more trees × LOUIS VUITTON|坂本龍一氏と、「ルイ・ヴィトンの森」視察ツアーへ
more trees × LOUIS VUITTON|モア・トゥリーズ×ルイ・ヴィトン
誕生から約3年、その経過をたどる
坂本龍一氏と、「ルイ・ヴィトンの森」視察ツアーへ(1)
モア・トゥリーズとルイ・ヴィトンのタッグにより、2009年に長野県小諸市に生まれた「LOUIS VUITTON FOREST by more trees(ルイ・ヴィトンの森)」。誕生から4年目となる今年、その経過を見るための視察ツアーが7月14日におこなわれた。
Photographs by ASAMOTO RyujiText by NAKAMURA Akiko(OPENERS)
森との共生を、改めて考える一日
そのむかし、私がまだ幼かったころによく見た、方眼紙に規則正しく配置されたかのような若い苗木が山の斜面にどこまでも続いていくようすが、「森」という言葉と結びついたのは、いったいいつのことだったろうか。
いまになって考えると、かつて私が目にしたのは、要するに高度経済成長期に植林されたスギやヒノキなのだけれども、その後それらが活用・伐採されるということは、なかなかなかった。なぜか? 木材の需要が減ったということも要因として挙げられるけれど、もうひとつの理由としては安価な木材が海外から輸入されたからだ。そのおかげで、国内の森は不健康な状態になり、伐採されすぎた海外の森林は消滅への一途をたどる、といった状況を生み出した。
間伐されない森が不健康になるとはどういうことなのだろうか。きちんと管理された人工林では、地面にも光が十分に届くので、キノコなどをふくめ、ほかの植物がたくさん生える。これが、管理の行き届いていない人工林では、木々の密度が高くなって光が届かず、林床にほかの植物が育たないのだという。間伐されない森は大雨などのさいに表土が流れやすくなり、災害につながる。生物の多様性も失われ、森とひととの共生も崩れるというわけだ。
モア・トゥリーズとルイ・ヴィトンという異なる立場にある二者の強力タッグ!
坂本龍一氏が代表を務めるモア・トゥリーズは、そんな人工林の間伐を進めることで健全な森を増やし、環境破壊により溢れてしまったCO2をオフセットすることを目的とする団体。そのモア・トゥリーズを、ルイ・ヴィトンが支援することで2009年に誕生したのが、今回訪れた長野県小諸市にある「LOUIS VUITTON FOREST by more trees(ルイ・ヴィトンの森)」である。自然の恵みを体感できる「美しい森」、森を次世代につなぐ「サステナブルな森」、人間の営みを超越した「荘厳な森」、このイメージを基調に、森を整備していった。
森に来るのは今回で2度目だという坂本龍一氏はいう。「間伐されたところは本当に明るくなりました。見た目にもきれいですよね。下にも草が生えて、全体的に美しい緑が広がった印象」
さらに続ける。「やはりまったくの自然の森ではなくて、一度人間が手を入れた森というのは、メンテナンスをしないといけない。森が健康であってはじめて、人間のためにもなるし。もちろん、ただ人間の経済活動のためだけではなく、森に暮らすほかの動植物のためにも、さまざまな点で良くなる。山が荒れれば、保水力も落ちて、土砂崩れが起きたりもしますし。そこから再生するのにもすごく時間がかかるわけですから。きちんと森のメンテナンスをすることは、人間が手を下した責任でもあると思うのです」
続いて語ったのはルイ・ヴィトン ジャパン カンパニー 会長であるエマニュエル・プラット氏。「ブランド創始者のルイ・ヴィトンは、フランス ジュラ山脈山麓の出身。“ジュラ”はケルト語で“森”を意味する言葉でもあり、木をとても大切にしています。創業当初から作られているもののひとつにトランクがありますが、一番重要な素材として木が使われています。フランスの本社でも、CO2排出量を減らすために航空機による輸送ではなくシッピングにするなど、環境に対する取り組みにも意識が高い。日本でもこういうプロジェクトができることをとてもうれしく思います」
