CAR /
FEATURES
2023年7月11日
ポルシェ75年&テノールの巨星が選ぶ「至高のエンジン音」──コンコルソ・デレガンツァ・ヴィラ・デステ2023が開催| Concorso d’Eleganza Villa d’Este
シュトゥットガルトの伝説
今回は、ポルシェを特集したクラスも設けられた。第二次世界大戦中の疎開先であったオーストリアからドイツのシュトゥットガルトに戻り、1948年に初の自社ブランドによるスポーツカーを世に出してから75周年を記念したものだ。
サブタイトルは「シュトゥットガルトの伝説における、象徴的かつ稀代のバックカタログ」である。
参加したのは8台で、最古は1954年の「366 pre-A」だった。新車時に最重要市場であった米国に輸出された1台である。1981年の初回レストアに加え、2016年には、さらにオリジナル状態に戻すための復元が行われている。今回、クラスにおける選外佳作賞を獲得した。
次に古いモデルは、ドイツの歴史的航空機会社「ハインケル・フリュークツォイクバウ」によるFRP製ボディをもつ1964年「904カレラGTS」だった。
1964 年 5 月、購入した温泉保養地ヴィースバーデンの初代オーナーのもとでヒルクライムに用いられたあと、1967年に米国に渡ってからも競技に使われた。にもかかわらず、オリジナルのエンジンを搭載し続けている。
70’sムード全開のライムグリーンに塗られた1973年「911カレラRS2.7」は、シリーズスポーツカーとして必須であった最低500台製造のホモロゲーションをクリアするために製造されたRSシリーズの1台である。2022年に3代目オーナーとして手に入れたスイスのエントラントによって出品された。
グループ4規定に準拠するため2年間のみ限定生産された1976年ポルシェ「934」の姿もあった。1976年にヴィチェンツァのジローラモ・カプラ伯爵の手に渡り、メイクス世界選手権を含む数々のレースに参戦。4代目である現オーナーは、2020年から所有している。911カレラRS2.7とともに、ほぼ修復されていないコンディションでの参加であった。
1979年「935」で参加したのは、アメリカの著名コレクター、フィリップ・サロフィム氏である。
これまで「ベルトーネ・ストラトス・ゼロ」「アストン・マーティン・ブルドッグ」といった、エキセントリックなコンセプトカーでヴィラ・デステのギャラリーを驚かせてきた彼にしては、かなり趣向が異なる。
筆者が一体どちらのタイプが好みなのか?と冗談交じりに問うと、「自分の子どもと同じで、どちらが好きとは言えません」と笑った。
ポルシェは、935で1976年からメイクス世界選手権において4年連続でトロフィーを獲得した傍らで、プライベートのサポートも行った。
今回の参加車もそうしたプライベートチームに貢献した1台で、初戦のデイトナでは8番グリッドからスタートし、大きなリードをもって優勝した。
ル・マンでは154周目にエンジントラブルでリタイアを喫したものの、チームオーナーのテッド・フィールドはその後IMSAシリーズでステアリングを握り、成功を収めた。その不屈のストーリーは、実業家でもあるサロフィム氏のソウルに少なからず訴えかけたに違いない。
いっぽうクラス中、かつ今回のヴィラ・デステ中最新は、車齢25年の1998年「911 GT1」だった。
当時、FIA耐久レースにGT1クラスで出場する条件は、公道走行用車両を最低25台製造することだった。ポルシェは911GT1を21台しか生産できなかったにもかかわらず、FIAは黙認したという逸話が残っている。
参加車は新車時に、あるポテンシャル・カスタマーに引き渡された1台である。