アウディによる未来に向けたクルマ─A1&A3 e-tronに試乗|Audi
Audi A1 e-tron|アウディ A1 eトロン
Audi A3 e-tron|アウディ A3 eトロン
アウディによる未来への提案
A1&A3 e-tronに試乗(1)
アウディが「未来」を箱根にもちこんだ。さる2011年11月に、箱根のターンパイクを借り切って、e-tron(イートロン)と名づけたゼロエミッションビークルの試乗会を開催したのだ。
文=小川フミオ写真=高橋信宏
レンジエクステンダーとしての「A1 e-tron」
e-tronとは、アウディが提案するモビリティのあたらしいコンセプト。今回ドイツから、インゴルシュタットのナンバープレートをつけたまま日本にもち込まれたのは、「A1 e-tron」と「A3 e-tron」の2モデル。
アウディでは「e-mobility」というプロジェクトを立ち上げており、これからも続ぞく、電気自動車やハイブリッドなど代替燃料車をはじめ、未来に向けたコンセプトをもつモデルが発表されるそうだ。
A1 e-tronは、2011年に日本市場にも導入されたアウディラインナップ中もっともコンパクトなA1をベースにしたモデル。全長3,970mmの2ドアボディに、レンジエクステンダーのコンセプトが詰め込まれている。
レンジエクステンダーは、電気自動車の一形態。電気モーターとバッテリーで走るが、バッテリー残量が少なくなった場合、エンジンが(自動的に)始動してバッテリーに電気を供給する。それによって、電気自動車のネックである航続距離(レンジ)を拡大(エクステンド)することを目指す。ローカルエミッションといって、クルマが排出する汚染物質はゼロにできないが、小型エンジンで事足りるし、充電インフラへの依存度も比較的軽くて済む。現実的なコンセプトだ。すでに市場では、シボレー・ボルトのような先行例もある。
A1 e-tronのパワーユニットは、45kWの連続出力と、150Nmのトルクをもつ。モーターやコンバーターなどからなるユニットはフロントに横置きされる。バッテリーは12kWhのリチウムイオンで、センタートンネルとリアシート下に搭載される。電気は、254ccのシングルディスクのNSU製ロータリーエンジンが供給してくれるため、ピュアEV(電気自動車)に比べて小さく収まるのが特徴だ。エンジンはリアに搭載される。
Audi A1 e-tron|アウディ A1 eトロン
Audi A3 e-tron|アウディ A3 eトロン
アウディによる未来への提案
A1&A3 e-tronに試乗(2)
最大航続距離140kmのピュアEV「A3 e-tron」
A3 e-tronは、ピュアEVのコンセプトモデル。4ドアハッチバックのA3の車体を使い、60kWの連続出力をもつ水冷式電気モーターと、シングルスピード・トランスミッションが組みあわされている。バッテリーはリチウムイオンで、30個のモジュールは、荷室下、後部座席下、センタートンネルに分散して搭載される。分散の目的は、大型バッテリーが居住空間や荷室を圧迫しないためと説明される。
A3 e-tronは、バッテリーがフルに充電された状態で、約140kmの走行が可能。「市街地における日常的な走行では充分」とアウディではしている。試乗車にはまだ搭載されていなかったが、現在考えられているのは、3つの走行モード。電気モーターが最大のパワーを発生する「ダイナミック」モード、航続距離を伸ばすためシステムのパワーを抑制する「オート」モード、そして、電気モーターの出力を50kWに抑え最高速度も145km/hから110km/hに下げるなどして航続距離を最大にする「エフィシエンシー」モードだ。
効率よくパワーを使い航続距離を伸ばすためには車体重量の低減も効果的。A3 e-tronは、A3スポーツバック2.0クワトロTDI(日本未発売)と比較しても、「わずかに重い」(アウディ)1,592kgにとどまっているという。さまざまな角度から、あたらしい時代のクルマをより現実的に考える。「他の競合モデルとことなるところは、日常的な運転に適し、ドライバーはまったく妥協する必要がない点」とアウディが強調するのもわかる気がする。
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Audi A3 e-tron|アウディ A3 eトロン
アウディによる未来への提案
A1&A3 e-tronに試乗(3)
スポーツカーのような機敏さを備えるA1 e-tron
