SPECIAL│野宮真貴リサイタルvol.3『Beautiful People』開催記念鼎談(後編)
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2015年3月17日

SPECIAL│野宮真貴リサイタルvol.3『Beautiful People』開催記念鼎談(後編)

野宮真貴×菊地成孔×湯山玲子

ビューティフル・ピープルたちの鼎談(後編)

「いよいよリサイタル、開幕!」

今年で3回目を迎える野宮真貴さんの『リサイタル』も、開催まであとわずか!
野宮真貴さんと音楽監督の菊地成孔さん、そしてプロデューサーの湯山玲子さんの3人による“オトナ呑み”対談の最終回。 今回のリサイタルについて、“ビューティフル・ピープルたち”それぞれの観点からの見どころについてお話いただきました。

まとめ=金子英史Photo by Jamandfix撮影協力=NIGHTFLY(Tel. 03-3481-6009)

野宮さんだけです、ご乱心しないのは(笑)

菊地 『リサイタル』も3回目となれば堂々たるもんですね。

野宮 いや、毎回緊張しますよ。とくに初日は逃げようかと思うもん、ホントに。

湯山 私たちにはそんなこと全然感じないですね。スタッフ側からみると、スゴいタレントさんですよ。
いわゆる表現者って、現場でブチ切れたり、感情の起伏が激しい“ご乱心”が多いじゃないですか?

菊地 野宮さんは、ご乱心しないですからね。

湯山 そうなのよ。

菊地 変わったひとです!(笑)。
普通、女性のタレントは、現場でご乱心するためにいるんですから(笑)。みんなが鎮めてくれるのがうれしくなる、言ってみれば醍醐味なわけですよ。
僕も、いろんなひとと仕事しましたが、全員ご乱心しましたよ。野宮さんだけです、ご乱心しないのは(笑)。

野宮 ホント?

湯山 スタッフのひとみたいな感じになってるから(笑)。

野宮 たしかに一度も文句というものを言ったことがないです。あっ! 一度だけあるかな。死体の役をやってくれと言われたとき。

菊地 それは頼んだほうがご乱心じゃないですか?(笑)。面白いなぁ野宮さん、やっぱり!

野宮 ピチカート(・ファイヴ)時代、ニューヨークで早朝から写真撮影とムービーを撮っていて……、すごく疲れていたんですよ。
そのころ信藤(三雄)さんがカメラをはじめたばかりで、ほかにカメラマンがいたんだけれど、カメラマンがフィルムチェンジをしている隙に信藤カメラマンが私を狙うので、ぜんぜん休憩できなくて、最後には貧血で倒れました。死体の役としては迫真の演技となりましたけど(笑)。

菊地 それは“ご乱心”じゃなくって、正当な抗議ですよ!(笑)

野宮 そのときだけは本当に「勘弁してください!」って、文句を言ったんですよね(笑)。

菊地 それは撮っているひとたちがご乱心で、撮っているあいだに興奮しちゃったんですよ(笑)。

湯山 でも、そうやってご乱心をして、アーティストは、自分で自分を上げていくわけです。

菊地 そうそう! まわりの男性スタッフたちがどんどん興奮してくるんですですよ!
でも、野宮さんの場合は、まわりが全部女性じゃないですか?(笑)。それだと、ご乱心してアガっていけないんじゃないですか。その女子校的な、女王さまがご乱心してみんながついていくみたいな感じはあるんですか?

野宮 ないです(笑)。しかしホント、オンナばかりですね。

菊地 女のひとがご乱心すると、それによろこびを見いだし、萌えるのは男性のほうですよね。

湯山 男性のスタッフもいるんだけれど、ゲイの方もいるわけです。だから、ほとんどみんなオンナだよね。

野宮 そうだ、そうだ(笑)。

モモコちゃんがギターで、湯山さんがドラムで、わたしがベース

菊地 僕は、いまだにスパイとして男子校から潜入している気分が抜けないんですよ(笑)、全員女子だから。オンナばっかりだと普通のオトコは無理だと思いますよ。バンドはオトコが多くなりそうですけれど。

野宮 (湯山さんを指して)こちらにもドラマーがいますけれどね(笑)。

菊地 湯山さんがドラム叩いたら、いろんな客が来ちゃうじゃないですか(笑)。いまね、やろうとしているよ、コッチのバンド。

湯山 コッチのバンドも出しましょうよ!(笑)

