POGGY’S FILTER|vol.7 DABOさん、MACKA-CHINさん、XBSさん(後編)
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小木“POGGY”基史氏がホストを務める『POGGY'S FILTER』。日本のヒップホップシーンを代表するグループ、NITRO MICROPHONE UNDERGROUND(ニトロ・マイクロフォン・アンダーグラウンド、以下ニトロ)からDABO氏、MACKA-CHIN氏、XBS氏の3人を迎えて行なわれた、この対談の後半では、ファッションについての話から、ニトロが制作中の未発表の新曲、さらにニトロというグループの本質についてまで話が展開していく。
Interview by KOGI “Poggy” Motofumi|Photographs & Text by OMAE Kiwamu
“ラップしか出来ないクソ野郎”がカッコよかった時代
POGGY 昔、大阪のフォトグラファーの下山さんがやっていた『212 MAGAZINE』って覚えてますか?
DABO はいはい。ニューヨークでひたすらストリートスナップを撮ってる雑誌ですね。
POGGY あれの昔の号を見ていたら、DABOさんが急に出てきたんですよ。
DABO マジっすか?!(笑)
POGGY あの当時流行っていた刺繍入りの革ジャンとかが、また流行ったりしているじゃないですか。それこそ、アメリカの若い子たちが、2000年代初頭のA BATHING APE(ア・ベイシング・エイプ)とかUNDERCOVER(アンダーカバー)、BILLIONAIRE BOYS CLUB(ビリオネア・ボーイズ・クラブ)とかを着ていたり。そんな風に2000年代の雰囲気が今、戻ってきている気がするんですけど、そういうのって感じたりしますか?
DABO 2000年代初頭よりもっと前の、それこそ僕らが十代後半くらいに流行ったブランドで、例えばCROSS COLOURS(クロス・カラーズ)とかFUBU(フブ)の古着を、今、若い子たちが着てるじゃないですか。それって、すごい時代だなって思いますね。あの当時みたいに、日焼けして髪の毛はドレッドとかではなくて、肌の真っ白な細い子がウェストをキュンキュンに上げて、おかっぱヘアに眼鏡をかけて、クロス・カラーズなんかを着ている。なんか不思議だな~っていうのはありますね。
POGGY それから、昔、SISQO(シスコ)っていうアーティストがいたじゃないですか。あんな感じに髪を染めている子とかも結構増えていますよね。
DABO たしかにトンガリキッズは今、皆んな髪を染めてる。きっと、俺も今、十代だったら髪を染めていると思いますね。
POGGY ニトロとして今年、7年ぶりに活動を再開したわけですけど、それも2000年代の空気感が戻っているからっていうのはありますか?
DABO それはないですけど、ただ、今回、再始動の第一弾として出した新曲の「LIVE19」に関しては、このタイミングでやることで「ひょっとしたらひょっとするかもな?」とは思いましたね。今の時代にこれをやったら、懐かしがる世代もいるだろうし、逆に新鮮に映る世代もいる。「何、このビート?」「何、こういうラップ?」って感じになってくれるかなって。だから、タイミング的には良かったと思いますね。
XBS 実際、音源を出すのが7、8年ぶりなんですよ。だから、昔から僕らの音楽を楽しんできてくれた人たちに「来た~!」って思わせたい部分はありましたね。
MACKA-CHIN そうそう。「来た~!」とか「出た~!」とかの部分だね。
DABO 「これぞ超ニトロ!」みたいな感じ。
XBS そういう意味では、YouTubeで公開したビデオへのコメントを見ると、狙い通りの反応で良かったなと。
MACKA-CHIN ニトロに対してはメンバーそれぞれ思いがあるんですけど、個人的には歳相応というか、今のアップデートされたニトロを表現したいっていうのがあります。個人的には今、テクノの人たちが面白いなと思っていて。元々、ソロでやりたいなと思っていたBPM遅めのテクノのトラックがあったので、「こういうのどう?」ってメンバーに聴かせたら、基本的にはみんな音楽が好きだから、「狂ってて良いね!」って、すぐに飛びついてきたんですよ。だから、リハビリな感じの状態でスタジオに入って、最初に出来上がったのがテクノの曲なんです。
DABO あの曲はカッコいいよね。今回の「LIVE19」の後にあの曲が出たら、みんな、ひっくり返ると思うよ。
POGGY それは、聴いてみたいですね。
XBS 「LIVE19」に関しては、6月20日に渋谷のTSUTAYA O-EASTで久しぶりのワンマンのライヴがあるので、今回のリリースはその手前に何かを見せないとっていうのもありました。今年の1月1日にSNSを立ち上げて、再始動を宣言したんですけど、その後にメンバーでUGG(アグ)のモデルをやったり、RAP TEES(ラップ・ティーズ)でアパレルやったりとか。
POGGY ラップ・ティーズはビックリしました。
XBS でも、やっぱり曲を出したり、ライヴとかをやらないと、あんまり復活したみたいな捉え方をされていなかったんで。兎にも角にも、そこの動きを早くつけたかったっていう意味でのリリースっていうところもあったんですよね。
POGGY 「LIVE19」の自撮りの映像を使ったPVは、いい意味で力が抜けてていいですよね。
DABO そう見てくれたら本望です。苦肉の作ではありましたけど。
XBS 現実的に全員が集まって撮れないみたいなところから、ああいうコンセプトになったんです。ディレクターをお願いしたCEKAIが面白いことを考えてくれて、今の時代にすごくフィットした感じになったんじゃないかなって思っています。元々、若いクリエイターと何かをやりたいなと思っていたこともあり、CEKAIとニトロとの掛け合わせは絶対に面白くなるなと。
POGGY 若い人たちとの絡みという意味では、この前、BIM君のライヴにDABOさんが出ていましたよね。皆さんが思う、面白い若手っていますか?
