最後の6気筒ボクスターに試乗|Porsche
Porsche Boxster|ポルシェ ボクスター
最後の6気筒ボクスターに試乗
毎日乗っていたくなるスポーツカー
ポルシェ「911」と同様、環境性能向上のためにターボ化とダウンサイジング化が施される「ボクスター」。「718 ボクスター」の名で登場した新型のエンジンは2リッター4気筒ターボのため、現行モデルは、いわば最後の6気筒搭載モデルということになる。NAフラット6の真価を確かめるべく、モータージャーナリスト小川フミオ氏が、2.7リッター搭載のもっともベーシックな現行ボクスターに改めて試乗した。
Text by OGAWA FumioPhotographs by ARAKAWA Masayuki
スタンダードモデルはひとつの完成形
もっとも好感を持てるスポーツカーの1台。ポルシェの2人乗りオープンスポーツ、「ボクスター」は、つねに大きな魅力を持つ。軽快なハンドリングと、パワフルなエンジンと、美しいスタイリング。見事にバランスがとれている。最近では「ボクスター スパイダー」の導入など、豊富なラインナップを持つが、スタンダードモデルは、ひとつの完成形だ。
ボクスターとだけ名づけられたベーシックモデルは、2.7リッターの水平対向6気筒エンジンを搭載する。最高出力は195kW(265ps)、最大トルクは280Nm。上に位置する「ボクスターS」は、これに対して、3.2リッターエンジンで、232kW(315ps)、360Nmだ。数値で比較してしまうと、だいぶ差はある。
ボクスターは、では、しょせん単なるベーシックモデルなのか。というと、けっしてそんなことはない。十分(すぎるほど)楽しい。
ボクスターのデビューは1996年。ボディの大型化が進んでいた「911」に対して、シンプルなスタイリングと明快なパッケージングは斬新だった。魅力がより増したのはモデルチェンジを経てからだ。3代目になる現行ボクスターは、シャープな操縦性と、軽快なスタイルで、独自のキャラクターを確立している。まもなく4代目へのモデルチェンジを控えている。ポルシェの発表によると、現行の3代目が、6気筒搭載の最後のモデルになる。
6気筒エンジンを失うとしたら、じつ惜しい。操縦していると、つくづくそう思う。トップエンドまで軽快に回る上に、最大トルクが出る4,500から6,500rpmにかけてのバンドでの、アクセルペダルの動きに対する敏感な反応ぶりは、じつに素晴らしいからだ。重量1.35トンと軽量級であり、かつエンジンなどの重量物は車両の中央部分に集められている。ステアリングホイールの切り込みに対する車体の反応といい、軽やかなフットワークといい、新しい時代を確立した魅力は健在だ。
試乗したボクスターには、もうひとつ、秘密兵器があった。
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最後の6気筒ボクスターに試乗
毎日乗っていたくなるスポーツカー (2)
6段マニュアルはすごい秘密兵器
ボクスターには、2つのモデルが用意されている。7段PDK(ツインクラッチの2ペダルモデル)と、6段マニュアルと、2つの変速機によるバリエーションが設定さているのだ。
魅力を再発見したのは、マニュアル変速機のモデルに試乗したときである。トラベルが短く節度感のあるギアセレクターは、動かしているだけで楽しいほど。走り出すと、これが大きな喜びを与えてくれるのだ。2ペダル仕様は変速が素早いうえに楽ちんだが、スポーツカーとしてボクスターを味わいつくそうというなら、マニュアルに如くはない。これはすごい秘密兵器だと思った。
操縦したのは左ハンドル仕様だったのが、楽しみを倍増させてくれた。手動で動かすギアセレクターは、素早く正確な動作が必要とされる際は、利き腕で操作するほうが、より確実だからだ。もちろん慣れの問題もあるから、手首の運動をつねに練習しておけば、左手での操作でも問題はないだろう。実際、日本や英国では左手操作が基本なのだから。それをしていなかった僕には、やや重いセレクターを操作するのに、右手がぴったりだった。
ローで、後方から響く排気音とちら見する回転計からの情報を頼りに加速していって、適度な頃合いで手首の動きだけでセカンドに入れる。そして加速。さらにサードへ。これだけで日本の高速では法定速度に達してしまう。そのときの気分の昂ぶりは、なかなかほかでは得られないだろう。
ステアリングホイールの剛性感、サスペンションのしなやかな動き、アクセルペダルの絶妙なスピードコントロール性 ――。意識していなくても、入念な作り込みが、見事なハーモニーを奏でているように感じられる。クルマに乗ることを趣味と公言できる人なら、ポルシェは最強の“道具”だと、つくづく思ったほどだ。
ボクスターはフルオープンになる。それは気持ちよさとともに、もうひとつの効用をもたらす。
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どの方向から眺めてもバランスがとれたスタイル
全長4.38メートルのボクスターは、どの方向から眺めてもバランスがとれたスタイルだ。911はやはり短めのホイールベースに対して、エンジンを収めたリア部が長く、審美的には手放しで称賛できないが、ボクスターは理知的であり、適度にエモーショナル。600万円台の前半で買えるミドシップスポーツカーという、希有な価値の、もうひとつの裏付けとなっている。
コクピットは空間的余裕がある。大柄な欧米人のためだろう。日本人には十分過ぎるスペースが横方向にもとられている。そしてカラーキー(同色で統一)されたインテリアを備えているので、だいぶラグジュリアスな雰囲気が漂う。以前は、ドイツ車は黒だけで品質感を追求すると言われたが、それを変えたのがポルシェだったことを思い出した。
時速50kmまでは走行中の開閉も可能な電動幌は、ボクスターの大きな魅力だ。フルオープンで速度を上げたときは、素晴らしい気持ちよさだ。真冬でも厚手のスポーツコートにマフラーを巻いて、というのがオープンスポーツの“正しい”乗り方である。それが嫌なら、サイドウィンドウを上げれば(それにオプションでウィンドデフレクターを装着すれば)風を巻き込まず、頭上に大きな空が広がった快適な走行ができる。
フルオープンには、もうひとつ、実利的な効用がある。ボクスターでは、幌を上げていると、コクピット背後のエンジンルームからの、さまざまな音が大きく聞こえてくる。クーペのように閉ざされた空間なら、反響対策や遮音および吸音など、室内音の“整理”もできるだろうが、オープンモデルでは難しい。でも、ノイズは、幌を開けると、すべて大気の中に逃げていってくれるのだ。
軽快で、毎日乗っていたくなるスポーツカー。4気筒ターボのエンジンを搭載しても、きっと楽しいだろう。それでも、アクセルペダルとエンジンが自然なかたちで呼応しあう雰囲気を、現行モデルで味わっておくのは悪くない。けっして悪くない。繰り返し、言いたくなる。
ポルシェカスタマーケアセンター
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