佐久平駅からバスで森まで登ってくる途中、プラット氏はある地点で小さく歓声をあげていた。
「森に到着するまでのあいだに、“明るくなったな”とすぐに分かりました。オープンで呼吸している感じがする。3年前に来たときにはまだ森の密度がとても高く、うっそうと暗い雰囲気だったんですね。それが間伐したことで光が入ってくるようになり、だいぶ明るくなりました。こういうことは一度きりのプロジェクトではなく、継続してこそ意味がある。私が育ったヨーロッパでは森は明るく、よく動物の足跡の型取りなんかをして遊んだものです。日本の森も、そんな“入っていきたい”と思えるような場所になっていくといいですね」
more trees × LOUIS VUITTON|モア・トゥリーズ×ルイ・ヴィトン
誕生から約3年、その経過をたどる
坂本龍一氏と、「ルイ・ヴィトンの森」視察ツアーへ(2)
長野県小諸市はカラマツの産地である。ここ「ルイ・ヴィトンの森」で間伐されたカラマツも、市の集積センターから市場に出ていくほか、細い木や曲がった木などは、紙の原料として静岡や富山の製紙工場へと出荷されるのだという。その紙を使って印刷、出版されたのが、写真家 瀧本幹也氏の撮影による『LOUIS VUITTON FOREST』(幻冬舎/刊)だ。
「この写真集のスペシャルエディションが、去年ADC賞を受賞したんだよね」と坂本龍一氏。間伐材がクリエイティブなアイデアへと姿を変えていく。あたらしい時代のセンスというものを、私たちに教えてくれているかのようだ。
「/tag/moretreesモア・トゥリーズさんとの試みは、今年で4年目になります。とても光栄なことですし、こうやってしばらくぶりにこの森を訪れると明らかな差が見つけられるのもとてもうれしい」と、ルイ・ヴィトン ジャパン カンパニー プレジデント&CEOのフレデリック・グランジェ氏。
また今年は、「ルイ・ヴィトンの森」の近くの水源で採れた水を、特別にボトリングしたものを作った。国内では希少な、硬度175の硬水である。
地元のあらたな恵み、ルイ・ヴィトンの森ウォーター
小諸市長の柳田剛彦氏いわく、「この小諸市で湧いている水なのですが、硬水というのはコーヒーを煎れるととてもおいしいらしいのです。これも“ルイ・ヴィトンの森”から生まれた着眼点のひとつで、小諸のあたらしい名産品として、みなさまにご愛用いただけたらと思います。ほかにも、森がキレイになると、キノコ類がとても生えやすくなるんです。それで、私どもの市の職員が、切り株にクリタケの菌を植えたらどうかと申しまして。ざっくり大きく、しかも歯触りがとても良くておいしいキノコなんです。そんなのをそっと植えておきますので(笑)、お楽しみください。何はともあれ、このように開かれた、すばらしい森になりまして、本当に感謝しております」
最後にグランジェ氏がいう。「ルイ・ヴィトンは日本に進出してから非常に長い時間が経っていて、その大切なパートナーである日本のために、起業として社会貢献できることをとてもうれしく思っています。ここであらためて、坂本龍一さん、モア・トゥリーズのみなさん、地元・小諸市のみなさん、関係者のみなさまのおかげでここまでこれたことを、感謝申し上げます。いつもはシャンパンで乾杯するところですが、ここはルイ・ヴィトンの森で採れたお水で、乾杯しましょう(笑)」
日本は国土の70%が森に覆われ、世界第2位の森林率を誇る国であるが、いま日本で私たちが目にしている森の多くは、屋久島や知床半島などの原生林を除いて、伐採や植林などどこかにひとの手のくわえられたものがほとんどなのだという。森をメンテナンスするということは、生態系保全という考え方ももちろんのことだが、ひいては私たち自身の生活自体を守り、豊かにするということ。この「ルイ・ヴィトンの森」をお手本としながら、人工林にきちんと手をかけてあげられる、そんな環境がもっと整っていけばいいと思う。そして私たちの一人ひとりがなんらかのアクションを起こすこと――そのきっかけづくりという役割においても、この「ルイ・ヴィトンの森」は今後も一役買っていくはずだ。