最新のポルシェ911ターボに試乗|Porsche
Porsche 911 Turbo|ポルシェ 911ターボ
最新のポルシェ911ターボに試乗
世界でもっともバーゲン価格のスーパースポーツカー
昨年12月に、ほかの911ファミリーと同じく991型の改良版へ進化した、ポルシェ「911ターボ」。991 II型の発表に合わせて「911カレラ」をはじめ一部モデルを除くほとんどの911シリーズがターボチャージャー付きエンジンを搭載するなか、これまでトップモデルとして与えられてきた称号「ターボ」を名乗る矜持はどこにあるのか。河村康彦氏が南アフリカのサーキットと公道で試乗し、その答えを探る。
Text by KAWAMURA Yasuhiko
進化し続けるポルシェ911
水平対向デザインのエンジンや、リアエンジンのレイアウト ―― ある意味“孤高”とも呼べそうなそうしたテクノロジーにこだわり、それを徹底して磨き上げることで、今も世界第一級のスポーツカーとしての座を守り抜くポルシェ「911」。
半世紀以上に及ぶ長い歴史のあいだで共に歩んで来た多様な嗜好を持つユーザーの声に応えるべく、ひとつのモデルの中に実にさまざまなバリエーションを擁するのもこのモデルならではの特徴だ。
その歴史を振り返れば、常に時代の流れを見据えたリファインが繰り返されて来たのも、911ならでは。本サイト上でもすでにその詳報をお伝えした「ターボ化が図られたカレラ シリーズ」も、まさにこの先も911というモデルが成長と発展を遂げていくための、ひとつの通過点ということになるはずだ。
そうした一方で、こうして大半の911がターボチャージャーを採用となると、その立場が微妙なことにもなりそうなのが、これまでフラッグシップ グレードとしてシリーズの頂点に君臨をしてきたターボ系のグレード。
カレラ系モデルにターボ付きの新世代パワーユニットが搭載され、まさに「そこのところ」が気になっていたタイミングで、こちらもさらなる進化を遂げたことが伝えられるターボ系モデルの国際試乗会が開催をされた。
主な舞台として用意をされたのは、遥か南半球に位置する南アフリカ第一の都市であるヨハネスブルグ近郊にあるキャラミ サーキット。
かつてはF1レースも開催されたこの場所は、現在はポルシェ南アフリカを経営するオーナーの手に渡り、敷地内にコンベンションセンターも新設するなど大改修作業の真っただ中。ピット上のホスピタリティブースなどもまだその全容を現してはいないものの、すでに路面部分は完成済み。今回のイベントは、まだ舗装も真新しいその新生コースを用いて行われた。
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最高出力は20psアップ
新たなデザインのフロントエプロンや、ベゼルが廃されてすっきりとしたドア アウター ハンドル。ターボ付きエンジンを搭載する最新カレラ系モデルと同様、エアインテーク部分のスリットが縦方向へと改められたうえで、「吸気を最適化する」という名目で新設された中央部のセパレートカバーが目を引くリアのエンジンリッドなど、今回リファインを受けたターボ/ターボSでは、いくつかの新しいコスメティックも認めることはできる。
けれども、そうした見た目の新しさもさることながら、“ポルシェのマイナーチェンジ”らしいのは、やはり新たに採用されたメカニズムの数々。従来型同様、クーペとカブリオレという2タイプのボディに設定をされるこの2つのグレードには、これまでにも増して魅力的な“走り”に関する最新アイテムが、いかにもシリーズのフラッグシップ グレードらしく、多数用意をされているのだ。
そうした中にあってもまずハイライトとして紹介をしなければならないのは、「ターボ」で540ps、「ターボS」では580psと、それぞれ従来型よりも最高出力が20psずつ上乗せをされたフラット6エンジン。
