フィアット パンダに試乗|Fiat
Fiat Panda Easy|フィアット パンダ イージー
フィアット パンダを日本で試す
コンパクトカーのアイコン、フィアット「パンダ」。その名を受け継ぐ3代目が6月1日に日本発売となった。3代目フィアット「パンダ」は、フィアット「500(チンクエチェント)」と、基本をおなじくしながらも、「500」とはまたちがう明るいデザインと、4ドア5人乗りという高い実用性が自慢だ。OPENERSは塩見智氏とともに、このニューパンダを試した。
Text by SHIOMI SatoshiPhotographs by ABE Masaya
パンダは偉大な祖先を持つ
たいていのクルマはインターネットで車名を検索すると、その車種の説明が上のほうにくるが、フォルクスワーゲン「ゴルフ」はスポーツのゴルフにかなわず、フィアット「パンダ」もジャイアントパンダより下にいる。
ゴルフもパンダも乗用車のなかではかなり有名で、乗用車史においても重要なモデルなのだが、超メジャーな言葉を車名に用いたがゆえに、上位にこない。上位にこないからなんだという話で、これがここで僕が言いたいことではもちろんない。
パンダは初代が偉大過ぎる。
デザインを担当したのは、先日、7代目ゴルフの日本での発売に合わせて来日したジョルジェット・ジウジアーロ。彼がイタルデザインというカロッツェリアにいた頃の作品だ。
フィアットから出された条件は低コストで生産可能なことだった。そのため、初代パンダはガラスもボディも平面のものばかりが用いられた。それでもカッコよくデザインし、パッケージもよいのだから、ジウジアーロが世界最高の乗用車デザイナーのひとりに数えられるのだ。
初代パンダはイタリアをはじめとするヨーロッパで長らく愛され、1980年から1999年まで、19年間も生産された。イタリア以外ではスペインでよく見かけたものだが、これは当時フィアットグループだったセアトも生産していたからだろう。
2代目、そして3代目
数年後に2代目が登場したが、姿かたちはまるでことなり、直接の後継モデルという印象は薄かった。
当初は後継モデルにあたらしい車名を与えて登場させる予定だったようだが、その車名が他社のモデルに似ていて混同のおそれがあると訴えられそうになって、それならとパンダの名前が与えられ、2代目として数えられることになった。
このほど、日本で発売となったのは3代目。
3代目ははっきりと2代目の流れをくむスタイルで登場した。すなわち全長が短く、全幅は狭く、全高が高い2ボックスで、居住空間を天地で稼ぐタイプのコンパクトカーだ。ルーフレールを標準装備することからもわかるように、ハッチバックというよりも、非常にコンパクトなワゴンという位置づけを目指していることを感じさせる。
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フィアット パンダを日本で試す (2)
スクワークルとツインエア
エクステリア、インテリアを問わず、「スクワークル」(「スクエア」と「サークル」を合わせた「丸みを帯びた四角」という意味の造語)と名付けられたモチーフが用いられている。
日本仕様はワングレードのみで、すでに「500(チンクエチェント)」に採用されているツインエア エンジンを搭載する。
わずか875ccの直列2気筒エンジンは、しかし最高出力85ps/5,500rpm、最大トルク145Nm(14.8kgm)/1,900rpmと、2代目が積んでいた直4エンジンよりも力強い。2気筒というと単なる安エンジンを想像しがちだが、ツインエアは凝ったバルブ駆動を誇るハイテクを駆使したインタークーラー付きターボエンジンで、高い効率を誇る。燃費はJC08モードで18.4km/ℓ。
2気筒エンジン採用の理由は、エンジン自体が軽くできるうえに部品点数が少なく機械抵抗を減らせることから、効率をアップさせるため。
けれど、クランク位相が360度の2気筒が一緒に動くタイプのため、可能な対策は施しているものの、振動ははっきりと乗員に伝わる。特に低回転域ではブルブルとクルマ全体が振動しているのがわかる。
それを不快と断じてしまうなら、パンダの評価は低いだろう。
Fiat Panda Easy|フィアット パンダ イージー
フィアット パンダを日本で試す (3)
高級じゃなくてもいいじゃないか
しかし、振動が発生すること自体が不快というわけではないんだなと、ツインエアを積むパンダやチンクエチェントに乗ってはじめて気づく人も多いはずだ。
僕もそのひとりだ。ボロロンという音とブルルンという振動は加速時、つまりドライバーの「行くぞ!」という意志に連動しているので、おもいのほか、気にならない。むしろ愛すべき特徴で、実際の加速も悪くないからますます楽しくなってくる。
もちろん、エンジンをはじめとする機械は振動が少なければ少ないほどよいとされる一般論を否定するつもりはないし、高級とはいえない。万人が好むとはおもえない。
けれど、おなじく高級とはいえないものの、軽く、安く、効率の高いロボタイズドMTとの組みあわせを一度試して気にならなければ、もしくは気に入ったら儲けもの。飛ばさずともドライブを楽しめるはずだ。
サイズのわりにユーテリティ性能が高いという初代からの伝統は受け継がれていて、大人4人分(定員は5人)のスペースがしっかりと確保されているほか、リアシートを立てれば225リットル、倒せば870リットルの容量をもつ荷室も備える。
チンクエチェントよりも車高が高いのでロールは大きいが、自然な動きで不安はない。しっかりしたシートは長距離、長時間乗っても疲れず、乗り心地も十分満足できた。
パンダやチンクエチェントに乗っていると、高級なモノ以外はダメなのか? と問いかけられているような気になる。
日本の軽自動車も実によくできていると本心からおもうが、必要以上に高級に見せようとする努力がかえって物悲しくおもえることがある。
パンダには「208万円ならこんなもんだろ!」という正直さを感じるといったら、ちょっと贔屓が過ぎるだろうか。
Fiat Panda Easy|フィアット パンダ イージー
ボディサイズ|全長3,655×全幅1,645×全高1,550mm
ホイールベース|2,300 mm
トレッド 前/後|1,410 / 1,405 mm
トランク容量|225-870リットル
重量|1,070 kg
エンジン|875cc 直列2気筒 ターボ
最高出力| 63kW(85ps)/ 5,500 rpm[57kW(77ps)/5,500 rpm]
最大トルク|145Nm(14.8kgm)/ 5,500 rpm[100Nm(10.2kgm)/2,000 rpm]
トランスミッション|5段オートマチック(デュアロジック)
駆動方式|FF
タイヤ|185/55R15
燃費(JC08モード)|18.4 km/ℓ
CO2排出量|126 g/km
価格|208万円
*[]内はECOスイッチがONの場合