日本橋三越本店 美術フロア探訪|MITSUKOSHI
Sponsored日本橋三越本店
老舗百貨店の逸品を味わう
"KOGEI"の魅力を堪能できるミュージアム
工芸品から絵画まで、世界的にも価値のあるさまざまな作品を販売している日本橋三越本店 美術フロア。実際に足を運ぶと、古今東西の見応えのある作品の数々に、美術愛好家ならずとも目と心を奪われるはずだ。そんな、老舗百貨店の逸品を巡る旅へと誘う。
Text by OGAWA FumioPhotographs by Jamandfix
若い方にも実物に接していただきたい
美術品や工芸品と普段あまり縁がない? でも日本料理屋で出てきた器に思わず眼がいくことがあるのでは。知人の家を訪れたとき磁器の壺に花が飾られているのを見て、いい気分になったこともあるのでは。いいものは生活の気分をよくしてくれる。日本で暮らしていると、それがなんとなく理解できてくるように思う。そのためにもう少し積極的に美術工芸と付き合ってみては、というのが提案である。
お勧めは日本橋三越本店本館(の美術工芸サロン)。1907年にスタートして、才能ある作家たちの作品を扱い、創作活動を支えてきた。扱うのは絵画、彫刻、オブジェ、それに茶器や食器と幅が広い。6階の美術フロアは「日本でトップクラス」と担当者が胸を張るのも分かるほど広い床面積を使っていて、美しい品々を見ていると、素人ながらに胸が躍るような楽しい気分になってくるのは請け合う。
作品としての質が高いうえに価格もこなれている日常使いの品として人気があるのは、ぐい呑だ。手の中に包まれてしまうほどの大きさしかないが、じつは制作には大きな作品と同じ手間と時間がかかるため、作品として見ていて飽きない。100年以上の歴史とともに常日頃から鑑賞眼の鍛錬を欠かさない美術部のスタッフが選んだ作品がずらりと並んでいる。これだけの選択肢を提供できる力というのは並大抵ではないと感心する。
いっぽうで、井上萬二氏や鈴木藏(おさむ)氏など人間国宝の作品も置いてある。美術館のようなガラス越しでなく、本物を(場合によっては触れて)色合い、手触り、持った感触、雰囲気とあらゆる点で鑑賞できるのだ。美術工芸に造詣が深かった小林秀雄という評論家がいる。名著の1つが美術をめぐる評論集「真贋(しんがん)」(世界文化社)。そのなかで、味わうには見慣れることだ、としている。優れた野球の打者がボールをよく見ていることを例えとして出している。そのことを思い出した。
「私たちはいまKOGEIと呼ぶようにしています」。そう話すのは美術部のマネージャーを務める嶋田修氏だ。「ここで扱うのは日本ならではの伝統工芸ですけれど、海外でも高く評価されています。日本でも初めて美術工芸に出合ったという方にその魅力を知っていただくには、古くさいイメージは無用ですから。アクセスしやすいデパートということを利用して、若い方にも実物に接していただきたいと思っています」。
初めての人大歓迎なのだそうだ。
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"KOGEI"の魅力を堪能できるミュージアム (2)
必ずお気に入りが見つかるはず
街には個人が経営する美術工芸のギャラリーが多い。器をとっても新進気鋭の作家の美しい作品に出合うこともある。それに対して日本橋三越本店本館の美術工芸サロンの優位性はなにかというと、選択の幅の広さにあると美術部のマネージャーを務める嶋田修氏は語る。
「110年近く続いてきたなかで、私たちはお客さまが何を求めているかを常に感じて、ご希望に合うものをご紹介してきました。絵画でも工芸品でも同じです。いってみればマーケットの気分を少し先取りして、“こういうのが欲しかった”と言っていただけるようなものを見ていただく。街場のギャラリーもオーナーの選択眼を楽しむというよさがありますが、“ちょっと器でも見てみようかな”という軽い気持ちでいらっしゃっていただくときは、間口の広い私どもの売り場の価値を見出していただけるのではないかと思っています」
