欧州縦断で体感するアウディRSモデルの真髄|Audi
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2015年1月15日

欧州縦断で体感するアウディRSモデルの真髄|Audi

Audi Land of quattro 2013 Alps tour

スイスから南仏へアルプスを越えて

欧州縦断で体感するアウディRSモデルの真髄

アウディの数あるモデルラインナップのなかでも、とくにスポーティ性能を高めたモデルだけにあたえれらる「RS」。アウディは、サーキットやアウトバーンが活躍の場とおもわれがちなこのRSモデルで「Audi Land of quattro」と銘打った欧州縦断を敢行。幸運にもツアーに参加した大谷達也氏が、そのグランドツーリング性能をリポート。

Text by OTANI Tatsuya

アウディのRSとはなにか

幾重にも連なる山々。その雄大な景色のなかを、細い九十九折りがどこまでも縫うようにしてつづいている。ここはヨーロッパ・アルプス。2,000メートル級のうつくしい山並みがヨーロッパを南北に分断する、古くからの交通の難所だ。個人的には、いつかここをパワフルなスポーティモデルでおもいっきり走ってみたいと願っていたが、ついにその夢がかなった。それも、この険しい山道を走るにはおあつらえのクルマで──

“Rennsport”英語に直せば“Racing Sport”となるその由来を聞けばわかるとおり、“RS”はアウディのずば抜けてスポーティなモデルだけにあたえられる特別な称号だ。その企画や開発を受け持つのは、アウディのなかでも特に情熱的なエンスージャストだけが集まったスペシャリスト集団のクワトロGmbH。彼らの手により、通常のカタログモデルとは大きくことなるプロセスを経てつくられるのが、アウディRSモデルなのである。

ところで、アウディにはRSのほかにもSと呼ばれるモデルラインがあるが、このSとRSの決定的なちがいはなんだろうか? 今回取材したクワトロGmbHのプロダクトマネージャーは、こんな話を聞かせてくれた。

「パワフルなエンジンと強化されたサスペンション、それにクワトロをそなえていることはRSとSで共通していますが、SよりもさらにスポーティなRSの特徴といえば、やはりパッションでしょう。RSを走らせると特別なエモーションに浸ることができますが、たとえばスポーティなエグゾーストサウンドや、インテリアに使われている特別な素材などから、ドライバーはつくり手の情熱をダイレクトにかんじることができるのです」

たしかに、「RS6アバント」や「RS7スポーツバック」のように500psをおおきく越え、600psに手が届きそうなほどパワフルなモデルに乗れば、つくり手が意識したにちがいないパッションを否応なくかんじるが、これくらいパワフルなモデルを公道で走らせようとすると、もはや4WDが不可欠におもえてくる。その点でも、一貫してクワトロをつくりつづけ、その改良にはげんできたアウディのRSモデルは、ライバルメーカーのスポーツモデルにはないアドバンテージをそなえているといえる。

Audi Land of quattro 2013 Alps tour

スイスから南仏へアルプスを越えて

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速さと安心感をもたらすクワトロ

さて、今回筆者が参加したイベント、その名も“Land of quattro 2013 Alps tour”は、最新のRSモデルを引き連れて南ドイツのクラーゲンフルトからアルプスを越えてモナコに入り、ここで折り返して再びクラーゲンフルトを目指すという壮大なツアーである。このうち筆者が担当したのはスイスのインターラーケンから折り返し地点であるモナコまでのおよそ800kmで、このルートを今回は2日間かけて走破した。

出発当日の朝、最初に乗り込んだのは現行RSモデルのなかでもっともパワフルな4.0リッターV8ツインターボエンジン搭載の「RS6アバント」。

乗り込んだ瞬間、最近のアウディにしては珍しい硬めの乗り心地にやや面食らったが、冷静に観察してみれば路面から伝わる衝撃のカドはきれいに丸められているので、不快とはかんじられない。むしろ、強烈なダンパーによってささえられた足回りの切れ味のよさをたのしみながらワインディングロードを駆け抜けることができた。

それにしても、アルプスの道は聞きしにまさる難所だ。ルートのほとんどは片側1車線で、峠の頂上に近づくとセンターラインさえなくなるほど狭い山道がほとんど。

しかも、ストレートの先にはタイトなヘアピンコーナーが待ち構えており、ここを走るドライバーは加速、減速、ターンイン、そして加速という動作を何十回、いや何百回と繰り返さなければならない。

当然、ときにはドライビングミスを犯すこともあるだろう。

けれども、アウディのフルタイム4WDシステム“クワトロ”はどこまでもコントローラブルで、ドライバーのミスを寛容に受け止めてくれる。RSはただ速いだけではない。この、先進技術に支えられた安心感こそが、RSモデルの最大の特徴なのである。

