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特集｜「ピルエット」のつくりかた｜Chapter 3　いち早く「ピルエット」を体感する。

撮影は開業直前の「ピルエット」でおこなわれた。左から「コントレイル」代表の森健一氏、「ピルエット」の厨房を預かる小林直矢シェフ、アドバイザリーシェフのエリック・トロション氏、フードライターの小松めぐみ氏、アート・ディレクター／グラフィック・デザイナー／アーティストの川上シュン氏、OPENERSのクリエイティブ・ディレクターを務める大住憲生
いずれも食を楽しむことが大好きな、“食いしん坊”の大人たち3人。旬の情報に囲まれ、日常的に上質なものに親しみ、“本物”を知る彼らが体感したピルエットとは？
この日はアドバイザリーシェフのエリック・トロション氏も厨房で腕を振るった
「いい空間ですね。肩肘張らない雰囲気で“本物”を提供する、まさに“今”の気分が反映された場所ですね」と川上氏（左）。「天井が高く、テラスさながらに光が差し込んでくる。従来の虎ノ門のイメージとは対照的な、解放感やリラックス感があります」とは小松氏
この日、3人が試食したメニューはビストロのランチ（3000円／消費税別）。スープ、サラダ、メイン、食後の飲み物からなるコースだ
一品目の「トウモロコシのヴルーテ ナツメグ」。ナツメグの香りをまとわせたクリームの泡に、この日届いた小ぶりだが味がしっかりしたトウモロコシのスープを注ぐ
「トウモロコシの香りと水分を保つため、届いたものをすぐに真空調理します。香りはあっという間に抜けてしまうので、早さとタイミングは非常に重要ですね。調理自体はシンプルですが、それぞれの工程をベストな方法とタイミングで進めることを心がけています」とは、キッチンを取り仕切る小林直矢シェフ
一品目を終わると、目の前の“黒い”まな板に興味を示した川上氏と大住。「フランスでは、使う材料によってまな板の色を変えるのが一般的なんですよ」と小林シェフ。客席とキッチンの距離が近いため、こうしたさりげない会話が自然とはじまる
サラダもその日の食材で決まる。本日はたくさんフヌイユが届いたことから、それを生かしたものに
最後の仕上げをするトロション氏
トロション氏のアイディアから生まれたという、シンプルな葉物のサラダにフヌイユのケーク・サレを添えた一皿
定番やクラシックに囚われない“ロックンロールな料理”に一同魅了された
「ケーク・サレはアドバイザリーシェフのエリック・トロションのアイディアから。彼曰くピルエットが提供するのは“ロックンロールな料理”。常に新しいチャレンジを試みようとする彼ならではの、定番やクラシックに囚われない発想といえます」と小林シェフ
つづくメインは肉、魚、野菜の3種類から選ぶプリフィックス。川上氏のチョイスは「サーモンコンフィ」。スコットランド産の身がふっくらした上質なサーモンを低温調理でミ・キュイ＝レアの状態にし、ひよこ豆のペーストとフヌイユ（ういきょう）を添えた
「料理人は火入れの加減を調節できますが、食材自体の力はどうにもなりません。きちんと必要な処置がなされた食材を時期を見極めて使っていきたいですね」と話す小林シェフ
大住が選んだ「和牛ロースト」は、1カ月ほど吊るした短角牛のモモ肉を使った一皿
「シンプルなローストなのに、すごく力がある」という大住に、「吊るして寝かすことで、やわらかでありながらしっかりとした旨みのある肉に仕上がります。また、ドライエイジング特有のクセもありません」と小林シェフ
森氏は川上氏と同じ「サーモンコンフィ」をチョイス。二人とも「火入れが素晴らしい」と意見が一致した
小松氏が選んだ野菜のメイン「ニンジン ソバ」は、そのネーミングはもとより、組み合わせもユニークだ。バターとスパイスでローストしたニンジンとゴボウに、クスクスに見立てたソバの実を添えている
