日独プレミアムハイブリッドサルーンの世界|LEXUS & BMW
BMW ActiveHybrid 5|ビー・エム・ダブリュー アクティブハイブリッド 5
Lexus GS450h|レクサス GS450h
日独ハイブリッドサルーン比較
BMW アクティブハイブリッド 5 vs. レクサス GS450h
トヨタ「プリウス」が登場してからはや15年。“ハイブリッドカー”は巷に希な存在ではなくなって久しい。そして、ひとくちに“ハイブリッドカー”といっただけでは、いまや、それぞれのクルマの本質にはほとんど触れることがない。たとえば、今回、大谷達也氏が乗りくらべる「レクサス GS450h」と「BMW アクティブハイブリッド 5」。この2台は、おなじセグメントのおなじハイブリッドカーではあっても、おなじようなクルマではない。今後、協力関係の成果も報告されてくるであろうトヨタとBMW。この2社の、現在のクルマづくりには、どんなちがいがあるのか? OPENERSはハイブリッドサルーンをとおして、日独プレミアムブランドをあらためて比較する。
Text by OTANI TatsuyaPhotographs by MOCHIZUKI Hirohiko
ハイブリッドカーは運転しやすい?
先日、私が通っているスポーツ整体の待合室で、50代とおぼしき女性が隣の男性に話しかけていた。「そう、今度買い換えたクルマはハイブリッドじゃないから、それほど乗りやすくないのよ……」。これを聞いて私は「へーっ!」とおもった。ハイブリッドって運転しやすいんだ……
たしかに、電動モーターがエンジンをアシストすると低回転域の力強さが増すので、ハイブリッドカーはドライバビリティが高い=運転しやすいという側面はあるかもしれない。でも、だからといって「ハイブリッドカーは運転しやすい」と捉えたことは、これまであまりなかった。
しかし、言われてみれば、まさにそのとおり。というわけで、私はこの話を聞きながら、自分の偏狭さを反省するとともに、ハイブリッドの捉え方はひとそれぞれだな、とひとしきり考えさせられたのである。
もともとは燃費のいいクルマとして登場したハイブリッドカーだけれど、様々なメーカーがハイブリッドを手がけるようになって、ただのエコカーばかりではなくなってきた。
たとえば、電動モーターのパワーをパフォーマンス向上の手立てとして利用するメーカーもあれば、静粛性を高めて高級感を演出するのに活用するメーカーもある。近未来的な雰囲気、地球環境に優しいというメッセージを打ち出すための、ある種のイメージ戦略のためにかり出している例だってなきにしもあらずだ。
だから、ハイブリッドカー=省燃費車とダイレクトに結びつけるには、もはや無理がある。
トヨタ「プリウス」が登場して15年。ハイブリッドカーは個性化の時代に突入したのである。
BMW ActiveHybrid 5|ビー・エム・ダブリュー アクティブハイブリッド 5
Lexus GS450h|レクサス GS450h
日独ハイブリッドサルーン比較
BMW アクティブハイブリッド 5 vs. レクサス GS450h (2)
おなじハイブリッドとはいえ、中身は別物
今回はそんなハイブリッドカーの世界を味わうべく、2台のミドルクラスサルーンを取り上げてみた。1台は、元祖ハイブリッドのトヨタがつくり上げたレクサス「GS450h」。そしてもう1台は、ここのところ矢継ぎ早にハイブリッドカーをリリースしているBMWの「アクティブハイブリッド 5」である。
先ほどハイブリッドカーが個性化の時代に入ったと紹介したが、この2台はハイブリッドの成り立ちからしてそもそも大きくことなっている。
GS450hのハイブリッドシステムは、トヨタの他のハイブリッドとおなじTHS方式をもちいる。
その特徴は、エンジンとほとんど変わらない高出力な電動モーター(エンジン295psにたいしてモーター200ps)を搭載するとともに、ギアボックスにもなればエンジンとモーターの出力を混ぜ合わせる役割も果たすメカニズム(トヨタはこれを電気式CVTとも動力分割機構とも呼んでいる)を組みあわせることで、スムーズな変速と多彩な運転モードを実現したことにある。
