Mercedes-Benz E 63 AMG ダウンサイジングを経たスポーツセダンの真価
CAR / IMPRESSION
2015年4月8日

Mercedes-Benz E 63 AMG ダウンサイジングを経たスポーツセダンの真価

Mercedes-Benz E 63 AMG|メルセデス・ベンツ E 63 AMG

あたらしい心臓を得たAMG製スポーツセダンの真価(1)

メルセデス・ベンツは、E 63 AMGのエンジンを変更。名称の由来となっていた6.2リッターエンジンを廃止し、5.5リッターまで排気量を引き落とし、ターボチャージャーを2基搭載することによって、パワーアップと環境性能の向上を両立させたのだ。過給機に頼ったこのマイナーチェンジにネガティブな点はないのだろうか? モータージャーナリスト 河村康彦が、南仏・ポールリカールでセダンモデルに試乗し、その真価をたしかめた。

文=河村康彦

完全新開発の5.5リッターV8エンジンを搭載

BMWのM5ポルシェ パナメーラのターボ、あるいはジャガー XFRなどが直接のライバルと目されるメルセデス・ベンツ発のスーパースポーツ セダン&ステーションワゴンである『E 63 AMG』に、モデルチェンジがほどこされた。「でも、E 63 AMGってあたらしくなってまだ間もないよね……」という意見は、なかなか鋭いポイントを突いている。

ベースとなるEクラス セダンがフルモデルチェンジし“W211型”から“W212型”へと進化したのを受け、E 63 AMGも世代交代されたのは日本では2009年8月の末。遅れてデビューのステーションワゴン版にいたっては、日本でのデビューはまだ昨年の2月のことだった。

こうなると、実際にそのモデルを手に入れたオーナーならずとも、ちょっと心中穏やかではいられなくなりそう。「いくら何でも、このタイミングでのモデルチェンジは有り得ないのではないか!?」というわけだ。

Mercedes-Benz E 63 AMG|メルセデス・ベンツ E 63 AMG 試乗|02

結論からすれば、そんな今回のモデルチェンジとは、おもに「エンジンの換装」を示している。E 63 AMGは、そのネーミングの由来にもなっていたこれまでのオーバー6リッターの自然吸気エンジンから、AMGというブランドにとってはある意味“魂”とも言えるV型8気筒というデザインはそのままに、今度は2基のターボチャージャーの助けを借りた5.5リッターの完全新開発エンジンへと心臓を載せ換えたのだ。

Mercedes-Benz E 63 AMG|メルセデス・ベンツ E 63 AMG

あたらしい心臓を得たAMG製スポーツセダンの真価(2)

CO2排出量は22%ダウンの230g/kmを記録!

「なるほど、旧いエンジンから最新ユニットにチェンジしたんだな」と思わず納得したくなるストーリーに聞こえるが、ここでも“事情通”の脳裏にはあらたな疑問符が浮かぶはず。なぜならば、前出の自然吸気エンジンが生まれたのは2006年と、こちらも決して格別“旧い”ハナシではないからだ。それどころか、一度設計をすれば手をくわえつつ10年単位で搭載するのが当たり前という常識からすれば、むしろ「まだまだ若い」とさえ表現していいのがこの自然吸気エンジンだ。

そんな心臓部を、あえて後継ユニットを新開発してまで載せ換えた理由――それは、このところ欧州で厳しさを増す罰則つきのCO2排出量の規制にあったと推測できる。

Mercedes-Benz E 63 AMG|メルセデス・ベンツ E 63 AMG 試乗|04

Mercedes-Benz E 63 AMG|メルセデス・ベンツ E 63 AMG 試乗|05

CO2排出量=プレミア性?

ブランド全体の平均で決められた値をクリアしない場合、オーバーの度合いと台数を掛け算してペナルティを支払わなければならないというのがEUでの決めごと。AMGとして初の100パーセントオリジナル開発を謳い、高回転、高出力型を追い求めた前出の自然吸気エンジンは、そのパワフルさと官能的な回転フィールなどからパフォーマンス的には極めて高い評価を受けたものの、一方でCO2排出量の多さ=燃費の悪さがこれからの時代に合わないと判断されたというわけだ。

ヨーロッパ方式の測定モード“NEDC”による計測で、CO2排出量は従来モデルの22パーセントダウン――これが、新エンジンを搭載したE 63 AMGの実力とカタログでは謳われる。セダンでは230g/kmというその具体的データをおなじ500ps級エンジンを搭載する周辺モデルと比べてみると、M5が344g/km、XFRが292g/km、そして最新のパナメーラ ターボでも270g/kmと、新型E 63 AMGのデータはたしかに群を抜いている。