「歯応えのある根菜は、噛むほどに香りと甘味が引き立ちます。パリでポピュラーなクスクスを彷彿させながら、野菜の新鮮さが活きる料理。スープとメインは食材の甘味が全面に出ていて、サラダはあっさりと爽やか。単調にならず、全体のバランスがよく考えられたコースだと思います」と小松氏
「ニンジン ソバ」の隠し味は、コリアンダーやカレーパウダーなどのスパイス。スパイシーでエキゾティックな香り付けに一役買っている
大住は料理もデザートにも共通する香りの高さを絶賛
川上氏と大住のチョイス「3種のぶどう シトロネルのジュレ」
無類のアイス好きという川上氏も、「3種のぶどう シトロネルのジュレ」に添えられた牛乳のアイスクリームを絶賛。フルーツやハーブ、スパイスなど、ここでも当日入荷した食材が活躍する。「バニラの香りを移したレモングラスのジュレもセンスがいい。いろんな食感が楽しめますね」
小松氏が選んだのは「フィーユ ア フィーユ ショコラ」。さくさくとしたパートシュクレに、仏・ヴァローナ社のアラグアニを使った2種類のガナッシュ、ぱりっと薄いチョコレート、香り豊かなトンカ豆を使ったアイスクリームを乗せている
「食べてみると予想に反して軽やか。カカオのアロマと華やかなトンカ豆の香りが口のなかに広がります。お店の空間の軽やかさともマッチしていますね」と小松氏
デザートは気鋭のパティスリー「リベルターブル」で二番手を務めていた、武井祐太がパティシエを担当する。「彼の参加によって、デザートはこれからどんどん進化していくと思います。パティスリーではなく、レストランならではのライブ感あるデザートを提供したいですね」とは小林シェフ
コースを堪能した3人に、改めてピルエットの印象を聞いた
「食材と料理の香り、それを活かすための盛り付け、カトラリー、演出。入荷から調理、供出までの適切なタイミング。すべてに対して、芸術的ともいえる徹底した気配りを感じます」（大住）。「ビストロと称されていますが、登場する料理はそれを超えたもの。ガストロノミーの体系的な知識と技術に基づいた料理やリーズナブルな価格を全面に押し出さず、あくまでさりげなくて軽やか。ここにピルエットらしさがあるように思います」（小松氏）。「料理、空間、テーブルウェア、サーブの演出、盛り付け……。トータルにセンスが行き届いていて、まさに“今”を感じます。食事とデザインが好きな人を連れて来たいですね」（川上氏）
ランチの後、3人はエピスリーとワインの販売スペースを覗いた
もちろんエピスリーには、この日の料理に登場した食材も並んでいる
エピスリーとワインの販売スペース、どちらにも豊富な知識をもつスタッフがおり、珍しい野菜やこだわりのワインのラインナップについて次々と質問に答える
ピルエットで食いしん坊の大人たちの好奇心を刺激するのは、料理だけではない。食材、器、シェフやスタッフとの会話。「今度は誰を呼ぼうか」「おいしかった野菜を購入しよう」「器も見たい」……ここでは、食を軸にちょっとしたストーリーがすべての人に生まれる
3人に共通した「感覚の合う人を連れてまた来たい」という言葉が印象的だ。この場所の心地良さは、“本物”を知る共感者を次々と引き寄せていくに違いない
器をはじめ、オリジナルのコーヒーや紅茶なども扱う物販スペース
「実はもう次の予約を入れているんです」と小松氏（右）が言えば、「また来たくなる店。次はディナーでゆっくり来たいね」と大住
川上氏も「僕も予約していこうかな。オープンキッチンが全体的に見渡せるこの席を指定して（笑）。“今”の気分を的確に表現するセンス豊かなシェフが、これからどんな味わいを作り出していくのかが楽しみです」と続ける
食いしん坊の大人たちがいち早く体感したピルエットの世界。あなたの目にはどう映るだろうか。ぜひまずは一度、足を運んでみてほしい。きっとあなたも、近しい共感者たちを連れてきたくなるはずだ
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