青山の森を抜けた先に、ブルゴーニュの空があった。「OMAKASE青山ガーデン byGMO」体験記
LOUNGE / EAT
2025年12月18日

青山の森を抜けた先に、ブルゴーニュの空があった。「OMAKASE青山ガーデン byGMO」体験記

 

EAT|OMAKASE青山ガーデン byGMO

 
2025年12月1日、GMOインターネットグループが手がける「OMAKASE青山ガーデン byGMO」がオープン。四方を覆うLEDディスプレイがブルゴーニュの風景を映し出し、隠し扉の向こうには8席だけの至極のバーが待っている。
 

Text by AOYAMA Tsuzumi

IT企業トップが本気で挑む、ワインの世界

 
北青山3丁目。表参道の喧騒から一本入った路地に、不意に森が現れる。
 
夕暮れ時、街路に浮かび上がる緑の塊。左手がワインショップ、右手の森の奥にイマーシブ空間への入口がある。
 
鬱蒼とした緑に覆われた建物は、青山という街にあってどこか異質だ。ガラスと直線で構成された周囲のブティックとは明らかに違う空気をまとっている。2025年12月1日にオープンした「OMAKASE青山ガーデン byGMO」。GMOインターネットグループが手がけたイマーシブ体験型の文化施設である。
 
森を抜けると、四方の壁と床の全面がLEDディスプレイで覆われた空間に通された。映し出されていたのは、クラシックなフランスの屋敷の一室。高い天井、重厚な調度品、そしてその部屋の中央には、ワイングラスで構成されたシャンデリアがきらめいている。まるで18世紀のシャトーに招かれたような気分だ。
 
やがて映像が動き出す。視界がフランス・ブルゴーニュ地方の風景へと変わった。石畳の路地を歩く。ワイナリーの扉をくぐる。そして視点がふわりと浮き上がり、気がつけば広大な葡萄畑を空から眺めている。頬に風が当たる。本当に、風が吹いているのだ。
 
朝靄に包まれたブルゴーニュの丘陵。足元にも映像が広がり、まさに空中に浮いているような感覚に陥る。
 
映像は多彩に展開する。葡萄の葉脈やワイナリーのスケッチが、闇の中に白く浮かび上がるシーンも。
 
この映像コンテンツ、実はデモンストレーションである。この空間は本来、さまざまなクリエイターやブランドが借り受けて自由に世界観を表現するための「ホワイトボックス」なのだ。だが、このデモ映像を監修したのはGMOインターネットグループ代表の熊谷正寿氏自身。編集にまで携わったという。IT企業のトップが、なぜそこまでするのか。

隠し扉の先に現れた黄金のバー

 
ブルゴーニュの空を飛ぶ映像に浸っていると、不意にアナウンスが聞こえた。「ワインのご用意が整いましたので、後ろのバーカウンターへどうぞ」。
 
振り返ると、さっきまで壁だったはずの場所がいつの間にか開いている。
 
その向こうは別世界だった。ヴィンテージウッドの温もりとゴールドの光沢。壁一面に整然と並ぶグラス。頭上には、544個のワイングラスで構成されたシャンデリアが光を受けてやわらかく輝いている。デザインを手がけたのは森田恭通氏。わずか8席のカウンターバーは、どこか秘密のサロンのような親密さを湛えていた。
 
イマーシブ体験で五感を開かせ、そこから隠し扉の向こうの親密な空間へ誘う。この流れそのものが、熊谷さんの考える「ワインのもてなし」なのだと思う。

なぜブルゴーニュなのか

 
熊谷さんがワインに出会ったのは約30年前、西麻布にあった「椿」という店でのことだった。
 
「実は私、昔は仕事以外の趣味がまったくなかったんです。人との会話も、苦手としていた部分がありました」
 
そんな彼にとって、ワインは人との距離を縮める道具になった。ボトルを開ける前の期待、飲んだときの喜び、ときには期待外れに終わる落胆。その一本を誰かと分かち合うことで、場にドラマが生まれる。熊谷さんはワインを通じて、人との繋がり方を覚えたのだという。
 
ところで、なぜブルゴーニュなのか。イタリアにもスペインにも銘醸地はあるし、ナパ・ヴァレーのカルトワインはいまやコレクターたちを熱狂させている。率直に尋ねると、答えはこのうえなく明快だった。
 
「ブルゴーニュがワインの頂点だからです」
 
熊谷さんは世界最高峰の造り手たちの名を挙げた。「ロマネ・コンティ」で知られるDRC(ドメーヌ・ド・ラ・ロマネ・コンティ)。そしてDRCをも凌ぐ価格で取引されることもあるドメーヌ・ルロワ。「ブルゴーニュの女神」と呼ばれるマダム・ルロワがかつてDRCの共同経営者を務め、その後独立して立ち上げたこのドメーヌは、世界中の愛好家が追い求める存在だという。
 
