連載エッセイ|#ijichimanのぼやき「昼飲み」
LOUNGE / FEATURES
2022年11月7日

連載エッセイ|#ijichimanのぼやき「昼飲み」

連載エッセイ|#ijichimanのぼやき

第41回「昼飲み」

ある日、神保町で昼メシを食べようと思って「新世界菜館」に入った。味も良くて量もしっかりあって、席もゆったりしていて価格も手ごろなので、神保町に用事がある時の昼メシはたいがいここにしている。僕はいつもと同じようになんらかの麺類を頼んだのだけど、ふと前を見たら、ひとりの白髪の老年の男性がいた。シャツにジャケットを羽織った小ぎれいな男性だった。よく見たら彼は、紹興酒を飲みながら上海蟹を食べていた。それを見た時に、自分の理想の老後はこれじゃないかと思った。

Photographs and Text by IJICHI Yasutake

<新世界菜館:神保町>
日本では、酒は夜に飲むもの、休日に飲むものという概念がある。平日の昼から美味いメシを食い美味い酒を飲むということはどこか「悪」とされ、それをやる側には背徳感を伴う。
しかし、時代は令和。朝9時にオフィスに出社して、皆一様に机に向かって仕事して8時間経ったら終わり、終わらなければ夜な夜なオフィスで残業する。そんな昭和のやり方はコロナをきっかけに終焉した。家からカフェからホテルから好きな場所からリモートで繋いで、オンラインで仕事するのが当たり前の時代。不要に束縛をされることなく毎日を謳歌できるのである。であれば、その古い概念は壊して、昼から酒を飲んだっていいんじゃないか。
むろん、午後に大事なプレゼンがあるのに昼から酒を飲んで泥酔するような人は別である。自律と責任がある大人たちは大いに昼飲みすればいい。午後の仕事が対面じゃなければ匂いも気にしなくていいし、昼飲みにはたくさんメリットがあるのだから。
①    夜は値が張る店も昼だと手ごろなことが多い。
②    夜より店が空いている。
③    泥酔してまわりに迷惑かけるほど飲む奴が夜より少ない。
④    お尻の時間が決まっていればダラダラしない。
⑤    夜にダラダラ飲むことが減れば睡眠の質が上がる。
⑥    夜の酒量が減って寝ている間に肝臓を休ませることができる。
リモートの反動で、人との接点が放っておいても勝手に生まれることは減って、どこかで意識的に接点を持つようにしないと人との濃い繋がりが生まれにくくなっている。対面でMtgしていた時は、会話のテンポや相手の表情や空気や流れで汲み取れることがたくさんあったけど、オンラインMtgだと参加者ひとりひとりが順番に報告するだけの意味のない場で終わることもある。リモートで合理的になった反面、対面の場はより大事になっている。
仕事の関係とはいえ相手が人間である以上は、信頼関係や共感共鳴が大事だとすると、最終的にはウェットな関係性が大切になる。それをより円滑に作ってくれるのが、酒。昼から酒を飲んで腹割って話して、どんどん広く深く繋がっていけば良いと思う。
■鶴松 東京都港区新橋3-16-8 Open12:00-
新橋で仕事していた数年前、ランチに焼肉が食べたくなってふらっと入った店。自分の中では焼肉定食的なランチをイメージして入ったのだけど、そんな甘ちゃんなものはなく、昼から容赦なくアラカルト勝負だった。最初はごはんとホルモンで終わらせようと思っていたけど食べていくうちに止まらなくなり、気づいたらひとりで飲み始めていた。ここは肉のクオリティも高くて安くて美味い。2時間勝負できちんと食べて飲める。酒もそれほど濃く作ってこないので、昼飲みにはぴったり。だけど、匂いは付くので午後の予定に対面のアポがある場合はその相手によっては避けた方がいいだろう。あと今は新橋の昼飲みの聖地みたいになっているので、予約は必須。
■鳥竹 東京都渋谷区道玄坂1-6-1 Open12:00-
言わずと知れた渋谷の焼き鳥の老舗名店。12:00から通し営業なのが心強い。昼にひとりで焼鳥丼や親子丼でランチすることもできるけど、串をつまみながら飲むのもできる。というかそちらがメイン。ポーションが大きくて、火の入れ具合がちょうど良くて、昔の焼き鳥屋らしく鳥だけじゃなくてウナギもあって、メニューが豊富で何度行っても飽きがこない。名店らしくいつ行っても混んでるけど、回転が良いので、気にすることはない。
■大統領 東京都台東区上野6-10-14 Open10:00-
上野アメ横のもつ焼きの名店。ここもいつ行っても混んでいるけど、拠点が東側の相手と距離を縮めるにはもってこいの店だろう。なんせ朝10:00からやっているので、11:00頃から集合してもつ煮込みと串をつまみに1杯サワーでも飲みながらランチMtgなんてオツじゃないか。「朝から混んでますねー」なんていう一言から始まるのがお決まりで会話の導入もばっちり。店の雰囲気も相まって一気に自然と打ち解けることは間違いないから、2人きりの大事な商談に良いかもしれない。
昼からほろ酔いで楽しくなれば、仕事も楽しくうまくいく。オフィス出社、年功序列や終身雇用など従来の“意味のない”ルールがなくなりつつある今、仕事は楽しく本質的にをモットーに、酒と上手に付きあって、切れ味抜群の営業トークに、キテレツな企画、弾むようなプレゼンをかませば、壮大な仕事も遂行できて、日本の未来も明るくなる。はずである。
伊地知泰威|IJICHI Yasutake
1982年東京生まれ。慶應義塾大学在学中から、イベント会社にてビッグメゾンのレセプションやパーティの企画制作に携わる。PR会社に転籍後はプランナーとして従事し、30歳を機に退職。中学から20年来の友人である代表と日本初のコールドプレスジュース専門店「サンシャインジュース」の立ち上げに参画し、2020年9月まで取締役副社長を務める。現在は、幅広い業界におけるクライアントの企業コミュニケーションやブランディングをサポートしながら、街探訪を続けている。好きな食べ物はふぐ、すっぽん。好きなスポーツは野球、競馬。好きな場所は純喫茶、大衆酒場。
Instagram:ijichiman
                      
Photo Gallery