Secrets behind the Success|連載第1回 アルフレッドダンヒルCEO カルロ・ガリリオさん
ビジネスパーソンの舞台裏
連載第1回|カルロ・ガリリオさん(アルフレッドダンヒルCEO)
遊び心を忘れない“ダンヒル・マン”の人生謳歌術(1)
ビジネスで成功を収めた者たちは、どう暮らし、どんな考えで日々の生活を送っているのだろう。新連載「Secrets behind the Success」では、インタビューをとおして、普段なかなか表に出ることのない、成功者たちの素顔の生活に迫ります。第1回目のゲストは、アルフレッドダンヒル(以下、ダンヒル)CEOのカルロ・ガリリオさん。イタリア人らしく、どんなに忙しくても「美味しいものと愛車との時間は欠かせない」と語るガリリオさんの“素顔の生活”とは。
Photographs by NAKAMURA Toshikazu (BOIL)Interview & Text by TANAKA Junko (OPENERS)
人生のあらゆる場面で男性に寄り添う存在。それがダンヒル
――2年前に入社されたということですが、ダンヒルでの「これまで」を振りかえっていかがですか?
2009年5月にダンヒルに入りました。リーマンショックが起こって間もないころです。ラグジュアリービジネスは大きな打撃を受け、どのブランドも低迷していました。そんな年に、ダンヒルという伝統あるブランドを一任された私は、とにかくいい結果を残すしか道はないというおもいで、自分のもてる力のすべてを注いできました。
半年から1年ぐらいたったころでしょうか。ようやく景気が上向いてきました。驚くほどのスピードで変化が起こり、すべてが好転しはじめたのです。2010年の中旬からいままでずっといい状態がつづいていて、昨年は過去5年間でトップの業績でした。あの苦しい時期からここまでもちなおせたことを、会社も私もとてもうれしくおもっています。
――ダンヒルに入って取り組まれたことのなかで、印象に残っているエピソードがあれば教えてください。
一緒に働いている仲間は、長年ダンヒルで経験を積んできた人たちばかりです。日本におけるラグジュアリービジネスの95%は、これまでずっと上り調子でした。それがリーマンショック後に、はじめて大きな打撃を受けたわけです。この業界に長くいる人たちにとって、「これまでの方法が通用しない」という事実と向き合い、あたらしい施策を考えるというのは、簡単なことではありませんでした。私の役割は、仲間に「今日はだめでも明日は必ずくる。絶対にうまくいく」と伝えること。前向きなパワーとエネルギーを注ぐことでした。
――ダンヒルに入る前、ガリリオさん自身はどんな場所でどんな経験を積んでこられたのでしょうか?
15年間、エルメネジルド ゼニア(以下、ゼニア)に勤めていました。社会人になって最初に勤めたのがゼニアで、日本にやってきたのも、ゼニア ジャパンのCFOに任命されたのがきっかけでした。来日してから約5年間をゼニアですごしたあと、マックスマーラからの誘いをうけて、数年間マックスアンドコーの代表を務めました。それからダンヒルに声をかけてもらい、メンズファッションの世界に戻ってくることになりました。ダンヒルは私にとって3つ目の職場ということになりますね。
――やはり、ウィメンズファッションとメンズファッションの世界はまったくちがいますか?
そうですね。マックスマーラでの経験もすばらしいものでしたが、またいつかメンズファッションの世界に戻ることになるだろうとはおもっていました。というのも、最初にかかわったのがゼニアのメンズ服で、そこでは製品と強い結びつきを感じていましたが、ウィメンズ服を手がけるマックスマーラでは、その結びつきが少し弱くなってしまったのです。自分が男性である以上、男性の求めるものの方が理解しやすいのだとおもいます。
――ガリリオさんが考えるダンヒルの魅力とはなんでしょう?
ダンヒルは、男性の求めるものをきちんと理解して提供している数少ないブランドのひとつだとおもいます。コートからジュエリー、レザーアクセサリー、メンズ服、ゲームにいたるまで、ダンヒルにはすべて揃っています。ゲームの種類も豊富なんですよ。少年から大人の男性まで楽しむことのできる“おもちゃ”が用意されているというのは、入社してから知ったうれしい発見でした。男性を装うだけでなく、人生のあらゆる場面で男性に寄り添う存在であること。それがダンヒルの一番の魅力ではないでしょうか。
――「ダンヒル・マン(ダンヒルらしい男性)」とはどんな男性でしょうか?
