ポルシェ 911 カレラ テクニカルワークショップ開催|Porsche
CAR / FEATURES
2015年3月3日

ポルシェ 911 カレラ テクニカルワークショップ開催|Porsche

Porsche 911 Carrera|ポルシェ 911 カレラ

ポルシェ開催のワークショップより速報!

新型911の全容を完全リポート!! (1)

9月に開催されたフランクフルトモーターショーでデビューし、世界中の注目を集めたのが、7代目となる新型「ポルシェ 911 カレラ」だ。閉幕から約1カ月後、本国ドイツ・ヴァイザッハにて同車の細部について詳細にレクチャーするワークショップが開かれた。島下泰久氏による現地リポートをお送りする。

文=島下泰久

モデル史上2回目の完全刷新

フランクフルトモーターショーでの新型911 カレラの発表から約1カ月後の10月中旬。ポルシェから、その開発の本拠であるヴァイザッハへの招待状が舞い込んだ。内容は、その新型911 カレラのテクニカルワークショップである。

まだ、ここではステアリングを握らせてくれるわけではない。しかしながら911というモデルの46年にもおよぶ歴史のなかで、1997年の996型へのモデルチェンジにつづく、ほんの2回目に過ぎないゼロからの完全刷新となった新型911 カレラ。コードネーム991のテクノロジーのすべてを、じっくりと解きあかしてくれるというのだから、それはもう行かないわけにはいかなかった。

案の定、その中身の濃さにおどろき、圧倒されることになった。見た目はあくまで911。しかしすべての要素が、あたらしい次元を指向していると言えるほど……。ここで、そのすべてを記すのはとても無理な話だが、そのなかから重要な要素について、できるだけ噛み砕いてお伝えしたいと思う。

当日の講義は「軽量設計」「効率」「エモーション」「パフォーマンス」の4パートにわかれていた。つまりこの4つの項目こそが新型911の技術的なハイライトであり、またアピールしたいポイントだということである。早速、順に見ていくことにしよう。

Porsche 911 Carrera|ポルシェ 911 カレラ

ポルシェ開催のワークショップより速報!

新型911の全容を完全リポート!! (2)

軽量設計

新型911 カレラのボディサイズは全長4,491×全幅1,808×全高1,303mmで、現行の997後期型より56mm長く、7mm低くなっている。ホイールベースは2,450mmと、こちらは100mmの延長。つまり、わずかとは言え車体は大きくなっているのだが、車輛重量はカレラSのPDKで1,415kgと、逆に40kg軽くなっている。

本来であれば、乗員保護性能の向上、燃費向上技術の投入、そして運動性能改善のためのホイールベース延長などによって、車輛重量は58.4kgの増加になったはずだという。しかし新型911 カレラは完全にあたらしい軽量ボディ構造の採用やエンジン、シャシー、さらに細部にいたる軽量化によって98kgを削ぎ落とし、差し引きで見事、軽量化を達成しているのである。

Porsche 911 carrera|ポルシェ 911 カレラ テクニカルワークショップ開催|03

使用素材ごとに色わけされたボディシェル。水色部分はすべてアルミで全体の44パーセントにおよぶ。黄緑が成形しやすいスチール深絞り鋼板で、使用割合はわずか14パーセントに過ぎない。

Porsche 911 carrera|ポルシェ 911 カレラ テクニカルワークショップ開催|04

車輛後端にうつされ、幅が898mmから1,137mmまで拡大されたリアスポイラーもパーツをグラム単位で重量を軽減。ひとつのパーツにふたつ以上の役割をもたせるなど工夫されている。

とりわけ注目なのがボディ構造だ。ボンネットフード、フロントフェンダー、両側ドアにエンジンフードだけではなく、ルーフ、フロアパネルのほとんど全面がアルミ製とされている。シャシーメンバーやドアシル部分、前後サスペンションの力を受ける部分も、アルミダイキャスト製だ。その結果、ボディ全体におけるアルミの使用割合はじつに44パーセントにも達するという。

いっぽう、たとえばルーフアーチからリアフェンダーにかけての大きなパネルには深絞り鋼板が使われている。ポルシェらしいやわらかな曲面を出すために、成形しやすい材料を使ったというのが、その理由。こんな具合にスチール、アルミ、アルミ鋳物、マグネシウムなど、さまざまな素材をまさに適材適所に用いることで、911らしさに新鮮味をプラスした美しいボディラインを生み出し、曲げ13パーセント、ねじり20パーセントというボディ剛性の大幅な向上を可能としながら、大幅な軽量化を達成しているのである。

Porsche 911 Carrera|ポルシェ 911 カレラ

ポルシェ開催のワークショップより速報!

