ポルシェAGエクステリアデザイナー 山下周一氏インタビュー|Porsche
Presented by PORSCHEPorsche 911|ポルシェ911
ポルシェAGエクステリアデザイナー 山下周一氏インタビュー
タイムレスな魅力を放ち続けるポルシェ911の奇跡
名作の条件とは何だろう。映画やアート作品ならば、人の心を動かす力か。実用品であれば、優れた機能や使い勝手だろうか。ジャンルによって違いはあるが、多くの名品に共通するのは、唯一無二の存在であること。そしてなんと言っても、時代を超えて訴えかけてくるものがあること、つまり、“Timeless”であることだ。
好みの問題はあるとしても、誰もが名作と認めるものがある。例えば、チャールズ・チャップリンの映画。建築ならル・コルビュジェの建物。そして、名車といえばポルシェ「911」だろう。1963年の誕生以来、50年以上にわたってスポーツカーのアイコンであり続けている。このクルマが、第8世代へと進化した。映画ジャーナリストの牧口じゅん氏が、最新モデル日本初上陸に際し帰国した、ポルシェ唯一の日本人エクステリアデザイナー、山下周一氏との対話から、そのタイムレスな魅力を探る。
Photographs by Yuki Sato & Porsche JapanText by Maki Makiguchi
名車911に携わるのはオリンピックに出場するようなもの
映画ジャーナリストとして、ポルシェへは特別な感情を抱いている。特に、ブランドを象徴する存在である「911」は、多くの映画に登場しているのだ。スティーブ・マックイーンが創り上げたレース映画の傑作『栄光のル・マン』、カー・レーサーが登場する『男と女』、さらには『アニー・ホール』や『フラッシュ・ダンス』といった恋愛ドラマにも登場。クルマに詳しくない筆者ですら、パワフルながらエレガントな姿に魅了されている。
なぜこれほど多くの映画に用いられるのか。それは、“ポルシェを選ぶ”ということが、キャラクターにセリフや所作だけでは表現しきれない奥行きを与えるからに違いない。この美しいクルマを選んだその人の、美学までをも一瞬で感じ取ることができるのだ。それができる名車、だから映画人に愛されてきたのだろう。
50年以上に渡り、初代のDNAを受け継ぎながら進化を続ける名車911に携わることを、山下さんはこう語る。
「心から誇りに思っています。オリンピックに出場するって、こんな感じかもしれないですね。日本でのプレゼンテーションに関わる機会を得たことも人生で最も嬉しい出来事のひとつでした」
プロダクトデザインを学んでいた山下さんが、カーデザイナーを志し、学び舎に戻ったのが28歳のとき。卒業後、カーメーカー数社を経て13年前にポルシェに入社。当時携わった第7世代(991)に続き、山下さんにとって911のプロジェクトに参加するのは今回で2回目となる。最新モデルに込められているのは、伝統へのオマージュだという。
「911をデザインするにあたり、過去のモデルをリサーチし自分なりに伝統を再解釈します。911とはこういうものだという理解を深めるんですが、今回、最新技術を使えば、昔のデザインをモダンな解釈で再現することが可能だと感じました。
最もフォーカスしたのは、930型(1974-89年)、964型(89-93年)に見られる一文字型のリアランプです。ぜひ、夜に見て頂きたい。一目でわかりますよ。まるで、ビシッと音が聞こえるかのような凛々しさ。僕は“日本刀”と表現しています。
通常、線状のランプは製造技術の問題で2つほど分割線が入るんです。でも、最新の911のリアランプは一体で左右1.4メートルにも及びます。ランプの厚みも30ミリしかない。すべてはLED技術があるから可能になったこと。
インテリアのディスプレーも、かつてのデザインを復刻させ、水平方向にレイアウトされた2つのラインを強調しました。全体的にクリーンでシンプルな印象にまとめています」
Page.2 進化の中で“Timeless”をどう表現し続けるか
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ポルシェAGエクステリアデザイナー 山下周一氏インタビュー
タイムレスな魅力を放ち続けるポルシェ911の奇跡(2)
進化の中で“Timeless”をどう表現し続けるか
技術進化ゆえに可能となった、古き良きデザインへのオマージュ。だが、前に進む力が強い現代で、伝統を重んじ続けることは大きなチャレンジでもある。911においてその挑戦が可能なのは、“ポルシェはこうあるべき”という理想像を多くの人が共有しているからなのだろう。それは、メーカーとユーザーとの間にある信頼関係とも言い換えられる。
「それは長年にわたって築きあげられたものなんです」
メーカーの自信と、ユーザーの愛。相思相愛であり続けることは難しく、多くのプロダクトは流行に乗って消えていく。
「ポルシェも実は911の製造をやめようとしたことがありました。1978年にフロントエンジンの928を出したのは、将来的にリアエンジンの911をやめることを想定していたから。でも、商業的に上手くいかなかった。911の存在の大きさを、ファンからの反応に気づかされたんですね。リアにエンジンがある911は運転が難しい。だから、エンジンをフロントにとメーカーは考えた。ところがユーザーにはその911ならではの操縦性が魅力だった。欠点だと思っていたことが、クルマにとって大切なキャラクターだったということに気づかされたんです」