私の考えるダンヒル・マンをひと言であらわすなら、英国紳士です。オーダーメイドのスーツをビシッと着こなし、身のこなしはとてもエレガント。手にはすてきな革のバッグを携えていてね。世の中には、身につけるものにまったく無頓着で、なにからなにまで奥さんに面倒を見てもらっている人もいますが、ダンヒル・マンはちがいます。自分に合ったものを探す手間をいとわず、いつも自分を一番よく見せてくれる洋服や小物を身につけています。
食とワインとスクーターと……ガリリオ流人生謳歌術
――そんな“ダンヒル・マン”のひとり、ガリリオさんの審美眼にかなったものとはどんなものなのでしょうか? 東京にいる間は欠かせないという愛車のお話を聞かせてください。
愛車はスクーターです。イタリア人ならフェラーリと答えるべきところなのでしょうが(笑)、私はイタリア製のスポーツスクーター「ジレラ ランナー」を愛用しています。どんな場所にもスイッと行けてしまうのがとっても便利だし、いまはこれなしでは生きられません。
――移動手段という以外に、愛車のスクーターから得られるものはなんですか?
疲れ切ってリラックスしたいとき、私はスクーターに乗ります。なにより自由な気分を味わわせてくれるんです。それに、予定のつまった忙しい日には、これで素早く移動ができるので助かっています。たとえば、30分しかお昼の時間がとれないときに「あそこのサンドイッチが食べたい」とおもっても、地下鉄やタクシーではとても間に合いません。でもスクーターがあれば、サンドイッチを食べてから次の約束の場所に向かう、ということも可能です。
――忙しいときにも食べたいものを食べる。そういう時間を大切にしていらっしゃるんですね。
イタリア人にとって、食べることはライフスタイルそのものです。私の場合、まず食べたいものを決めてから、一日のスケジュールを立てることもあるぐらいです。長い一日を終えて、どれだけ疲れていても「あのレストランのあのひと皿が食べたい」という気持ちになれば、迷わず出かけていきます。それが高級レストランのひと皿のときもありますし、600円のラーメンのときもありますが、口にしたときの気持ちは同じです。美味しいものは、どんなストレスも一気に吹き飛ばしてくれる存在です。
――ガリリオさんが足繁くかようイタリアンレストランがあれば教えてください。
ピザなら、麻布十番にある『サヴォイ』がお気に入りです。美味しいですよ。定番のイタリア料理なら、2つお気に入りがあります。ひとつは、乃木坂の『リストランテ ダ ニーノ』。シェフのニノさんはシチリア島出身で、マグロを使った料理が得意なんです。なかでも、私のお気に入りは「ピスタチオの衣をまとった本マグロ(Tonno al pistacchio)」、マグロを軽く焼いたものにピスタチオをまぶした一皿です。もうひとつは、麹町の『エリオ ロカンダ イタリアーナ』です。そこでは、「海の幸のリゾット(Risotto ai frutti di mare)」がお気に入りです。
『リストランテ ダ ニーノ』
東京都港区南青山1-15-19 グランドメゾン乃木坂
Tel. 03-3401-9466
営業時間|11:30~14:00
18:00~22:30
日曜定休
http://www.ristorante-da-nino.jp/
『エリオ ロカンダ イタリアーナ』
東京都千代田区麹町2-5-2
Tel. 03-3239-6771
営業時間|11:45~14:15
17:45~22:15
日曜定休
http://www.elio.co.jp/
――料理に合わせるワインは、やはりイタリアワインですか?
ほとんどの場合そうですね。それもロッソ(赤)。ダンヒルに入社して、リシュモングループの一員になってからは、周りに詳しい方が増えたので、すこしはフランスワインにも詳しくなりました。それに、ときどきシャンパンを嗜むこともありますが、基本的には、よく知っているイタリアワインを優先的に選んでしまうことが多いです。
――なかでも、お気に入りの銘柄はありますか?
イタリアワインの“王”と称される「バローロ」、それから“女王”と称される「バルバレスコ」など、自分の生まれ育ったピエモンテ州のワインを選ぶことが多いです。あとはトスカーナ州の「ブルネッロ ディ モンタルチーノ」が好きですね。
ビジネスパーソンの舞台裏
連載第1回|カルロ・ガリリオさん(アルフレッドダンヒルCEO)
遊び心を忘れない“ダンヒル・マン”の人生謳歌術(3)
自分の目と耳をいつもしっかり開いておくことが大切
――独自の“謳歌術”を駆使しながら、一歩ずつ着実にキャリアを積んでこられたガリリオさんに、成功の秘訣をうかがいたいとおもいます。先輩や上司から学んだことで、いまでも人生の指針となっているものはありますか?