野宮 そうですね。

菊地 アンコールは、コッチのバンドで出演すればいいじゃないですか。ビックリしますよね。でも、次回につづくみたいな感じじゃないですか? 第4回は、リサイタルという名は下げちゃって、普通のライブですよ!(笑)。

野宮 モモコちゃんがギターで、湯山さんがドラムで、わたしがベース。ヴォーカルはべつにいるんですけれど。

菊地 べつにいるんですか!?(笑)

湯山 ポールダンサーのNOEMIちゃんね。

菊地 新宿2丁目のポールのある店でたまにやってますよね。

湯山 (野宮さんに)やってみたら? ポールダンス。

野宮 無理! じつはやってみたことあるんですけど、ポールにのぼることすらできなかった(笑)。

菊地 筋力がないんだ!(笑)。でも、野宮さんはもっとおもしろいんだってことと、ギャルでもOKなんだということを知らしめたほうがいいと思いますよ。野宮さんのことを理想のお姉さんみたいな感じに思ってるひとはいっぱいいると思いますから。

湯山 野宮さんのブログもおかしいんですよね。言葉が面白いから。

菊地 コメディエンヌの感じがありますね。

野宮 ギャル系だとね、森本容子ちゃんに「どこまででもついていきたい!」って言われたりして。

湯山 そうそう!

菊地 セレブリティみたいなカルチャーは、もう自然崩壊しますよ。次は、ギャルでしょう!(笑)

HIP HOPトラックの野宮さんって聴いたことないじゃないですか?

菊地 でも今回は、エレクトロな曲を野宮さんが歌ってもカッコいいんだぞ! という感じの、いままでなかった“悪さ”みたいな部分を加味していくので、それは見どころですね。

野宮 エレクトロとか新しい音楽をやれることにかんして、自分自身でも楽しみですね。

菊地 「野宮真貴って、オシャレでしょ?」とか「セレブでしょ?」という感じで、最初から選択肢に入らないひとが聴いてもいいと思える、あたらしい領域の開拓はありますね。

野宮 でも、3回目にしてやっとみんなに浸透してきたような気がします。

菊地 毎年やるんだ! ってことがね。まだまだ開拓してどんどん行けると思いますけれど。
野宮さんが前に言っていたことがあって、いい意味ですごく笑ったんだけれど、「あたし黒人っぽいから」って言ったことがあるじゃないですか(笑)。

野宮 だって、黒人のひとに言われたんだもん。

菊地 それはリアル過ぎますね!(笑)

野宮 黒人の血が入っているんじゃないかと言われて(笑)。「北海道で生まれたんですけれど」って言ったんですけれどね。

菊地 今回のアイコンに有色人種がひとりもいなくて、野宮さん自身もスゴく美白なワケですよ。だけど、黒人のいい感じもありますよね。最初にチャートアクションする黒人の女性シンガー“Ciara(シアラ)”のYOU TUBEを野宮さんに送ったじゃないですか。最終的にはちょっとちがうかなってなって、引っ込めたんですけれど。

野宮 歌唱力が追いつかないなと思って。

菊地 でも、トラック的にも絵的にもブラックな可能性はあるかな。

湯山 “フィフス・ディメンション”とか“MFSB”とか。ある、と思います(笑)。黒人文脈の都会的でクールな感じですね。フィリーで、ニューソウルの感じの曲ならアリですね。アフロでやってもカッコイイじゃない! アフロにすごいドレスを着たり。

菊地 ヒッピー系のね。僕が思っていたのは、Ciaraみたいな感じで、すごくセクシーなんだけれど、エロいわけじゃない。たぶん女のひとが好きな感じなんですけれど、ああいう感じならあるかもしれないですね。しかも、HIP HOPトラックの野宮さんって聴いたことないじゃないですか?

湯山 “黒”野宮はやりたいですね、将来的には。こうなったら、全部、黒人カルチャーから発想するというのはありますね。ラグジュアリーかつクールな黒人感、って、いま、誰もやってないですもの。かつては、ディスコの一部にあったんですよね。クールという言葉の語源みたいなところなんですけれど、それはやってみたいですよ。

野宮 それはいいかも。

湯山 “La Belle”の『レディ・マーマーレード』とかのちょっと黒い感じ。La Belleって80'sだったじゃないですか。宇宙服みたいな衣装を着て、すごくシアトニカルなひとたち。