ちなみに、10気筒エンジンの搭載を止めやはりターボつきの8気筒新エンジンへとスイッチすることを発表済みの次期M5の場合、その値は232g/kmとこちらも大幅低減となる。今やヨーロッパのハイパフォーマンスモデルは、プレミアム性を競う指標のひとつとして、ハッキリとCO2排出量の少なさ=燃費の良さを謳うにいたっているというわけだ。

Mercedes-Benz E 63 AMG|メルセデス・ベンツ E 63 AMG

あたらしい心臓を得たAMG製スポーツセダンの真価(3)

さらにポテンシャルを引き上げるパフォーマンスパッケージ装着車

そうは言ってもこうしたモデルの場合、その引き換えに走りのポテンシャルがダウンしてしまうのでは、まさに本末転倒だ。実際、あたらしいE 63 AMGのエンジンは従来型と同等の最高出力をキープしつつ、最大トルク値は1割以上の上乗せをアピールする。さらに、最大過給圧を標準仕様の3割アップの1.3barまで高めたオプションの“パフォーマンスパッケージ”装着車にいたっては、最高出力を30hp以上、最大トルクはさらに100Nm(!)も上乗せと報告されている。今回、かつてはF1グランプリも開催された南仏はポールリカールのサーキットとその周辺の一般道でテストドライブをおこなったのは、その“パフォーマンスパッケージ”を装着したセダンモデルだ。

ゆっくりと走りはじめた段階でまず“安心”をさせてくれたのは、エンジン換装とともに効率を求めて完全電動化が図られたというパワーステアリング(EPS)が実現させていた、従来の油圧式同様に自然なフィーリングだった。

現在でもこの種のメカを用いた少なくない数のモデルが、なんとも人工的で路面とのコンタクト感に希薄なフィーリングを示すなかで、このモデルのEPSは「言われなければ気づかない」という、ごく自然な操作感を実現していたのだ。

と同時に、新エンジンとセットで新採用のトランスミッション“AMGスピードシフトMCT”が、微低速域でもオーソドックスなトルコンATと変わらぬなめらかな動作をおこなってくれることも確認。スタートクラッチ用にトルクコンバーターではなく油圧多板クラッチを用いたこのアイテムも、やはりより高い効率を謳うもの。ことほどさように、エンジン単体のみならず“総力戦”でCO2削減に挑んでいるのが今度のモデルというわけだ。

Mercedes-Benz E 63 AMG|メルセデス・ベンツ E 63 AMG

あたらしい心臓を得たAMG製スポーツセダンの真価(4)

“活きの良さ”を体感できるエンジン音

標準仕様にたいして1インチ増しの19インチのシューズを履いていたにもかかわらず、街乗りシーンではおどろくほどにしなやかなフットワークを提供してくれたあたらしいE 63 AMG。しかし、そんなジェントルさをかなぐり捨てるのが、それまで遠慮がちに扱っていたアクセルペダルを、あらためて深ぶかと踏み込んだシーンだ。

従来型を上まわるというまさに「シートバックに押さえつけられるよう」な絶対加速力もさることながら、スポーツ派ドライバーの心に文字どおり“響きわたる”のはサウンドであるはずだ。バリバリバリッ、と周囲の空気を揺るがすその音色は、ターボチャージャーという排ガスのエネルギー回収装置が備えつけられたことを忘れさせる“活きの良さ”。苦労をしてチューニングされたにちがいないそんなサウンドには、AMGというブランドがつねにV8エンジンとともに歩んで来たという、その歴史的背景を教えられる思いもする。

Mercedes-Benz E 63 AMG|メルセデス・ベンツ E 63 AMG 試乗|01

新デザインにあらためられたシフトセレクター脇のダイヤルで、ATのシフトモードを変更できるのは従来型と同様。パドル操作にたいしてほんのわずかな遅れは感じるものの、『M』モードを選択すると7段トランスミッションの変速はドライバー任せとなり、基本的にはアップシフトもダウンシフトも自動ではおこなわれない。

そんなシフト操作を楽しみつつ、時に速度が200km/hをオーバーするという本格的なサーキットをレーシングスピードで走るとなると、場面によってはさすがにアンダーステアが顔をのぞかせたりもする。そんな状況でも路面とのコンタクト感が濃密で、つねに安定志向のしつらえなので、安心して“セダンらしからぬ”ペースで駆けまわることができるのは特筆ものだ。

それにしても、そんなとてつもないスピード性能と街乗りシーンで見せたジェントルぶりとが、1台のモデルのなかに両立されているのはやはりおどろき。

そうした多彩な才能や燃費改善にたいしての執念までもをふくめ、なんとも“スーパー”な仕上がりを見せるのがあたらしいE 63 AMGというモデルなのである。

           
Photo Gallery