トヨタ、新スポーツブランド「GR」を発表|Toyota
CAR / NEWS
2017年9月21日

トヨタ、新スポーツブランド「GR」を発表|Toyota

トヨタ GR|Toyota GR

トヨタ、新スポーツブランド「GR」を発表

トヨタはスポーツカーシリーズの新ブランド「GR」を発表した。これまでのG'sなどのシリーズを一本化し、車両ラインナップやパーツ等の新アイテムを充実させていくという。第一弾として、「ヴィッツ」に「GR」と「GR SPORT」を、「プリウス PHEV」「ハリアー」「マークX」「ヴォクシー」「ノア」に「GR SPORT」を設定。今後はヴィッツに「GRMN」(2018年春頃)、「86」に「GR」、「アクア」と「プリウスα」に「GR SPORT」(今冬)を追加する予定だ。

Text & Photographs by UCHIDA Shunichi

GAZOOの起源は豊田社長の取り組みから

トヨタが導入する新たなるスポーツカーブランド「GR」とは「GAZOO Racing」から名づけられており、トヨタが推し進めているのカンパニー組織のひとつ、GAZOO RACING COMPANYが企画開発を行う。

このGAZOOという名称、近年さまざまなところで目につくことが多いが、その由来をご存じだろうか。その起源は20年前、現在の社長の豊田章夫氏が、当時課長だった時代に有志のメンバーで開発した中古車画像システムにある。

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当時営業地区担当員だった豊田氏は、販売店のバックヤード業務にTPS、トヨタ生産方式を導入しリーンで強靭な体制を築くとともに、顧客満足度を向上させようと販売店の物流関係に着手した。その中で生まれたのが中古車画像システムだった。その内容は、販売店に入った下取り車を、展示を待たずにすぐに画像で紹介するシステムで、再販までのリードタイムを短縮するという取り組みであった。

しかし、インターネットも普及していない時代でもあり、画像でクルマの商売ができるわけがない、さらにはモノを売る販売店にメーカーの改善は通用しないのではないかという猛反発に合い、このシステムはトヨタブランドを名乗ることができずに、“画像”から“Gazoo(ガズー) と名乗ったのだ。

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GAZOOからGAZOO RACINGへ

11年前、そのチャレンジ精神がクルマづくりへと波及したのがGAZOO RACINGだ。当時、トヨタのモータースポーツはF1などに代表される「トヨタ レーシング」だった。モータースポーツという場を、人材を鍛え、クルマを鍛える、良いクルマづくりの基盤として捉えるべきだと考えた豊田氏は、それを自ら具現しようと有志の社員たちとニュルブルクリンク24時間レースに挑戦した。それはゲリラ的な活動だったので、トヨタ レーシングと名乗ることは許されず、豊田はここでもチーム名にGAZOO、自らもモリゾーと名乗っての参戦だった。

GAZOO RACINGは十分な予算もなく2台の中古の「アルテッツァ」を改造し、しかもドライバーの半数は豊田氏をはじめとした社員で、メカニックにいたっては全員が社員として参戦し2台とも完走を果たした。この結果は、「豊田とその同志たちの情熱と意地が起こしたまさに奇跡でした」と振り返るのはトヨタGAZOO Racing Company Presidentの友山茂樹氏だ。そして、「GAZOOの根底にあるのはトヨタが作ったトヨタの壁をぶち破るという変革に向けたチャレンジ精神にほかならないのです」という。

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86 GR

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86 GR

2007年以降もGAZOO RACINGはニュルブルクリンク24時間レースに毎年参戦するとともに、GAZOO RACINGならではの草の根のモータースポーツやイベント活動を展開。そして、ついに一昨年、トヨタ、レクサス、GAZOOと分断していたトヨタのモータースポーツ活動はGAZOO RACINGの元に統合されたのである。

GAZOOの理念に基づくレース活動とクルマファン作りに努めてきた結果、GAZOO RACINGは、国内はもとより、欧州などの海外においても注目される活動となり、WRCの参戦によってより確固たるものとなっていった。

そして、「あのニュル24時間の奇跡から10年目に当たる2017年4月に、GAZOO RACINGはGAZOO RACING CAMPANYとして、新たにスタートすることになりました」と友山氏は述べた。

