ニュー911の真相に迫る! 『911スニーク・プレビュー』レポート|ポルシェ
Porsche 911|ポルシェ 911
より軽く、より速く、そしてよりエコに!
ニュー911の真相に迫る!(1)
今年のフランクフルトモーターショーにおける最注目株が“991型”と称される次期型ポルシェ 911だ。大幅なダイエットがほどこされた、先代とほぼ同寸のボディに、さらなるハイパワーと圧倒的な環境性能を手に入れた同車。その詳細を明らかにするイベント『911スニーク・プレビュー』が、ポルシェの本拠地 シュトゥットガルトにあるポルシェミュージアムで開催された。ジャーナリスト 河村康彦氏による現地レポートをお送りする。
Text&Photos by KAWAMURA Yasuhiko
ポルシェ車初のCO2排出量200g/km切り!
最近、新開発エンジンへと換装されたE 63 AMGのセダンが230g。「次期モデルではふたたび6気筒にもどる」と噂される、現在はV8エンジン搭載のM3が263g。「“300km/hクラブ”に初参入」と謳うXKR-Sが292g。そして、日本代表のIS-Fが270g――これらは、それぞれメルセデス・ベンツ、BMW、ジャガー、レクサスが現在のカタログにラインナップする「2輪駆動で0-100km/h加速が4秒台の、2ペダルトランスミッションを備えたハイパフォーマンスモデル」の、“NEDC”測定法による1kmあたりのCO2排出量だ。
さすがに、エンジンのリファインのみならずフル電動式のパワーステアリングやアイドリングストップメカを採用するなど、総力を挙げてCO2削減に取り組んだE 63 AMGの数字の小ささが目だつものの、おしなべて「この程度の加速能力の持ち主の排出量は200g台の後半」と言ってもよさそうな傾向が見てとれる。ところが、そんなところに同様の加速力を誇りつつなんと200g割りという排出量を達成した、とんでもない“刺客”があらわれた。まもなく開幕するフランクフルトモーターショーでの正式発表がアナウンスされている、あたらしいポルシェ 911がそれだ。
“ハイパフォーマンス+高い環境性能”の時代
前述ショーに先駆けてドイツ南部の都市 シュトゥットガルト郊外にある本社に隣接のポルシェ博物館で開催された事前発表イベント、『911スニーク・プレビュー』で明らかにされた次期911シリーズのベーシックグレードのデュアルクラッチ式トランスミッション“PDK”搭載モデルの加速タイムとCO2排出量は、それぞれ4.6秒と194g/kmという値。
ちなみに、オプションの“スポーツクロノ・パッケージ”にふくまれるローンチコントロール機能を用いると、前出加速タイムは4.4秒にまで短縮される。
いずれにせよ、“991型”と称される今度の911が際だつCO2排出量の少なさ、燃費の良さを大きな武器としてもつことは、こうした数字だけでも十分にイメージができる。ハイパフォーマンスなスポーツカーでも……いや、ハイパフォーマンスなスポーツカーだからこそ、環境性能の高さが大きな売り物になるという時代が、いよいよやって来たということだろう。
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ニュー911の真相に迫る!(2)
ボディサイズはほぼ不変だが……
歴史ある空冷式エンジンとの決別が話題となった996型。そんな996型から基本骨格は受け継ぎつつ大幅なリファインをおこなった従来の997型にたいして、今という時代を象徴するかのごとくかくも衝撃的な環境性能の高さを謳う今度の991型は、ポルシェみずからが「すべてのコンポーネンツのうちの90パーセントを新開発、もしくはあらためて見なおした」と語る新世代の911だ。そして、そんな次期モデルは一部の予想に反して、大幅なボディサイズ拡大という道は選ばなかった。全長こそわずかに延長されたものの、全幅は不変で全高にいたっては数ミリメートルというオーダーながら減少しているのだ。
今回のイベントで詳細データが明かされたのは、シリーズのベースとなる後輪駆動のクーペモデル。『カレラ』と『カレラ S』と称される2タイプが、搭載するエンジンの排気量やいくつかの装備品などによって区分されるというのは従来と同様のポルシェの流儀。
そして、そうした心臓が発するスペックがそれ以前のものよりも確実に強化されるというのも、すべてのポルシェ車に共通するモデルチェンジごとの“慣例”でもある。
