ラグジュアリー日本酒の開拓者たち──SAKE HUNDREDと楯の川酒造、「百光」進化の軌跡 ──

左がSAKE HUNDREDのブランドオーナー生駒龍史氏。右が楯の川酒造の佐藤淳平代表取締役。

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2024年12月6日

ラグジュアリー日本酒の開拓者たち──SAKE HUNDREDと楯の川酒造、「百光」進化の軌跡 ──

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SAKE HUNDRED|百光

庄内平野に越冬白鳥が舞い降りる晩秋の「楯の川酒造」。SAKE HUNDREDのブランドオーナー生駒龍史氏と楯の川酒造の佐藤淳平代表取締役が、蔵のテイスティングルームにて向かい合っている。SAKE HUNDREDは、現在、酒蔵8社に醸造委託をしているが、そのはじまりは楯の川酒造だった。そして今、ふたりの挑戦は、新たなステージへ進もうとしている。

Photographs by OHTAKI Kaku|Text by TSUCHIDA Takashi

異例の協業 ── 「前例のない挑戦」を受け入れた決断の裏側

「6年前、SAKE HUNDREDを始めるに当たり、ラグジュアリー日本酒の可能性を確信していました。高級酒のカテゴリーを確立し、オンラインで届ける。この構想に共感してくださった佐藤代表の決断が、今日の成功を築いてくれた」と、生駒氏が口火を切る。
その発言に、佐藤代表は、静かに頷いた。
「生駒さんのビジョンには、説得力がありました。日本酒の新しい価値を示すという明確な意志。それは、私たちが求めていた発想でもあったのです」
山形と秋田の県境にそびえる鳥海(ちょうかい)山。その見事な頂きを望む麓に、楯の川酒造の酒蔵がある。
SAKE HUNDREDが設立される以前の2017年秋、一通の提案が楯の川酒造に持ち込まれた。当時、日本酒業界では珍しい存在だった日本酒専門メディア「SAKETIMES」運営者として知られていた生駒氏からの、醸造委託の依頼だった。
「率直に言えば、最初は驚きました」と、佐藤代表は振り返る。「メディアの方が、突然、お酒を売るという方向に舵を切る。本当に大丈夫なのかと思いました」。
しかし、その提案は従来の日本酒ビジネスを根本から覆す可能性を秘めていた。「ふたつの理由で決断しました」と、佐藤代表。「まず、高級日本酒のカテゴリーを確立していくという強い意志に共感できた。当時、日本酒の価値は、相対的に下がる一方でした。誰かが、この流れを変える必要がある。その覚悟を、生駒さんに感じたんです」。
もうひとつは、蔵元からの直接発送という革新的な販売形態への挑戦だった。「今までどこもやっていない取り組みでした。でも、それこそが必要な変革だと直感的に理解できたんです」。
蒸し終わった米を麹室に運び出す作業。ここは時間との勝負で、蔵人数人が手分けして運び出す。
この決断は、業界内では異例のものだった。なぜなら、日本酒は酒販店が売るという慣例がすでに出来上がっていて、そこに誰もメスを入れてこなかったからだ。しかし蔵元から直接配送するなら、理想を追求した酒質設計が叶う。繊細な日本酒は、他の醸造酒、蒸留酒と異なり、温度・振動の徹底した管理を追求する必要があったからだ。
加えて、顧客情報を持つことで、カスタマーとコミュニケーションするという、これまでの日本酒業界では行われてこなかった価値提供が可能となる。他の多くの蔵元が躊躇する中での決断だったが、しかし佐藤代表には、確かな手応えがあった。
「みんなと同じことをやっていても仕方がない。誰かが飛び込まないといけない時期でした」
現在の楯の川酒造といえば、全国にその名を馳せる存在だが、先代が亡くなり、佐藤代表が若くして家業を継いだ頃の状況はそうではなかった。それを一代でここまで盛り返してきた実績がある。ベンチャーマインドという点でも、ふたりの思考は共鳴したのだろう。
麹室に引き入れる前に、温度を下げ、水分を一定量蒸発させる。早朝の作業だが、蔵人たちはキビキビと自分の作業をこなしていく。張り詰めた空気感はあるが、皆、互いの動きを理解していて、無駄な動きがまるでない。チームとしての一体感がヒシヒシと伝わってくる。

