フェラーリ、4人乗り4WDモデル「GTC4ルッソ」を発表|Ferrari
Ferrari GTC4Lusso |フェラーリ GTC4ルッソ
過去のビッグネームが復活
フェラーリ、4人乗り4WDモデル「GTC4ルッソ」を発表
フェラーリ初の4WDモデル、「フェラーリ フォー(FF)」がマイナーチェンジを実施すると同時に、新たに「GTC4Lusso(ルッソ)」のネーミングでジュネーブモーターショーに登場した。「FF」のデビューからちょうど5年、大きく進化したエクステリデザインと、ルッソというネーミングに隠された意味を読み解く。
Text by SAKURAI Kenichi
フェラーリ フォー(FF)をマイナーチェンジ
従来の「FF(フェラーリ フォー)」というネーミングから一転、新たに「GTC4Lusso(ルッソ)」へと機能やデザイン、そして車名も進化したフェラーリ初の4WD本格グランツーリズモ。現在開催中のジュネーブモーターショーでのワールドプレミアに先駆けること半月前、2月16日にイタリアはコモ湖ヴィラ・エルバで世界中から集まったフェラーリのVIP顧客にお披露目された。
プロダクション的な話をすれば、先にも紹介したように「GTC4ルッソ」は、あくまでも「FF」のマイナーチェンジ版である。しかしモデルライフのちょうど半分のマイナーチェンジ時に大幅な機能向上と車名変更を伝統として掲げるフェラーリはこのモデルに歴史的なビッグネームを与えた。
マイナーチェンジやフルモデルチェンジと同時に車名変更を行う例でいえば、「カリフォルニア」が「カリフォルニアT」に変わったような小規模なものから、ミッドシップV8の「360モデナ」が「F430」に、さらには「458イタリア」が「488GTB」に、「599 GTB フィオラノ(日本名は登録商標の関係で“599”の数字のみ)」が「F12ベルリネッタ」になったように、まるで新型モデルに生まれ変わったかのような大幅変更の例も少なくはない。
今回採用されたGTC4ルッソの車名トップに位置する“GTC”は、フェラーリが1960〜70年代に送り出した一連のラグジュアリーGTに名付けられた「GTC」という名称の復活でもある。フェラーリファンであれば、特にその中でも1971年からわずか1年のみ生産されたV12モデル「365GTC4」を思い起こさずにはいられないだろう。365GTC4の「GT」は、その名のとおりグランツーリズモの頭文字で、それに続く「C」はクーペを、「4」は4シーターを意味するというのが、かつての「365GTC4」における車名の解釈だ。近年は主にコンペティツィオーネ(Competizione)の意味に使われてきた「C」の車名ではあるが、今回は過去市販車に採用されたネーミングルールの基本に戻り、1960年代に登場した一連のGTCの名を受け継ぐものとされた。
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過去のビッグネームが復活
フェラーリ、4人乗り4WDモデル「GTC4ルッソ」を発表 (2)
伝統的なネーミング復活に隠された戦略
すでに述べたように365GTC4において「4」は4シーターの意味であり、フェラーリも「この数字は快適な4名乗車を可能とする4シーターモデルであることを示す」と公式に発表しているが、「GTC4ルッソ」ではそれと同時に、フェラーリ初の4WD機構搭載(先代のFF「フェラーリ フォー」で初採用。フロントドライブを意味するFFではない)と、詳しくは後述するが、さらに今回フェラーリで初めて搭載されたもうひとつの4にまつわる技術に当てはめられていると考えるのは、少々言い過ぎだろうか。
さらに、車名の最後に採用された「Lusso(ルッソ)」は、イタリア語で“ぜいたく”を意味する言葉。こちらも1960年代の「250GTルッソ」に使用例がある。つまり、「GTC4ルッソ」という車名は、豪華な4WDを採用したクーペモデルというキャラクターを伝統に則り、端的に示す名前であるといえる。