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積極的にモータースポーツに参戦

このカンパニーに与えられたミッションは、大きく3つあるという。ひとつはレース活動で得た知見を生かし、世界に通用するスポーツカーを商品として世に出し、新たな顧客層を開拓すると同時に、収益に貢献すること。次に、開発から生産、販売まで一貫して担当しうる最小のカンパニーを具現し、新しい仕事のやり方に挑戦し、トヨタに変革をも促すこと。最後にそれらの事業活動を通じて、景気に左右されない永続的なモータースポーツ活動を可能にすることである。

このミッションを踏まえ、GAZOO RACING CAMPANYのマーケティングは、TOYOTA GAZOO RACINGの旗印のもと、モータースポーツ活動、商品開発、ファンづくり活動、販売拠点という四位一体の取り組みで展開される。

まずモータースポーツ活動だが、頂点にトヨタがワークスとして参戦する世界選手権、WRCと、WECの2大レースを掲げ、それにつながる国内トップカテゴリーのレースに参戦することで、クルマや技術、それを生み出す人材を鍛える。また、86・BRZレース、ヴィッツレース、TRDラリーチャレンジといったプライベーターが参加できるモータースポーツの発展にもこれまで同様に力を入れる。

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VITZ GR SPORT

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VITZ GR SPORT

ファクトリーチューニング

次に商品開発では、前述のモータースポーツ活動を通じてクルマと技術を醸成させ、クルマファンに愛されるスポーツモデルを拡充していく。その具体的な形として、GAZOO RACING CAMPANY設立を機に、これまでのスポーツモデルを集約し、GAZOO RACINGならではの新たなスポーツブランドを立ち上げた。それがGRブランドなのである。

GRブランドは4つのカテゴリーに分けられる。一つは頂点に位置する、モータースポーツの直系ともいえるフルチューンコンプリートの限定生産モデル、「GRMN」だ。そこからはまず、スーパーチャージャー付きエンジンを搭載したオーバー200馬力の「GRMNヴィッツ」が登場する。

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VITZ GR SPORT

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VITZ GR SPORT

次に足回りだけではなく、駆動系まで手を加えたモデル「GR」だが、今年は「GRヴィッツ」、および「GR86」の2車種を投入。そしてGRの乗り味をより市販車に近い形で楽しめるモデルが「GRスポーツ」だ。今年は8車種を投入する。

最後は「GRパーツ」としてカスタマイズを楽しめるアフターパーツが設定される。

GRシリーズのエクステリアは大きく開いたフロントグリル、“ファンクショナル マトリックス グリル”が採用される。「レースにおいて重要な吸気冷却性能を最大限高めるデザイン。いわばレースにおける機能性を重視したデザインをモチーフとしています」と友山氏。また、「GAZOO RACINGのマスタードライバーが味付けした実に気持ちの良い乗り味は、まるで運転が突然上手くなったような、意のままに走る喜びを提供します。その乗り味を支える車体には、あらゆる箇所に高剛性チューニングが施こされることで、剛性の高いクルマとなり、無駄な揺れが少なく軽快なハンドリングと疲れないロングドライブを可能としています」と述べる。

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PRIUS PHV GR SPORT

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HARRIER GR SPORT

また、GRシリーズは完成車に後から手を加えるのではなく、生産工程の中にGR専用のチューニング工程を組み込み、生産ラインで車体内部から剛性を強化する、いわゆるファクトリーチューニングを施し、高品質で低価格のスポーツカーを提供していくという。

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町一番の楽しいクルマ屋

GRのキャッチフレーズは IGNITE(イグナイト)とされた。「イグナイトは着火するという意味ですが、クルマ好きの方、さらにはクルマには興味がないと装う方々の心の奥に秘められたスポーツカー魂に火をつける。そういう思いをこめた言葉です」と友山氏。

86やG'zのスポーツモデルを購入しているユーザーの3割から4割が30代以下の若年層だという。この結果について友山氏は、「我々にとって一筋の光になったと同時に、我々のほうからもっと若い世代に近づいていかなければならないという思いを新たにしました」とコメントし、「GR シリーズでは若年層との face to faceでの接点作りの強化を、マーケティング戦略の柱として掲げていきます。例えばGRオーナー向けの走行会を開催するなど、購入してからさらにGRファンになってもらうさまざまな取り組みも行っていきます」と述べる。

