ポルシェのPHEVセダン、パナメーラ S E-ハイブリッドの燃費を計る|Porsche
Porsche Panamera S E-Hybrid|ポルシェ パナメーラS E-ハイブリッド
ポルシェのPHEVセダン
パナメーラ S E-ハイブリッドの燃費を計る
ポルシェの4ドアセダン「パナメーラ」のプラグインハイブリッドモデル、「パナメーラS E-ハイブリッド」。日本で実際の使用状況に近いと想定される、都心から郊外の千葉県幕張のオフィス街までを往復し、気になる“燃費”を中心にテストした。大谷達也氏が報告する。
Text by OTANI TatsuyaPhotographs by ARAKAWA Masayuki
ポルシェハイブリッドの実力
ポルシェ・ジャパン本社がある目黒のビルを出発したとき、「パナメーラS E-ハイブリッド」は電気モーターだけの力で音もなく走り始めた。システム立ち上げ時はバッテリーの電力を優先的に用いるEパワー モードが自動的に選択されることと、借用する際に車載のバッテリーが100パーセント充電されていたことが、その主な理由である。
この状態でもフルスロットルにすれば直ちにエンジンが始動し、その気になれば416psのシステム最高出力が手に入るものの、市街地交通の流れに身を任せている範囲でいえば、最高出力95psの電気モーターがじゅうぶん以上の働きをしてくれるので、パナメーラS E-ハイブリッドはそのまま音もなく走り続ける。この走行モードを、かりにEV走行と呼ぶことにしよう。
EV走行は市街地だけでなく、首都高に入っても続いた。試乗当日はEV走行のまま(つまりエンジンがかからないまま)スピードメーターが80km/hに到達するのを確認したし、ドイツの国際試乗会に参加した際にはアウトバーンで120km/hのEV走行を体験した。つまり、性能的にはEV走行だけでほとんどの状況を賄えてしまうのである。
実際、目黒から幕張まで目指したこの日の試乗でも、首都高湾岸線に合流する際の加速で10秒ほどエンジンが“かかった”だけで、その後もトリップメーターが24.7kmに到達してバッテリー残量が20パーセントへと低下するまでパナメーラS E-ハイブリッドはEV走行を続けた。ここまでの走行時間は36分で、平均速度はおよそ41km/h。ただし、この間ガソリンは一切使用していないので、一般的な計算方法による燃費は無限大だったことになる(オンボードコンピューターは99.9km/ℓと表示)。
その後は普通のハイブリッド車とまったく同じように、スロットルペダルを踏み込めばエンジンが始動し、離せばエンジンが止まってエネルギー回生をおこなうという状態を繰り返しながら目的地の幕張に到着した(この間の走行をかりに“ハイブリッド走行”と呼ぶ)。
目黒からここまで41.7kmを走るのに56分を要したので、平均速度はおよそ45km/h。いっぽう、オンボードコンピューターは33.8km/ℓという平均燃費を示していた。
最高出力416psのハイパフォーマンスカーが都市部を走行しての燃費が33.8km/ℓだったとは驚き以外の何物でもない。
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パナメーラ S E-ハイブリッドの燃費を計る(2)
ガソリンのみの平均燃費も優秀
もっとも、この数値だけを見てパナメーラS E-ハイブリッドが驚異的に低燃費と考えるのは、いささか早計である。というのも、前述のとおり最初の24.7kmは電気の力だけで走ったからガソリンはほぼ一滴も使っていない。言い換えれば、あらかじめバッテリーに充電していた電力という“燃料”を使ってパナメーラS E-ハイブリッドは走り続けていたのである。
では、一般的にいうところの燃費はどの程度だったのか?