そうしたクラシカルな車名の復活は、最近のフェラーリのニューモデルに顕著である。前述のカリフォルニアTや488GTBしかり、昨年11月のフェラーリの世界規模イベント「フィナーリ モンディアーリ」で限定モデルとして登場した「F12 tdf」などもその最たる例だ。これはあくまでも私見であるが、フェラーリは車種拡大に伴って起きた車名の複雑さや、ルールがあって無かったような状況をいったん整理し、伝統的なネーミングを採用することによってラインナップやキャラクターの再構築を行っているのかも知れない。
ちなみに世のフェラリスタには釈迦に説法だろうが、カリフォルニアTの「T」は、1989年に登場した「モンディアルT」に(モンディアルの場合のTはエンジン横置きを意味するトランスバースの頭文字となるT)、488GTBの「GTB」は1964年に登場した「275GTB」に(グランツーリズモ ベルリネッタ=ふたり乗りの高性能クーペの意)、F12 tdfの「tdf」は1956年からツール ド フランスと呼ばれる公道レースで4連続優勝を成し遂げた「250GTベルリネッタ」のレーシングバージョン、「250GTベルリネッタ コンペティツィオーネ」の別名「ツール ド フランス(当時はTdFと表記)」にルーツを求めることができる。
先に登場した488GTBやF12 tdfも同様であるように、今後もフェラーリは車名に関して過去の名称復活を積極的に行う戦略をとっていくとみられる。たかが車名ではあるが、ニューモデルのネーミングだけでこれほどのエピソードが語られ解釈がなされるのも、さすがフェラーリだと感心せざるを得ない。
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新たに採用された3つめの「4」
いささか車名解説にウェイトを置いてしまったが、エクステリアでは「エアロダイナミクスの向上にもっとも重点を置いた」というのがフェラーリ側の主張。フロントバンパーやグリル、ヘッドライトを一新することで「ルッソ」のメーミングにふさわしいスポーティで豪華な雰囲気を構築しているほか、FFの抗力係数を6パーセント向上、気流を効果的に利用し冷却効率も大幅に向上させたという。
リアでは、片側1灯式の丸形テールライトを2灯式に変更、ルーフスポイラー、ディフューザーを新デザインとした。フロントフェンダーのドア前に設けられたエアアウトレットは、3枚のルーバーを備えたデザイン。もう1台の「GTC」の名を持つ「330GTC」のエアベントをモチーフにしたと気づいた方は、かなりのフェラーリ通として胸を張っていい。
メカニズムの進化に目をやれば、94×75.2mmのボア×ストロークから6,262ccの総排気量を持つ直噴V型12気筒DOHC48バルブ自然吸気エンジンは、「FF」の持っていた最大出力660ps/8,000rpmから690ps/8,000rpmへと30psの出力向上がなされた。
最大トルクも683Nm(69.7kgm)から4kW(1.5kgm)アップとなる697kW(71.1kgm)へと高められている。高回転型の自然吸気エンジンながら、最大トルクの80パーセント相当をわずか1,750rpmから発生することができるため、ストップアンドゴーの多い街乗りでもストレスなく走れるはずだ。
FFでフェラーリ初搭載となった4WDシステム「4RM」は、新たに「4RM Evo」に進化。第4世代のスリップサイドコントロールシステムをベースに開発されたこの「4RM Evo」は、従来型に比べシステム重量を50パーセントに抑え、濡れた路面や低μ路、あるいは雪道などでも強大なトルクのコントロールが可能になったという。
さらに今回は、フェラーリで初めてとなる後輪操舵機能も採用。「4RM Evo」は、後輪操舵機能も統合し、「4RM-S」と呼ばれることになる。そう、GTC4ルッソは、フェラーリ史上初の4輪駆動4輪操舵モデルとしてデビューしたのである。この4輪操舵デバイスの採用も、GTC4ルッソの「4」を意味するもうひとつのキーワード――といっては大げさだろうか。
後輪操舵システムには、コーナーの立ち上がりなどの際に、ドライバーのステアリング修正を極力抑えて機敏なコーナリングを可能にするダイナミック レスポンス コントロールモデルが組み込まれている。 フェラーリとしてスラスト ベクタリング コントロール(推力偏向制御)の概念を初めて導入し、積極的に後輪の向きを変えることで、タイヤが発生する縦方向の過剰なグリップを横方向のグリップへと活用するのだという。これによって限界域での動きがマイルドになるだけでなく、コーナリングスピードがより向上するはずである。