3.8リッターの排気量は従来と同じものの、直噴システムに導かれる最高燃圧を140barから200barへと引き上げるなど多くのリファインを実施。ガソリンエンジンとしては唯一の可変タービンジオメトリーを採用するのはこれまでと同様ながら、今回は「ターボS」にはより大容量型のユニットを用いるなど、2つのグレードで異なるスペックのターボチャージャーを採用したことも新たなニュースになっている。
新デザインのステアリング ホイールに設けられたロータリースイッチでモード切り替えが可能な標準装備のスポーツクロノ パッケージには、電子制御が行われる各種ディバイスの動作をユーザーの好みでプリセットできる「インディビデュアル」モードを新設。
さらに、中央のボタンを押すことで20秒間にわたりエンジンやDCTのマップをよりスポーティなものへと変更させると同時に、タービンジオメトリーや点火時期の制御で“アンチラグ”的な効果を実現させる「スポーツレスポンス」の機能が設定されたことも、新モデルでのニュースとなっている。
ちなみに、今回のリファインを機に、シフトセレクターでのシーケンシャル操作方向は、引いて『+(アップ)』、押して『-(ダウン)』と、その方向が従来とは逆へと反転。こうして「サーキット由来」のロジックが採用されたのは、ひと足先にリファインが行われたカレラ系モデルの場合と同様だ。
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“イージーさ”と“際立つ速さ”が同居
前出キャラミのサーキットで主にテストドライブを行ったのは、クーペボディのターボS。すべての911シリーズ中のフラッグシップというポジションに君臨するこのモデルは、最高のスピード性能とともに、「もっともゴージャスな911」というキャラクターが目論まれた1台だ。
ターボ グレードではオプション設定となるアクティブスタビライザー「PDCC」や、セラミック コンポジットブレーキ「PCCB」などは、こちらでは標準での採用。フロントが245/35、リアが305/30とファットで薄いタイヤが装着されるホイールも、ターボSグレードにはよりレーシーなセンターロック式が与えられる。
1.6トンという重量のモデルに、580psと750Nmという最高出力と最大トルクを発する心臓を搭載。さらに、そんな怒涛の出力が電子制御式システムで4輪へと余すことなく分散される――――となれば、それが「めくるめく速さを実現させる」のは、もはや火を見るよりも明らかだろう。
ターボ グレードよりもコンマ一秒を削ったターボSグレードの0-100km/h加速タイムは、わずかに2.9秒とついに3秒を切るにいたった。ちなみに、かの「GT3 RS」でもその値は3.3秒。これだけでも、それがいかに「尋常ならざる速さ」であるかは明らかなはずだ。
実際、そんなターボSに乗り込んでアクセルペダルを深く踏み込むと、その刹那にまさに“身体がシートバックへと押し付けられる”のを実感。それは、多くの人にとってはもはや「恐怖を感じる加速力」でもあるはず。アクセルを床まで踏み続けるだけでも、ある種“覚悟”が要求をされるのが、このモデルの圧倒的なスピード性能なのだ。
その一方で、冷静さを失わず丁寧なステリアング操作を心掛ければ、さしたる危機感に襲われることもなくキャラミのハイスピードコーナーを次々と攻略していくことができた点にも、またこのモデルならでは綿密に作り込まれた走りのキャラクターを実感させられた。
そこでは、走行シーンに応じてコントロールされる前後のアクティブ エアロシステムがもたらす絶妙な空力バランスや、GT3由来のアクティブ リア ステアシステムなど、走りに走った末にセッティングが決定されたに違いないさまざまな最新のデバイスが、重要な“黒子”としての大きな役割を果たしていたはず。誤解を恐れずに表現すれば、そんな“イージーさ”と“際立つ速さ”が同居をしているのが、このモデルの走りの凄さと言って良い。
そんなこのモデルでサーキット走行を続けていると、圧倒的な制動力と耐フェード性の高さで定評あるPCCBも、実は最終的にはわずかにペダルタッチに変化を来すことに。