MACKA-CHIN いっぱいいますね。自分は率先して、若い子と一緒にコンピレーションアルバムを作ったりしているので。釈迦坊主とか、haruru犬love dog天使とか。SPACE SHOWER系というか、あの辺の子たちはヒップホップっぽくなくて好きですね。
POGGY 名前を聞いても、僕は全然知らない人たちばかりです……(笑)。
MACKA-CHIN ただ、今って、パソコンやインターネットの普及もあるので、何から何まで全部自分たちで作らないといけない時代。ファッションで例えると、パタンナーをやりながら、デザインもやって、工場まで自分で行くみたいな。セルフでやれるところは、とことんやらないといけない。そうなると、ただ単に音楽が良かったりアンテナが高いだけじゃなくて、総合力が問われてくる。
DABO 一人で何でも出来るような、インディペンデントな人が優遇されるし、そういうアートの社会になっている。
XBS だから、今の時代は、ラップだけするっていうのは厳しくなってきますよね。
DABO 僕らの時代はラップしか出来ないクソ野郎みたいな奴っていうのがいて(笑)。DJだと、レコードしか知らないクソ野郎みたいなのが、カッコいい時代でもあったし。
MACKA-CHIN そうそう。カッコよく見えてた。
DABO 今はSNSをやっていないっていうだけで、ガクッて一段下がるだろうし。PV作らないっていうのでまた一段下がって。服に興味ないとかもそうだろうし。
XBS モデルをやれる、やれないでも違ってきたり。
DABO そういう意味では、若い子は何でも一人で出来てすごいなっていうのは思いますね。自分の家にスタジオがあって、デザインも自分でやって、仲間がカメラ出来て、映像も作れて。全部のパッケージを仲間4、5人だけで作れちゃう。それってすごいと思うけど、昔の“ラップしか出来ないクソ野郎”が持っていた圧倒的な波動みたいなものを今は感じにくいですね。
Page02.ニトロは「究極の亜流」
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ニトロは「究極の亜流」
POGGY 今って、音楽的にはグライムとかトラップとかみたいに、昔とは全く違う流れもあるじゃないですか。ああいうジャンルは、皆さん、どういう風に捉えていますか? 人によっては、トラップはヒップホップとは全くの別物のように言っている人もいたりして。
DABO それは、語る角度によると思うんですよね。
MACKA-CHIN 多分、人それぞれ解釈が違うし、感じ方も全然違う。でも、俺は同じファミリーツリーで、根っこは一緒だと思っているんですよ。トラップもグライムもジュークも、黒人の音楽の中で枝分かれしているだけだから。あと、最近、ゴム(Gqom)っていうのに超ハマっているんですよ。南アフリカのゲットートランステクノみたいな感じで、ビデオクリップとかを観るとみんなカラフルで、ファッションセンスとかもすごく面白いんですよ。
POGGY ぜひ観てみてみたいですね。
MACKA-CHIN そのゴムもヒップホップから来ていると思うし。内田裕也の「ロックンロール!」じゃないけど、僕らは何でも「ヒップホップ!」みたいになってしまうところがあるんで。だから、そういう枝分かれしているジャンルに関しても、僕は全く抵抗がないですね。
POGGY 実は勝手なイメージで、ニトロの皆さんはもっと「ヒップホップはこうじゃなきゃダメだ!」みたいな感じなのかなって思ってたんですけど。
DABO 「そんなのヒップホップじゃねぇ!」みたいな?(笑)
POGGY ですね(笑)。芯の強さもありつつ、ちゃんと今の時代も受け止めてるんだなと感じました。
MACKA-CHIN それは俺らにも先輩がいたからじゃないかな? 先輩たちはもっと型にハマっていて、「ヒップホップってさ~」みたいなことを言っていて。けど、俺たちはそこまでヒップホップに囚われていない。例えば、ラップも韻に関しては、DABOは最初から韻にこだわっていたけど、俺の場合はそこまでこだわってなくて、聴こえ重視。「何とかでさ!」みたいに最後の「さ」しか踏んでないみたいな。
