“The future of...”のタイトルに15分間で各々が答えたこととは?|NellyRodi™
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4組のクリエイターが語る「THE CREATIVE JOURNEY」(1)
1985年、パリで創業したコンサルティング会社「NellyRodi™」。イノベーション及びクリエーション部門で高い評価を得て、東京やニューヨークにも拠点を置きグローバルに展開している。そして今春、パリ本社のコンシューマートレンドディレクターが来日するタイミングに合わせて、「THE CREATIVE JOURNEY」と題したトークイベントが渋谷の100BANCHで開催された。アート、まちづくり、インテリアデザイン、ビューティと各ジャンルで活躍するクリエイターに与えられたお題は“The future of...”。15分という限られた時間内で、彼らは何を語るのか。
Photographs by EMORI Yasuyuki Text by MURATA Naoko
NellyRodiによる2019-2020年の未来展望
「THE CREATIVE JOURNEY」の会場となったのは、昨年夏にオープンした渋谷川沿いにある100BANCHの3階。ここは今年創業100周年を迎えるパナソニックが、未来を担う若い世代とともに次の100年につながる新しい価値の創造を目指すために新設したコラボレーションスペースだ。
パナソニックとロフトワークス、カフェ・カンパニーの3社によって開設したこの複合施設の紹介やここを拠点に活動しているプロジェクトメンバーのレポート発表の後に、NellyRodi PARISコンシューマートレンドディレクターのヴァンサン・グレゴワール氏が登壇した。
ヴァンサン・グレゴワール
NellyRodiではカテゴリーに分けて年2回、もしくは年刊でトレンドブックを出版していますが、2019〜20年のライフスタイルと消費者動向について簡単にご紹介します。10のメガトレンドが挙げられますが、なかでも4つのメガトレンドの比重を大小にミックスさせて形成すると、4つの新しいプロファイルが浮かび上がってきます。
一つは良質でシンプル、環境に優しく最新のテクノロジーで作られたナチュラルでモダンなテイスト。過多ではない植物的な癒しのある世界観。オーガニックのコスメブランドや自然を取り込むのではなく自然に溶け込むような建築デザインなど多岐のジャンルでより顕著に広がっていくでしょう。
次に挙げられるのは、非現実的でありながらも無機質ではない夢のある世界観です。浮遊感や虹色のようなカラーデザインで、例えばチームラボの作品などは分かりやすい例と言えます。この要素はすでにファッションにも取り入れられている傾向があります。
三つめはメッセージ性の強い、スーパーヒーローの要素です。人工的で近未来的なイメージがあり、自分自身の限界を越えようとする強い意志が感じられる世界感です。ヨガのような柔らかさではなく、最先端の暗闇ボクシングフィットネスのようと言えばイメージしやすいでしょうか。戦士のようなパワフルさはメッセージそのものをデザインしているファッションにも見受けられます。
そして最後は、まだ善悪の区別がつかない赤子のような無垢な心が生み出す多幸感溢れる世界観です。品の良し悪しは関係なく、一見すると怖さやクレイジーさを感じることもあるかもしれません。この世界観はミレニアル世代(1980年代から2000年代生まれのデジタルネイティブ世代を指す)が牽引しており、SNSですぐに拡散される楽しさがあります。
63ページに及ぶ膨大なビジュアルイメージとともに紹介されたヴァンサン・グレゴワール氏のプレゼンテーション。NellyRodiでは4大陸18カ国の販売代理店の国際ネットワークを使って、このような未来展望のニュアンスやイメージを視覚的にまとめたトレンドブックを発行しており、この日のイベント参加者からもトレンドブックの購入法などがよく聞かれた。
自然派ビューティブランドDAMDAMの創造のキーワード
ヴァンサン・グレゴワール氏のトーク後は、NellyRodi JAPONのピケ・ブノワ氏が今回のイベントのために声を掛けたクリエイター4組がゲストとして登場。2017年秋からスタートした自然派スキンケアブランド「DAMDAM」の創設者、ジゼル・ゴー氏とフィリップ・テリアン氏がトップを飾った。
ジゼル・ゴー
DAMDAMは私の母国語でもあるタガログ語で“感情、感覚”を意味し、アジア原産自然素材のスキンケアアイテムを展開しています。開発に約2年をかけ、化学物質は使わず、最新のクリーンテクノロジーによって植物由来の原材料の良さを最大限に引き出しています。製造は全て日本で行い、アイテムは全部で5種を展開。肌への負担を考慮したシンプルなラインナップです。
DAMDAMもそうですが、ビューティートレンドとしてまずは原材料の透明性が挙げられます。食と同じように肌に取り入れる、触れるものは安全・安心なものがより求められていて、例えば“ビーガンスキンケア”というキーワードはアメリカのGoogle検索で見ると前年比83%もアップ。このような傾向はアメリカやヨーロッパでは一般的で、よりグローバルに広がっています。
フィリップ・テリアン
