特集|「ピルエット」のつくりかた|Chapter 3 いち早く「ピルエット」を体感する。
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2015年5月28日

特集|「ピルエット」のつくりかた|Chapter 3 いち早く「ピルエット」を体感する。

特集|「ピルエット」のつくりかた

食を通じて描くあたらしい東京の未来

Chapter 3|“本物”を知る食いしん坊の大人たち、いち早く「ピルエット」を体感する。

食の新たな未来へ向けて、“回転軸”が本格的に動き出した──。どのような意志のもとにはじまり、どんな提案をしようとしているのかを2回に渡って紹介してきた「ピルエット」。9月3日(水)、このビストロ、カフェ、エピスリーを備える食の複合スペースがついにオープンした。最終回のChapter 3では、鋭い感覚と好奇心をもつ大人たちが捉えたピルエットの姿をお届けする。

Text by MONZEN NaokoPhotographs by CONTRAIL

――パリにあって、いまの日本にないもの。
「ピルエット」のつくりかた(Chapter 1)を先に読む
――生産地から厨房、厨房からテーブルへ。
「ピルエット」のつくりかた(Chapter 2)を先に読む

上質と気軽さが共存する、オープンな空間

開業直前の「ピルエット」を訪れたメンバーは、アート・ディレクター/グラフィック・デザイナー/アーティストとして活動する川上シュン氏、フードライターの小松めぐみ氏、OPENERSのクリエイティブ・ディレクターを務める大住憲生の3名。いずれも食を楽しむことが大好きな、“食いしん坊”の大人たちだ。旬の情報に囲まれ、日常的に上質なものに親しみ、“本物”を知る彼らが体感したピルエットとは……?

ピルエットの空間の使い方は実に贅沢でユニークだ。広々としたスペースの中央には、オープンすぎるほどのフルオープンキッチン。キッチンを境にカフェとビストロスペースに分かれ、面積に対してゆったりと席が配置されている。広い空間を構成するのは、むき出しの高い天井に工場を彷彿させる鉄骨と銅。一部に大理石を使用したビストロの壁面と、ガラス貼りで自然光が降り注ぐカフェの壁面。長時間でも快適な座り心地を約束する椅子、木の板を重ねたオリジナルのテーブルなど。

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エピスリーの入り口

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エピスリーの横に広がるカフェスペース

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カフェ向かいのスペースはビストロ

フランスの食文化に触発されてスタートし、M.O.F.(国家最優秀職人)シェフがアドバイザリーを務めるピルエットだが、ここにあるのは“いかにもパリのビストロ”という空間ではない。いまこの時代にこの場所で上質な食を気軽に楽しんでもらうために熟考を重ねた、ベストな選択の集積だ。開口一番に「いい空間ですね」と川上氏。「テクスチャーや家具、カトラリーに至るまですべてにこだわりを感じます。キッチンの設備も充実している。肩肘張らない雰囲気で“本物”を提供する、まさに“今”の気分が反映された場所ですね」

「天井が高く、テラスさながらに光が差し込んでくる。従来の虎ノ門のイメージとは対照的な、解放感やリラックス感があります」とは小松氏。「石、木材、金属の組み合わせに、枠のように張り巡らされた鉄骨や梁や地面に配された銅。工場を彷彿させる空間は、入った者に実験や挑戦のようなものを予感させます。モダンなだけではなく、心に響くデザインですね」と大住もつづける。

一見モダンに見えて、中央に鎮座するキッチンのなかはこのうえなくエキサイティングでホットだ。なぜならここでは、その日届いた食材次第でどんどん料理が変わっていくというのだから。食材は生き物。当日のコンディションによってメニューも大胆にチェンジする。キッチンは単なる調理の場という以上に、毎日新しい料理が生まれる場所なのだ。

本日3人が試食したメニューはビストロのランチ(3000円/消費税別)。スープ、サラダ、メイン、食後の飲み物からなるコースだ。

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この日ピルエットを体感した3人。左から大住憲生、川上シュン氏、小松めぐみ氏

