畑を愛でて、ワインを楽しむ。星野リゾートがプロデュースする日本屈指のワインツーリズム|TRAVEL
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2023年7月19日

畑を愛でて、ワインを楽しむ。星野リゾートがプロデュースする日本屈指のワインツーリズム|TRAVEL

TRAVEL|星野リゾート リゾナーレ八ヶ岳

星野リゾート リゾナーレ八ヶ岳が、老舗・丸藤葡萄酒工業をフィーチャーした、一夜限りのメーカーズディナー

星野リゾート リゾナーレ八ヶ岳が、2023年6月11日に「ルバイヤートメーカーズディナー in リゾナーレ八ヶ岳 OTTO SETTE(オットセッテ)」を開催。当日は、ワインや食の愛好家をはじめとする15名が参加しました。本記事は、このとても稀有なイベントを取材した土田貴史(編集担当)と長谷川あや(ライター)が当日の様子を振り返った対談です。この時に学んだこと、感じたこと、その素晴らしさをレポートするのが目的です。今なお成長の只中にある日本ワインの“現在進行形”をお伝えできたら幸いです。

Text & Edit by HASEGAWA Aya, TSUCHIDA Takashi

来年の予習のために、今年の開催内容を一緒に振り返りましょう!

土田  ねえ長谷川さん、「メーカーズディナー」って銘醸地でとても流行っているよね。ワインを主役にして、そのワインを引き立てるように、食事内容が寄り添っていくディナーイベント。日本では山梨・長野のワインツーリズムを掲げている「星野リゾート リゾナーレ八ヶ岳」(以下、リゾナーレ八ヶ岳)が、素晴らしい内容を提供しているよ。
長谷川 うん、今回、1泊2日で行われた「ルバイヤート メーカーズディナー in リゾナーレ八ヶ岳 OTTO SETTE」に参加(※)したんだけど、リゾナーレ八ヶ岳の本気を見た! 半年前から準備していたと言ってたね。メインダイニングのオットセッテでは、この日のためだけに、ルバイヤートの「ワインを引き立たせる料理」を用意。オットセッテは何度も行ってるレストランなのに驚きの連続だった!
※ディナーは2023年6月11日の晩に開催。当日は東京から専用バスに乗り、ワイナリー訪問。ディナー後は一泊して、翌日の午後に、東京に戻るというコース内容。
ワインラヴァーの心を鷲掴みにする目くるめく展開がこの瞬間からスタート。中央が、オットセッテ八ヶ岳のソムリエ長久保正邦さん。ワインセラー内のボトルが10対1で日本産というのも非常にユニークですが、長久保さんご自身が、まさに日本ワインの“生き字引き”的存在。
土田  先に結論を言うけど、僕たち、日本ワインの評価軸を間違えていたように思う。なんで、旧世界(ヨーロッパ)のもの差しを、そのまま日本ワインに当てはめていたのか。僕たちには僕たちの食文化(※)があって、テロワールがある。その個性を磨くことが素晴らしいのであって、似たものを造る必要なんてなかったんだよね。
※単に和食を指すのではなく、フレンチやイタリアン、中華も含め、日本人の趣向にあったあらゆる料理、食文化をイメージしています。
長谷川 ルバイヤートを造っている勝沼の老舗ワイナリー、丸藤葡萄酒工業(以下、丸藤葡萄酒)のワインのポテンシャルの高さには、素直にびっくりした(笑)。あとで詳しく触れるけど、畑を見せてもらい、生産者の思いも聞いて、ただでさえ美味しいワインがますます美味しくなる。
話の展開を急いじゃうけど、特に私が唸ったのはマスカット・ベーリーA。日本代表品種の一つだけど、若い頃に飲んで、美味しいと思えなくて敬遠してたぶどう品種のひとつだったりするんだよね。でも、アペリティフのあと、着席してまず出てきたのが「ルバイヤート マスカット・ベーリーA 樽貯蔵バレルセレクト 2019」で、それがすごく美味しかった!
リゾナーレ八ヶ岳のワインショップ「八ヶ岳ワインハウス」でも販売されていた、「ルバイヤート マスカット・ベーリーA 樽貯蔵バレルセレクト」(※中央の棚の一番右。ただし、こちらは2020年のヴィンテージ)。