新型911の全容を完全リポート!! (3)

効率

スポーツカーと言えどもいまや無視してとおることのできない燃費と環境性能。この面でも、新型911 カレラは飛躍的な進化を遂げている。

PDKを装備する911 カレラSの燃費は8.7ℓ/100km(約11.5km/ℓ)。これは現行モデル比、約15パーセントの改善となる。カレラのPDKなら、8.2ℓ/100km(約12.2km/ℓ)。最高速290km/hに迫るスポーツカーの燃費としては驚異的と言っていいだろう。

それを可能にしたのは走行抵抗の低減、効率の改善、そして制御系の最適化というメニュー。定番ではある。しかし、ポルシェの仕事ぶりは徹底している。

997後期型から搭載された直噴エンジンは細部を改良。吸排気系を一新したほか、直噴システム、バリオカムプラスの改良、摩擦ロスの低減などによって、カレラでは排気量を3.6リッターから3.4リッターへと縮小しながら最高出力は5ps増の350psに。3.8リッターのままとされたカレラSは15ps増の400psを獲得している。

温度管理の徹底も、高効率性のカギだ。始動直後には水温をはやめに上げてフリクションを低減。これで燃費は2パーセント向上できる。そのあとも運転温度は高めとされるが、全開時などには水温を下げて、パワーをフルに引き出すのだ。

トランスミッションはPDKのほかにMTを用意するが、その段数はひとつ増えて、乗用車用世界初の7段になった。7段ギアでは従来の6段より19パーセントも回転数を抑えられ、燃費、そして静粛性に貢献する。懸念されるのは4段から誤って7段に入れてしまわないかということだが、それを避けるべくシフトレバーが5-6段にないかぎり7段にはいれられないシフトゲートロックを備えている。

全身で高効率化を実現

Porsche 911 carrera|ポルシェ 911 カレラ テクニカルワークショップ開催|07

注目の7段マニュアルギアボックス。ハードウェアの中身はPDKと多くの部分を共有する。操作感は現行型よりカチッとしていてシフトミスも可能性は少なそうだ。

Porsche 911 carrera|ポルシェ 911 カレラ テクニカルワークショップ開催|08

7段PDKも内部は大幅に改良されている。PTV Plusでは電子制御式リミテッドスリップデフを内蔵。左右輪の駆動力を連続的に変化させ、曲げやすさと安定性を両立。

停車時にエンジンを自動停止するスタート/ストップ機能は、PDK、MTいずれにも標準で装備。再始動のさいにセルモーターの回転力でクラッチを動かしはじめ、始動完了時には即座に走り出すことを可能とするクイックスタートが搭載された。

さらに注目の機能がコースティングである。これはアクセルオフ時にクラッチを切り惰性で走行することで燃費を稼ぐ機能。100kmあたり1リットルの燃費向上効果があるという。これとスタート/ストップは、SPORTモードではオフになる。

改良点は、当然これだけにはとどまらない。さきに述べた軽量化、空気抵抗をしめすCd値で0.30から0.29に向上した空力性能の向上、電動パワーステアリングの採用、引きずりを減らしたブレーキシステム、低転がり抵抗タイヤの装着等など、まさに全身で高効率化を実現しているのである。

Porsche 911 Carrera|ポルシェ 911 カレラ

ポルシェ開催のワークショップより速報!

