4WD×ターボのポルシェ(後編)、ポルシェ 911 ターボ S|Porsche
CAR / IMPRESSION
2015年1月14日

4WD×ターボのポルシェ(後編)、ポルシェ 911 ターボ S|Porsche

Porsche 911 Turbo S(Type 991)|ポルシェ 911 ターボ S

4WD×ターボのポルシェ(後編)

ポルシェ ハイパワーモデルの看板として綿々と開発が続けられる“ターボ”と“4WD”という、ふたつのキーテクノロジー。「911」を中心に、「ボクスター」「ケイマン」「カイエン」「パナメーラ」、そして「マカン」とラインナップを拡充していくなかで、昨今その技術はさらに魅力を増している。今回は、数あるポルシェファミリーのなかから、最新モデル「ポルシェ パナメーラ ターボ エグゼクティブ」と「911 ターボS」の2モデルにフィーチャー。前後編の2部構成でお届けする。今回はその後編。

4WD×ターボのポルシェ(前編)

Text by OTANI TatsuyaPhotographs by ARAKAWA Masayuki

真のフラッグシップモデル

現時点でポルシェ「911」のフラッグシップモデルといえば、本特集のテーマでもあるターボと4WDを組み合わせた「911 ターボ」であることはまちがいないが、正確を期せば、そのなかでもさらにハイパフォーマンスな「ターボS」こそ911の頂点に君臨するモデルだ。

911ターボにも搭載される3.8リッター水平対向6気筒ツインターボエンジンの最高出力を520psから560psまでチューンアップ。さらにロールスタビライゼイション システムのPDCCやセラミックブレーキシステムのPCCBで足下を強化した911ターボSが現行991タイプの最強モデルであることは誰もが認めるところだろう。

4WDシステムを装備する“素”の911 カレラ 4

では、今後発表されることが期待される「911 GT2」がデビューしたら、911ターボSの立場はどうなるのか? おそらく、991タイプでも911 GT2は駆動系を2WDにするなどして軽量化を図り、ニュルブルクリンクでは911ターボSを凌ぐラップタイムを記録すると予想される。そのとき、911ターボSはフラッグシップモデルの称号を失ってしまうのだろうか?

筆者はこの問いに、敢えてノーと答えたい。確かにサーキットでのラップタイムは、走りの性能に特化した911 GT2にかなわないだろう。けれども、多くの人々が911に期待するポイントはサーキットでの速さだけではない。長距離をハイスピードで安心して走れるグランドツーリスモとしての性格、そして日常的な使い勝手や快適性なども911の素晴らしい長所である。

その意味からいえば、4WDの恩恵でスタビリティが高く、快適性の点でも優れていて、しかも圧倒的な速さを誇る911ターボSこそ、911を代表する真のフラッグシップモデルだとおもう。

Porsche 911 Turbo S(Type 991)|ポルシェ 911 ターボ S

4WD×ターボのポルシェ(後編) (2)

911ターボと911 GT2のちがい

私は昨年8月にドイツでおこなわれた911ターボならびに911ターボSの試乗会に参加し、997タイプより一層進化したそのパフォーマンスを堪能したが、今回、日本上陸を果たした911ターボSをほかの911と乗り比べてみて、911ターボSが動力性能の点で911の頂点に位置しているだけでなく、スタビリティや快適性などの分野でも他の911を凌いでいることに気づいた。

子供の頃、学校の通信簿がレーダーチャート式だった方もいらっしゃるだろうが、たとえていえば、911ターボSは国語も算数も社会も理科も体育も図画工作もすべてオール5の優等生みたいなもの。

つまり、レーダーチャートでいえば、バランスがとれた大きな丸である。それに対してほかの911はレーダーチャートが丸い形を示すことはおなじながら、オール3とかオール4といった成績に留まっている。

さらにいえば911 GT2は体育だけなぜか10(!)だけど、ほかの科目はほとんど4ばかり。レーダーチャートで表せば体育のところだけ飛び出していて、あとはやや小さめの丸というイメージだ。このままではちょっと911 GT2がかわいそうだけれど、決して悪い意味ではなく、バランスがとれた911ターボと一芸に秀でた911 GT2のちがいというように受け止めていただければ幸いである。

Porsche 911 Turbo S(Type 991)|ポルシェ 911 ターボ S

4WD×ターボのポルシェ(後編) (3)

何ともいえないしっとり感

さて、およそ半年ぶりに箱根で再会した911ターボSだが、ドイツで乗ったときより心なしかエンジンのレスポンスが向上しているようにおもえた。

率直にいえば、997タイプの911ターボSもドイツで試乗した991タイプの911ターボSも、程度は軽いながらもターボラグはあったが、その応答時間は991タイプのほうが確実に短くなっていた。ところが、日本で乗った911ターボSはもはやターボラグが感じられず、スロットルペダルを踏み込んだ瞬間にトルクが立ち上がるほどレスポンスが鋭くなっていたのである。このリニア感が、ワインディングロードを攻めるときに大きな武器となることはご想像のとおりである。

