シェアの時代に、若者たちが愛車のあるライフスタイルを選択する理由
CAR / FEATURES
2025年4月19日

シェアの時代に、若者たちが愛車のあるライフスタイルを選択する理由

YOKOHAMA CAR SESSION|ヨコハマ カー セッション

2025年4月20日(日)、第二回「YOKOHAMA CAR SESSION~若者たちのカーライフ~」が横浜赤レンガ倉庫にて開催される。イベント名が示す通り、イベントの主役は若者と車だ。車離れが進むなか、なぜ若者たちがあえて愛車をもつライフスタイルを選択するのか、イベントを通じてその理由が見えてきた。

Text by WASEDA Kosaku|Photographs by MASHIKO Yusuke

車と人、人と人を繋ぐ文化装置

「若者の自動車離れ」という言葉がメディア・世間で言われるようになって久しい。その理由はさまざまだ。ひとつは趣味の多様化、そしてゲームやインターネットなどの普及によるネット体験があげられるだろう。
2024年3月に初めて開催された「YOKOHAMA CAR SESSION~若者たちのカーライフ~」は、全国津々浦々で愛車とのカーライフを楽しんでいる若者たちが愛車とともに横浜赤レンガ倉庫に集結した。メーカー・年式は多種多様。第一回ということでイベント告知も主催者らによる声掛けによって若者たちが集めらている。参加資格は35歳以下というだけ。極めてライトなものだった。
最終的にネオクラシックと呼ばれる80年代から90年代の車両をはじめ、2000年代、古くは60年代までの国産・輸入車約100台が並んだ。車両に注目すると、どれもこだわって乗られているのがわかる。車種の選び方もさることながら、グレードや色味、カスタムなどに一捻り加えられた車両が多いように思えた。
こうしたイベントでは洗車を終えたばかりの車が並び、ボンネットを開けてエンジンを見せ合い、語られるのはチューンの内容やこだわりのパーツ、そしてその車にまつわる思い出だ。いわば、クルマという「個」を媒介にして、リアルな場で「感情」のシェアを生み出している。
この現象は、SNS全盛の時代においてなぜリアルな集まりが必要なのかという問いを突きつける。
集まった世代は、デジタルネイティブと呼ばれる。Twitter(現X)やInstagram、TikTokといったSNSを自在に使いこなし、情報発信や共感のやり取りも日常的に行っている。その一方で、彼らがリアルなイベントに足を運び、自らの車を持ち寄って展示することには、SNSでは得られない「体感」や「思想や記憶の共有」がある。
SNSは便利だが、匿名性や編集された自己表現の場になりやすい。加工された写真や断片的なコメントだけでは、本当の「好き」や「こだわり」を伝えきるのが難しい。対してリアルなイベントでは、塗装の質感やマフラー音、内装の手触り、そういった五感を通じた“実在する熱量”がダイレクトに伝わる。目の前にある車を囲んで話すことで、「あなたの車、かっこいいですね」「このパーツ、どこで手に入れたんですか?」といったやりとりが自然と生まれ、人間関係の質も一気に深まっていく。
さらに、こうしたイベントでは偶然の出会いや、思わぬ知識の交換も起きやすい。フォロワー数や“いいね”の数ではなく、実際の言葉と表情を通じて人と人がつながる。若者たちは、ネットを通じて築いた関係を、リアルな場で確かめ、再構築し、より強固なコミュニティを育てているのだ。
都市部では交通網が発達し、カーシェアやサブスクリプションといった所有以外の選択肢も増えた。維持費や駐車場代、環境意識の高まりもあり、車を“持たない”ことが合理的な判断として受け入れられている。しかし、だからこそ「敢えて所有する」という選択には、より強い意志と明確な理由が込められる。
車離れという大きな流れの中であえて逆を行く若者たちは、単なるノスタルジーではなく、新しい意味を自ら見出しているのだ。
リアルイベントは、ただ車を見せる場ではない。デジタルの海に浮かぶリアルな灯台のような存在であり、個人の情熱と他者とのつながりが交ざりあう空間だ。SNSを背景に持つからこそ、リアルな出会いが尊くなり、「所有」という重さが価値を帯びる。
車を通じて語られるのは、性能やスペックだけではない。そこには「自分は何を大切にしているか」「どう生きていきたいか」という静かなメッセージが込められているのだ。若者たちは、ただ愛車を並べているのではない。彼らは、自分自身の物語を、エンジンの音やボディの艶に託して、確かに発信しているのだ。
「YOKOHAMA CAR SESSION」は、モノから始まるストーリー、なによりも人と人がつながるという、尊い営みの魅力を若者たちに認識させた。SNSの普及やコロナ禍などを得て、若者たちが改めて認識した「リアル」の愉しみ方。そして若者の車文化そのものを発信する文化装置として機能しているのだった。
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