香りが活きる、タイミングを捉えた料理

まずは一品目の「トウモロコシのヴルーテ ナツメグ」。ナツメグの香りをまとわせたクリームの泡に、本日届いた小ぶりだが味がしっかりしたトウモロコシのスープを注ぐ。「トウモロコシの香りと水分を保つため、届いたものをすぐに真空調理します。香りはあっという間に抜けてしまうので、早さとタイミングは非常に重要ですね。香りは強く印象に残るものなので、大切にしたいと考えています。食材を活かすために調理自体はシンプルですが、それぞれの工程をベストな方法とタイミングで進めることを心がけています」とは、キッチンを取り仕切る小林直矢シェフ。

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一品目の「トウモロコシのヴルーテ ナツメグ」

「食べ手にも香りは重要ですね。このスープはトウモロコシとナツメグの甘い香り、焦がしたトウモロコシのひげのスモーキーな香りが上品に調和しています」(大住)。「スープをストウブのケトルから注ぐ演出がユニーク。スープが器に注がれる瞬間に 甘い香りが立ち上り、幸せな気持ちになります」(小松氏)。「オリジナルの器も好みです。料理を引き立てる色と質感ですね」(川上氏)。スープとサラダの器はオリジナルで、購入も可能だ。

サラダもその日の食材で決まる。本日はたくさんフヌイユが届いたことから、シンプルな葉物のサラダにフヌイユのケーク・サレを添えた。「スタンダードなフレンチドレッシングのサラダとケーク・サレの組み合わせが新しい」(川上氏)。「葉物に効かせたキャラウェイシードはパリらしいスパイス使い。採れたての瑞々しい野菜にパリのエスプリが薫るサラダ」(小松氏)。「ケーク・サレはアドバイザリーシェフのエリック・トロションのアイディアから。彼曰くピルエットが提供するのは“ロックンロールな料理”。常に新しいチャレンジを試みようとする彼ならではの、定番やクラシックに囚われない発想といえます」(小林シェフ)

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トロション氏のアイディアから生まれたという、シンプルな葉物のサラダにフヌイユのケーク・サレを添えた一皿。定番やクラシックに囚われない“ロックンロールな料理”に一同魅了された

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食材の力強さと持ち味が伝わる一皿

つづくメインは肉、魚、野菜の3種類から選ぶプリフィックス。大住が選んだのは「和牛ロースト」。1カ月ほど吊るした短角牛のモモ肉だ。「シンプルなローストなのに、すごく力がある」という大住に、「吊るして寝かすことで、やわらかでありながらしっかりとした旨みのある肉に仕上がります。また、ドライエイジング特有のクセもありません」と小林シェフ。「野菜も肉も、仕入れと調理のタイミングが重要なんですね」(大住)。「料理人は火入れの加減を調節できますが、食材自体の力はどうにもなりません。食感や味わいの観点から、この肉は急いで使わずに寝かせる必要があると思います。きちんと必要な処置がなされた食材を時期を見極めて使っていきたいですね」(小林シェフ)

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大住が選んだメイン「和牛のロースト」。「生産者側と相談しあって仕入れのタイミングを決めれば、状態に加え、量についても無駄なく食材を活かすことができます」と小林シェフ(左)

川上氏のチョイスは「サーモンコンフィ」。スコットランド産の身がふっくらした上質なサーモンを低温調理でミ・キュイ=レアの状態にし、ひよこ豆のペーストとフヌイユ(ういきょう)を添えた。「火入れが素晴らしい。生の状態とポワレの中間のような、これまでに食べたことのない食感です」。小松氏が選んだのは野菜のメイン、「ニンジン ソバ」。組み合わせもユニークだ。バターとスパイスでローストしたニンジンとゴボウに、クスクスに見立てたソバの実を添えている。コリアンダーやカレーパウダーを使い、スパイシーでエキゾティックな香りを放つ。「歯応えのある根菜は、噛むほどに香りと甘味が引き立ちます。パリでポピュラーなクスクスを彷彿させながら、野菜の新鮮さが活きる料理。スープとメインは食材の甘味が全面に出ていて、サラダはあっさりと爽やか。単調にならず、全体のバランスがよく考えられたコースだと思います」(小松氏)