土田  テロワールにも食にも合ってないのに、強引に旧世界(欧州)を真似ていたワインは微妙だったよね。でも、そこから、すでに急激に進化している。このブドウは塩尻の秀逸な契約農家さんのものだって。しかも、樽貯蔵により、樽由来の第3アロマが付与されている。手間を惜しまずに造ると、こんなにも美味しいっていうことの実例だね。
長谷川 うん、マスカット・ベーリーA、見直したし(笑)、丸藤葡萄酒の気概を感じたよ。社長の大村春夫さんは、マスカット・ベーリーAの香りの特徴とされる「綿アメみたいな甘さ」(※)を除去したワインを作りたいという思いで、丹精込めて仕込んだって言ってたね。品格が感じられて可憐なワインだった。
※フォクシーフレーバー。アメリカ品種を親に持つブドウに出やすい。
大村さん、「この20年間で、マスカット・ベーリーAはだいぶ美味しくなった」とも……。どこから目線かわからないけど(笑)、昔の美味しくないマスカット・ベーリーAに対してマイナスのイメージを持っている人に、ぜひ、ルバイヤートのマスカット・ベーリーAを飲んでもらいたいな。
土田  本当に驚くのは、改善力。マズかったらどうすれば美味しくなるのかを考える。日本人らしく手間を惜しまず、醸造の技で美味しさを引き出し始めています。丸藤葡萄酒では、コールドマセラシオン(低温発酵)も行っていると教えてもらいました。まるで日本酒で言う、“吟醸造り”みたい! 現在進行系の進化を見守ることができるって、いまを生きている人だけに許されること。これって、スゴいことだと思う。
甲州とは、グリブドウ(薄い藤色)。その果皮の色が若干感じられる、ベージュ色のワインです。
長谷川 その次にいただいた「ルバイヤート  甲州シュール・リー 2020」も面白かったなあ。フレッシュだけど、しっかりと味わいに厚みもあって。甲州はコーカサス地方原産のブドウで、甲州盆地で1000年近く育てられてきた日本固有の品種だけど、ひとくちに甲州と言っても、ピンからキリまであるんだよね。でもこのシュール・リー(※)は秀逸だった。
※アルコール発酵を終え、死滅した酵母(=オリ)を樽から除去せず、そのまま一定期間熟成させることで、オリの風味を付与する製法。シュールは上、リーはオリを意味するフランス語。
土田  フランス・ロワール地方の「ミュスカデ」に倣って、まずマンズワインさんが1983年にシュール・リーを実施したそうだよ。その翌年に丸藤葡萄酒さんも試してみたって。企業規模がまったく異なるのに、そして失敗したときの痛手は大きいはずなのに、進取の精神が素晴らしいです。
長谷川 大村さん、トークが軽快で、自社のワインのことはもちろん、日本のワインの歴史についても忌憚なくいろいろな話をしてくれて。お勉強感覚ではなく、ワインがより美味しく飲める知識を伝授してくれる。ルバイヤートというブランドネーム(商標名)が、ペルシャ語で「四行詩」を意味するってことも初めて知ったよ。
土田さんはちゃんとワインの勉強しているけれど、ふだん「美味しい美味しい」と飲んでいるだけの私にとってもわかりやすかったし、興味深かったよ。メーカーズイベントの醍醐味だと思う。この日は、もはや途中で数えるのをあきらめたくらい、たくさんの種類──あれ、12種と言っていたかな──、丸藤葡萄酒のワインを飲んだけど、土田さん、何がいちばん印象に残ってる?
土田 「ルバイヤート2003」。20年という月日とともに、味わいの角が取れて、重心がフワリと浮上していて。うん、熟成の果ての軽やかさが、この「ルバイヤート2003」にはあった!

サプライズとして丸藤葡萄酒の大村社長が会場に持ち込んだ「ルバイヤート2003」。
長谷川 私も「ルバイヤート2003」がいちばん印象に残ってる。配布されたメニューにはなくて、メインの肉料理「ふじさんワインラムのブドウ炭焼き」の時にサプライズで出てきたんだよね。一口飲んで俄然、前のめりになった(笑)。エレガントで、でも軽やかで。大村さん、これからは長期熟成酒が伸びるって断言してたね。
ふじさんワインラムのブドウ炭焼き。
土田  長期熟成には、酸とタンニンがないと負けてしまう。でもその境地に、日本ワインも20年前のワイン造りから至っているってこと。熟成ワインがすべてではないけど、時間を経て俄然深まる旨味は、ワインの楽しみのひとつだからね。

ボルドーでは脇役となりがちな「プティヴェルド」が、日本のテロワールでは主役を張れるとは! しかも、ボルドーにはない軽やかさが見事でした。そして、ピラジン由来の青みのある香りを、お料理では紫蘇ソースで増幅。これなんです! 青みを消すのではなく、プラスの個性として捉え直す。なるほど、これがワインの個性に寄り添ったメーカーズディナーなのですね!! 日本の食文化でしかありえない提案がシビレます。
長谷川 きちんと熟成ができるワイナリーは、やはり優秀ってことだよね。ちなみに、メイン料理の時に供されたもうひとつの赤ワイン「ルバイヤート プティヴェルド2015」も、とても良かったな。あとイベントでは出てこなかったけど、オットセッテのソムリエの長久保正邦さんは、「2012 ルバイヤート メルロー プレスティージュ」を推してたね。土田さん、自宅用にショップでちゃんと買ってた。開ける時は声かけてくれてもよろしくてよ(笑)。
土田  このメルローも、10年の熟成がどういう結果になっているのか、とても楽しみだなっ。
今日の日のために、レシピを準備してきたオットセッテ料理長の鎌田匡人(かまた・まさと)さん。この日ばかりは、料理は脇役。その制作意図を壇上にて説明していただきました。
大村社長のトークの脇で、ソムリエ長久保さんが注ぐのがマグナムボトル。じつはこちらも、当初のメニューには告知されていなかった大村社長によるサプライズ。

