BMW M3 M DCT Drivelogic|ビーエムダブリューM3 M DCT Drivelogic|第24回 (後編)|マニュアルトランスミッションに勝ち目はないのか
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2015年4月13日

BMW M3 M DCT Drivelogic|ビーエムダブリューM3 M DCT Drivelogic|第24回 (後編)|マニュアルトランスミッションに勝ち目はないのか

第24回 BMW M3 M DCT Drivelogic(後編)

マニュアルトランスミッションに勝ち目はないのか

人間の左足のかわりに機械がクラッチを操作するダブルクラッチ式2ペダル・ギアボックスを前に、自称“マニュアル保存会 会長”の下野康史すらこう思った。「もう勝ち目ないな」と。

文=下野康史Photo by BMW

変速ロボットのほうが素早い

変速ロボットのほうが素早い

「BMW M3」に追加設定された新型ギアボックス「M DCT Drivelogic」は、期待を上回るデキである。
とくに変速の滑らかさは、フォルクスワーゲンの「DSG」、「日産GT-R」の「デュアル・クラッチ・トランスミッション」、「三菱ランサーエボリューションX」の「ツインクラッチSST」といった先発モデルをしのいでいる。ガチャガチャしたメカメカしさが見事にない。

これらのツインクラッチ式2ペダル・ギアボックスは、マニュアル変速機(MT)よりも多才なスポーツ性能が売りだが、日本市場で問われるのはなにより快適性だろう。つまり、どこまで一般的なトルコン式フルオートマチック(AT)並みに楽チンか、である。

M DCTはその点で、レクサスメルセデス・ベンツの「Eクラス」のATほどスムースではないが、しかし、それほど違わない。

一方、スポーツ・ギアボックスとしての性能は、従来の「SMG」を軽くしのぐ。それを端的に表すのが加速データで、M DCT付きは0-100km/hを4.8秒でこなす。6段MTより0.2秒速いのである。熟練したテストドライバーのシフトワークよりも、M DCTに載る変速ロボットのほうが素早いというわけだ。

ファン・トゥ・ドライブも勝っていた

ぼくは保存会の会長に立候補したいくらいのマニュアル好きだが、M3はM DCTで乗るに限ると思う。

4代目M3に搭載される4リッターV8エンジンは、最高8400rpmという高回転ユニットである一方、低回転域からビッグV8らしい大トルクを発生する。6速トップのまま30km/h以下から滑らかな加速を受けつけるし、高速道路の追い越しも、シフトダウン無用で用が足りる。そんな性格のエンジンだと、マニュアルは実はあまり“使いで”がない。

ファン・トゥ・ドライブも勝っていた

その点、M DCTはスポーツ・ドライビングをより身近なものにしてくれる。11種類もあるドライブ・モードをスポーティ側にセットすると、完全自動変速のAUTOモードでも、キックダウンやエンジンの応答性が鋭敏になる。これだけ変速が速く、滑らかだと、マニュアル・モードではついつい余計なシフトダウンをしたくなる。

「やっとM3に“トルコン”が出た」とか思って買ったモノグサ・ドライバーにも、スポーツ・ドライビングのチャンスをより多く与え、その楽しみを教えてくれるのがM DCTである。

ファン・トゥ・ドライブも勝っていた

「フォルクスワーゲン・ゴルフGTI」にDSGが搭載されたとき、MTにもう勝ち目ないなと、正直言ってMT好きのぼくですらそう思った。変速の機能だけでなく、ファン・トゥ・ドライブもDSGが勝っていたからだ。

加えて、燃費までわずかにしのぐと聞けば、MTはもはや左足の踏み損かもしれないと感じた。アルファ・ロメオの「セレスピード」に代表されるシングル・クラッチ型は、SMGも含めて、どれも「AT以上、MT未満」だと思っていたが、“DSG以降”はすっかり見方が変わった。

ツインクラッチ式は2ペダル・ギアボックスの世界を大きく変えたのである。


ファン・トゥ・ドライブも勝っていた

M DCT Drivelogicは、7段のギアを2つ
(1、3、5、7速と2、4、6速)に分け、
それぞれにクラッチを用意。
ひとつがエンゲージしている間にもう一方を
スタンバイさせることでギアを瞬時に切り替え、
スムーズな加減速ができる。
もちろん一連の制御は自動で行われるが、
マニュアル感覚の操作も可能。

車両概要|BMW M3

ハイパフォーマンスモデルを手がけるBMW M社による、BMWの主力車種「3シリーズ」ベースの高性能車。「M5」(ベースは5シリーズ)、「M6」(同6シリーズ)、「Z4 M」(同Z4)というMモデルのなかでも高い人気を誇り、各国のサーキットでも活躍している。

現行型はセダンとクーペ、カブリオレ(オープン)の3タイプがあり、カブリオレ以外が日本に導入されている。セダン、クーペともエンジン、コンポーネントの多くを共有する兄弟ではあるが、より長い歴史をもつクーペのほうがM3のイメージセッターといえるだろう。

4リッターV8エンジンが放つ、最高出力420ps、最大トルク40.8kgmというたくましいアウトプットを受けとめるのが、オーソドックスな6段マニュアルトランスミッション(MT)と、今回紹介した7段のデュアルクラッチ・トランスミッション「M DCT Drivelogic」。FR、つまり駆動輪は後輪で、BMWが理想と掲げる前後約50:50の重量配分は当然守られている。

0-100m/h加速はM DCTでわずか4.8秒。マニュアル仕様より0.2秒速い。従来なら一般的にマニュアルギアのほうが加速性能に優れていたが、オートマチックギアの洗練度はついにマニュアルを超えたといっても過言ではない。

全長4.6m、全幅1.8mのボディは、張り出したフェンダーやアルミ製ボンネットなどで堂々とした体躯に見える。とくにクーペでは軽量化がはかられ、ルーフは軽く高価なカーボン製である。

価格は、4ドアセダンが973万円(MT)と1020万円(M DCT)、2ドアクーペは1003万円(MT)と1050万円(M DCT)。左足でクラッチを踏む手動変速にこだわるか、機械がもたらすスムーズなパフォーマンスを味わうか。ギア違いの47万円の差は、ドライバーの価値観により見方が変わる。

           
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