「ものごとを知れば知るほど、もっと知ることがあるということに気づく」。言い方をかえると、学ぶことをやめてはいけないと。つねに、あたらしい知識をつける努力をつづけなくてはいけないという先輩の教えです。本来なら当然知っていなければいけないことを知らなかったと気づいたとき、いつもこの言葉を思い出すようにしています。
――仕事で成功をおさめるための秘訣はなんだとおもいますか?
秘訣はたくさんあるとおもいます。まず自分の得意なことを生業にしていること。自分に合ったプロジェクトを手がけていること。そして、毎日あたらしいものを吸収しようという意欲をもっていること。なぜなら、今日は“成功者”であっても、一歩足を踏み外せば、明日は成功者でなくなっているかもしれないのです。まわりでなにが起きているのかをきちんと把握できるように、自分の目と耳をいつもしっかり開いておくことも大切だとおもいます。明日がどんなふうになるかは誰にもわからないですから。
――プロジェクトといえば、いまFIFAワールドカップの予選を戦っている、日本代表チームのオフィシャルスーツを手がけてらっしゃいますよね。これは、個人的にもとてもおもい入れの強いプロジェクトだそうですね?
はい、まさにいま私が一番力を注いでいるプロジェクトです。ダンヒルはすでに2000年からこのキャンペーンをスタートしていましたが、2009年に入社した当初は、このキャンペーンをとおしてなにも明確なメッセージが届けられていませんでした。選手たちの写真を撮ったら終わり。ただそれだけでした。こうなったら、つづけるかやめるかの二者択一。もしつづけるなら、なぜダンヒルがこのキャンペーンをするのか、明確な理由が必要でした。
ダンヒルは英国ブランドであり、英国人にとってサッカーは日々の生活に欠かせないものです。一方、日本では、私が来日した12年前にサッカーのことを知る人はだれもいませんでした。それがいまや、日本代表メンバーの約90%が海外リーグで活躍中です。日本のサッカーが、日本人選手の名が、一気に世界に知れわたるようになったのです。
そこで生まれたのが“勝負服”コンセプトです。これから、ますます活躍の場を増やしていくであろう、日本代表メンバーの晴れ舞台を演出したい。彼らの一番いいところを引き立てる洋服を仕立てたい。アディダスのユニフォームがフィールド上の彼らをすてきに演出するとすれば、ダンヒルのスーツはフィールドの外で彼らの魅力を引き立てる。これらはすべて、ひとりひとりの体に合わせてつくったカスタムメイドのスーツです。人は自分のためにつくられた、自分の体型にぴったりの洋服を身につけたとき、自信をもって輝きはじめます。“勝負服”は、そうした自信を日本人選手たちに与える存在であってほしいと願っています。
――ガリリオさんにそうした自信を与えてくれるラッキーアイテムはなんですか?
日本代表メンバーのためにつくった“勝負服”のネクタイを愛用しています。毎年デザインを変えているのですが、なにか大切な行事があるときには、選手と同じ気持ちで、このネクタイをつけて出かけます。あと、肌身離さず身につけているラッキーアイテムは、妻からもらったこのブレスレットです。ある日、ひとつのブレスレットを見て「あぁ、こういうのがほしいとおもっていたんだ」と私が言っていたのを覚えていてくれたみたいで、知人のジュエリーデザイナーに頼んで、オリジナルのブレスレットをつくってくれたんです。洋服も一緒ですが、自分のためにつくられたものというのは、情がわくものですし、とても愛しい存在になりますよね。
遊び心も忘れない大人の男性……。まさにそんな言葉がぴったりのガリリオさんは、洋服から小物、ゲームまでとりそろえる、懐の深いダンヒルを体現するような成功者であった。いつも明日を見据えて、メンズファッションのフィールドで華麗にプレイしつづけるガリリオさんと、ダンヒルのこれからに注目したい。
カルロ・ガリリオ|Carlo Gariglio
イタリア、ピエモンテ州出身。1995年から1998年までエルメネジルド ゼニアグループの財務本部に勤務。1999年から2003年までゼニア ジャパンでCFOを務める。2004年から2005年までゼニア ジャパンの副社長を務め、ゼニア スポーツやジー ゼニア、靴コレクションの立ち上げなど、新プロジェクトを成功に導く。2005年から2009年まではマックスアンドコーの代表取締役兼CEOを務め、ブランドの立て直しに成功した。2009年5月より現職。