148ccダウンサイジングしたカレラ、据え置きのカレラ S
そんな911型でのトピックのひとつは、前出2タイプのモデルに積まれる水平対向6気筒エンジンの排気量の差が、これまでよりも拡大されたことだ。具体的には、カレラ用ユニットが3,436ccでカレラ S用が3,800ccちょうど。すなわち、後者は従来とおなじキャパシティで据え置きに、カレラ用はこれまでの3.6リッターユニットよりもピストンストロークを4mm短縮することで、178ccの“ダウンサイジング”を図っているのだ。
ボクスター S/ケイマン S用と同一排気量となったそんな新カレラ用の心臓はしかし、これまでの997型カレラ用3.6リッターユニットと同一の390Nmという最大トルクと、350hpという5hp増しの最高出力を謳う。くわえれば、そんなスペックはミッドシップレンジ用として最強を誇るケイマンR用エンジンのデータを、さらに20hpと20Nmも上まわるものである。
すなわちポルシェは今回も、弟分たるミッドシップレンジのモデルと911とのあいだにこうして意図的に“数字上の敷居”を設けることで、911こそがみずからのイメージリーダーという姿勢を明確にしめしたのだ。
乗用車として初の7段MTを採用
ポルシェのラインナップ内のヒエラルキーを痛感させられるのは、こうした綿密なシナリオを知った瞬間。実は今や練りに練ったマーケティング戦略こそが、このメーカーの特徴でもあるのだ。
かくして、400cc近くまで排気量の差が開いた2種類の心臓にはカレラ、カレラ Sともに2種類のトランスミッションが組みあわされる。ひとつは、従来から受け継いだ“PDK”。そしてもうひとつは「乗用車用としては世界初」というタイトルが謳われた、“PDK”ユニットの構造をベースにしたという7段MTだ。
「“PDK”にたいして第3速は燃費狙いでハイギアード化。第7速は加速力確保を目的にローギアード化」と説明されるレシオを採用するこのトランスミッションの場合、最高速をマークするのは第6速。シフトパターンは、従来の6段MTパターンの右上に第7速ポジションがくわえられたもの。そんな新設ポジションへのシフトミスを防ぐべく、5速もしくは6速ギアが選択されている場合以外は第7速へシフトできない“シーケンシャル・シフトロック”が装備されている。
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ニュー911の真相に迫る!(3)
リアは「完全な新設計」
ボディ骨格が一新されたのを受けて、もちろんシャシーにも新デザインが与えられている。フロント/ストラット、リア/マルチリンク式というサスペンション型式はこれまで同様だが、フロントのトレッドはカレラで46mm、カレラ Sで52mm拡大され、リアは「完全に新設計」が謳われている。
電子制御の可変減衰力ダンパーを用いた“PASM”は、997型までにはなかった車高センサーをくわえて機能性を増したうえで、カレラ Sに標準で、カレラにはオプション。さらに、より強化型の足まわりとして“PASMスポーツシャシー”も用意する。トルクベクタリング機構もカレラ Sに標準でカレラにはオプション設定。MT仕様には機械式LSDを用いた“PTV”が用意され、PDK仕様には電子制御式のブレーキ・ディファレンシャルを用いる“PTVプラス”が採用される。
カレラ Sにオプションとして用意された初のフィーチャーは、前後サスペンションに油圧アクチュエーターを用いたアクティブ・スタビライザーを採用し、荷重変化特性のコントロールをおこなう“PDCC”。また、磁性流体の特性変化を利用してマウントの剛性と減衰力を制御する、すでにGT3で実績をもつ“ダイナミック・エンジンマウント”をあらたに組みあわせたうえで、アクセル線形や“PASM”の制御プログラム、PDK仕様車の場合にはシフトプログラムなどのマップをスイッチ操作ひとつで好みの状態へと変更させる“スポーツクロノ・パッケージ”が、従来と同様に双方のモデルにオプションとなる。
一挙にホイールベースを100mm延長
ところで、開発者の口から「デザイン上からの要求ではなく、レース部門からの声をメインとしたテクニカルな理由による」との注目すべきコメントが聞かれたのが、一挙に100mmも延長をされた2,450mmという値のホイールベースだ。
