ターボ化した新世代911 カレラに迫る|Porsche
Porsche 911 Carrera|ポルシェ 911 カレラ
ターボ化した新世代911 カレラに迫る
今年9月、ポルシェは「911 カレラ」シリーズをマイナーチェンジ。これまでのNAエンジンに代わって、はじめてターボチャージャー付きのパワーユニットを搭載することを発表した。デビューいらい7代に渡りつづいてきたひとつの伝統は、ターボ化によってどう変化していくのか。ワークショップが開催されたドイツ・ホッケンハイムサーキットから、これからの911について、河村康彦氏がお届けする。
Text by KAWAMURA Yasuhiko
奇跡のスポーツカー
誕生以来すでに半世紀以上という他に例を見ない長寿モデルでありながら、そうした時間を生き抜いてきた7代のすべてが、常にその時々のライバルを寄せ付けない走りのポテンシャルを披露して人々を魅了。そんな実績がさらなる評判を呼んで、いまへとつづく名声を確立させたのがポルシェ「911」という"奇跡のスポーツカー"だ。
敬意と愛情を込め"カエル顔"とも揶揄をされる独特のフロントマスクに、リアエンジンのレイアウト。さらには、水平対向6気筒という稀有なデザインによるエンジンに、それらを包む猫背型プロポーションのボディ ―― と、「それを失ったら、もう911ではないでしょ」という、さまざまなアイコンを携えるこのモデル。
そんな911に衝撃のニュースが伝えられた。このほど開催されたフランクフルトショーで正式発表され、日本でもすでに受注がおこなわれている最新カレラ シリーズのエンジンに、排気量をダウンさせた上でターボチャージャーをくわえた、新開発のユニットが採用されたのだ。
そんなエンジンの話題を中心として、新型に採用されたあらたなテクノロジーにスポットライトを当てたワークショップが本国ドイツで開かれた。
ホッケンハイムのサーキットを舞台に開催されたそのイベントは、ポルシェの開発中枢であるバイザッハ研究所所属のテストドライバー氏が駆るそんな新型への"タクシーライド"付き。残念ながら、自身でドライブした印象を報告できるのはもうしばらく先になりそうだが、まずはそんな"現場"で仕入れた情報をお伝えしてゆきたい。
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奇跡のスポーツカー
「ターボ」のグレード名を称するものなど、一部"役付き"のモデルにはこれまでもパフォーマンスアップ志向のターボ付きエンジンが搭載されてきた911。いっぽうで、一貫して自然吸気ユニットを採用してきたカレラ シリーズに、過給機付きのエンジンが採用されるのはこれがはじめめてとなる。
あたらしい911カレラ/カレラSシリーズに搭載されるのは、燃料噴射インジェクターを燃焼室直上に配するなどヘッド部分が完全に新設計された上で、シリンダーウォールにあたらしいコーティングプロセスを用い、ポリマー製のオイルパンを新採用するなど、大幅なリファインが施された水平対向6気筒ユニット。
従来型の3.4および3.8リッターという排気量に対して、2基のターボチャージャーにより過給がおこなわれる新エンジンは、カレラ/カレラS用ともに3リッターと共通の排気量。そんなボリュームは、「大小さまざまな容量のエンジンをテストした上で、将来の発展性も鑑みて同一とした」ものであるという。
ちなみに、従来型よりも小さくなった排気量を、ポルシェでは"ダウンサイズ"ではなく"ライトサイズ"と表現する。そんな新エンジンは、ターボチャージャーのサイズやマネージメントシステム、排気系のちがいなどで、カレラ用が370ps、カレラS用が420psと、それぞれ従来型よりも20ps増しの最高出力を獲得。
同時に、450Nmに500Nmと、やはり従来型よりもそれぞれ60Nmと大幅に上乗せされた最大トルクを発揮しながら、ヨーロッパ最新のテストモード(NEDC)ではモデルによって、約12パーセントと大幅な効率性の向上も実現させているのが特徴だ。
