アウディAG技術開発担当取締役 ミハエル・ディック氏 インタビュー|Audi
CAR / NEWS
2015年5月15日

アウディAG技術開発担当取締役 ミハエル・ディック氏 インタビュー|Audi

第42回東京モーターショー2011 来日VIPインタビュー

アウディAG 技術開発担当取締役 ミハエル・ディック氏 インタビュー

先進技術による4本の柱(1)

一貫して「Vorsprung durch technik(技術による先進)」というキーワードを掲げて技術指向を強調しつづけているアウディは、ここに来て次の世代のモビリティを意識させるあたらしいテクノロジーとして、3本の柱を立てている。それが「Audi ultra(アウディウルトラ)」「Audi connect(アウディコネクト)」「Audi e-tron(アウディe-トロン)」だ。

そうは言っても、これらは突然打ち出されたものではなく、アウディが今まで積み重ねてきた技術の延長線上にあるものも多い。これまで構築されてきたものと、あらたに開拓していこうというもの。それらを融合させて整理したのが、その3本の柱と言うことができるだろう。東京モーターショーのため日本を訪れたアウディAG技術開発担当取締役のミハエル・ディック氏に、そんなアウディの最新テクノロジーについて、改めてうかがった。

Text by SHIMASHITA YasuhisaPhoto by ARAKAWA Masayuki

新型A6、A8に投入された最新の軽量化技術

「アウディは技術にかんして大きな戦略を立てていて、4つのキーワードがあります。まずアウディウルトラは、自動車の軽量化技術の総称です。他社でもカーボンファイバーを使うなどの試みがなされていますが、アウディウルトラではいろいろな材料をミックスして適切なかたちで使うことを考慮しています。

アウディAG技術開発担当取締役 ミハエル・ディック氏 インタビュー|Audi|02

A6

アウディAG技術開発担当取締役 ミハエル・ディック氏 インタビュー|Audi|03

A8

重要な戦略として我われは、あたらしいモデルを出すときには必ず、以前のモデルよりも軽量化するということを掲げています。それを証明しているのが新型A6、そして新型A8です。それ以外のモデルも次のモデルチェンジのフェイズではおなじことを実現していきます」

軽量化技術のフル活用=「アウディウルトラ」のメッセージ

自動車の軽量化に、アウディは以前から積極的に取り組んできた。なにしろ1994年デビューのA8で、オールアルミ製ボディ構造の「ASF(Audi Space Frame)」を採用したほどだ。現在ではTTにもアルミとスチールのハイブリッド構造としたASFが用いられている。

あたらしい素材としては、まずCFRP(炭素繊維強化プラスチック)が挙げられる。この、いわゆるカーボンファイバーは鋼材にくらべて実に60パーセントの軽量化を可能にする。またFGRP(ガラス繊維強化プラスチック)も改めて採用範囲を拡大しているという。

アウディAG技術開発担当取締役 ミハエル・ディック氏 インタビュー|Audi|04

初代 A8

当然、高張力鋼板の採用も拡大されている。これは高い強度をもつことから重量軽減が可能になるのだ。こうした軽量化技術をフルに活用していくこと。それがアウディウルトラのメッセージなのである。

第42回東京モーターショー2011 来日VIPインタビュー

アウディAG 技術開発担当取締役 ミハエル・ディック氏 インタビュー

先進技術による4本の柱(2)

e-モビリティの究極的な形「R8 e-トロン」

「つづいてe-トロンですが、今回はQ5とA6のハイブリッドを持ってきました。さらにA8もくわえた合計3クラスにフルハイブリッド車を用意しています。これらは高効率なのはもちろん、走る楽しさも失っていません。

4気筒ターボエンジンと電気モーターの組み合わせによって、6気筒並みのパワフルさを、4気筒の燃費で楽しめるのです。

2012年末には、ピュア・バッテリーEVとして技術の粋を注ぎ込んだ“R8 e-トロン”を登場させます。このクルマはバッテリーだけで150~200kmの航続距離を実現し、またスポーツカーの走りを可能とするものです。そして2013年にはプラグインハイブリッドのA3 e-トロンが登場します。50km程度までは電気モーターだけで走り、その後はエンジンも併用します」

アウディAG技術開発担当取締役 ミハエル・ディック氏 インタビュー|Audi|06

A6 ハイブリッド

以前、アウディはe-トロンは高価格帯からの展開になるとしていた。R8 e-トロンのようなハイエンドモデルが先行し、その技術を下方に展開していくというロードマップだが、ピュア・バッテリーEVだけでなくレンジエクステンダーつきEV、プラグインハイブリッドなども、このe-トロンのアンブレラの下で展開されることになって、方針は微妙に修正されたようである。

