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2023年4月5日
Talking about “混沌” 04|板谷由夏が、長く通いたくなる店に求めるもの
Talking about “混沌” 04
板谷由夏に聞く“通う店”
俳優、モデル、キャスター、ファッションディレクター…さまざまな肩書きをもつ板谷由夏さんが、20年間通い続けている「Kong Tong」。この店に惹かれる理由、そして「人好き、現場好き」の彼女の素顔、さらにパワーの源とは。
Edit by TANAKA Toshie(KIMITERASU) Photograph by YOKOKURA Shota Text by HONJO Maho
出会った人々すべてが、役者の糧になる
− この三宿にあるレストラン・カフェ&バー「Kong Tong」は、2023年3月で20周年を迎えました。板谷さんはオープン当初からずっと通い続けているとか。
板谷由夏(以下板谷) カウンターに立つ福田達朗さんとは、当時、夜遊びのたびに顔を合わせていたんです。その彼が「今度お店を出すんだ」と言うので、場所を聞いてみると、当時の家のめちゃくちゃ近所! そんなご縁もあって、オープン以来、私の“第二のリビング”と化しています。役者仲間の二次会に使わせてもらったり、「もう一軒、行く?」となったときに「みんな連れていくけど、空いてますか〜?」と酔っ払いながら電話してなだれ込んだり。そうやって20代は、週4ペースで通ってましたね(笑)。それが30代に入って結婚して子供を産んで、拠点を海の近くに移したこともあって、少し足が遠のいて。今、子供たちの手が少し離れたこともあり、この数年で再び足を運んでいるという感じです。打ち合わせをすることもあるし、私が手掛けるファッションブランド『SINME』とコンバースのコラボレーションイベントを開催したことも。20代のときとはまた違う、新しいおつきあいが始まった気がしています。
− 40歳のバースデーパーティも「Kong Tong」で開いたとか?
板谷 そう、それが7年前。GREAT3のメンバーに演奏してもらったのが懐かしい! 120人ぐらい招待して、入れ替わり立ち替わりになるかな〜と思っていたのが、みんな全然帰らなくて(笑)。ぎゅうぎゅうの中でお祝いしてもらったこと、今でもよく覚えています。
− 板谷さんご自身は俳優、モデルでありながら、ニュース番組のキャスターとして活動した時期もあり、さらに自身のファッションブランドのディレクターも務めています。その八面六臂の活躍ぶりに驚かされるのですが、依頼されることと、自分がやりたいことと、どちらが多いのでしょうか。
板谷 この役者という仕事は基本的に受け身です。プロデューサーがいて、作品があって、「この役をやってみませんか?」とオファーをいただくのが通例。思いもよらない役柄に出合えることがあって、それはそれで大好きなのですが、受け身だけでは物足りないなと感じていたのも事実でした。ゼロから何かを生み出してみたいという欲求から、ならば洋服が好きだし、ファッションブランドがやりたいと思って立ち上げたのが『SINME』なんです。役者の仕事もアパレルの仕事も、すべては出会いとご縁。何がどこでどう繋がるかはわからないもので、「それ、面白そう!」と思うものに飛びついてきたら、今にたどり着いた。好奇心が私をここまで連れてきてくれた気がします。
− なかでも印象的なのが、2007〜18年まで11年間続いた『NEWS ZERO』のキャスターとしての板谷さんです。多忙を極めるなか、現場まで足を運び、自分の目で見たことを、しっかり自分の口から伝えている。それを拝見して、“骨惜しみしない人”だなと感じていました。
板谷 キャスターをやらないかとお声かけいただいたとき、「一俳優である私がキャスターなんて、絶対にできない」と思ったんです。でも半径30メートルでいい、自分の手が届く範囲の気になることから始めてみてはどうか、と言われて、「ならばできるかも」と思いました。さらに考えたのは、「言葉にリアリティをもたせたい」ということ。上滑りなコメントをするのだけは、絶対に避けたかった。だから「現場に行かせてください。それができるならやります」とお伝えしたんです。台本を与えられて、キャスターという役を演じることならばできるけれど、板谷由夏として表に出るのならば、嘘のない自分の言葉で伝えたいと思ったんですよね。
− 『SINME』もそうやって、生産者のもとへ足を運んでいますね。
板谷 『SINME』はそもそも、国産ジーンズ発祥の地とされる児島の生産者の方と知り合ったことが、立ち上がりのきっかけです。今はニットの生産者のもとにも通っていますし、パールを扱いたいという思いを強くして、タヒチまで飛んだこともありました。現場を体感した、そのリアリティは、必ず第三者にも伝わると信じているんです。さらに興味深いことに、キャスターとして出会った人々、ディレクターとして関わった人々、彼ら彼女らのすべてが俳優業に返ってきている。あのときあんな人がいたな、あの場所でこんな人に出会ったな、それらすべてが役を演じる糧になっています。結局は全部が陸続き。いろんなことに携わって、いろんな人々に出会えて、本当によかった。心からそう思っています。
− ちなみに、笑福亭鶴瓶さんが自身のトーク番組『A-Studio+』で、板谷さんのことを「人と人をつなげる天才」と評してらっしゃいました。そのマッチングにコツはあるのでしょうか。
板谷 いえいえ、何も考えてないというのが正直なところ。自分がもっている素敵なカードを、自分の好きな人たちに見てもらいたい。単純にそんな感覚です。ご縁を生んでいるなんてとんでもなくて、私自身が縁を欲しているだけ。ものすごく欲張りなんだと思います(笑)。
− 「Kong Tong」とのご縁も不思議ですよね。20代に通っていたとしても、40代になって再び足を運ぶお店もあれば、そうでない場所もある。その違いはなんだと思いますか?