そしてビューティ界では、私たちのような小さな独立系ブランドの登場が顕著です。最新の科学や技術を使い現代的な美学や物語を持って誕生したアイテムは、自分のライフスタイルに呼応するブランドを探し求めていた消費者にマッチしています。これは特に若い消費者に多く、またソーシャルメディアの影響もあり彼らの能動的で積極的な発見や消費行動に強く結びついています。
ジゼル・ゴー
都市生活からの精神的な休息として、東洋のミニマリズムやピュアさ、禅の精神などに世界の消費者が惹かれている傾向があります。韓国美容が急速に伸びていますが、より安心・安全なものを求める人々は多く日本ブランドは2020年の東京オリンピックまでさらに成長するのではないでしょうか。
そして性別ではなく価値観やライフスタイルを大切に展開するブランドは世界的に注目されていくでしょう。
アメリカ、フランス、日本でも男性用スキンケアのGoogle検索は増えており、製品のニュアンスや使用感での検索も多いです。このようにストーリーのあるものづくりで展開している独立系の美容ブランドは、流通経路の再考もポイントです。
DAMDAMも都内のセレクトショップや海外のラグジュアリーデザイナーズホテルなどで販売していますが、個人の嗜好やライフスタイルに合った場所で購入できるようにすることが、届けたい人たちに手にとってもらえる最短の方法です。
これらのトレンドをより意識しつつ、忙しい日々のなか、スキンケアが癒しになるように原材料のセレクトから香り、パッケージデザインと緻密に作り上げたDAMDAMで体感してもらえる感動を多様性溢れる世界の人々に愛されるよう届けていきたいと思っています。
まちづくりを掲げるUDSの世界と地方への未来戦略
次はUDSのエグゼクティブオフィサーの黒田哲二氏が登壇。“The future of...”に対して「世界がワクワクするまちづくり」というタイトルでプレゼンをした。
黒田哲二
UDSはUrban Design Systemの頭文字が会社名となっていて、この3つが揃うことが事業を行う判断基準となっています。UDSの前身である都市デザインシステムでは企画・設計がメインでしたが、UDSは企画・設計・運営が業務領域となります。
そして今夏開業予定の中国・北京のMUJI HOTEL BEIJINGや来年開業予定のMUJI HOTEL GINZAも同様です。MUJI HOTELのテーマは“アンチゴージャス、アンチチープ”。ホテルを価格の軸で選ぶのではなく、価値観の軸で選べるようバリエーションに富んだ部屋スタイルを用意しています。そしてこれまでのホテルが非日常を体験する場所であったのに対して、MUJI HOTELは旅や移動が暮らしの一部になる、日常の延長としての場を提案します。
UDSの事業はホテル、ホステル、レストラン、食堂、学生寮、シェアハウスやオフィス、コワーキングスペース、教育、物産館、公園などを手がけていますが、各々は「まちづくり」につなげるための手段と考えています。
新しい価値を生み出す選択肢を提案し、その未来にまで責任を持つことをミッションと考え、世界がワクワクするまちづくりをビジョンに掲げています。
ここまでが現在のUDSですが、今後のことをお話しましょう。皆さんもよくご存じかと思いますが、日本の人口は減少すると言われています。生産年齢人口も減るので国力が半分になる一方で高齢化は進み、日本のGDPは2015年には中国に抜かれました。
そんな背景がある未来に向けて、日本を拠点にするのではなく世界の街にUDS経営者をつくることがUDSの組織ビジョンです。すでに北京と上海に会社がありますが、各々が独立した組織となって繋がることで強力なネットワークが生まれると考えています。
では、日本に目を向けると注目すべきは地方です。都市部ではホテル建設ラッシュが続いていますが、今年から民泊の規定を定めた住宅宿泊事業法が解禁される動きもあり、ホテルは安定した事業とは言えない一面があります。そして訪日外国人観光客は増えており、その宿泊数は3大都市圏よりも地方部の伸び率が高いのが現状です。
ですので、ホテルをきっかけとしてホテルが地域内経済循環のハブになる仕組みを考えています。そして建築・都市とITテクノロジーの可能性を模索しています。課題先進国である日本から、成功モデルを海外へ輸出するチャンスはまだまだあると思っています。
Page02. グローバルブランディングエージェンシーartlessが捉える日本人の視点
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4組のクリエイターが語る「THE CREATIVE JOURNEY」(2)
グローバルブランディングエージェンシーartlessが捉える日本人の視点
続けては、ブランディングディレクター、クリエイティブディレクター、アートディレクター、デザイナー、キュレーター、アーティストと多くの肩書きを持ち、世界的に権威のあるアワードも受賞するなど国内外で活躍しているartlessの代表・川上シュン氏が登場。
川上シュン
artlessは僕が24歳の時、2001年に立ち上げた会社です。東京と京都を拠点にしたグローバルブランディングエージェンシーとして、日本の美意識を根底にした制作をしています。僕らの考えるブランディングとはビジネス×(デザイン×カテゴリー)であり、そしてそれはグラフィック×デジタル×建築で形成されます。