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守備範囲の広いRS7スポーツバック

つづいて試乗したのは「RS7スポーツバック」。エンジン、ギアボックス、そして4WD機構などはRS6アバントとまったくおなじRS7スポーツバックだが、乗り味は大きくことなる。RS6アバントにくらくらべると足回りがずっとソフトで、快適性が高いのだ。

これであればハイスピードで飛ばすシチュエーションだけでなく、たとえばちょっとした買い物や通勤にもじゅうぶん使えそう。とはいえ、ハードコーナリング時のマナーは安定しきっており、RS6アバントとおなじペースを守ってワインディングロードを駆け抜けていける。このため、RS6アバントよりRSスポーツバックのほうが守備範囲はずっと広いとかんじた。

いずれにせよ、560ps、700Nmを生み出すV8 4.0リッターツインターボエンジンは文句の付けどころがないほどパワフル。しかも、ボトムエンドから爆発的な大トルクを発揮するほか、スロットルペダルにたいする反応が鋭敏なため、コーナーからの立ち上がりでももどかしいおもいをしなくて済む。

いや、それどころか本気で右足にちからを込めれば、手触りのいいレザーで覆われたスポーツシートのなかに身体が2cmほどめり込んだかとおもわせるほどの圧倒的な加速Gを体験できる。

ちなみに、0-100km/h加速はどちらも3.9秒で、量産モデルとしては世界最速のレベル。最高速がスピードリミッターで制限されるのはやむを得ないとはいえ、ヨーロッパではこのリミッターを250km/hから最高305km/hまで引き上げるオプションが用意されているので、そのパフォーマンスがどれだけすごいかは容易に想像できるだろう。

初日は300km強を走行して、シャモニーにちかいメジェーブのホテルにチェックイン。

「レ・フェルメ・ド・マリエ」は建物の外観こそ山小屋風に仕上げられているが、客室は最新の設備をそなえており、じつに快適なホテルだった。

そういえば、ここはスイスから国境をわずかに越えてフランス国内に入ったエリア。今回はスイス、フランス、イタリア、モナコと計4ヶ国を巡るという、通常の試乗会ではかんがえられないほど壮大なスケールで実施されたが、おかげでRSモデルの真髄を心ゆくまで堪能することができた。

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快速コンパクトなRS Q3

翌日は、「RS Q3」のステアリングを握ってスタート。QモデルとしてはじめてRSの名を冠したRS Q3は、直列5気筒 2.5リッター ターボエンジンをフロントに横置きし、電子制御油圧多板クラッチを介して4輪を駆動するパワートレーンを搭載しているので、基本的な成り立ちは「TT RS」と共通といっていい。

ただし、最高出力はTT RSの360psにたいして、こちらは310psとややマイルド。それにあわせて足回りもしなやかになっており、乗り心地はRS7スポーツバック以上に快適だった。

とはいえ、“RS”の称号を得ているだけにコーナリング パフォーマンスに不満は覚えなかった。しかも、SUVにありがちな腰高感が少なく、狭い道ではコンパクトなボディを利してRS6アバントを追いかけ回すほどの速さを見せた。

電子制御油圧多板クラッチ式4WDのため、トルセン系のクワトロよりもターンイン時のアンダーステアが小さいのも魅力のひとつ。価格の手ごろさも手伝って、大人気を呼びそうなモデルにおもえた。

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NAの回転フィールとオープンエアが心地よいRS5カブリオレ
最後に試乗したのは「RS5カブリオレ」。高回転型のV8 4.2リッター NAエンジンは8,250rpmで450psを発揮。7段Sトロニックを介し、0-100km/h加速を4.9秒で駆け抜ける。

このモデルはなんといってもNAらしいエンジンの伸びやかな回転フィールが魅力的。しかもコンバーチブルボディゆえ、足回りもガチガチには固められていない点が嬉しい。ルーフを開け放ってアルプスの空気を堪能していたら、モンテカルロラリーで名高いチュリニ峠に辿り着いた。

チュリニ峠からモナコまではワインディングロードをくだるのみ。それにしてもこのあたりの道幅は極端に狭く、ここをパワフルなラリーカーで全力疾走するラリーストたちのテクニックと度胸のことをおもうと、驚きを通り越して呆れるしかなかった。

やがて山の麓にちかづくと傾斜は緩くなり、それにつれて道幅も次第に広くなっていく。日没の時間が迫り、太陽が大きく西に傾き始めたころ、モンテカルロの港が眼下に見えはじめた。F1モナコGPの取材などで何度も訪れたことはあるが、スイスから陸路でここまでやってきたのは今回が初めて。そうおもうと、港に浮かぶ船たちが発する光がひときわうつくしく燦めいて見えた。

こうして2日間800kmの旅は幕を閉じた。いまおもい起こしてみると、脳裏に浮かぶのはアルプスのうつくしい景色ばかりで、怖いおもいをしたとか、長距離を走って苦痛だったというような経験はただの一度もなかった。

これこそ、クワトロの本領であり、アウディのクルマづくりの真髄といえるだろう。

           
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