A1 e-tronとA3 e-tron。どちらもe-tronというサブネームがついているが、ここまで触れてきたように、A1ベースの車両はガソリンエンジンも搭載したレンジエクステンダー、A3ベースはピュアEVだ。
操縦感覚も大きくことなっている。まずA1 e-tron。乗った印象は、驚くほど軽快でハンドルを切り込んだときの車体の反応がよい。まるでスポーツカーのように、舵角にたいしてすなおに反応し、機敏にクルマが曲がるのは、まことに気持ちがよい。A1じたいもハンドリング性能にすぐれているが、いってみれば別次元。瞬時に最大トルクを発生する電気モーターの恩恵で、上り勾配がきつい箱根ターンパイクでも、大型排気量のガソリンエンジン車のようなパワー感を味わうことができた。
エンジンブレーキの効き具合を調整できるパドルシフトを用意
このレスポンスのよいハンドリングについては、「前方には小さなパワーユニットのみ。重量物であるバッテリーは車軸近くに、しかもコンパクトに搭載でき、そして小型のロータリーエンジンのユニットはわずか65kgしかないうえ、リアに搭載することで前後の重量配分が理想に近くなっているため」と、車両とともに来日したアウディの商品戦略担当者は分析してくれた。
ステアリングコラムには、パドルがついているが、これは変速機のギアセレクターではない。右手側を手前に引くと5段階でエンジンブレーキの効き具合が調節できる。左手側は段階的な解除。それによって、ブレーキング時のパワーでバッテリーへ電気が供給される回生ブレーキの度合がコントロールできる。たとえば「5」まで選択すると、アクセルペダルを離したときに、ググッと強い、いわゆるエンジンブレーキがかかる。コーナーの手前などで減速のさいにも、多少役に立つ。
「通常のEVやハイブリッドではアクセルペダルに載せた足の力をゆるめると回生ブレーキが働きますが、運転感覚に不自然さがつきまといます。アウディとしてはドライビングの自然な感覚を重視するので、回生ブレーキはドライバーが意思をもっておこなえるのがよい、とパドルシフトの利用を採用しました」。試乗会会場で、アウディの技術者が説明してくれた。
Audi A1 e-tron|アウディ A1 eトロン
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アウディによる未来に向けたクルマ
A1&A3 e-tronに試乗(4)
あたらしい楽しさをもったクルマの時代
A3 e-tronの操縦感覚は、よりフツウのA3に近い。冷却水でつねに最適という20度から55度の幅で保たれているリチウムイオンバッテリーを30個のモジュールで搭載しているにもかかわらず、搭載位置を3つに分けるなどの工夫で、スペースの犠牲を避けつつ、重量配分や重心高に配慮しているせいだろう。
重量もノーマルとほぼ変わらない約1.6トンで、それゆえ、トルクは走り出しから高速まで衰えることがなく、みるみる速度が上がっていくさまは異次元的な感覚すらおぼえる。270Nmの最大トルクは車体が重いと感じさせることもない。1.4リッターターボエンジン搭載の市販モデルでは、燃費を重視してはやめはやめにシフトアップしていくマッピングゆえか、少々スムーズさに欠ける印象がある。というか、その変速ショックなど意識しはじめると多少うっとおしい。あえてそれをネガと呼ぶなら、e-tron版にネガはない。
よく動くサスペンションによる軽快で快適なフットワークをもっている。ゆえに箱根の山を高速カーブを連ねて上っていくターンパイクのような道でこそ、美点を味わいつくせるとすら感じられる。この場所を試乗会会場に選んだアウディは自社製品の本質を深く理解している。「EVモデルの発売はまだ先になります」というアウディ本社に勤務するドイツ人の製品戦略担当者の言葉が、ずいぶん慎重なものと思えるほど、完成度は高かった。
A1 e-tronとA3 e-tron、どちらが好きかと問われれば個人的には、よりスポーティだった前者と答える。しかし今回、A1でレンジエクステンダーを、A3でEVを開発したのは「たまたま」(アウディの技術者)であって、「将来的に向けて、さまざまな組みあわせを検討しています」(同)とする。
「研究者にとっては、電気モビリティが定着するかどうかはもはや論点ではなく、いつ定着するかが問題なのです」
これはアウディが紹介しているドイツの自動車工学の教授の談話。2台の市場の結果、その「いつ」がなるべくはやく来るように願いたくなった。クルマ好きにとって、いよいよ、あたらしい楽しさをもったクルマの時代が到来する。