新型911の全容を完全リポート!! (4)

エモーション

情感をかき立てる要素はさまざまだが、新型911 カレラはとくにサウンドにこだわっているようす。なにしろ担当者いわく「サイレンサーのデザインとチューニングはポルシェのコアコンピタンス」と言うのだ。

重視されているのは、エンジン始動時、アイドリング状態、ギアチェンジ、負荷の変化という、それぞれの状況におうじてドライバーにクルマの現在の状況、あるいはクルマからのメッセージをクリアに伝えること。当然、すべての音の発生源は911 カレラの場合はすべて車輛後方に位置する吸気系、エンジン本体、そして排気系というクルマ自身がもっているものだから、そのなかからどの場面で、どの音を、いかに抽出して聞かせるかということがポイントになる。

このサウンドの開発にさいしては、コアコンピタンスと言うだけあって、サイレンサーの取りまわしをはじめ、あらゆる要素が車輛設計の非常にはやい段階から考慮されたのだという。その結果、サウンドは従来モデルよりクリアになったという印象。直噴エンジンをえた997後期型は、サウンドがややラフになったようにも感じられたが、新型はアイドリングから非常にスムーズ。しかも負荷におうじて音色が刻一刻と変わり、ドライバーの意識をかきたてる。

PDKの変速スピードの向上で、シフトアップ時のサウンドも変化している。

Porsche 911 carrera|ポルシェ 911 カレラ テクニカルワークショップ開催|09_02

気づかれないようシフトアップするのではなく、短い時間に歯切れの良いサウンドの変化によって小気味良さを演出している。これらは偶然の産物ではなく、すべて丹念なチューニングの成果なのだ。

技術開発担当重役のウォルフガング・ハッツ氏はオープニングで「あたらしい6気筒オーケストラにご招待します」と述べた。じつはこの音にかんする研究をおこなう部署は少なくとも33年前にはすでに存在していたといい、つまりポルシェはそこにきわめて豊富な経験をもっている。新型911カレラのサウンドは、まさにその集大成というべきものだと言っていいだろう。

Porsche 911 Carrera|ポルシェ 911 カレラ

ポルシェ開催のワークショップより速報!

新型911の全容を完全リポート!! (5)

パフォーマンス

新型911 カレラのボディは、前述のように全長が56mm長くなった。しかしホイールベースはさらに大きく100mm伸びており、つまり前後オーバーハングが短縮されている。全幅は変わらないがフロントのトレッドは拡大。全高も下がっている。これらに重量の低減があいまって、慣性モーメントは2パーセント減り、前後重量配分もわずか0.2パーセントだが前寄りとなった。

空力的には、Cd値0.29を達成。リフトは28パーセント低減された。20mmローダウンとなるPASMスポーツシャシーを選べばドラッグはさらに小さく、リフト量もゼロに。120km/hを超えるとリアスポイラーが開き、ダウンフォースまで生み出される。床下の整流にも積極的で、真下から見るとフロアはほぼ全体が平らになっている。

エンジンについては、回転上限が300rpmプラスの7,800rpmに引き上げられたことが注目に値する。7段PDKも変速所要時間が短縮された。

Porsche 911 carrera|ポルシェ 911 カレラ テクニカルワークショップ開催|11

空力特性向上のためボディ表面だけでなく床下の整流にも積極的な新型911 カレラ。前から後ろまで、フロアはほぼフラットになっている。

Porsche 911 carrera|ポルシェ 911 カレラ テクニカルワークショップ開催|12

サスペンションは形式こそ従来と変わらないが基本的に新設計。パフォーマンス向上だけでなく軽量化にも腐心されており、ここだけでマイナス5.5kgを達成している。

サスペンションも当然一新。軽量化も追求されている。電子制御式ダンパーのPASMが引きつづき設定されるほか、可変スタビライザーのPDCCがはじめて設定された。

左右後輪間のトルク配分を制御して、より高い旋回性と安定性を生み出すPTVも用意される。MT車用の「PTV」は機械式LSDと旋回中内輪へのブレーキ制御のセットで、PDK用の「PTV Plus」ではLSDが電子制御式となる。これは制御油圧にPDK用を使うことによるちがいである。

タイヤはカレラが19インチ、カレラSが20インチ。ブレーキは、カレラSとPCCB装着車ではフロント6ピストン、リア4ピストンのモノブロックキャリパーに、フロントが従来より10mm拡大された340mm径、リアが330mm径の軽量ブレーキローターが組みあわされる。パーキングブレーキが電動化されたのも特徴と言えるだろう。

こうした進化を象徴するのが、カレラS PDK仕様のニュルブルクリンク北コースにおける7分40秒というラップタイムだ。これは997後期型カレラSにたいして13秒も速く、ほぼターボに匹敵する数値である。

Porsche 911 Carrera|ポルシェ 911 カレラ

ポルシェ開催のワークショップより速報!