ポルシェ流のものづくりを信じるオーナーと、良いものを作ることで期待に応えるメーカー。これまで生産されたポルシェの約70%が、今も現役で路上を走っていると聞く。このような関係は、ものづくりの理想形なのだろう。
「その関係の鍵となるのが、進化の中で“Timeless”をどう表現し続けるかということ。それはポルシェのDNAを守ること。その核は911なんです。ウインドウから屋根にかけての流れるような、横から見たときのフライライン。ボンネットよりフェンダーの方が少し高くなっている、フロントのウインドウグラフィック。ふくよかなリアフェンダー。これらは絶対に変えられないんです。ものごとを変えないのは、大変なこと。でも、そこに進化を加えることも大変なことです」
それは、911という言語だけを使って、新たなる美を生みだすこと。制限から美を創り出すのだ。映画も同じ。劇場公開作品ならば、四角いスクリーンの枠の中で、上映時間や予算にもリミットが設けられる。例え、湯水のように資金を使い、好きなだけ尺を延ばしたところで傑作が生まれるとは限らない。むしろ、厳しい制約によって刺激される創造性もある。スター俳優の出演もなく低予算、にもかかわらず大ヒットした映画といえば、『ブレア・ウィッチ・プロジェクト』が思い浮かぶ。最近では『カメラを止めるな』が良い例だろう。
“制限”を味方につけるために、人間が武器にできるのは想像力のみ。そこから生まれる創造性は最強だ。911を見ていると、そう確信できる。山下さんも、制限の中で創造するのが好きだと話す。
「全く新しいものを提案するのとは違う喜びがあります。今ある枠の中で、より高いハードルを越えていく喜びですね。911の最新モデルである992は、ベストのプロダクトだと信じています。
でも、必ず次がある。だから一番良いと思っているのに、その先を考えなければならないんです。次の進化のために今最善を尽くす。そのプレッシャーは重い。よく上司が言うのは、投げるボールをどれくらい先まで投げるか考えろということ。近すぎてもダメ、遠すぎても高すぎてもダメ。つまり次世代の作り手が受け取ることを想定して、どこに投げるのかを見極めるのが重要だということなんです」
伝統を受け継ぎ、現在の最高を創り出す。それが次世代への新たな布石になるのだ。
Page.3 ポルシェが守り抜いてきたものづくりの精神
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ポルシェAGエクステリアデザイナー 山下周一氏インタビュー
タイムレスな魅力を放ち続けるポルシェ911の奇跡(3)
ポルシェが守り抜いてきたものづくりの精神
それにしても、つい振り向いてしまうほどの美しさの根源はどこにあるのだろう。機能美だけではない、感性に訴えかけてくるような有機的で官能的な美はどう生み出されるか。
「昔からクレイモデルを手掛けているモデラーからは、993モデル(1994年-97年)のリアフェンダーの、ほんの一部分を削るのに半年かかったと聞きました。そういう職人の手による工芸的なニュアンスがDNAとして確かに刻み込まれていて、それが重要なのだと痛感しています。
PC上で完璧にデザインしても、クレイモデルにしてみると頭の中で描いていたものとズレが生じる。だからクレイモデルを撫でまわして、『ここちょっと硬すぎるな』とか思いながら修正していく。触ることは、頭の中と実際のものをつなげていくとても大事な工程。モデラーも手で粘土を削る作業をしています。想いをカタチにするために、人の手や感覚は絶対に必要。今度是非、触ってみてください。911のリアフェンダーなんて、本当に複雑な面でできていることを実感していただけると思いますよ」
嬉しそうにデザインについて話す様子からは、美しき911に携わる喜びがひしひしと伝わってくる。そんな山下さんの感性を刺激するものとは。
「建築や家具は好きですね。建築ならル・コルビュジエ。住んでいるシュツットガルトにも彼がデザインした実験住宅があるんです。論理的ながらもフレーバーがあり温かみがある。ル・コルビュジエが目指した重力からの解放は、クルマのデザインに通じるものがありますね。家具ならハンス・J・ウェグナー。自宅にもあるんです。先日は、バーゼル郊外にあるヴィトラ・デザイン・ミュージアムに行ってきました。旅する時は、いい建築があるところに行きたいなと思っています」
山下さんの情熱、そして人となりを知ることで、ポルシェが守り抜いてきたものづくりの精神性を垣間見たような気がした。デザイナーやエンジニアなどさまざまな分野のプロが、同じゴールに向かって全力を尽くす。それはまさに、映画製作の現場とも重なる。1本の映画も、1台のクルマも、決して簡単には生まれない。その陰には、沢山の人々の技と誇り、そして愛情が詰まっている。それらが幸せな融合を遂げた時、タイムレスに我々を魅了する奇跡が現実のものになるのだ。最新の911に触れて、時を超えても色あせない名車を体感してみてはいかがだろう。
ポルシェ カスタマーケアセンター
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