新生Aクラスに試乗―渡辺敏史篇|Mercedes-benz
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2014年12月10日

新生Aクラスに試乗―渡辺敏史篇|Mercedes-benz

Mercedes-Benz A-Class|メルセデス・ベンツ Aクラス

プレミアムコンパクト市場に切り込むメルセデス・ベンツの先鋒

新生Aクラスに試乗―渡辺敏史篇

3代目にしてついに同セグメントで一般的なボディ形状をとった、メルセデス・ベンツ「Aクラス」。ジュネーブ国際モーターショーで発表されたそのコンセプトが、賛否両論をかもしたのも記憶にあたらしい。メルセデス・ベンツの意気込みを感じるその新型Aクラスに、河村康彦氏とおなじくスロベニアの地で試乗した渡辺敏史氏。コンパクトスポーツカーにはうるさい渡辺氏は、スポーティルックの新Aクラスをどう受け止めたのか。

Text by WATANABE Toshifumi

Aクラスの、おさらい

史上もっともコンパクトなメルセデスベンツである「Aクラス」が登場したのは98年のこと。おもえば当時から、彼らはきたるべき21世紀がコンパクトカー全盛の時代となり、みずからの存在意義を再定義すべき状況に立つことを予期していたのだろう。それを察したかのようにデビューした初代Aクラスには、世界の自動車メーカーが仰天するようなロジックが満載されていた。

サンドイッチ構造となったフロアの生み出す空間には燃料電池の搭載を想定し、そのための実証モデルが多数つくられただけでなく、市販モデルは専用設計のパワー&ドライブトレインを潜り込ませるようにマウント。

スペースユーティリティとともに先進的な衝突安全性を確保……と、コンセプトカーさながらの大胆なパッケージをとったのはその一例。いっぽうで高速スラロームテストでは横転危険性を指摘されるなど、ゼロからのエンジニアリングならではの生みの苦しみも味わった。

そのソリューションを徹底的に改良した2代目は、改善された重心位置や改良されたサスペンションを得て、メルセデスらしいスタビリティを確保。Bセグメントのサイズにして、Cセグメントのユーティリティを持つコンパクトカーとして、安定した存在感を放つようになった。が、後年、より室内空間を拡大させた派生車種である「Bクラス」の登場もあって、その支持が徐々に食われていったのも確かだ。

Mercedes-Benz A-Class|メルセデス・ベンツ Aクラス

プレミアムコンパクト市場に切り込むメルセデス・ベンツの先鋒

新生Aクラスに試乗―渡辺敏史篇(2)

メルセデス・ベンツ風ホットハッチ

3代目となるあたらしいAクラスは、それらの経過をもってまったくあたらしいソリューションをもちいた、フルモデルチェンジとあいなった。先に登場したBクラスが、Cセグメント級の車格にしてスペースユーティリティを最大限に活かすパッケージであるのにたいして、Aクラスのそれはホットハッチとも称したくなる低く構えたもの。

それもそのはずで、全高は前型比で180mmも低く設定され、後席の居住空間は足元こそゆとりはあれど、ヘッドクリアランスは成人男子にとってミニマムに近いところまで詰められている。使い勝手は通常のCセグメントに近いところが確保されているが、居住性や積載力にかんしてはBクラスの存在を前提にスパッと割切り、パーソナルクーペ的な性格をグッと強めたという印象だ。



名前の「A」はアタック(Attack)のAでもある。これまでのメルセデスとはちがう、あらたなダイナミズムをみせることがAクラスの使命だ。商品企画の責任者が説明するとおり、Aクラスはメルセデスの「動」の一面を最大限にみせる施しが、スタイリング以外にも随所になされている。クオリティの高いインテリアが「SLS AMG」からのインスパイアを感じさせるのもしかりだが、もっとも端的なところはBクラスには設定されないハイパワーモデルの存在にあるといえるだろう。

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新生Aクラスに試乗―渡辺敏史篇(3)

エンジニアド・バイ・AMG

最大出力211psの2リッターガソリン直列4気筒ターボを搭載する「A250」、そして350Nmの最大トルクを発する2.2リッターディーゼル4気筒ターボの「A220CDI」には、AMGが開発にかかわった専用のフロントアクスルやサスペンションを採用したグレード「スポーツ(エンジニアド・バイ・AMG)」が用意される。