板谷 それはやっぱり「人」だと思います。20代のときは、人のご縁をつくることにある意味必死でした。ここは面白い大人がたくさんいて、それこそ“社交場”のようだった。今はもう少し“ホーム”のような感覚。扉を開けると、必ず「おかえり」って言ってくれますしね。いや、よく考えると昔から「ただいま」「おかえり」が合言葉だったかも(笑)。心から寛げる場所があって、20年変わることなく私を迎えてくれる。そのことに感謝しています。
「これ、好き!」そのセンサーを磨き続けたい
− いろんな舞台で活躍してきた板谷さんが、さらにこれからやりたいことは、どんなことですか?
板谷 旅! 旅に出たいですね。何か違うものをインプットしたら、また新しいものが生まれる、そんな気がしています。行き先は、たとえばスペインやポルトガルの田舎町、うーん、台湾の小さな町などもいいですね。ただその一方で、とにかく健康で元気でいられたら十分という気持ちもあります。おいしいごはんを食べて、楽しいお酒を飲んで、好きな人々と語り合う…それができたら、もうパーフェクトじゃないかって。それ以上を求めるなんて強欲だと思う自分と、いいや、まだまだ! もっともっと先へ行ける! と意気込む自分と。そのどちらもが同時に私の中に存在しています。
− SNSほか、情報が溢れているこの世の中で、板谷さんの言葉には、いつも健全さと真っ当さが宿っていてハッとさせられます。そのブレることない軸を保つために心がけていることはあるのでしょうか。
板谷 うーん、やっぱり「好きなことをやる」。それに尽きるかもしれません。基本的に仕事が大好きだし、そうでないとここまで続けることはできないですよね。たとえば『SINME』は、私が着たいものだけをつくっているんです。お気に入りの服ならば、しばらく寝かせたとしても、また時期が来れば新鮮な気持ちで着られますよね。そんな服づくりが私の目標。だからやっぱり、ベースは「好きなこと」。「好き。だから楽しい」というセンサーは、すごく大切にしているかもしれません。
− ちなみに、モチベーションが上がらないときはどう対処するのですか?
板谷 これはあまり人に信じてもらえないのですが(笑)、実は私、ものすごくネクラなんです。気持ちが沈んできたなと思ったら、何が原因なのか、さらにその奥に何が隠れているのか、それを探るべく、深く深く潜っていくタイプです。なぜかというと、このタイミングでこの問題に出合ったことには意味があって、その触りたくない箱を開けてみると、未来への扉が少し開くことを、経験上知っているから。ただ最近、大人になって立ち向かうパワーが落ちているのか、その作業を避ける傾向もあって。そこは反省。掘り下げることで得られる気づきに、いつまでも敏感でいたいですね。
− モヤモヤや悩みも与えられたものとして受け入れてクリアにする。それこそが多方面で活躍する板谷さんの原動力であり、強みなのかもしれませんね。さて、去る3月9日、「Kong Tong」の20周年パーティが開かれました。参加してみてどう感じたか、教えていただけますか。
板谷 懐かしい面々が揃っていて、同窓会のようでした。人もお店も年月を重ねた分、景色があるなあ、と感じました。これからもずっとわたしにとってはホームです。一緒に年を重ねたいと思います。
板谷由夏 Yuka Itaya
1999年、映画『avec mon mari』で女優デビュー。その後、ドラマ『パーフェクトラブ!』を皮切りに、数多くの作品に出演。2007年からは『NEWS ZERO』に出演し、2018年までキャスターを務めた。映画の魅力を伝える情報番組『映画工房』ではMCとして出演するなど、マルチに活躍。2児の母であり、自身が立ち上げたファッションブランド『SINME』のディレクターも務める。
1999年、映画『avec mon mari』で女優デビュー。その後、ドラマ『パーフェクトラブ!』を皮切りに、数多くの作品に出演。2007年からは『NEWS ZERO』に出演し、2018年までキャスターを務めた。映画の魅力を伝える情報番組『映画工房』ではMCとして出演するなど、マルチに活躍。2児の母であり、自身が立ち上げたファッションブランド『SINME』のディレクターも務める。
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