幕張まで41.7km走って平均燃費が33.8km/ℓだったから、この間に消費したガソリンは1.23リッター。ただし、実際にガソリンを使いながら走ったのは(つまりハイブリッド走行区間は)バッテリー残量が20パーセントまで低下した24.7km以降のことなので、走行距離としては41.7kmから24.7kmを引いた17kmと見なせる。この17kmを1.23リッターのガソリンを使って走ったとすると、その間の平均燃費は13.8km/ℓ。これでも十分に立派な値だ。そして、もしもパナメーラS E-ハイブリッドの経済性を語るのであれば、この数字を用いたほうがふさわしいと私はおもう。
幕張での取材を終えて目黒まで戻る。この間、撮影のためにバッテリー充電のまねごとはしたが、実質的にはまったく充電していない。最終的に試乗を終えた段階でオンボードコンピューターは走行距離93.4km、平均燃費15.6km/ℓを示していた。幕張に着いたときに表示されていた平均燃費:33.8km/ℓにくらべるとすいぶん現実的な数字に引き戻された感があるが、それでもひと昔前のコンパクトカーに匹敵する燃費である。
ただし、前述したのと同じ方法でハイブリッド走行区間のみを取り出すと走行距離68.7km、使用燃料5.99リッターで、平均燃費は11.5km/ℓとなる。幕張までの“ハイブリッド走行平均燃費”にくらべると17パーセントほど低下しているが、これは都内の渋滞によって平均速度が下がったことが理由だろう。ちなみに、この間の平均速度は24.4km/hだった。
細かな数字ばかり羅列してしまったが、ここでオンボードコンピューターに表示された平均燃費を軸にして少しデータを整理してみると、最初のEV走行区間の平均燃費は99.9km/ℓ(0パーセント)、幕張到着までの平均燃費は33.8km/ℓ(41パーセント)、目黒帰着までの平均燃費は15.6km/ℓ(64パーセント)となる(カッコ内は全走行距離中、ハイブリッド走行が占める比率)。
つまり、パナメーラS E-ハイブリッドの“見かけ上”の平均燃費は、ハイブリッド走行がどの程度の比率で含まれているかによって大きく変わってくるのだ。
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パナメーラ S E-ハイブリッドの燃費を計る(3)
32.3km/ℓ 表示のカラクリ
実は、ヨーロッパではパナメーラS E-ハイブリッドの平均燃費を100kmあたり3.1リッターと表示している。日本風にいえば32.3km/ℓで、偶然にもハイブリッド走行比率が41パーセントのときに私たちが記録した33.8km/ℓときわめて近い。
このことからもわかるとおり、ヨーロッパの燃費計測ではEV走行を一定範囲含めてプラグインハイブリッド車の燃費を計算していると見なせる。この計算方法を私はまだしっかりと把握できていないのだが、基本的にはEV走行の航続距離をもとに計算するようだ。つまり、バッテリーだけで走行できる距離が長くなればなるほど、ハイブリッド走行比率を低く見積もって計算していいことになっているのだ。
なぜ、そんなことをするのか?
パナメーラS E-ハイブリッドはバッテリーだけで33.2kmを走行できると発表されている。かりに、あなたが毎日の通勤にパナメーラS E-ハイブリッドを使っているとしよう。また、自宅から勤務先までの距離は33.2km、往復66.4kmで、帰宅後は毎日バッテリーをフルに充電していると仮定すると、ハイブリッド走行比率はおよそ50パーセントとなるので、オンボードコンピューター上の平均燃費は30km/ℓほどを示すはず。そして通勤先までの距離が伸びれば見かけ上の燃費は低下し、短ければ向上するだろう。
EV走行がどのくらい含まれるかによって見かけ上の燃費が大きく変動することは先に述べたとおりだが、1日ごとの平均燃費という視点でいえば、これは1日あたりの走行距離とバッテリーの航続距離に大きく左右されることになる。
つまり使い方によって個人差があるわけだが、そんなことをいちいち勘案していると話がややこしくなるので、ヨーロッパでは「バッテリー航続距離をもとにしてハイブリッド走行比率を一義的に仮定」して平均燃費を計測しているのだ。だから、32.3km/ℓなんていう驚異的な燃費を表示できるのである。
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パナメーラ S E-ハイブリッドの燃費を計る(4)