XBS DABOが前にTwitterで書いてたんだけども、「俺たちは究極の亜流だ」っていうのがすごく腑に落ちて。「ああ、そうか!」って。
DABO デビューの時から、常に亜流だったなって。僕たちはどこにいても浮くんですよ。『さんピンCAMP』(注:1996年に日比谷野外音楽堂にて開催された伝説的なヒップホップイベント)のステージにもいたのに、その流れに乗らずに、勝手なことをしちゃう。たまたま、『さんピンCAMP』の流れに飽きた人たちが、ニトロのデビューの時に歓迎してくれて。でも、8人とも見てる方向はバラバラだし、普段やってることとかも全員違う。だから、「ヒップホップとはこうあるべき」っていうのがないんですよ。でも、その姿勢こそがヒップホップだと思ってるんでしょうね。
MACKA-CHIN もともと、村社会というか、日本の全体主義みたいなのにすごく抵抗がある世代なんですよ。俺も原宿育ちだったので、原宿の先輩にすごく可愛がられてたんですけど。でも、原宿のファッションの人たちはみんなでつるんで、原宿村になってるのも感じていた。日本語ラップにも村社会があって。「誰々と仲良くしとけば上手くいく」とか、そういうのがあると思うし。でも、俺らはそういうのが嫌いだったし、苦手だったよね。単に社交的じゃなかったっていうだけかもしれないですけど。日陰が好きというか。
XBS 天邪鬼だよね。
MACKA-CHIN グループとは別に、それぞれソロ活動もあるっていうゆとりがある分、ニトロっていう団体に関しては、一匹狼っていうか。他の人たちとは全然関係ないところで音楽をやったり、イベントも出るし、洋服もやるしっていう。本当に変わり者だよね。
DABO 今の日本のヒップホップって、『フリースタイルダンジョン』とかからのフリースタイルの流れがあって。もう一方で、タトゥーだらけで髪を染めている子たちがトラップでピョンピョンするっていう流れもある。その二つが今の大きな流れじゃないですか。でも、僕とかニトロの人たちは、そこに入って行こうとはあんまり思わないし、そういうのを俯瞰して見ている。
MACKA-CHIN 自分の好きなものをそれぞれ持ってるからでしょうね。「俺はこうだから」みたいな。
DABO 今初めて思ったけど、ニトロとして流行を作っちゃったからだと思う。僕たちは流行に乗ったっていうよりは、ニトロブームを作っちゃったから。だから、「乗るなんて悔しいじゃん」とか「乗るなんてダセえ」みたいなのが多分、どっかにある気がする。
MACKA-CHIN 俺たち中卒とかもいて、「頭良い奴が偉い!」みたいな、何でも偏差値で物事を見ていた時代に、学校を辞めたり。僕自身、高校が好きすぎて4年間行ったりして(笑)。
POGGY (笑)
MACKA-CHIN そういう、当時から上手く社会にハマらなかった者たちがつるんでるんで。流行りの中にはどうしても溶け込めないみたいなのがあるんじゃないかな? 全く意識はしてないけどね。
XBS 本当に意識はしてないけど、そこはすごく自然な共通認識というか。他のところはズレているところがいっぱいあっても、感覚的に、そこだけは同じような感じはしますね。
DABO 今って、「俺ってこんなに個性的でゴメンね」みたいな奴がうじゃうじゃいるじゃないですか。本当は超無個性なのに「ゴメンね、髪赤くしちゃって。俺ってこうだからさ!」とか「ゴメンね、顔にまでタトゥー入れちゃって。けど、これが俺!」みたいな(笑)。そうやって、やればやるほど無個性になっていく子たちが沢山いる。でも、多分、僕たちはリアルに個性的なんですよ。
POGGY そのスタンスで取り入れる、ニトロのテクノの新曲が相当、楽しみになってきましたね。
MACKA-CHIN あれは早く聴かせたいよね~。
POGGY 6月20日のライヴではやらないんでしょうか?
MACKA-CHIN リリックが覚えられたら……(笑)。でも今回は新曲は「LIVE19」くらいにして、あとは全部懐メロみたいな(笑)。でも、単に曲をかけるくらいは良いかなと思うよ。
XBS かけ逃げ(笑)。
DABO ライヴが終わって、客がハケるタイミングで薄くかかってるみたいな。
POGGY 楽しみにしています(笑)!