新型911の全容を完全リポート!! (6)

同乗試乗

じつは今回、カリキュラムにはテストドライバーの助手席同乗走行も組み込まれていた。ヴァイザッハの狭いテストコースの路面は荒れ気味、しかもハーフウェット状態という条件だったのだが、かえって新型911 カレラの実力をまざまざと思い知ることになった。

導入路では、まず乗り心地の良さを実感。動きには無駄がないが、ガツンと突き上げることはない。ロードノイズもいたって静かで、911らしくないと思えるほどだ。

Dレンジ走行中にアクセルオフするとクルマはコースティング、惰性走行にはいる。そして車輛を停止させればエンジンがストンと止まる。911 カレラが、こんな振る舞いをする時代になったのだ。

Porsche 911 carrera|ポルシェ 911 カレラ テクニカルワークショップ開催|14

限界での挙動がトリッキーというのはもはや過去の話。助手席で体感したかぎりでは、コントロール性はさらに向上しているという印象だ。

Porsche 911 carrera|ポルシェ 911 カレラ テクニカルワークショップ開催|15

同乗試乗したのは911 カレラSのPDKモデル。PDCC(可変式スタビライザー)、PCCB(カーボンコンポジットブレーキ)などフル装備の仕様だった。

コースにはいると、いきなり全開。しかし4輪の接地感が助手席にいてもありありと伝わってきて不安感は皆無だ。加速も強烈。フラット6エンジンは吸い込まれるようにトップエンドを極める。迫力に満ち、それでいてクリアなエンジンサウンドも印象的で、ついついアクセルを踏み込みたくなる。

フルブレーキングでも安定感は抜群。電動アシストとなって心配されるステアリングフィールも、ドライバー氏は「グレート!」と満足げだ。開発陣もここは自信をもっているだけに、はやくこの手で試したくなる。

コーナリングは想像をはるかに超えていた。フロントの食いつきは抜群で、旋回にはいると、まるでレーシングカートのようにグイグイ曲がっていく。ロールはほとんどなく、リアはガッチリとグリップ。そこから出口に向けてアクセルを踏み込めば、PTV Plusの働きもあって弾けるように加速していく。圧巻の走りに呆然としているうちに、すぐに試乗時間は終わってしまった。

いかにも911 カレラらしいテイストをあらゆる部分で濃密に感じさせつつ、まるで911ではないかのような次元のちがう速さとコントロール性を垣間見せてくれた新型911 カレラ。歴史上、最大級の進化を果たしたハードウェアは、どうやら走りの面でも歴史上、最大級の跳躍に繋がっているようだ。試乗の機会はもう少し先。その真髄にちらりと触れて、いよいよ待ち切れなくなってきてしまった。

080507_eac_spec

Porsche 911 Carrera|ポルシェ 911 カレラ
ボディサイズ|全長4,491×全幅1,808×全高1,303mm
ホイールベース|2,450mm
車輛重量(DIN規格)|1,380kg(7段MT)、1,400kg(PDK)
エンジン|3.4リッター水平対向6気筒
トランスミッション|7段MT、PDK
最高出力|257kW(350hp)
最大トルク|390Nm/5,600rpm
燃費|9.0ℓ/100km(7段MT)、8.2ℓ/100km(PDK)
CO2排出量|212g/km(7段MT)、194g/km(PDK)

Porsche 911 Carrera S|ポルシェ 911 カレラS
車輛重量(DIN規格)|1,395kg(7段MT)、1,415kg(PDK)
エンジン|3.8リッター水平対向6気筒
最高出力|294kW(400hp)
最大トルク|440Nm/5,600rpm
燃費|9.5ℓ/100km(7段MT)、8.7ℓ/100km(PDK)
CO2排出量|224g/km(7段MT)、205g/km(PDK)

           
Photo Gallery