POGGY’S FILTER|vol.7 DABOさん、MACKA-CHINさん、XBSさん(前編)
FASHION / MEN
2019年6月19日

POGGY’S FILTER|vol.7 DABOさん、MACKA-CHINさん、XBSさん(前編)

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これまで国内外のファッション関係者を中心にゲストに迎えてお届けしてきた、小木“POGGY”基史氏がホストを務める『POGGY'S FILTER』。第7回目となる今回は趣向を変えて、日本のヒップホップシーンを代表するグループ、NITRO MICROPHONE UNDERGROUND(ニトロ・マイクロフォン・アンダーグラウンド、以下ニトロ)からDABO氏、MACKA-CHIN氏、XBS氏の3人が登場。7年間の活動休止期間を経て、今年、ついに再始動を果たし、この対談の数日前には新曲「LIVE19」を発表したばかりの彼らだが、実はストリートファッションシーンとも繋がりが深い。ヒップホップとファッションを軸に様々なテーマについて語ってもらったこの対談の、まず前編ではPOGGY氏とニトロの意外な繋がりから話がスタートした。

Interview by KOGI “Poggy” Motofumi|Photographs & Text by OMAE Kiwamu

オオスミ君がしていたことが、世界的にも流行りだした

POGGY DABOさんとは以前、自分がディレクターを務めさせてもらっていたLiquor,woman&tears(リカー、ウーマン&ティアーズ)に来ていただいたり、一度お誘いいただいて二人で飲みに行ったりもしましたよね。

DABO ありましたね。

POGGY DABOさんみたいに、リアルに日本のヒップホップシーンで活躍している方にお店へ来ていただいたっていうのが、自分たちにとっても、とてもありがたくて。改めて、あの当時、何でリカーに興味を持っていただいたのか教えていただけますか?

DABO 「スニーカーの感覚で革靴を」っていう、明確なコンセプトがあったお店だったじゃないですか?

POGGY’S FILTER

POGGY そうですね。「革靴を磨くことと、スニーカーを磨くことは同じ」っていうのがコアコンセプトでした。

DABO それが面白いなって。あと、今でこそ普通だけど、ストリートとハイブランドを混ぜたりっていうのをやっていたから。あの頃、そういうことをしていたのが小木ちゃんとかオオスミ(タケシ・元SWAGGER/PHENOMENON、現MISTERGENTLEMANデザイナー)君、あとVERBALとか、そのくらいしかいなくて。そういうのが全部、感覚として面白いなと思って飛びつきました。

POGGY 今でも覚えているんですけど、リカーでDABOさんにTANINO CRISCI(タニノ・クリスチー)の革靴を買っていただいて。確かご自身の曲でも「タニノ・クリスチー」って言ってましたよね?

DABO 言ってる(笑)。ヒップホップ側の人はほとんど誰も分からないブランドなんで、「何言ってるんだ?」って、みんな思うじゃないですか。

MACKA-CHIN 俺も知らない(笑)。

POGGY すごくクラシックなイタリアの革靴ブランドでして。

DABO 当時、確か、祐真(朋樹)さんに「それってどこの靴?」って聞かれて、「タニノ・クリスチーです」って答えたら、「ラッパーってそんなに儲かるの?!」って言われて。

POGGY (笑)たしかに結構高かったですよね。そういうDABOさんはニトロのほかの方たちからはどう見えてましたか?

MACKA-CHIN 正直、引いちゃってましたね。

全員 (笑)

MACKA-CHIN 俺は高校の時にはアメカジにハマっていて。卒業してからも、STUSSY(ステューシー)の店長やったりとか、そういうのは経てるんで、ファッションが面白いのもすごくわかるんですよ。ただ、自分はある意味、ヒップホップっていう呪縛みたいなものに取り憑かれていたんで、アメリカのブランドにしか興味がなかった。でも、DABOはヨーロッパブランドのローファーとかツンツルテンのズボンとか、そっちのほうにドンドンと行っちゃって。石田純一みたいな(笑)。けど、これはディスじゃないよ。

DABO はいはい(笑)。でもそう見えてたんだね。2004年とか2005年くらいに、サイジングが一気に小さくなったタイミングがあるじゃないですか? それまでXXLとかXXXLのTシャツを着てたのが、その当時はMとか着て、乳首浮いちゃうみたいな。

POGGY (笑)

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DABO それに関しては、ニトロのお洒落番長のGORE-TEXとかも、「DABOがそこいくとは!」って意外がっていましたね。今はまたXXLとかに戻ってますけど。

POGGY パリのエレクトロミュージックがヒップホップにも取り入れられていった時期に、ヒップホップファッションにもヨーロッパのハイブランドが取り入れられるようになっていって。それでパンツがスキニーになっていくような流れがありましたね。

DABO そうですね。

POGGY オオスミさんも、あの時、結構いきなりスキニーになって。海外の人に「そんなのヒップホップじゃない!」って言われたそうです。でも、そう言ってた人がその半年後にスキニー履いてたみたいな(笑)。

DABO オオスミ君がしていたことが、どんどんと世界的にも流行りだすっていう。あの当時は、そういうのをまざまざと見せつけられたね。オオスミ君が着ていた2年遅れぐらいで、サテンのジャケットが流行りだしたり。「わー、スゲェ!」って思いました。

MACKA-CHIN 東京人っていうか、日本人のファッションがパリコレとかNYコレクションの先を行っていたってことですか?