ワインラヴァーが身悶えする、飲んで納得の社会科見学

土田 メーカーズディナーの前に、参加者皆んなで、ワイナリーを訪問したんだよね。今回のディナーは、東京駅から往復のツアーバスが出たんだけど、なるほど、この現場でテイスティングさせるための配慮だったんだね。そして、大村社長が自ら、自社畑を案内して、今に至る苦労を赤裸々に語ってくれました。
たとえば、国際品種のメルロー。ブドウ栽培には痩せた土地が適しているのなら、肥料を与えなければいいと判断したら、葡萄がパサつき始めたって……。日本の土は、肥沃とはいえ、それでも肥料が必要だったことに気づいたと。
1998年の大雪で、葡萄の木が霜焼けしてしまったときに、仕立てを変えてみたことも教えてもらったね。つまり、トライ&エラーなんだと。
この日は、蔵のなかでのティスティング。晴れていれば、畑の中でのティスティングを予定していたとか。
長谷川 灌漑の誘引も試行錯誤を重ねて、今の方法にたどりついたと言っていたね。棚仕立ての畑の横に垣根仕立ての畑があったり、畑ツアーにも、たくさんの「ほほう」があったよ。
垣根仕立てのシャルドネ畑にて、ブドウの生育状況を説明する大村社長。こんなライヴな話が、しかも母国語で聞けるとは! 海外ワイナリー訪問では、こうはいかない。
梅雨の季節、当日は雨。それでも全員が泥除けカバーを膝の高さまで上げて畑の中へ入り、熱心に話を聞いていました。さすが、ワインの猛者たち。
土田 このことから分かるのは、すでに最適解が出ている旧世界(※)に比べて、日本のワイン造りは、いまなお激動の只中にあるということ。現在進行形で年を追うごとに改善されていくから、その成長までも楽しめるんだね。
長谷川 丸藤葡萄酒では、コロナ前は、貯蔵蔵を使って、ワイングラスを傾けながら、音楽を楽しむ「蔵コン」を定期的に開催していたとのこと。復活したらぜひ足を運んでみたいな。
熟成庫も見せていただきました。ムムっ、新樽ばかりが、こんなに! ということは、かなりいい酒質を狙ったものが、今後登場してくるということですな……。
土田 ワイン造りだけでなく、ワインのある文化を創造しているのが素晴らしい。そういう精神性の高さが、業界を牽引しているのだと思います。
長谷川 今回はほんとうに夢のような体験をさせてもらったね。この日のためだけに発注した生花とか、いつも以上に丁寧な接客とか「メーカーズディナーイベントは、絶対に成功させる!」というスタッフの気合いを感じまくったよ(笑)。
土田 今回のメーカーズディナーは、ひと晩限り。今年のイベントは終わってしまったけど、丸藤葡萄酒さんとは今後もコラボレーションが続いていきそうです。
長谷川 山梨、長野には、深掘りしたいワイナリーがいっぱい。丸藤葡萄酒アゲインも興味深いし、ほかのワイナリ―も気になるところ。リゾナーレ八ヶ岳が手掛ける、次のメーカーズディナーが楽しみだね、ってすでに行く気満々なんですけど(笑)。
土田 うん、さすがワインツーリズムを謳っているホテルだなと思います。日本ワインは、いま何度目かの激動が起きていると感じます。だから当事者の皆さんの話がとても楽しい。日本のワインツーリズムは、いまが“旬”ですね。
当日のワインハウスは、ラインナップも特別バージョン。ワインの自動販売機も手前のボトル販売コーナーも、「ルバイヤート」をフィーチャーしていました。
星野リゾート リゾナーレ八ヶ岳
住所|山梨県北杜市小淵沢町129-1
客室数 |172室
チェックイン/チェックアウト|15:00/12:00
料金|1泊 24,000円〜(2名1室利用時1名あたり、税・サービス料込、朝食付)
アクセス|JR小淵沢駅から車で約5分(無料送迎バスあり)
問い合わせ先

星野リゾート リゾナーレ八ヶ岳
Tel.050-3134-8093(リゾナーレ予約センター)
https://hoshinoresorts.com/ja/hotels/risonareyatsugatake/

                      
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