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野菜のメイン「ニンジン ソバ」

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別料金のデザートは、気鋭のパティスリー「リベルターブル」で二番手を務めていた武井祐太がパティシエとして担当する。「彼の参加によって、デザートはこれからどんどん進化していくと思います。パティスリーではなく、レストランならではのライブ感あるデザートを提供したいですね」(小林シェフ)。無類のアイス好きという川上氏も「3種のぶどう シトロネルのジュレ」(1000円/消費税別)に添えられた牛乳のアイスクリームを絶賛。「バニラの香りを移したレモングラスのジュレもセンスがいい。いろんな食感が楽しめますね」。「デザートも香りがいいね」(大住)。香りがよいとは即ちデザートの食材も鮮度がよく、状態がよいうちに調理されたものということだ。フルーツやハーブ、スパイスなど、ここでも当日入荷した食材が活躍する。

小松氏が選んだのは「フィーユ ア フィーユ ショコラ」(1200円/消費税別)。さくさくとしたパートシュクレに、仏・ヴァローナ社のアラグアニを使った2種類のガナッシュ、ぱりっと薄いチョコレート、香り豊かなトンカ豆を使ったアイスクリームを乗せている。「食べてみると予想に反して軽やか。カカオのアロマと華やかなトンカ豆の香りが口のなかに広がります。お店の空間の軽やかさともマッチしていますね」

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大住は料理もデザートにも共通する香りの高さを絶賛

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川上氏と大住のチョイス「3種のぶどう シトロネルのジュレ」

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小松氏が選んだ「フィーユ ア フィーユ ショコラ」

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「食べてみると予想に反して軽やか。カカオのアロマと華やかなトンカ豆の香りが口のなかに広がります」と小松氏

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Chapter 3|“本物”を知る食いしん坊の大人たち、いち早く「ピルエット」を体感する。

“本物”に共感する人を呼びたくなる場所

コースを堪能した3人に、改めてピルエットの印象を聞いた。「イギリスの『レストラン』誌が選ぶ『世界ベストレストラン50』で、ミシュランの星とはまた違う、料理人の可能性を広げる潮流が生まれました。ここは、その流れをヴィヴィッドに感じる場所。料理、空間、テーブルウェア、サーブの演出、盛り付け……。トータルにセンスが行き届いていて、まさに“今”を感じます。最近パリに行く機会が増えて、食べることが好きなので現地でいろんな店を訪ねていますが、ここはパリの一番ヒップなレストランと同じ空気をもっているんじゃないかな。食事とデザインが好きな人を連れて来たいですね」(川上氏)

「“香り高さ”が非常に印象的。香りというのは非常に繊細なものです。食材と料理の香り、それを活かすための盛り付け、カトラリー、演出。入荷から調理、供出までの適切なタイミング。すべてに対して、芸術的ともいえる徹底した気配りを感じます。この感覚が共有できる、ごく親しい人と共に再訪したいと思います」(大住)

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ワインコーナー(左)、野菜や肉、魚が並ぶエピスリー(中)、器やコーヒーなどを扱う物販スペース(右)

「川上さんがおっしゃっるように、フードシーンの最先端を感じます。今年4月のパリ訪問で感じた、上質が日常的にある食文化。食材と料理は“本物”なのに、その間口は広く、フランクでカジュアルな雰囲気。料理と同じ食材がその場で購入できるという、楽しさと流通が目に見える安心感…そういった感覚に共通するものが漂う場所ですね。

また、ビストロと称されていますが、登場する料理はそれを超えたもの。近年、リーズナブルな値段でガストロノミックな料理が楽しめる“ビストロノミー”というコンセプトが食通の間で定着しつつあります。ピルエットの価格設定はビストロノミーと同じレンジですが、自らをビストロと位置づけています。ガストロノミーの体系的な知識と技術に基づいた料理やリーズナブルな価格を全面に押し出さず、あくまでさりげなくて軽やか。ここにピルエットらしさがあるように思います」(小松氏)