POGGY 今もそうですけど、ストリートファッションシーンで日本人のファッションが世界的に受け入れられていってる感じはありましたね。それから、今はパリのメンズファッションウィークもアメリカ化していて。最前列にヒップホップのアーティストが座っていたり。

MACKA-CHIN それこそ、Alexander Wang(アレキサンダー・ワン)がニューヨークでよくヒップホップのイベントをやっているっていうので、俺もアレキサンダー・ワンの青山店のイベントでDJをやったことがあって。「ヒップホップセットでやってくれ」ってリクエストで、Cypress Hill(サイプレス・ヒル)をかけているところに、キラキラしてる女の子のお客さんがスマフォで自撮りとかしていて何だか申し訳ないなって(笑)。

全員 (笑)

MACKA-CHIN アレキサンダー・ワンっていうブランド自体もそんなに知らなくて。その時のコレクションのテーマが90年代のヒップホップにインスピレーションを受けて作ったものっていう話だった。そういうハイブランドとかも、今やヒップホップに影響を受けている世代の子たちがやってるんだっていうのは、そのパーティで体感しましたね。

POGGY’S FILTER

POGGY ここで改めて、ファッションに関して、みなさん、どういうところから影響を受けたのかを教えてください。

MACKA-CHIN ヒップホップのミュージックビデオを観て、アメリカのアーティストのファッションをチェックしてましたね。Busta Rhymes(バスタ・ライムス)がMARITHÉ + FRANÇOIS GIRBAUD(マリテ+フランソワ・ジルボー)のジーンズを履いてるのを見て、当時、代官山にあったショップへ行ったら、あまりにも高くてズッコケた(笑)。

XBS ビデオから受けたニューヨーク感という意味では、TIMBERLAND(ティンバーランド)のイエローヌバックのイメージは一番大きいかもしれないですね。

DABO でも90年代は正規で売ってるティンバーがめちゃくちゃ高かったんで、全然買えないんですよ。

XBS だから、あの当時は並行屋(並行輸入ショップ)で買ったりして。アウトレットで大量に買ってきたのがあるから、それを安く買うっていう。

MACKA-CHIN 当時は原宿のPROPELLER(プロペラ)にNEW ERA(ニューエラ)がいっぱいあった。

DABO プロペラもそうだけど、ヒップホップファッションのアイテムを買うのにアメカジ屋には助けられたよね。

MACKA-CHIN 俺もそうだけど、やっぱり世代がアメカジだからね。

Page02. ナイキ「Air Force 1」はヒップホップカルチャーの象徴

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POGGY 2000年代にはニトロでNITRAID(ナイトレイド)っていうブランドをやられてましたけど、どういう経緯でやることになったのでしょうか?

XBS 僕らのグループとしてのデビューがManhattan Records(マンハッタン・レコード)っていうところからで。その当時のマンハッタンの社長が、何でもやらせてくれるような人だったんですよ。そんな中で「洋服も出来るんじゃない?」っていう話が出てきて、「じゃあ、やってみたら?!」みたいな感じで、結構簡単に始まった感じですね。それでニトロからは僕とGORE-TEX、S-WORD、それからデザイナーのEIGHT GRAPHICSがメンバーとして入って。その4人で最初はNITROW(ナイトロウ)っていう名前でスタートして。当時、僕らはHECTIC(ヘックティック)とか、原宿のファッションの先輩方にもろに影響を受けていたので。そういった先輩に相談しつつ、当時のドメスティックブランドのやり方を踏襲しながらブランドを始めました。

MACKA-CHIN 自分たちにはもちろん背景に音楽がもちろんあったわけだけども、当時はドメスティックブランドっていうのが流行りだったんじゃないかな?

DABO ヒップホップだとSWAGGER(スワッガー)も同じ頃に出来て。バンドの人たちもdevirock(デヴィロック)とかMACKDADDY(マックダディ)、BOUNTY HUNTER(バウンティ・ハンター)とかがボコボコって立ち上がっていて。その流れの中で、ナイトレイドも立ち上がっていたんだと思うし。

POGGY つまり、音楽系の人たちがブランドをやる流れがあったわけでしょうか?