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HARRIER GR SPORT

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MARK X GR SPORT

この face to face での接点作りは、全国の販売店においても展開されるGRブランド立ち上げを機に、GRブランドを象徴する新店舗、「GRガレージ」を全国に展開する。GRガレージとは、「“街いちばんの楽しい車屋さん”を合言葉に、GRコンサルタントという専門性の高いスタッフが常駐し、お客様の相談にのったり、一緒にクルマを楽しんだりというお店です。今後はGRガレージがGR商品の情報発信拠点であると同時に、街のクルマ好きが憩う場となることを期待しています」と友山氏は語る。

このGRガレージは2018年3月にかけて全国で39の店舗が順次立ち上がる予定で、それ以降についても、「GRガレージの輪は徐々に広がっていくので期待してください」とコメントした。また、限定販売車であるGRMNヴィッツはGRガレージのみでの取り扱い。それ以外のGRシリーズは従来の取り扱いチャネルで販売される。

なお、GRガレージ展開に伴い、「AREA86」は2018年3月までに全店閉店される。

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世界に通用するスポーツカーを

GAZOO RACING CAMPANYのビジョンについて、友山氏によると「我々は、トヨタの他の車両カンパニーと比べれば足元にも及ばない小さなカンパニーです。重要なことは、我々は単なるマニュファクチャラーではなく、レーシングカンパニーであるということです。つまりWECやWRC、ニュル24時間など世界有数のレースにワークスチームとして参画し、エンジニアやメカニックを送り込む、まさにレースの実戦部隊が市販車の企画、開発、生産機能を持っているということなのです。レースという極限の中で、人を鍛え、鍛えられた人がクルマを鍛えます。そこから生まれる味を、コスト、品質などを、いろいろな制約の中で、商品に、市販車にどれだけ落とし込むことができるか挑戦することが、GAZOOのクルマ作りなのです。そしてそれは、机上の会議で仕立てられたものではなく、あくまで汗と油によって作り込まれた味が、GRブランドが目指すものなのです」という。

そのクルマ作りは、「まずは標準車のコンプリートカーから始まり、次の段階では、スポーツ車専用のプラットフォームを手に入れます。そして最終的には世界に通用するピュアスポーツカーを世に出し、ラインナップを完成させていきたい」と展望を語った。

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永続的なモータースポーツ活動

そしてGAZOO RACING CAMPANYが担う大きく重要なことは、永続的なモータースポーツ活動を可能とすることだ。友山氏は、「自動車メーカーのモータースポーツ活動は、予算があればやる、なければやめるというご都合主義であってはいけない。モータースポーツは良いクルマ作りの基盤であると同時に、そこに存在するファンやサポーターの皆様、また命をかけてレースに望んでいるドライバーの期待に応えるものでなければなりません。そのためにも、景気に左右されない永続的なモータースポーツ事業を実現しなければならないのです」と宣言。

GAZOO RACING CAMPANYが目指す姿は、「レース活動を通して、トヨタの応援者を増やすとともに、社員を鍛え、クルマを鍛える。そのノウハウで世界に通用するスポーツカーを世に出し、収益を上げる。その収益をレース活動に投下することによって、こういうサイクルを回していく。そして、永続的なモータースポーツ事業を可能とすることなのです」とした。

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最後にモリゾーこと豊田章夫社長は、「数ある工業製品の中で“愛”がつくものは自動車だけでしょう。どんな時代になっても“愛車”と言われるものにしたいし、すべての人にファン・トゥ・ドライブを与えたい。これがGAZOO RACING CAMPANYに実現してもらいたいミッションです」。

そして、「GAZOO RACINGは私のいわば悔しさから始まりました。そしてGAZOOと当社で名がつくものは 最前線で戦うもののみです。例えば当社の運動部もGAZOO SPORTSです。GAZOO RACINGにもGAZOOとつけています。GAZOOとつけるのは単なる一つのブランドではなく、もっと良いクルマを作りたい、もっと多くの笑顔をもらいたい、そしてもっと多くのファイターがぜひこのクルマに乗りたいと集まってもらいたい。プライベーターのチームが、ぜひこのクルマを使わせてぼしいと言ってもらいたい。そしてチューナーも登場してほしい。そういったものをぜひともこのGAZOO RACINGがきっかけとなって多くの風を、そして多くのうねりを起こしてくれることを期待しています。非常に小さい会社ですが、小さいからこそ大企業トヨタではできないことができるということを“社長”として応援していきたい」とその思いをぶつけていた。

           
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