価値の再定義 ── コロナが加速させた市場の変容

最初の2年間は、決して平坦な道のりではなかった。「百光」2000本の販売に約2年を要し、さらにその直後にコロナ禍が襲来。しかし予期せぬ環境変化が、むしろ追い風となった。
「高級酒は自宅で消費されるようになった」と、佐藤代表は分析する。「世の中の飲酒シーンが、ガラッと変わった。お酒と向き合って飲まれるスタイルが際立ってきたんです」。
現在では「百光」だけで年間1万本を完売するまでに成長。富裕層の間では、高級日本酒はただおいしく飲むのではなく、「知る」「味わう」「楽しむ」ことが根付いてきた。“向き合う文化”が醸成されているのである。その背景には、SAKE HUNDREDの活動が導いてきたところも大きい。
川名啓介氏による種切り(米麹をつくるため、麹室にて、蒸米に麹菌を振りかける作業)。その米麹の出来が後の工程に大きく響く。日本酒造りのキモとなる大切な工程。
楯の川酒造の醸造責任者、川名啓介氏は語る。「うちができなかったことをやってくれている。見せ方、ブランディング、そのあたりは、私たちの蔵にはないものでした。ここまでやってきたのは、生駒さんが最初です」。
そして2024年、「百光」は大きな進化の時を迎えた。原料米を有機栽培の「出羽燦々」から特別栽培の「雪女神」に変更する(※)という決断である。この決定には、高級日本酒としての揺るぎない品質を追求する、醸造家たちの深い思索が込められていた。

※出羽燦々は、1997年に登録された山形県の酒米。そして雪女神は2017年に登録された山形県の酒米。有機栽培とは、農薬を一切使わない栽培方法に対し、特別栽培とは減農薬の栽培方法である。有機栽培は農家に対する負担が大きく、栽培量をこれ以上、増やすことができないことから、「百光」の高まるニーズを満たせない問題も生まれていた。ちなみに、特別栽培米となると、有機栽培米よりも一段階品質が落ちると誤解されがちだが、両酒米の価格は同等である。
令和6年度の新米「雪女神」。楯の川酒造は農家と直接契約によって、この貴重な酒米が今後も安定的に供給される。
楯の川酒造の自社精米施設。貴重な精米機を、この酒蔵はなんと5機も所有する。純米大吟醸酒(精米歩合50%よりも多く磨いたお酒)に特化した酒蔵の本気が伝わってくる。
「百光」に用いる精米歩合18%に磨いた雪女神。割れ、欠けもなく、粒が揃っている。この酒米は、心拍が小さく、安定していて、欠けにくい特性がある。
「雪女神は純米大吟醸用に開発された新しい品種です」と、川名氏は説明を始めた。その眼差しには、10年以上の醸造経験による確かな自信が宿る。「一般的な酒造好適米と比べて、特筆すべき特徴があります。それは、3年から5年という長期にわたって、シャキッとした酒質をキープできることです」。
実は、日本酒の「経年変化」は、高級日本酒市場における重要な課題の一つだった。「出羽燦々など、溶けやすい米を使うと、どうしても長期的な時間経過とともに味わいが段々と重くなっていく。でも雪女神は違う。溶けにくい特性を持っているんです」。
それは単なる保存性の問題ではない。川名氏は続ける。「溶けやすい米を溶けにくく醸すのは、極めて難しい。でも、その逆は可能です。雪女神は、私たち醸造家にとって、より繊細なコントロールを実現させてくれる、まさに理想の原料米と言えます」。
いま、まさに、搾られている「百光」。管の付近には、酵母がアルコール代謝した際に作り出す微細な泡がプツプツと浮かんでいる。