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助手席ダッシュボードにもディスプレイ
こうした格段の進化を果たしたパワーユニットと4WDシステムのおかげで、GTC4ルッソはGTカーを標榜しながら、ミッドシップスーパーカーのライバルたちに迫るパフォーマンスを披露する。最高速は従来どおり335km/hとされるが、一方で0-100km/h加速は3.4秒と、FFの3.7秒から0.3秒の短縮を図るなど、単なるスーパーラグジュアリーGTに留まらないスーパーカーとしての資質をいっそう高めたといえそうだ。
さらにインテリアは、フェラーリが「デュアルコクピット」と呼ぶダッシュボードを中心に、ブリッジデザインのセンターコンソールにまで大胆に手が加わった。ステアリングやヘッドレスト一体型となったシートもデザイン変更を受けた。こちらも「ルッソ」に名にふさわしいスポーティでゴージャスなデザインと、フェラーリの名に恥じない質感を持っている。
最新インフォテインメントシステムを採用し、それをコントロールする10.25インチに大型化されたタッチ式の液晶モニターがダッシュボードではひときわ目を引くが、助手席前にもエンジン回転数やギア、スピードを表示するパッセンジャー ディスプレイを配置。このパッセンジャー ディスプレイでは、新機能のPOI(ポイント オブ インタレスト)を用いて、ナビシートからルート検索を追加で行えるほか、レストランや目的地情報などをピックアップ可能。豪華さの中にも、モダンで先進的なイメージを表現してみせた。
さらにGTC4ルッソでは、他のフェラーリモデル同様、長期の「7年間メンテナンスプログラム」を用意。これは納車から7年間にわたり、定期的なメンテナンス行うもので、認定中古車で購入したユーザーも対象になる。走行距離20,000kmごと、もしくは1年に1回(走行距離無制限)実施される定期メンテナンスでは、純正パーツおよびマラネッロの「フェラーリ トレーニングセンター」で研修を受けた有資格者による、最新の故障診断テスターを使った詳細な検査が受けられるとのことだ。
いささか逆説的だが、V12の4シーターモデルが新たにGTC4ルッソのネーミングを得たことにより、2シーターのV12トップモデルF12ベルリネッタは、よりスポーティなキャラクターが鮮明になったように思える。V8モデルもFRのカリフォルニアT、ミドシップの488GTBと488スパイダーと、それぞれのネーミングがキャラクターを見事に表現し、ラインナップにおけるポジショニングも明確になった。
伝統に回帰するネーミングの採用は、たかが名前とはバカにできないほど、フェラーリにとっては未来につながる重要なグローバルストラテジーなのである、多分。そしてそうした資産や伝統がうなるほどあるフェラーリは、やはり群雄割拠のスーパーカー市場においても、抜群の知名度と強さを発揮するのである。
Ferrari GTC4Lusso|フェラーリ GTC4ルッソ
ボディサイズ|全長 4,922 × 全幅 1,980 x 全高 1,383 mm
車両重量|1,790 kg
エンジン|6,262 cc 65度V型12気筒
ボア×ストローク|94 × 75.2 mm
圧縮比|13.5
最高出力| 507 kW(690 ps)/ 8,000 rpm
最大トルク|697 Nm/ 5,750 rpm
トランスミッション|7段デュアルクラッチ(F1 DCT)
駆動方式|4WD
ブレーキ 前|φ398×38mm ベンチレーテッドディスク
ブレーキ 後|φ360×32mm ベンチレーテッドディスク
タイヤ 前/後|245/35R20 / 295/35R20
0-100km/h加速|3.4 秒
0-200km/h加速|10.5 秒
100-0km/h減速|34 メートル
200-0km/h減速|138 メートル
最高速度|335 km/h
重量配分|フロント47:リア53
燃費|15ℓ/100km(およそ6.67 km/ℓ)
CO2排出量|150 g/km