点描のような表現が印象的なダイヤモンドグリルや、前後の専用スポイラー、室内にはレッドのアクセントが随所にもちいられるこのグレードは、少なくともガソリンエンジンの「A250スポーツ」で日本への導入も期待される。試乗会の場ではさらに驚くべき情報として、AMGがすべてのエンジニアリングを手掛ける「A45AMG」の存在が告知された。さすがにスペックについてはいっさいの口外はなかったが、ライバルを圧するスペックと価格を想定しているというから、下馬評通り、4WDに200ps台後半のターボユニットを組み合わせるようなものになるかもしれない。いずれにせよ、AMGとしては初のFFベースでのセットアップとなるこのモデルは、色々な意味で興味深いものになりそうだ。

そんなモデルの存在をうかがわせる動的素性の良さは、試乗でもじゅうぶんに感じられた。供されたのは標準モデルのA250、そしてクローズドコースではA250スポーツを試すことになったが、いずれにも共通するのはメルセデス・ベンツらしからぬアジリティ(俊敏性)だ。

ステアリング切りはじめのごく初期からゲインが素早く立ち上がり、車体が反応よくきびきびと向きを変える。と、これまでのメルセデスとは真逆といってもいいほど初期応答性を締めあげている印象で、かつギア比もクイックなものだから、峠道などでは、操舵量にたいして曲がりすぎると錯覚するほどのキレたコーナリングを披露してくれるわけだ。


だが、そのリズムに慣れれば、ステアリングの操作量に応じて車体がリニアな反応をみせていることがわかる。特にロールの姿勢とスピードの推移は入念にチューニングされているとみえて、接地変化にたいして車体が不穏な動きをみせることはない。

全般にロードホールディングは完璧で、特にクローズドコースの高速スラロームでは、じつはFFスポーツモデルにとってもっとも重要なリアサスの盤石さを、しかと感じとることができた。

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新生Aクラスに試乗―渡辺敏史篇(4)

新型Aクラスの、その先

テンポを早めた運転リズムのなかでも、メルセデス・ベンツらしいスタビリティの高さと、リアルワールドでの自在なライントレース性とがしっかり活きている新型Aクラス。いっぽうで残念なのは、日常域での乗り心地が、各グレードを通じてやや粗めであることだ。本格採用から間もないランフラットタイヤの癖もあってのことだろうが、Bクラスもふくめて、メルセデス・ベンツらしい穏やかなライドコンフォートを得るには、いま一歩の熟成がもとめられるところだ。

この、真新しいFFプラットフォームは、A・Bクラスにとどまらず、今後はクーペフォルムの4ドアサルーンやコンパクトSUVなどのバリエーション展開を目論んでいる。2021年には現在の約1.7倍、1,000万台超の規模へと膨らむだろうプレミアムコンパクト市場において、それらをもって、トップのシェアを獲るというのがメルセデスの秘めたる目標だ。



いずれにせよ、そのグループの中でもっともスポーティなモデルとしてブランドを牽引することになるだろう、Aクラスのキャラクターは充分に察することができた。恐らくはその動的質感において賛否を呼ぶことになる大胆なフルモデルチェンジ。同時にこれは、メルセデスにとって目標のために掲げた避けられない挑戦でもあり、そのための計算尽くの変貌でもあるわけだ。

河村康彦氏による新型Aクラスのインプレッションもご覧ください

spec

Mercedes-Benz A250 BlueEFFICIENCY|メルセデス・ベンツ A250 ブルーエフィシエンシー
ボディサイズ|全長4,292x全幅1,780x全高1,433 mm
ホイールベース|2,699mm
エンジン|1,991cc直列4気筒ターボチャージャー
最高出力|155kW(211ps)/5,500rpm
最大トルク|350Nm/1,200-4,000rpm
トランスミッション|7段DCT
駆動方式|前輪駆動
0-100km/h加速|6.6秒
最高速度|240km/h
燃費|6.1ℓ/100km
CO2排出量|143g/km
ホイール|17インチ(スタイルライン アーバンライン設定時) 18インチAMGマルチスポーク軽量ホイール(AMGスポーツ設定時)
タイヤ|225/45(スタイルライン アーバンライン設定時) 225/40(AMGスポーツ設定時)

           
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