菊地 あれはグラマラスを取り入れた、完全にドラッグクイーンですからね。いまのCiaraとか、“Pussycat Dolls” のメロディ・ソーントンとか、背が高くてモデル体型なんだけれど、歌は“ちょっと”という、ああいうかんじもブラックミュージックとの接触になりますしね。

湯山 あとは、ドナ・サマー。

菊地 あれはテクノですよね。

湯山 それはジョルジオ・モルダーと組んだから。
先日、新宿2丁目に打ち合わせに行ったら、そこの店でドナ・サマーのPVを見たんですけど、じつはきれいなソプラノですごい歌唱力だった。

菊地 歌い上げ系ではないですよね。
新宿2丁目はハウスとかテクノが好きだから、逆にHIP HOPを聴かないでしょ? ゲイのひとたちで「JAY-Z素敵!」とか「2PAC、サイコー!」とはならない。HIP HOPはやっぱり男のものなんでしょうね。

湯山 完全に敵対しているでしょ!

菊地 HIP HOPは完全にホモ・ソーシャルだですからね。ゲイはダメなんですよ。
日本もそうでしょ? ゲイのひとで“THA BLUE HERB”が好きとかはないですからね、ド硬派だから。

湯山 わたしが『LOVE PA!!』ってクラブ雑誌手がけてたときは、完全に中立だったんで、ある硬派のヒップホップグループにインタビューを申し込んだら、ハウスカルチャーとおなじ雑誌には載ることはてきない、って断られたもの。

菊地 そりゃそうですよね。“KREVA”とか“RIP SLYME”とか、チャートアクションするひとたちでも、ゲイのヒトたちの“素敵”という感じともちがうんでしょうね。
だから、野宮さんはそこら辺もふくめて、まだまだぜんぜん未開拓なんだと思います。今回はそういう意味では、エレガントでセレブではないというのが出る気はしますね。あとは演目がころころ変わるだけに、音楽にはある程度統一感があったほうがいいと思うんですけれど。

今回は『恵比寿ガーデンプレイス』の15周年企画で、ちょっと特別

湯山 そのサウンドから、バルドーとかヘップバーンとかのイメージとはちがう側面が見えるのが面白いかもしれないですね。重層的でカッコいいと思いますよ。“音”が、いい意味で裏切るかもしれないし。

菊地 野宮さんの作品だったらなんでも! というファンの方ももちろんのこと、今回はキャパも大きい会場なので、いちども聴いたことないひとにも来てもらいたいですね。

野宮 今回は『恵比寿ガーデンプレイス』の15周年企画でちょっと特別ですからね。

菊地 プロモーション的にはそんなところですかね(笑)。野宮さんは、コスメ雑誌とか痩せる系のフィットネス系雑誌とかには出ないんですか。フィットのほうはなにもやってないんでしたっけ?

野宮 気が向いたときにしかやらない。

菊地 ナチュラルフィットなんだ(笑)。

野宮 だから、参考にならないって(笑)。でも、痩せるのって“気合い”だと思うんです。

菊地 まったくワークアウトしないんですか? ゴムチューブを引っ張ったり、走ったりもしない?

野宮 たまに走ったり、歩いたり。最近太っているけど、公演が近づいてくると緊張で自然と引き締まってくるんです。それに稽古がはじまるとけっこうな運動量ですし。

湯山 あとは、本番前に必ず、食欲が落ちますよね。

菊地 それは痩せますよ。

野宮 無理矢理食べる感じですね。

湯山 菊地さんは、体力的になにかやっているんですか?

野宮 ジムに行ってるんですよね。

菊地 運動してますよ! 運動好きだから。ストレッチして、ワークアウトして、走ってますよ。じゃないと、この歳であんなに食べたらぶくぶくになっちゃいますよ。すごく食べますから。

湯山 でも、サックスって肉体的にすごく大変だと思うんですけれど。

菊地 サックスは有酸素運動で腹筋も使うし、どんどん痩せていくんですよ。でも、アー写(アーティスト写真)を撮る前は大変ですよ、いままで4皿食べていたのを2皿にするとか。

野宮 本当?(笑)、気を使っているんですね。

菊地 僕は、緊張しても食欲はなくならないので。野宮さん、コスメはどうなんですか?

野宮 化粧もね、超テキトーなんです。

菊地 テクみたいなことってあるじゃないですか? それこそ『小悪魔ageha』の記事にギッシリつまっているような。アイラインの寸法表とか載っていて、「何ミリ単位でコッチを上げていきましょう」とか、そういうのはありますか?