リア・オーバーハングの低い位置に、それ自体も低重心が特徴の水平対向エンジンを置くというのは、初代モデルの誕生以来、まもなく半世紀をむかえようという911の特徴中の特徴だ。それゆえ必然的にホイールベースは短めとなる一方、そんなレイアウトゆえに避けられないリアヘビーという重量配分がもたらす高速直進性の確保のむずかしさは、このモデルの宿命的なポイントでもあったものだ。
前述「レース部門からの~」というフレーズが象徴的な今回のホイールベース延長は、だからそんな911というモデルが抱えるウイークポイントに抜本的に切り込んだとも解釈できるリファイン。ちなみに、未確認ながら「将来のハイブリッド・モデル設定に向けての、エンジン・コンパートメントの拡大を図ったのではないか?」という推測もできないわけではないものだが……。
そんな“プラス100mm”のホイールベースを採用した991型のサイドビューに不自然な間延び感がともなわない点は、なかなか見事なスタイリング手腕と言っていいだろう。すでに本サイトでも多数の写真がリリースされているのでここでは多くを語らないが、カレラで19インチ、カレラSでは20インチと従来よりインチアップをされた大径シューズを標準で履く背景には、このあたりの自然なプロポーションを実現という目的もあったのではないだろうか。
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ニュー911の真相に迫る!(4)
トータル30~45kgの車輛重量低減を実現
ところで、そんな991型の真の技術的なハイライトは、じつは「見えない部分にある」と言ってもいい。
「燃費向上のためのさまざまなアイテムや安全性向上策のために単純計算では従来型比で60kg近いプラスになるところを、ボディ自体やそのほかあらゆる方策によって100kg近い軽量化を図ることで、トータル30~45kgの車輛重量低減を実現させた」というのがこのモデル。シェル部分のみで70kgの軽量化というボディ骨格には、スチールにくわえてアルミやマグネシウム材などが“適材適所”に使用され、フロントフェンダーやフード、ドアやエンジンリッドにはアルミパネルを採用。また、インテリア用樹脂トリムの肉厚最適化などにも取り組むなど、極めて緻密な軽量化策がほどこされたのだ。
結果、MT車では1.4トンを下まわり、もっとも重いカレラ SのPDK仕様車でも1,455kg(DIN規格測定値)と、997型カレラのもっともベーシックなMT仕様と同一値という“軽量ぶり”を軸としながら、操舵時以外はエネルギーを消費しないフル電動式のパワーステアリングやアイドリング・ストップ機構の採用、走行中のアクセルOFFでエンジンとトランスミッションを切り離し、アイドリング状態での“セーリング走行”を可能としたPDKの制御などなど、さまざまな新機軸を総動員した結果が、冒頭に述べた「おどろきの低CO2排出量」に繋がっているというわけなのだ。
まったくノーマル状態のカレラ Sで、ニュルブルクリンク旧コースのラップタイムが7分40秒と語る俊足ぶりとともに、驚愕の軽さとライバルを圧倒するCO2排出量/燃費性能を実現させたのがあたらしい911。そんな新世代のポルシェが、まもなく世界の道を走りはじめることになる!
Porsche 911 carrera|ポルシェ 911 カレラ
ボディサイズ|全長4,491×全幅1,808×全高1,303mm
ホイールベース|2,450mm
車輛重量|1,380(1,400)kg
エンジン|3.5リッター水平対向6気筒エンジン
最高出力|257kW(350hp)/7,400rpm
最大トルク|390Nm/5,600rpm
最高速度|289(287)km/h
0-100km加速|4.8(4.6)秒
燃費|9.0(8.2)ℓ/100km
CO2排出量|212(194)g/km
Porsche 911 carrera S|ポルシェ 911 カレラ S
車輛重量|1,395(1,415)kg
エンジン|3.8リッター水平対向6気筒エンジン
最高出力|294kW(400hp)/7,400rpm
最大トルク|440Nm/5,600rpm
最高速度|304(302)km/h
0-100km加速|4.5(4.3)秒
燃費|9.5(8.7)ℓ/100km
CO2排出量|224(205)g/km
※括弧に閉じられている数値(車輛重量、最高速度、0-100km/h加速、燃費、CO2排出量)が、PDKを装着した場合。