正直に言えば、僕はワインに詳しくない。学びたいと思ったことは何度もあったけれど、その都度、広大なワインの世界のさらなる奥深さを思っては挫折を繰り返してきた。でも熊谷さんの言葉を聞いて、妙に腑に落ちるものがあった。
 
すべてを一度に理解しようとするから途方に暮れる。であれば、まず頂点から始めるという選択は、むしろ理にかなっているのではないか。ブルゴーニュを座標軸の原点として、そこから世界各国の産地へと旅を広げていく。ワインという大海に漕ぎ出すための、ひとつの羅針盤として。

1本を8人でシェアするその日限りの体験

 
このバーの名は「青山ワイン会」。毎晩がワイン会、というコンセプトで、日本最大級・約10万本の在庫から選ばれた希少な一本を、その夜居合わせた8人のゲストでシェアして楽しむスタイルだ。価格は国際的な平均価格を8等分し、最小限の手数料を加えた設定。原価に近い、という表現がふさわしい。
 
ソムリエがワインを注ぐ。カウンターの三方を囲むグラスの壁は、見る角度によって表情を変える。
 
「私は過去にワインの価格で嫌な思いをしたことがあります。だからここでは、お客様にそういう思いをさせたくない」
 
熊谷さんのこの言葉には、ビジネスを超えた、何か個人的な矜持のようなものを感じた。
 
併設する「青山ブルゴーニュ.shop」にも足を運んだ。ここでは、ブルゴーニュの中でもエリアごとにワインが整理され、それぞれの造り手のボトルが体系的に並んでいる。5,000円台から手が届くものもあれば、数十万円の希少なヴィンテージも。
 
この構成は、ワイン初心者にはありがたい。自分がいま、ブルゴーニュという地図のどのあたりを眺めているのかが、すっと頭に入ってくる。入門と深掘りが同じ棚に共存している感覚は、専門店でありながら敷居の低さを感じさせた。

そしてこの空間は、借りられる

 
さて、ここまで「青山ワイン会」という常設の体験を記してきたが、実はこの施設にはもうひとつの顔がある。
 
「OMAKASE青山ガーデン byGMO」は、クリエイターやブランドに向けた貸出可能なホワイトボックスでもあるのだ。全面LEDのイマーシブ映像システム、プロ仕様の厨房とバーカウンター、森田恭通がデザインした空間。これらを舞台に、ミシュラン星付きシェフの特別ディナー、ラグジュアリーブランドの新作発表、アーティストによる没入型の展示など、さまざまな「エキシビション」が展開できる。
 
2026年春には屋外テラスもオープン予定で、青山の空の下でレセプションやパーティーを催すことも可能になるという。
 
つまり、あの森を抜け、ブルゴーニュの空を飛び、黄金のバーカウンターに辿り着くまでの体験設計を、自分たちの物語に置き換えられるということだ。
 
熊谷さんがブルゴーニュへの想いを込めて作り上げたこの装置は、同時に、誰かの情熱を形にするための器でもある。使い手次第で、まったく違う景色が広がる場所。青山の森の奥には、そんな可能性が眠っている。
 
OMAKASE青山ガーデン byGMO オマカセ アオヤマ ガーデン バイ ジーエムオー
オープン日|2025年12月1日
場所|東京都港区北青山3‐10‐8
デザイン|森田恭通(GLAMOROUS co.,ltd.)
 
青山ワイン会(BAR)
ブルゴーニュをテーマにしたイマーシブ映像体験の後、8席限定のバーカウンターへ。日本最大級・約10万本の在庫から厳選された1本を、その夜居合わせたゲストでシェアして楽しむワイン会形式。価格はワインサーチャーの国際平均価格を8等分し、係数1.2を乗せた設定。 完全予約制/予約は「OMAKASE byGMO」にて受付 営業日は不定期(予約ページにて確認)
 
青山ブルゴーニュ.shop
エリア別・造り手別に体系化されたブルゴーニュワイン専門店。店内外在庫数約10万本は日本最大級。5,000円台の入門ボトルから数十万円の希少ヴィンテージまで幅広く揃う。専門知識を持つスタッフが、食事やシーンに合わせた一本を提案。 営業時間 10:00〜22:00(無休)
 
青山ワインテラス
ショップで購入したワインをその場で楽しめる屋外空間。 2026年春オープン予定。
 
空間貸出について
イマーシブ体験空間(約100㎡)、ショップスペース、テラスの貸出が可能。最先端の映像・音響一体システム、プロ仕様の厨房・バーカウンター、世界最高峰ブランドの食器・カトラリーを完備。新作発表会、試飲イベント、没入型コンテンツ上映、レセプション、特別ディナーなど多彩な用途に対応。 
 
問い合わせ先

OMAKASE青山ガーデン byGMO

https://omakase.in/aoyama-garden/space-rental

 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
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