特に、車速にかかわらずエンジン回転数を効率のいい範囲内に留めることができるのはTHS方式最大の特徴で、エンジンの効率的な活用に大きな効果がある。敢えて難点をいえば、モーターやバッテリーが大きくなりがちなことと、高速巡航時に高い効率を得にくいことだろうか。
たいするアクティブハイブリッド 5のメカニズムはとてもシンプル。なにしろ、エンジンとギアボックスのあいだにモーターとクラッチを押し込んだだけなのだから。この仕組みを聞いただけでも、なんとなくエンジンが主でモーターが従であることがイメージできるだろう。ちなみに、このハイブリッドシステムをつくったのはドイツのギアボックスメーカーであるZF。
彼らは、既存の8段ATとぴったりおなじ大きさのなかに、モーターとクラッチ、それに8段ATをパッケージした製品を開発し、自動車メーカーに供給しているのだ。
BMWが今年になって発表した3つのハイブリッドモデル、すなわち「アクティブハイブリッド 5」、「アクティブハイブリッド 3」、「アクティブハイブリッド 7」は、すべてこのおなじユニットを使っている。さらにいえば、アウディの「A6ハイブリッド」に積まれているシステムは、モーターの最高出力(54ps)も含めてアクティブハイブリッド 5と共通だ。
このシステムのメリットは小型・軽量でコストを抑えやすいことにある。
それ以外にも、ハイブリッドシステムの大切な役割であるブレーキ回生(減速時のエネルギーを電気に変換してバッテリーにチャージする機能)を有しているほか、ドライバーがあまりアクセルを踏んでいないときに敢えて充電をおこなわせてエンジンにたくさん仕事をさせ、結果としてエンジンの熱効率を高めるという芸当もできる。
また、ハイブリッド用の強力なモーターをスターターとして用いるので、アイドリングストップ後のエンジン再始動がスムーズなんてこともメリットとして挙げられる。
ただし、小型・軽量・低コスト以外のメリットはTHSでも実現可能なことばかり。というわけで、総合的に見てどちらがいいかは評価の分かれるところだが、システムが大きくて複雑なぶん、THSのほうが燃費改善効果の点では優れているといえるだろう。
BMW ActiveHybrid 5|ビー・エム・ダブリュー アクティブハイブリッド 5
Lexus GS450h|レクサス GS450h
日独ハイブリッドサルーン比較
BMW アクティブハイブリッド 5 vs. レクサス GS450h (3)
レクサスか、BMWか?
前置きが長くなった。実際クルマに乗ってみてどうだったのか、という話をはじめよう。
なかなかトヨタ的な世界観から抜け出せずにいたレクサスだけれども、そのなかで真っ先にレクサス独自の世界をつくりあげたのが現行型の「GS」だと私は捉えている。個性的なのは、スピンドルグリルを得たエクステリアだけではない。ダッシュボードが水平方向に長く伸びたインテリアデザインはレクサス オリジナルのもの。丁寧に縫製されたレザーシートのステッチもプレミアムサルーンに相応しいクォリティといえる。
GSの進化はデザイン面ばかりではない。いや、シャシーを含めた走りの性能の進化こそ、現行GSでもっとも高く評価すべきものだ。まず、ボディ剛性をしっかり確保。サスペンションまわりのパーツも妥協せずにしっかり設計し、それを念入りにチューニングしたことが見て取れる。
この結果、コーナリングで多少攻めてもすぐにはアゴを出さない骨太さと、引き締まったなかにも快適性の高い乗り心地を両立した。ステアリングフィールも良好で、路面の状況を確実に把握できる点も好ましい。
そういった進化をひとことで表せば、ヨーロッパ製のプレミアムブランドにようやく追いついた、ということになる。3.5リッターのV6エンジンはトップエンドまでスムーズさを失わないし、がなり立てるような安っぽいノイズとも無縁。また、中低速域でもモーターのアシストが働けば十分に力強い。スポーツ整体にいた女性が言っていたとおり、GS450hは“運転しやすい”ハイブリッドカーだ。