アウディAG技術開発担当取締役 ミハエル・ディック氏 インタビュー|Audi|07

A2 コンセプト

「大事なのはモデルサイクルです。途中でつけ足すのではなく、設計の段階から電動化を考慮した設計でなければならないんです。実際の商品としてつづくのはA4とQ7になるかと思います。A1 e-トロンは現在20台が実証実験に供されていて、今後はそれが100台に増える予定です。つづいて登場するのはA3 e-トロンでしょう。また、ピュアEVとしてはフランクフルトモーターショーでA2コンセプトが発表されています」

ただしA2にかんしては、市販の際にはプラグインハイブリッド化されるという話もある。それはひとえに航続距離のためだ。

いっぽう、それではなぜR8 e-トロンにはエンジンを積まなかったか。 それは、R8 e-トロンがe-モビリティによって何ができるのか、その究極を追求した存在だからだという。

クルマ同士のコミュニケーションによって、環境負荷の低減などを図る「アウディコネクト」

「アウディコネクトは、単にインターネットに接続できるだけのものではありません。“Car to Car”のコミュニケーションを可能にし、また渋滞や前方の事故などの状況を、クルマが知らせてくれるなど、安全面でも大きな役割を果たすことになります。将来的には、一定の場面ではクルマが自律運転するという可能性も考慮しています。狭い駐車場での自動車庫入れとか、渋滞を避けるとか。ある速度まではドライバーに代わって運転するというのも夢ではないでしょう。

クルマの自律走行をアウディでは「オートパイロット」と呼びます。

アウディAG技術開発担当取締役 ミハエル・ディック氏 インタビュー|Audi|08

飛行機の自動操縦のように、ある程度は機械に任せつつも最終的な責任はあくまで人間にあるという意味からのことです。私たちの本拠地 インゴルシュタットでは、数年前から“パイロットプロジェクト”が進行しています。たとえば、そのフリートの車両は街の信号と交信して、信号で停まることなく走れるよう誘導されます。これはCO2の削減にも繋がります。とくに都市部では、自動車を快適に使うという意味で、まだまだできることは多いと考えています」

第42回東京モーターショー2011 来日VIPインタビュー

アウディAG 技術開発担当取締役 ミハエル・ディック氏 インタビュー

先進技術による4本の柱(3)

都市部ではCO2を出さず、長距離ではCO2ニュートラルであることを目指す

こうして見ていくと、アウディの打ち出しているあたらしいテクノロジーは、いずれもとくに環境負荷の低減、持続可能なモビリティへと繋がっていることがわかってきた。アウディウルトラは運動性能向上と燃費向上の両面でプラス。アウディe-トロンは動力性能と環境性能の両立を可能とする技術と言える。そしてアウディコネクトは、快適性向上に大きく貢献し、そしてやはり環境負荷の低減に繋がっていくはずだ。

「自動車のエネルギーの主流は、当面のあいだは化石燃料でしょう。ですが当然、再生可能エネルギーにも目を向けています。A3やA4には天然ガス仕様が用意されます。また“バランスドモビリティ”として、発電した電気をクルマに水素としてストレージすることも考えています。ピーク時にクルマに電気をストレージして、必要な時には、あるいはインフラストラクチャーが整備された時には水素としてもどすということも考えています。

また私たちはバイオガス、風力発電などにも多額の投資をおこなっているのです。

アウディAG技術開発担当取締役 ミハエル・ディック氏 インタビュー|Audi|10

A3 TCNG

将来的には、都市部ではCO2を出さず、長距離ではCO2ニュートラルであることを目指します。排出した分はほかの方法でオフセットするということですね」

しかしながら環境性能だけではクルマは売れない。それが現実だ。アウディも当然そんなことは百も承知。そこでもうひとつ、テクノロジー3本柱と並ぶ重要なテーマとしてディック氏が挙げたのはデザインだった。

感情を刺激する、アウディのデザイン

アウディAG技術開発担当取締役 ミハエル・ディック氏 インタビュー|Audi|11

A3 e-トロン

「私は技術者なので、最後にこの話をするのですが、お客様のアウディを選んだ理由として、真っ先にあがるのがデザインです。アウディには今までお話ししてきたようなあらゆる技術がありますが、それもこれもまずはお客様にアピールできるプロダクトがあることが大前提なのです。ですから今後も、アウディはお客様に魅力的と感じてもらえる商品を出しつづけていかなければならないと考えています。

そうして目指すのは、自由な移動を確保すること。

それも単にA地点からB地点へと移動できればいいというのではなく、それを快適さや楽しさがあるものにしていきたいと考えています。私たちはスローガンとして“Design follows Function”と言っていて、ここでは機能が先に来ているのですが、今後も感情にアピールする商品を送り出していきたいと思っています」

現在、日本市場でも絶好調のアウディ。このデザインふくむ見映えという面でのアピールはずいぶん浸透してきたが、その背後にあるテクノロジーという部分では、まだまだ訴求が足りていないというのが実際のところだろう。3本柱改め4本柱。しかしそこだけに終わらない。これがアウディの前進を支えるキーワードということになりそうである。

           
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