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ランチの後、3人はエピスリーとワインの販売スペースを覗いた。もちろん本日の料理に登場した食材も並んでいる。どちらにも豊富な知識をもつスタッフがおり、珍しい野菜やこだわりのワインのラインナップについて次々と質問に答える。このほか、物販スペースでは器をはじめ、オリジナルのコーヒーや紅茶なども扱う。ピルエットで食いしん坊の大人たちの好奇心を刺激するのは、料理だけではない。食材、器、シェフやスタッフとの会話。「今度は誰を呼ぼうか」「おいしかった野菜を購入しよう」「器も見たい」……ここでは、食を軸にちょっとしたストーリーがすべての人に生まれる。

ピルエットを構成する要素は、“本物”の提供を目指すがゆえにすべてが力強く、濃い。だが、それぞれをことさらに強調せず、日常的に当たり前のものとして親しんでもらえるようカジュアルな提案を心がける。3人に共通した「感覚の合う人を連れてまた来たい」という言葉が印象的だ。この場所の心地良さは、“本物”を知る共感者を次々と引き寄せていくに違いない。

「実はもう次の予約を入れているんです」と小松氏が言えば、「また来たくなる店。次はディナーでゆっくり来たいね」と大住。川上氏も「僕も予約していこうかな。オープンキッチンが全体的に見渡せるこの席を指定して(笑)。“今”の気分を的確に表現するセンス豊かなシェフが、これからどんな味わいを作り出していくのかが楽しみです」と続ける。その味わいは、日々の食材によって毎日変化するのだから、楽しみも倍増だ。

食いしん坊の大人たちがいち早く体感したピルエットの世界。あなたの目にはどう映るだろうか。いずれにしても、とにかく気軽な空間。入店すればスタッフが新鮮な野菜を提案し、オープンキッチンではシェフがびっくりするほど間近に感じられる。ぜひまずは一度、足を運んでみてほしい。きっとあなたも、近しい共感者たちを連れてきたくなるはずだ。

川上シュン|KAWAKAMI Shun
1977年、東京都生まれ。artless Inc.代表。東京を中心に活躍するアーティスト、デザイナー。2000年にartless Inc.設立。その領域は多岐にわたり、グラフィック、インタラクティブ、映像、インスタレーション、空間演出など、アートとデザイン双方から多方面へアプローチを続け、国内外問わずグローバルに活動をおこなう。
http://s-kawakami.blog.openers.jp/(OPENERS BLOG更新中)

小松めぐみ|KOMATSU Megumi
東京都出身。料理研究家 大原照子の本に影響されて料理に目覚め、10代半ばに独学でフランス料理を学ぶ。立教大学社会学部卒業後、出版社勤務後を経てフリーランスに。2012年3月から9月まで雑誌『料理王国』副編集長を務め、10月より再びフリーランスとして活動。遠州流茶道準師範。
http://m-komatsu.blog.openers.jp/(OPENERS BLOG更新中)

大住憲生|OSUMI Norio
1954年、熊本県生まれ。ファッションスペシャリティストアの広告宣伝広報担当を経て、商品企画、広告制作のディレクター、雑誌編集者として活動。2006年、インターネットメディアの未来図を描くべく、web magazine OPENERSの立ち上げに参画。同誌のクリエイティブ・ディレクターに。2011年、日本の木材を活かすあらたなマーケットを創出することを目的とする、株式会社モア・トゥリーズ・デザインの取締役スーパーバイザーに就任。

Pirouette|ピルエット
住所|東京都港区虎ノ門1-23-3 虎ノ門ヒルズ ガーデンハウス 1階
Tel. 03-6206-6927
営業時間|[ビストロ] ランチ 11:30~14:30(LO)、ディナー 18:00~21:30(LO) ※土曜・日曜・祝日は17:30~21:00(LO)
[カフェ] ランチ 11:00~15:00、ティー 15:00~17:00、ディナー 17:30~22:00(LO) ※土曜・日曜・祝日は21:00(LO)まで
[エピスリー] 11:00~23:00 ※土曜・日曜・祝日は22:00まで
オープン日|9月3日(水)
http://www.pirouette.jp
http://contrail.cc/
https://www.facebook.com/contrail.cc

           
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