特集|食のみやこ鳥取県|「分とく山」の野﨑洋光が見据える、鳥取の食材の大いなる可能性
LOUNGE / FEATURES
2015年4月1日

特集|食のみやこ鳥取県|「分とく山」の野﨑洋光が見据える、鳥取の食材の大いなる可能性

特集|食のみやこ鳥取県

「分とく山」の野﨑洋光が見据える、鳥取の食材の大いなる可能性(1)

鳥取には美味なる食材が数多くある。食通のあいだでも、まだまだ知れわたっていないこの事実。海と山に囲まれた自然環境は、ねばりっこや白ネギ、梨といった野菜・果物類、岩ガキやハタハタをはじめとする魚介類、そして鳥取和牛などの肉類を生む。「鳥取の食材とのつきあいは30年以上」という料理人の野﨑洋光さんは、最近その可能性にあらためて注目していると話す。

Photographs (portrait) by JAMANDFIXText by OGAWA Fumio

鳥取の食材は分とく山の“大事なパートナー”

割烹「分とく山」(わけとくやま)の総料理長、野﨑洋光さんがいま注目している食材は、鳥取のものだ。

「鳥取の食材とのつきあいは、私が(1970年代に)八芳園に勤めていたときからです。オーナーが鳥取出身で、おいしい食材を取り寄せていました。最近、あらためて料理に使わせていただくようになりましたが、漁業、農業、畜産業すべてにわたり、海も山もある良質な環境に恵まれた鳥取のよさが端的に表れていると感心しています」

特集|「分とく山」の野﨑洋光が見据える、鳥取の食材の大いなる可能性

海、山、里の豊かな自然環境を活かして、おいしい食材が数多く生み出されている鳥取県

地産地消、つまり地元で作られたものを地元(とその周辺)で食べるのが一番という概念がある。野﨑さんは、地産地消の提唱者のひとりとして、「自分たちが作っているものを食べれば、なにを守り育てていくべきかがよく理解できます」と理由をあげる。つまり、せっかくいいものをもっていながら、市場を開拓できないことがもったいない。また、県外で販売されなければ、我われも美味のおこぼれにあずかることが出来ない。そういう少々身勝手だが、食いしんぼにとっては大事な課題もある。

4月から夏にかけては、らっきょう、すいか、ぶどう、トマト、白ネギ、それに二十世紀梨や新品種、新甘泉といった梨などの野菜・果物類。魚介では、クロマグロ、岩ガキ、白イカが初夏。秋から冬にかけては、赤ガレイ、ヒラメ、ハタハタ、松葉ガニや猛者エビなどの甲殻類。鳥取には美味なる食材が数多くある。一部は全国規模で知られているが、まだまだ知名度が十分上がっていないものも少なくない。

特集|「分とく山」の野﨑洋光が見据える、鳥取の食材の大いなる可能性

日本料理に見識が深く、数多くの著者ももつ野﨑さん

特集|「分とく山」の野﨑洋光が見据える、鳥取の食材の大いなる可能性

やわらかく肉のうまみがある「鳥取和牛オレイン55」でローストビーフを作った野﨑さん

「おいしいものが比較的簡単に地元では手に入る。鳥取の人は幸せだと思うんですよね」。長年、数多くの食材とつきあってきた野﨑さんは、鳥取の食材をこうして褒めるのだった。料理店では、コンスタントにおなじ料理を出さなくてはならないため、卸から食材を買わざるを得ないが、同時に、全国各地の食材に目配りをすることで、料理を先へと進めていく気概も大事である。鳥取の食材について語る野﨑さんの眼には、先取の精神がみなぎっている。

特集|食のみやこ鳥取県

「分とく山」の野﨑洋光が見据える、鳥取の食材の大いなる可能性(2)

野﨑さん特製ローストビーフに欠かせないふたつの食材

鳥取のすぐれた食材の中でも、最近とりわけ注目されているものがある。「鳥取和牛オレイン55(ゴーゴー)」と、「大山(だいせん)ブロッコリーきらきらみどり」だ。前者は、脂肪の中に含まれるオレイン産の含有率が55%以上の牛肉。脂肪のまろやかさと質へのこだわりが生み出した。後者は、苦みやえぐみを抑えて甘さを強く出したブロッコリー。化学肥料の使用量を通常より約7割削減し、有機質肥料を主体に栽培される。