どれがいいの? と売り場で担当者に訊きたくなるかもしれない。おそらく先方は「お客さまがお好きなものを」と答えるだろう。投資ということを別にすれば、眼で見て手で持って「これ気に入った」というものが一番いいものとなる。面白いことに、50点ぐい呑があった場合、すべてが好きということはまずないだろう。必ず特に気に入るものが見つかるはずだ。それを器との付き合いのスタートにするとよい。同様のことは絵画や彫刻などにも言える。
売り場の担当者は、飲み屋にも自分の好きなぐい呑を持参することがあると明かしてくれた。ブドウの種類で形状が異なるワイングラスほどの機能的な裏付けはないけれど、好きで手に入れた器を使うととても気分がリラックスするようだ。それは分かる気がする。そして使っているうちにぐい呑にも風合いのようなものが増してくるし、呑む酒の味も変わってくるのだとか。日本の文化性を感じるエピソードだ。日常使いのものに愛着を持つ気持ちは、ヘッドフォンや腕時計とも違う。より五感の奥深いところと結びつく言葉で形容しがたい独特のもので、生きている喜びになると表現してもいいだろう。
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より公共的な性格の強いミュージアム
日本橋三越本店本館の美術工芸サロンで扱うものを新技術に対置してどちらが優れていると論評するのは意味がない。大事なのは恐らく評価が“なんだか好き”という直感的なものでいいということだ。ここが読者に美術工芸品と付き合ってみることを勧める大きな理由である。
デジタル製品を買うとき私たちは売り場で「最新のものはどれですか?」と訊ねる。デジタルカメラの選択基準は新しさだけでよい、と教えてくれるプロのカメラマンは多い。なんだか生活が味気なくなっているなかで、フィルムカメラにも人気が移行しているように、言葉にうまくできない気持ちを持って付き合えるものとの出合いこそ、とても大事だ。
三越が近代百貨店の始まりを告げる「デパートメントストア宣言」を行ったのが1904(明治37)年。この年に「尾形光琳遺作展」を開催して、美術館以外での美術展の珍しさも大きな話題になったと記録にある。1907年には一部の富裕層のものとされていた美術を、より多くの人が楽しめるようにと「新美術部」(当時)が設立され絵画の展示販売が開始された。
また芸術界と付き合うなかで、さまざまな企画展を展開してきた。なかには太平洋戦争の敗戦後、「荒(すさ)んだ国民の気持ちに夢を与えよう」(「三越美術部100年史」)という目的の美術展も含まれた。より公共的な性格の強いミュージアムといっていいかもしれない。
「工業製品は、常に技術革新と進歩により消費を拡大してきました。新素材、新機能など、常に新しさが人々の欲求を満たしてきたのです。しかしその対極として、桃山時代(注:豊臣時代)に陶工が生み出した1つの茶碗が数百年の時を越えて私達の心を満たし、鎌倉仏師の美意識が国境を越えて世界の人々の心を魅了しているのも事実です」(「三越美術部100年史」)
もちろん昔の工芸品がベストというわけではない。現代作家の育成にも力をいれる日本橋三越本店美術部ではKOGEIという呼称を使うことからも分かるように、いま若い人が日常生活に採り入れやすい作品に力を入れてもいる。まずは足を運んで、スタイリスト(販売員)に気軽に話しかけてみることだ。そのなかで自分の鑑賞眼を養う楽しみもある。例えばファッションほど日常的にレビューをメディアでは見ないかもしれないけれど、バッグやクルマより日常的に接するのは器であり壁にかかった絵画である。そのために日本橋三越本店本館の美術工芸サロンが存在するのだ。まずはぐい呑あたりから付き合いを始めてみてはどうだろう。
日本橋三越本店
東京都中央区日本橋室町1-4-1
TEL:03-3241-3311(代表)
営業時間:午前10時30分〜午後7時30分
http://mitsukoshi.mistore.jp/store/nihombashi/floor/main_6f/art/index.html