至高の一滴を求めて ── 醸造家たちが追い求める完璧な均衡

上槽直後のテイスティングにて、引き締まっていた生駒氏の表情が、一瞬にしてほどけていく。
「うん、美味しい」 。そのひと言は、シンプルながらも、確信に満ちていた。
外観、香りを確認した後に、グラスに口をつける生駒氏。軽やかな酸と、洗練された甘みを指摘する。
「キラキラな甘みのイメージはそのままで、飲んだ瞬間の透明感がこれまで以上に高まっている。これは、私たちが目指したものですね」。グラスを傾けながら、さらに言葉を継ぐ。「非常に雑味がなく、素晴らしい仕上がり。香りがまた絶妙なんです。香りだけで圧倒することなく、その距離感が絶妙。まるで上質な香水のように、その存在を主張しすぎない」。
さらに注目すべきは、甘みの質の変化だった。「重すぎず、ベタつかない。一般的な大吟醸酒だと、味わいとともに重たい甘みを感じるけれども、これは違う。心地良い酸があり、甘みまでもが、綺麗で上品なんです」。
傍らで川名氏が、深く同意を示した。「グルコース値は予定より若干低めの1.7程度。でも、それが、かえって良い方向に作用している。若さゆえの苦味は残っていますが、出荷までのあと1-2ヶ月の熟成で、より完成度の高い味わいへと変化していくはずです」。
その時間軸の設計も、醸造家の矜持である。狙った酒質に、雪女神のポテンシャルが存分に呼応する。
楯の川酒造では、すべてのタンクで発酵を計測し続け、必要とあらば時間を置かずに対処する。徹底した管理体制により、狙った酒質へと発酵を正確に誘導する。

未来を拓く確かな絆 ── ふたりの革新者が示す日本酒の可能性

「VC(ベンチャーキャピタル)の皆さんに気を遣うことも多いのが、ベンチャー企業の宿命だと思います。でも、私たちは製造パートナーとして大きなリスクテイクをしている自負があります」と、佐藤代表は率直に語る。
「だから、しっかりと言うべきことは言います。それくらいコミットして一緒にやっていきたい」
この言葉には、単なる委託製造者を超えた、強い協力関係への覚悟が滲む。楯の川酒造にとってSAKE HUNDREDとの協業は、日本酒の新しい可能性を切り拓く一大プロジェクトなのだ。
「純米大吟醸酒だけを専門的に製造する蔵として、私たちは昨今、高価格帯の日本酒を追求してきました。そうしたなかで、顧客層へのアプローチやブランディングは、大きな課題でした」と、佐藤代表。そしてこうも続ける。「それは私たちだけでなく、業界全体の課題でもある。その中で、SAKE HUNDREDは日本酒のブランド化という領域に切り込んできた。そこには大きな可能性を感じています」。
12月初旬、待望の新生「百光」のファーストロットがついにリリースされる。上槽から2週間を経て、おそらくは理想的な飲み頃を迎えたことだろう。早朝のテイスティングを終え、東京への帰路にて、生駒氏は、確信に満ちた表情でこう語った。
「間違いなく、今までで最高の出来です。この酒質で、日本酒の新しい価値を世界に示せると確信しています」
その新しい価値とは、卓越した酒質という実体価値はもちろん、その先にある創造価値をも包含する。頂きを目指す造り手の真摯な姿勢、革新的な販売スタイル、そして何より、両者の揺るぎない協業関係。それらすべてが、一本の日本酒に結実している。
グラスに注がれた新生「百光」。その透明感のある艶やかな輝きは、伝統と革新が交差する日本酒新時代の幕開けを告げていた。
商品名|百光 BYAKKO
製造者|楯の川酒造(⼭形県)
内容量|720ml
価格|3万8500円(税込・送料別)
商品詳細|https://jp.sake100.com/products/byakko
⼀般抽選販売応募期間|2024年11⽉6⽇〜12⽉16⽇
新たな「百光」の抽選販売 応募受付ページ|https://jp.sake100.com/pages/byakko-2024-25-winter-fortune-form
問い合わせ先

SAKE HUNDRED
https://jp.sake100.com/pages/contact

                      
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