欧州車がPHEVに積極的な理由
ただし、ポルシェは良心的なメーカーなので、ハイブリッド走行比率が100パーセントのときの平均燃費も公表している。その値は12.3km/ℓで、これも私たちが今回弾き出した数値にきわめて近い。
12.3km/ℓ。全長が5メートルを越え、最高速度が270km/hに到達するスポーツサルーンとしては実に立派な燃費だとおもう。ちなみにパナメーラS E-ハイブリッドの後席は、膝まわりに拳がふたつ半、頭上に拳ひとつ+αが入るスペースがあった。これはメルセデスEクラスなどに匹敵する広さだ。
そのいっぽうで、公的に32.3km/ℓという燃費データをうたえることは、自動車メーカーにとって大きなメリットがある。なぜなら、ヨーロッパの燃費規制は全販売モデルの平均CO2排出量を130g/km以下とすることを求めている。これを燃費に換算すると17.8km/ℓで、ポルシェのようにハイパフォーマンスカーばかり扱っている自動車メーカーにとってはきわめて厳しい目標であることがわかる。
けれども、プラグインハイブリッドであれば楽々とこの数値をクリアできるどころか、自社全体の平均CO2排出量の引き下げにも貢献してくれる。ヨーロッパの自動車メーカーがいま、こぞってプラグインハイブリッド車を市場に投入している最大の理由はこの点にあるのだ。
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パナメーラ S E-ハイブリッドの燃費を計る(5)
魅力的なプラグインハイブリッド車とは
極論すれば、ポルシェのようなスポーツカーメーカーがプラグインハイブリッドなしで130g/km以下というCO2排出量を達成するのは端から無理な相談だから、政府側がこの種の現実的な解決策を提供するのは決して悪いことではないとおもう。ただし、一般的にいって、プラグインハイブリッドとするためにバッテリーやモーターを搭載すればコストは上昇する。そして上乗せされたコストを負担するのは消費者だから、消費者の目線で価格の上昇分に見合った価値が盛り込まれていなければ、消費者がプラグインハイブリッド車をあえて購入することはないだろう。
ところがポルシェは、同等の動力性能を有するパナメーラSよりもパナメーラS E-ハイブリッドの価格を1万円だけ安く設定している。これには政策的な判断も強く働いていると想像されるが、それで燃費がよくなるのであれば消費者にとってはまちがいなくメリットとなる。
いっぽうで、車重はパナメーラS E-ハイブリッドのほうが重いから、ハンドリングはパナメーラSほど軽快ではないかもしれない。これらを含めて、クルマ1台の魅力を消費者がどう受け止めるかが、プラグインハイブリッド車の商業的な成否を決定づけることになるとおもう。
いかに魅力的なプラグインハイブリッド車を作り上げるか? CO2排出量削減という課題を突きつけられた自動車メーカーはいま、この難しいテーマに取り組んでいるともいえるのだ。
Porsche Panamera S E-Hybrid|ポルシェ パナメーラ S E-ハイブリッド
ボディサイズ|全長5,015 × 全幅1,930 × 全高1,420 mm
ホイールベース|2,920 mm
トレッド 前/後|1,658 / 1,662 mm
重量|2,095 kg
エンジン|2,995 cc V型6気筒 直噴DOHC スーパーチャージャー付き+電気モーター
エンジン最高出力|245 kW(333ps)/5,500-6,500 rpm
エンジン最大トルク|440 Nm/3,000-5,250 rpm
モーター最高出力|70 kW(95 ps)/2,200-2,600 rpm
モーター最大トルク|310 Nm/1,700 rpm
システム最高出力|306 kW(416ps)/ 5,500 rpm
システム最大トルク|590 Nm/ 1,250-4,000 rpm
トランスミッション|8段オートマチック(ティプトロニックS)
駆動方式|FR
タイヤ 前/後|245/50R18 / 275/45R18
最高速度|270 km/h
0-100km/h加速|5.5 秒
ハイブリッド燃料消費率|12.3 km/ℓ
充電電力使用時走行距離|33.2 km
電力消費率|3.54 km/kWh
EV走行換算距離(等価EVレンジ)|32.1 km
一充電消費電力量|9.07 kWh
価格|1,498 万円
ポルシェ カスタマーケアセンター
0120-846-911