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エンジンサウンドも重要なアイコンのひとつ
そんな新エンジンと共に見逃せないのは、こちらも大幅にリファインをされたあらたなテレマティックシステムでもある。
PCM(ポルシェ コミュニケーション マネージメント)と称されるそれは、7インチのマルチタッチスクリーンやボイスコントロール、スマートフォンとのリンクなどにも対応をした新仕様。現時点では、日本向けのアイテムが欧州向けと同様の“フルスペック”となるかどうか判然としない部分も残るものの、「大半の機能は欧州向けに準じたものになる」とは担当エンジニア氏によるコメントだ。
そこに含まれるナビゲーションシステムも「アイシンと共同開発をおこなったVICS対応もの」というから、すでに従来型のPCMが搭載されてきたほかの市場向けに対し、これまで"純正"を謳いつつも市販型2DINナビを埋め込むだけの対応に甘んじて来た日本仕様のポルシェ車のテレマティックシステムは、他モデルを含めて今後はようやく海外の市場並みにグレードアップされることになりそう。人によっては、「これこそが新型での最大の見どころ」、と、そう評価をすることになるかも知れない。
ところで、「エンジンがターボ付きになると、"911サウンド"はどうなってしまうのか!?」と、心配になる向きもあるだろう。なるほど理屈からすれば、排気量が下げられた上でターボチャージャーで排ガスのエネルギーが吸収されるのだから、"いい音"のためには不利な方向へと向かう、と、そう考えるのが自然ではありそうだ。
けれども、911というモデルにとっては、そんなエンジンサウンドも重要なアイコンのひとつであるはず。実際、「911のエンジンには"エモーション"こそがもっとも重要な要素」と語るポルシェの開発陣が、採用メカニズムに大幅な変更がほどされても、従来同様に911らしい魅力的で個性溢れるサウンド実現のために、多大な努力を払ったであろうことは、前述"タクシーライド"でもしっかりイメージができるものだった。
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ポルシェらしいリファイン
今回同乗走行をしたのは、オプションの"スポーツエグゾーストシステム"を装着した「カレラ S カブリオレ」の7段PDK仕様。そんなモデルのエンジンに火が入った瞬間から耳に届くのは、紛れもない911のサウンド。全体にボリュームがわずかに小さくなった印象はあるものの、"スポーツプラス"のモードのアクセルOFFシーンでは、アフターファイア的な破裂音が混じる演出も健在だ。
そして、そんなサウンド以上に感動的だったのが、パッセンジャーシートに居ても明確に体感ができた、低中回転域からの豊かなトルク感と、7,500rpm付近まで全く頭打ち感を伴うことのない、自然吸気ユニットに遜色のない高回転に向けてのシャープなパワーの伸びきり感という、実際の走りのテイスト。
「大きなドリフトアングルは許容しつつも、スピンには至らせない」という、あらたなスタビリティコントロールのモードがくわえられ、実際にそうした挙動を体験させてくれた足回りの秀逸さも、やはり"タクシーライド"から実感された事柄。スプリングやスタビライザーのスペックを改めつつ、リアには従来よりも0.5インチ拡幅した11.5インチ幅のシューズを標準採用したというフットワークには、今回「カレラS」用に「GT3」や「ターボ」グレードが先鞭を付けたリア アクスル ステアをオプション設定、というニュースも聞くことができる。
あらたなグラフィックを採用したライト類や、新デザインのエンジンリッドなど、見た目の新鮮さもアピールするあたらしい911カレラ シリーズ。しかし、その真骨頂が「走りにまつわるあらゆる部分のアップデートにこそある」というのは、いかにもポルシェらしいリファインのやり方。
実際に自身でドライブをしても、"エンジンがターボ付きとなった"ということに留まらない進化ぶりをたっぷり味わわせてくれるにちがいない、新世代911の誕生だ。