けれども、初めて訪れた高速サーキットを、さしたる不安も感じずに「そこまで攻められた」ということそのものに、このモデルの底知れぬほどの走りのポテンシャルを感じさせられのもまた事実であったものだ。
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街乗りシーンでもまったくストレスを感じさせない
一方で、そんなターボSでサーキットを後にして一般道へと乗り出すと、今度はこのモデルが身につける「すこぶる快適でゴージャスなGTカー」という、もうひとつの側面を目の当たりにすることとなる。
前出の新システムの採用もあってか、事実上“ターボラグ”など気にならないエンジンと、微低速シーンでも滑らかな動きを実現させる“PDK”=7段DCTの組み合わせは、街乗りシーンでもまったくストレスを感じさせないことが大きな美点。
同時に、視界や静粛性に優れ、アクティブ リア ステアリングが逆位相制御も行うことで小回り性にも優れるこのモデルは、実はその実用性も想像以上に高いもの。加えて、瞬時にアプローチアングルを増すことができるリフトシステムがオプション設定され、スマートフォンとのリンクも可能な最新のテレマティクスシステム“PCM”がついに日本仕様にも導入となれば、日常シーンでの使い勝手も大幅に向上したのが新しいターボ系モデルでもあるのだ。
クーペのターボSで2,500万円超という価格は、確かに絶対的には極めて高価。けれども、かくも“あらゆるシーンで飛び切り高性能”という事実を突きつけられると、実は「世界でもっともバーゲン価格のスーパースポーツカー!」と、そんな評価を下してもあながち的外れには当たらないと、そうも思えてしまう最新のフラッグシップ911がこのモデルであるのだ。
Porsche 911 Turbo S
ボディサイズ|全長 4,507 × 全幅 1,880 x 全高 1,297 mm
トレッド 前/後|1,541 / 1,590 mm
車両重量|1,600 kg
エンジン|3,800cc 水平対向6気筒 ツインターボ
ボア×ストローク|102.0 × 77.5 mm
圧縮比|9.8
最高出力| 427 kW(580 ps)/ 6,750 rpm
最大トルク|750 Nm/ 2,250-4000 rpm
トランスミッション|7段デュアルクラッチ(PDK)
駆動方式|4WD
ブレーキ 前|φ410×36mm ポルシェ セラミック コンポジット(PCCB)
ブレーキ 後|φ390×32mm ポルシェ セラミック コンポジット(PCCB)
タイヤ 前/後|245/35R20 / 305/30R20
0-100km/h加速|2.9 秒
0-200km/h加速|9.9 秒
最高速度|330 km/h
サスペンション 前|マクファーソンストラット式
サスペンション 後|5リンク式
トランク容量|前 115 ℓ /後 260 ℓ
燃費(NEDC複合)|9.1 ℓ/100km(およそ11.0km/ℓ)
CO2排出量|212 g/km
Porsche 911 Turbo
ボディサイズ|全長 4,507 × 全幅 1,880 x 全高 1,297 mm
車両重量|1,595 kg
エンジン|3,800cc 水平対向6気筒 ツインターボ
ボア×ストローク|102 × 77.5 mm
圧縮比|9.8
最高出力| 397 kW(540 ps)/ 6,400 rpm
最大トルク|710 Nm/ 2,250-4000 rpm
トランスミッション|7段デュアルクラッチ(PDK)
駆動方式|4WD
ブレーキ 前|φ380×34mm ベンチレーテッドディスク
ブレーキ 後|φ380×30mm ベンチレーテッドディスク
タイヤ 前/後|245/35R 20 / 295/35R 20
0-100km/h加速|3.0 秒
0-200km/h加速|10.4 秒
最高速度|320 km/h
サスペンション 前|マクファーソンストラット式
サスペンション 後|5リンク式
トランク容量|前 115 ℓ /後 260 ℓ
燃費(NEDC複合)|9.1 ℓ/100km(およそ11.0km/ℓ)
CO2排出量|212 g/km