「これはアクティブハイブリッド 5もかなり苦戦を強いられるのではないか?」と予想しながら乗り換えたが、ボディの剛性感もサスペンションまわりのしっかり感も、申し訳ないがこちらのほうが1枚上手。ワインディングロードを飛ばしたときの安心感でも、BMWに1日の長がある。さきほどGS450hのステアリングフィールを褒めたが、路面の状態が実感としてより伝わってくるのはアクティブハイブリッド 5のほう。
それもステアリングだけでなく、タイヤの接地している様子が五感を通じてドライバーに伝わってくる。だからといってつくりが粗雑という意味ではなく、必要な情報だけを高精度なフィルターを通じて伝えてくるような印象。
それにくらべれば、GS450hはより洗練されているともいえるけれど、ある種の浮遊感というか隔絶感を伴っているといえなくもない。
だから、ドライバーズカーと呼ぶに相応しいのはBMWのほうだ。
繰り返しになるが、走りのクォリティにかんしていえばBMWとレクサスの差は確実に縮まっている。最終的に、デザインの好みであるとか、価格や省燃費性といった実利の面でどちらを選ぶかが決まったとしても不思議ではない。ただし、個人的にどちらのデザインが好みかと問われれば、私はアクティブハイブリッド 5と即答するだろう。
たとえば、ダッシュボード上の大型液晶ディスプレイに表示されるハイブリッドシステムの動作モードひとつとっても、アクティブハイブリッド 5のほうが洗練されていてスタイリッシュ。「そんな小さなこと?」とアナタはおもうかもしれない。けれども、些細なことにも手を抜かない緻密さこそ、プレミアムカーを購入する層がもっとも期待していることではないのか?
レクサスも相当にいい。けれども、プレミアムカーをつくりつづけてきた歴史の長さが、BMWにより深い味わいをもたらしていることは間違いないだろう。
BMW ActiveHybrid 5|ビー・エム・ダブリュー アクティブ ハイブリッド 5
ボディサイズ|全長4,910 × 全幅1,860 × 全高1,475 mm
ホイールベース|2,970 mm
トレッド幅 前/後|1,600 / 1,625 mm
最低地上高|140 mm
トランク容量|375リットル
重量|1,960 kg
エンジン|2,979 cc 直列6気筒 DOHC ターボ
圧縮比|10.2:1
エンジン最高出力|225 kW(306 ps)/5,800 rpm
エンジン最大トルク|400 Nm(40.8 kgm)/1,200-5,000 rpm
燃料供給装置|デジタル・モーター・エレクトロニクス(DME/電子燃料噴射装置)
モーター最高出力|40 kW(54 ps)
モーター最大トルク|210 Nm(21.4 kgm)
システム最高出力|250 kW(340 ps)
システム最大トルク|450 Nm(45.9kgm)
トランスミッション|8段AT
電池|リチウムイオンバッテリー
駆動方式|FR
タイヤ|245/45R18
燃費|13.6 km/ℓ(JC08モード) 14.6 km/ℓ(10・15モード)
価格|850万円
LEXUS GS450h|レクサス GS450h
ボディサイズ|全長4,850 × 全幅1,840 × 全高1,455 mm
ホイールベース|2,850 mm
トレッド幅 前/後|1,575 / 1,590 mm
最低地上高|130 mm
トランク容量|482リットル
重量|1,860 kg(I package1,820kg)
エンジン|3,456 cc V型6気筒 DOHC
圧縮比|13.0:1
エンジン最高出力|217 kW(295 ps)/6,000 rpm
エンジン最大トルク|356 Nm / 4,500 rpm
燃料供給装置|筒内直接+ポート燃料噴射装置(D-4S)
モーター最高出力|147 kW(200 ps)
モーター最大トルク|275 Nm
システム最高出力|256 kW(348 ps)
トランスミッション|電気式無段変速
電池|ニッケル水素電池
駆動方式|FR
タイヤ|235/45R18
燃費|18.2 km/ℓ(JC08モード) 20.5 km/ℓ(10・15モード)
価格|700万円(試乗車は“version L”で790万円)