「鳥取和牛オレイン55」は、さかのぼれば、鳥取の気高(けたか)号という種雄牛の血統。この気高号の種が、全国のブランド和牛の血統の礎となっているそうだ。ゆえに、血筋が品質のひとつの証明になる和牛の世界では、折り紙つきの血統、と県の担当者は胸を張るほどだ。

特集|「分とく山」の野﨑洋光が見据える、鳥取の食材の大いなる可能性

「大山ブロッコリーきらきらみどり」は苦みやえぐみがなく、生でも食べられるのが特長

特集|「分とく山」の野﨑洋光が見据える、鳥取の食材の大いなる可能性

脂肪のまろやかさと質にこだわり、オリーブオイルの主成分「オレイン酸」の含有量に着目した新ブランド「鳥取和牛オレイン55」

ただ、先に触れたように脂肪中のオレイン酸の含有量で認定を取るのはかなりハードルが高く、基準をクリアするのは年間300頭ほどだという。これはA5等級取得より難しい、高いハードルだ。それだけに、肉のやわらかさと、上品な香りは特筆ものなのだ。分とく山の野﨑洋光総料理長は、この牛肉の、とりわけ「大好き」と言うランプ(牛の腰から臀部にかけての、うまみが強い赤身)が手に入るとローストビーフを作ったりする。

「私たちはステーキ屋ではないので、量は仕入れませんが、質にこだわります。輸入牛は匂いが苦手という人も、この牛肉を出すと、とても喜んでくださるんですよ。日本で育てる牛肉は高いという人もいますが、だれがどこでどうやって育てかがわかるトレーサビリティの制度もしっかりしていますし、自分のからだのことを考えても、けっして高くないと思うんですよね」

ローストビーフのつけ合わせで用意されたのが、もうひとつの注目すべき食材「大山ブロッコリーきらきらみどり」だ。そもそも大山ブロッコリーは、その名のとおり、中国地方の最高峰である大山特有の、緻密度が低い、つまり透水性の高い黒ボク土壌で栽培されている。

葉つき販売で全国に先駆けた鳥取県のこだわりで、鮮度の高さも大きな特長になっている。

なかでも「大山ブロッコリーきらきらみどり」は、苦みやえぐみの元になる硝酸イオンの濃度を抑えて作られており、生でも食べられる。ブロッコリーが大好き、という野﨑さんは、自在な料理法を思いつくようで、「豆乳と合わせてブロッコリー汁粉を作って好評だったこともあります」と言う。

特集|「分とく山」の野﨑洋光が見据える、鳥取の食材の大いなる可能性

「ブロッコリーは大好き。いろいろな調理方法が思いついて楽しい」と語る野﨑さん

「こういうおいしい食材と出合ったとき、私たち料理人がやるべきことは、固定概念を捨て去ることなんです。茎をどう使う、葉はどうする、ペーストにしたらどうだろう、とあれこれ頭を働かせる。基本は茹でる温度を80度に保ち大事な酵素を壊さないことなのですが、その先の広がりを想像させてくれるのが、大山ブロッコリーきらきらみどりなんです」

日本には、質の高い食材がたくさんある。それがよくわかる話だ。野﨑洋光さんというまたとない伝道師を得て、「鳥取和牛オレイン55(ゴーゴー)」と「大山(だいせん)ブロッコリーきらきらみどり」の可能性には大いなる前途があるのだ。

180205_10

野﨑洋光|NOZAKI Hiromitsu
1953年、福島県石川郡古殿町生まれ。武蔵野栄養専門学校卒業後、東京グランドホテルの和食部に入社。5年間の修行を経て八芳園に入る。1980年に東京・西麻布の「とく山」料理長に就任。1989年に南麻布「分とく山」を開店し、現在は4店舗を総料理長として統括。雑誌、テレビなど各種メディアを通して、調理科学、栄養学をふまえた理論的な料理法に基づくわかりやすい和食を提唱。著書に『つなげていきたい野﨑洋光の二十四節気の食』(家の光協会)、『おいしいかさ増しダイエットレシピ』(柴田書店)、『「分とく山」野﨑洋光の一汁三菜』(誠文堂新光社)、『常備菜でつくる和のお弁当』(世界文化社)、『からだが喜ぶ おかゆ料理帖』(PHP研究所)ほか多数。

とっとり・おかやま新橋館
東京都港区新橋1-11-7 新橋センタープレイス 1・2階
Tel 03-3571-0092
http://www.torioka.com

※多彩な鳥取の食に出合えるアンテナショップ。2階には食事処も。

           
Photo Gallery