エンジンサウンドがより静かに感じられたことも、国際試乗会での印象と異なっていた点のひとつ。ドイツで乗ったときは、普段は静か、でも飛ばすとそれなりに迫力あるエグゾーストノートを響かせたものだが、今回試乗した911ターボSはフルスロットルまで徐々にボリュームを上げていくものの、途中から急に音量が大きくなるポイントがなく、あくまでも心地いい範囲に留まっていた。個人的には、日本で乗った仕様のほうが好みである。

さらにいえば、たとえば911カレラSよりも911ターボSのほうが明らかにノイズが小さく感じられたことも大きな発見だった。ご存知のとおり、ポルシェ911といえば普段遣いできるスポーツカーとして知られるが、911ターボはほかの911よりも念入りな遮音対策がほどこされているせいかロードノイズなどが一段と静かで、これがある種の高級感に結びついているようにおもえたのだ。

乗り心地もまったく同様。もちろん、普通の911だってスポーツカーとしては乗り心地が抜群にいい。ところが、911ターボはそのさらに一段上、いや二段上(?)は確実にいっている。なにしろ、路面からズンと大きな突き上げがあっても、911ターボSのサスペンションはそれをたおやかに受け止め、滑らかに衝撃を吸収してしまうのだ。

その何ともいえないしっとり感は、コストがかかったサスペンションパーツが使われていることと、それらを腕のいい職人たちがじっくりチューニングしたことを想像せずにはいられないほど心地よいものである。

それでいながらスポーツカーとしてのパフォーマンスは信じられないほど優れている。0-100km/h加速3.1秒の猛ダッシュを可能とする560psのエンジンパワーはときに恐怖感を覚えるほどの動力性能を示すほか、コーナリングスピードの高さも呆れるばかり。しかも不安感を伴わないから、いつもの20~30%増しのペースでワインディングロードを駆け抜けるなんて朝飯前。難しい技術や理論など持たなくても、“峠の王者”になれるフールプルーフ性を911ターボSは有しているのだ。

Porsche 911 Turbo S(Type 991)|ポルシェ 911 ターボ S

4WD×ターボのポルシェ(後編) (4)

楽しくないはずがない

ずば抜けて速いけれど、快適で運転も簡単と聞くと、なんだか腰抜けなスポーツカーのようにも思えてくる。しかし、こうした見方には自信を持って反論したい。911ターボSは恐ろしいほど速くて快適だが、操っても抜群に楽しいスポーツカーだ、と……。

なんといっても、まずはそのステアリングフィールが素晴らしい。路面がどんな状態にあるのか、そしてフロントタイヤと路面の接地状態がどうなのかが、細大漏らさずドライバーに伝わってくる。まるで路面を手のひらで直接触れているかのような印象なのだ。そして徐々にペースを上げていけば、本当の意味での限界のはるか手前から「残り3割……」「残り2割……」「残り1割……」といった具合に、タイヤの余力を正確に教えてくれる。

したがって、ドライバーがきちんと感性のアンテナを張り巡らせている限り、「うっかり限界を超えてしまった」ということは起きえない。だから安心だし、しかもクルマを限界近くまで追い込んでいる実感も得られる。そんな対話をクルマとしながらワインディングロードを走っていて楽しくないはずがない。いや、これほど操り甲斐のあるスポーツカーは滅多にないといってもいいくらいだ。

だから、911ターボSはやはりポルシェ911を代表するフラッグシップモデルだと思う。そして911ターボSがこのポジションを手に入れるうえで、ポルシェが長年磨き上げてきたターボと4WDというふたつのテクノロジーは実に大きな役割を果たしているのである。

Porsche 911 Turbo S(Type 991)|ポルシェ 911 ターボ S
ボディサイズ|全長4,510 × 全幅1,880 × 全高1,295 mm
ホイールベース|2,450 mm
トレッド 前/後|1,540 / 1,590 mm
重量|1,610 kg
エンジン|3,799 cc 水平対向6気筒 ターボ
圧縮比|9.8:1
ボア×ストローク|102.0 × 77.5 mm
最高出力| 412 kW(560 ps)/ 6,500-6,750 rpm
最大トルク|750 Nm / 2,200-4,000 rpm
トランスミッション|7段オートマチック(PDK)
駆動方式|4WD
タイヤ 前/後|245/35ZR20 / 305/30ZR20
0-100km/h加速|3.1 秒
最高速度|318 km/h
燃費(JC08)|- km/ℓ
CO2排出量|242 g/km
価格|2,515万8,858円(税込)

ポルシェ カスタマーケアセンター
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