僕個人のアートワークとして水墨画や茶道など日本独自の表現で手がけていますが、クライアントワークでも日本的な余白の使い方などを常に意識しています。これまでも日本、そして日本人としての視点や目線は大切にしてきましたが、これからのクリエイティブキーワードは「さらなる日本のグローバリゼーション」です。アジア圏、英語圏の人々だけでなく、世界の宗教や人種、文化の違いを日本人は学ぶべきですし、それらが土台にあるデザインやアートを提案できるか否かが大切だと考えています。
昨年、パリのルーブル美術館でW17m×H3mのスクリーンに映し出す映像のインスタレーション作品を発表しました。水墨画をモチーフに大画面の余白を活かした世界観に最新のテクノロジーを掛け合わせて完成したもの。一言でいうと伝統×現代です。このような世界観や美意識を根底に、例えば茶道やクラフト的な要素をデザインに加えて事務所に併設するartless craft tea & coffeeを立ち上げたり、多国籍な人々の視点を意識しつつも京都らしさを感じられるようなデザインでフォーシーズンズホテル京都のサイン計画を手がけたりしました。
厳密に言えば各プロジェクトのデザインコードは異なりますが、インバウンド向けに開業したホテルリズベリオ赤坂や、渋谷パルコ跡地に新しいトウキョウカルチャーの発信場所としてオープンしたホテル コエ トーキョーも根底は変わりません。
そして中国のYanling Jianye The Mist Hot Spring Hotelは、建築家やインテリアデザインなどartless以外は海外の人たちとのプロジェクトでした。そのためよりグローバルな視点からの日本の美意識、つまりシンプルさ、感性、良質性を意識したサイン計画やアメニティなどのプロダクトデザインに落とし込んでいきました。
こうして国内外のプロジェクトに携わると、これからの新しい日本のマーケットと世界のマーケットはどんどん近づいていくのではと思っています。その時に日本の美意識もさることながら、日本人的な繊細さ、丁寧さ、品質、創造性はより重要になってくると思います。
デザイン・設計事務所DAIKEI MILLSが思い描くこれからのアウトプット
ビューティ、まちづくり、デザイン・アートと続いて、最後はインテリアデザイン・設計事務所のDAIKEI MILLS 中村圭佑氏が登壇した。
中村圭佑
DAIKEI MILLSでは、インテリアデザインの枠ではないアプローチで空間設計を行なっています。例えば彫刻的なスケッチで発想したり、職人とのコラボレーションによって生み出す質感や色感というものを大切にしています。2014年にリニューアルオープンしたインテリアショップのCIBONE Aoyamaは空間自体を回遊する庭のように見立て“New Antiques, New Classics”というテーマのもと、白壁と墨入りのモルタル壁を意図的に構成。
左官職人の仕事による味のある仕上がりは、人の手などが触れていくことでまた経年変化していきます。サントリー九州熊本工場に併設されたブルワリーのザ・プレミアム・モルツ タップバー(現在は休業中)は地産地消の材ですべてを作ることをコンセプトにし、バーカウンターや床材のコンクリートには阿蘇山の土を練りこんだオリジナルのもので仕上げました。
素材のインスピレーションだけでなく、色と構造という要素のみで展開することもあります。具体例としては、原宿のキャットストリートにあるアパレルショップの6(ROKU)BEAUTY&YOUTHです。ここは“和”というテーマに対して、キーカラーのくすんだ朱色と格子のような壁の造りという2つの要素のみでデザインしました。
その一方、自然からのメタファーをイメージする展開してもあります。
表参道ヒルズにあるHirotaka Jewelryのショップは、ジュエリーのデザインも動植物にインスパイアされていることもあり、渓谷に静かな月光が降り注ぐような夜をイメージしてデザインしました。
ファインアートからのインスピレーションもありますが、僕も含めてDAIKEI MILLSのスタッフは地方出身でそういったメンバーが東京に集ってこの仕事をしているからか、自然の原風景をどこかに残す傾向がありますね。デジタルとは真逆なアプローチですが、これからのデザインで大切にしていきたいポイントだと思っています。
また昨年春にオープンしたGINZA SIXの玉川堂銀座店では、職人が一枚ずつ鎚目を打った銅板を建材として内装に使用。職人さんたちとは手紙などのやりとりを繰り返して長い時間をかけて作り上げましたが、伝統工芸の技術を建築建材に活用することで新たな価値観の提案やオリジナリティある空間につながったのほか、共同作業の重要性を改めて勉強させてもらったプロジェクトになりました。
また今後は、DML(DAIKEI MILLS LAB)と名付けた日々の気づきを具現化する実験の場を作り上げていきたいと思っています。クライアントワークから適度な距離で離れる場を設けることで、アイデンティティーの確立を試みる。こうした試行錯誤はクライアントワークとしてのPROJECTに還元されていく良循環を生み出すと思っています。
図らずもゲスト4組の語りのなかで、日本の美意識・アイデンティ・ミニマリズム・繊細さなど未来に向けたクリエイティブにおける共通するキーワードが浮かび上がるイベントとなった「THE CREATIVE JOURNEY」。ファッションなど新しいジャンルのゲストも招いた次回の開催が期待される。
NellyRodi