」もそのひとつだし、1986年(昭和61年)創業の「たん清」もそう。駅から至近だけど昭和通りの隣通りの地下にひっそり佇む。
元々は知る人ぞ知る店だったのだろうけど、もはや食に興味がある人なら知らない人はいない人気有名店。仕事でも行けるし、デートでも行けるし、友人とも行けるし、家族とも行ける、僕の好きなユーティリティなお店。
たん清はその名通り「タン」が絶品。タンだけ絶品というのはありえなくて、タンが絶品ならレバー、ミノ、ハラミ、ロース、カルビ、どれを取っても当然絶品となる。傑作。精神的充足度は最大級。コロナ禍で時短営業しているけど、それでも常に満席なのは天晴だし、納得です。
電機、ゲーム、アニメ、アイドル、、、いくつものシーンを作ってきた秋葉原。ゲームが来たら電機が廃れ、アニメが来たらゲームが廃れというようなことはなく、どれもきちんと根を生やし、ひとつひとつが地層のように重なって、より厚みを増した街を作り上げている。
作ってきたシーンは時代の変遷で変われども、いつの時代にも同じように多くの人を受け入れてきた名店もある。次の時代にはどんなシーンを生むのかわからないけど、新しい尖ったものを発信して受容してくれるのだろう。たまには、秋葉原散策も面白い。
アールティ
東京都千代田区神田佐久間河岸50 大岩ビル2F
Tel|03-3864-5602
アキバ絶対領域+e
東京都千代田区外神田1-6-3アキバあそび館2F
Tel|03-6260-9435
たん清
東京都千代田区神田練塀町45番 ライオンズマンション秋葉原B1F
Tel|03-3258-8321
伊地知泰威|IJICHI Yasutake
1982年東京生まれ。慶應義塾大学在学中から、イベント会社にてビッグメゾンのレセプションやパーティの企画制作に携わる。PR会社に転籍後はプランナーとして従事し、30歳を機に退職。中学から20年来の友人である代表と日本初のコールドプレスジュース専門店「サンシャインジュース」の立ち上げに参画し、2020年9月まで取締役副社長を務める。現在は、幅広い業界におけるクライアントの企業コミュニケーションやブランディングをサポートしながら、街探訪を続けている。好きな食べ物はふぐ、すっぽん。好きなスポーツは野球、競馬。好きな場所は純喫茶、大衆酒場。
Instagram:ijichiman
                      
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