あなたのクルマ 見せてください 第11回 パリ篇
第11回 パリ篇 ディディエ・ジュオン氏×プジョー504カブリオレ 1973年
プジョーとシトロエン、対極的なフランス車との生活
各地に“普通のクルマ好き”を訪ね、人びとのクルマにたいする考え方、ライフスタイルを拝見するシリーズ「あなたのクルマ見せてください」。今回は花の都パリで暮らすヒストリックカー コレクターを大矢アキオ氏が取材し、プジョーとシトロエンというカラーのことなるフレンチ ブランドの旧車生活を語っていただいた。
Text & Photographs By Akio Lorenzo OYA
週末は自動車趣味人に変身
パリ在住のディディエ・ジュオン氏は、1959年生まれの今年56歳。夫人そして子供3人とともにブーローニュの森に近い16区の瀟洒なアパルタマンに暮らす。
ウィークデイはメトロに揺られて通勤する銀行員のディディエ氏だが、毎週末には“変身”する。もうひとつの顔は、「古いフランス車の愛好家」。彼の自動車趣味を覗かせてもらった。
――今日は「プジョー504カブリオレ」ですね。
数年前、雑誌のアノンス(告知欄)で南仏トゥールーズにあるのを見つけました。初期型の最終モデルである1973年型です。2リッターの105馬力仕様。プジョーでありながら、コーチワークはイタリアのピニンファリーナ製という、特色ある組み合わせにひかれました。私にとっては初のカブリオレです。フランスでは、価格がけっして法外でないのも購入を決めた理由です。
引き取りは、友達のクルマで行きました。前オーナーは、トゥールーズに本社を構えるエアバス インダストリーズで働くドイツ人で、18年間大切に乗っていたそうです。
――パリからトゥールーズまでは約680km、最低6時間はかかりますね。
でも、引き取ったその足で、同じ日にパリまで走って帰ってきましたよ! 今日の日常使用にもじゅうぶん耐え得ることを、さっそく証明してくれました。たとえ変速機が4段でもね。
――ディテールでお気に入りの点は?
まず、ベースとなった504ベルリーヌ(セダン)にはない三角窓。これは当時イタリア車のほうが数々のモデルに残っていました。
そして、なによりも3連のテールランプです。今日プジョー デザインを率いるダイレクターのジル・ヴィダル氏によれば、「308」をはじめとする昨今のプジョーのテールランプは、この504クーペ/カブリオレのものにインスピレーションを得たといいます。
――初のカブリオレということですが、他にお持ちのクルマは?
プジョーは往年の定番ベルリーヌである「404」を以前から持っています。2009年のフランス映画『プチ・ニコラ』では、主人公の家族が乗る劇中車として、私のクルマにお呼びがかかり撮影に使われました。
シトロエンは1968年「DS21」、1939年「トラクシォン アヴァン」、故郷のガレージには「2CV」があります。「アザム」という当時のデラックス仕様です。
第11回 パリ篇 ディディエ・ジュオン氏×プジョー504カブリオレ 1973年
プジョーとシトロエン、対極的なフランス車との生活 (2)
少年時代に走っていたクルマとともに
――シトロエンとプジョー、両方楽しんでおられる理由は?
かつて、ふたつのブランドイメージは、対極的でした。
シトロエンは過激なくらいアヴァンギャルド。いっぽうで、プジョーは質実剛健でした。フランス版メルセデス・ベンツのようにね(笑)。
――両方ともフランス車、というわけですね。でも、そこまで古いフランス車に惹かれる理由は?
自分の少年時代に街を走っていたものって、やはり思い入れがあります。
――たしかに、トラクシオン アヴァンも1980年代頭まで、パリではときおり、現役で走っているのを見かけましたね。
――ちなみにディディエさん、日頃の家族車は?
シトロエン「エヴァジオン(Evasion)」です。14年前に三男が生まれたとき、家族や故郷に住む両親全員で乗れるように、と買ったものです。
――7人乗りワゴンとは。趣味とは別に、意外に手堅い選択ですね。
でも実はね、各地の骨董市などで、いろんなお宝を買ってくるときにもエヴァジオンは便利なんです。
このあいだも、アルザス地方まで足を伸ばして、このプジョーの1972年型の50ccバイク「BB」を買ってきちゃった!
3段ギアで、ほら完動品! (夫人が「子供みたい」と笑うなか、ディディエさんは地下駐車場の通路をぐるぐると回り続ける)
ああ、それからもうひとつ、古いクルマって、独特のにおいが車内に漂っているでしょう。そう、香りさえこの趣味の楽しみなのですよ。