野宮 年季が入っていますからね(笑)。もう何十年も化粧しているわけじゃないですか、10代後半から。そりゃ上手くもなりますよね!

湯山 アイラインも、鏡がなくてもぜーんぜん引けますよ。

野宮 あ! 私、タクシーのなかで化粧するの、特技(笑)。

菊地 野宮さんって、Do It Yourself! ですよね。黙って座ると執事みたいなひとたちがやってきて、なんでもやってくれると思っているヒトいっぱいいると思うんだけれど、ぜんぜんちがう。

野宮 執事ほしいー(笑)。

──では、最後に読者へメッセージをお願いします。

菊地 野宮さんのリサイタルは、すでにできあがっているマーケットのひとたちだけが来ると思われがちなのですが、じつはもっと開かれていて、いろんなひとが聴きに来てもいいだけの“クオリティ”と“内容”があるんです。
だから、いままで聴いたことがなくて、若くてピチカート・ファイヴも知らない、その前はさらに知らないというヒトでも、「このひとは素敵だな!」と思ったら、観に来ていただければと思いますね。とくに若い女子には。
さらにいうと若い男子にも来てほしいですね。年上の女性を観るということを、いろんなカタチで経験すべきだと思うんです。野宮さんと同年代で、現役で、しかも若い男子が観る対象になるひとってとても少ない。だから、上顧客のひとたちには今回もご愛顧いただくとして、新しいひとたちにも来てほしいと思います。

湯山 今回のプログラム的には、野宮真貴の原点回帰みたいなテーマをもっています。野宮さんが各時代、各年代のアイコン的な女性たち、たとえばオードリー・ヘップバーンだったり、ブリジット・バルドーだったりを演じていくんだけれども、そこからは、どの時代にも女性文化が偏在して力をもっていたということが伝わると思います。
ヘップバーンやバルドーのセンスだったり、知識ふくめ、ビジュアルでわかる部分のすべてを野宮さんは体現できているひとだと思うんです。だから、このリサイタルは、現代人に不可欠な教養、たとえば本を一冊読むのと同様の教養が込められている、ともいえるんですね。
あとはいろんな人びと、音楽であれば当代一の音楽家である菊地成孔さん、momokomotionのmomokoさん、衣装であればケイタ・マルヤマさんだったり、そういったいまこの時代を呼吸してやってらっしゃる方々が野宮真貴の存在で遊ぶという、そういう“熱”のある現場なんですよ。
コマーシャルかアンダーグランドしかないいまの時代に、このリサイタルは中間的ないいバランスでできていると思うので、ぜひいらしていただけるとうれしいです。

野宮 リサイタルは今年で3回目になりますけれど、昨年もオウプナーズで大々的に取り上げていただいて、リサイタルの写真を見てイメージできる方もいらっしゃると思うのですが、まだ見たことがない方にはぜひ観ていただきたいですね。
一年かけてつくりあげてきたものが、一日、それも一時間半くらいで消えてなくってしまう、“はかない美しさ”というか、贅たくな時間をいっしょに楽しんでいただきたいです。
ぜひ足を運んで体験していただけたらと思います。

(おわり)

野宮真貴リサイタルvol.3『Beautiful People』
野宮真貴│主演・衣装プラン

演出・構成・美術│林巻子(ロマンチカ)
音楽監督│キクチモモコ(菊地成孔+momokomotion)
衣装│丸山敬太(ケイタマルヤマ トウキョウ パリス)
振付│横町慶子(ロマンチカ)

開催日時│2009年9月22日(火・祝)
マチネ 13:30 開場/14:00 開演(追加公演)
ソワレ 18:30 開場/19:00 開演

会場│恵比寿ザ・ガーデンホール
料金│チケット料金7350円(税込/全席指定)
チケット
チケットぴあ 0570-02-9999(Pコード331-206)
ローソンチケット 0570-084-003(Lコード74813)
イープラス
CNプレイガイド 0570-08-9999

主催|ホットスタッフ・プロモーション
企画制作|ロードアンドスカイオーガニゼイション/HOU71
特別協賛|恵比寿ガーデンプレイス株式会社
協賛|ALMACREATIONS

ホットスタッフ・プロモーション
Tel. 03-5720-9999
(24時間音声案内 *オペレーター対応時間……平日16:00~19:00)
http://www.missmakinomiya.com/special/

           
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