XBS そうですね。でも、バンドのほうが早かった。ヒップホップはその後かな? ナイトレイドはいつもスワッガーと比較されていましたね。立ち上がりはスワッガーのほうが少し先だったので、卸先の開拓もスワッガーを置いてないお店を回ったりして。ナイトレイドのブランドのイメージがちょっと土臭くて、ストリートっぽい方向に行ったのは、そういうことがあったからかもしれません。もちろん、自分たちの好みがベースにあったとは思うんですけど。

POGGY ナイトレイドのやり方を見ていて思ったのですが、自分たちの音楽を作るのと同じようなやり方で洋服を作っていたんじゃないかな?って。

XBS そうかもしれないです。サンプリングっていう手法もそうだし。Tシャツのデザインとかも含めて、ヒップホップだからやり易いところっていうのが多分、いっぱいあったと思います。

POGGY ブランドとは別に、Nike(ナイキ)と一緒にニトロ・モデルの「Air Force 1」とか「Delta Force」も作っていましたよね?

XBS ニトロでデビューするにあたって、どうしてもナイキで靴を作りたいって思っていて。昔、上野の中田商店で働いていたので、上野の繋がりで、山男とミタスニーカーズに「ナイキの人を紹介してほしい」って相談して。それでどうにかナイキまで辿り着いて。「僕らデビューするので、靴を作ってください!」っていう話をして。

POGGY’S FILTER

POGGY 当時、アーティストの方がああいうことをやるのって、相当すごいことだったんじゃないですか?

XBS そうですね。リフレクターを使った「Air Force 1」をどうしても作りたくて。けど、当時、今では普通に洋服でも使われているような柔軟性のあるリフレクター素材が全然無くて。だから、最初はただの銀の素材を使って、ローカットの「Air Force 1」を作りました。しかも売ることが出来なかったんで、ダース(12足)分くらいプロモとして作って、それをメンバーに配って。そこからナイキとのリレーションが始まりました。

POGGY プロモだけとはいえ、すごい話ですね。

XBS その後、2004年にセカンドアルバムを出す時に、ニトロモデルの「Delta Force」を作ってもらって。CDジャケットにスニーカーの写真を使って、さらにパッケージにもナイキの靴箱のデザインを使って。ナイキの商品以外にオフィシャルでスウォッシュ(注:ナイキのロゴマーク)が入ったっていうのは、多分、ナイキ史上前代未聞の出来事で。もし、あれが本国にバレたら、クビを切られるっていうぐらいの話でしたね。2009年にニトロの10周年のベスト盤を出した時には、やっぱりどうしても「Air Force 1」でということだったので、「Air Force 1」のハイカットを結構しっかり作り込んで。

POGGY 「Air Force 1」っていうモデルにこだわった理由は何でしょうか?

MACKA-CHIN アメリカのアーティストのレコードジャケットを見ても、皆んな履いてるのは「Air Force 1」だったんですよね。もちろん「Jordan」とか、カッコいいランニングシューズとかもいっぱいあるのに、もし履き方を間違えると超ダサくなってしまう真っ白な「Air Force 1」を、敢えてBボーイはバシッと決めるみたいな。そういうヒップホップのカルチャーとして「Air Force 1」っていうのはあるんじゃないかな?

POGGY ちなみに皆さん、どういったスニーカーが好きですか?

MACKA-CHIN 俺はテニスが好きなんで、テニスシューズですね。あとランニングも。背が小さいんで、ハイカットとかも似合わないし、バッシュにも抵抗があって。もちろん、イベントとかでナイキが入っている時は、「Air Force 1」でバシッとキメるんですけど。

POGGY つま先がシュッとしてるほうが好きなんですかね?

MACKA-CHIN そうかもしれないです。スニーカーって自分が楽しめるのは上からのアングルじゃないですか。だから、シュッとしたのが好きですね。

POGGY 僕も同じです。バッシュ好きなんですけど、なかなか上手く履きこなせないんですよね。だから、バッシュをカッコよく履いている人が羨ましいです。

DABO ニトロにはBIGZAMっていうデカイのがいるんですけど、あいつがバッシュを履くとすごくカッコいい。足もデカいし、膝から下のタッパもあるから、外人の似合い方になるんですよね。

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XBS ニューヨークで黒人が短パンにバッシュ履いてたりとかね。

POGGY ああいうのは本当にカッコいいですよね。

XBS あの後ろ姿に結構ずっとやられてるかもしれないです。だから、僕は結構バッシュが好きですね。やっぱりマイケル・ジョーダンが好き過ぎたんで、ずっと追っちゃってるのかもしれないです。

POGGY 「Jordan」の中で好きなモデルって何ですか?

XBS 僕は1、3、4、5です。

DABO スッと出るね~(笑)。

MACKA-CHIN 高校の時に俺らが履いてたのが5だから、世代的には5がドンピシャ。1とか3、4は後追いで、昔のファンクとかソウルとかのレコードを探すような感じと一緒かもしれない。

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XBS 「Jordan」はデザイン的にも全然違かったもんね。「これってナイキなんですか?」みたいな。

DABO ナイキなのにスウォッシュ入ってないとか。そこが、すごく革命的だったよね。

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