大間の鮪のお造り 握り寿司|中トロ|赤身
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2019年10月19日
「知る」は、おいしい! 界 津軽|TRAVEL
TRAVEL|界 津軽
このひと皿と出合うために、界 津軽へ(1)
質問です! 青森県の名物といったら何を思い浮かべます? 大間のまぐろをはじめとする海の幸に、日本一の生産量を誇る、りんご、ニンニク、ごぼう──。よく知るものから、「え、あなたも青森のご出身?」と、ちょいと意外なものまで勢ぞろいです!日本海・太平洋・津軽海峡と三方を海に囲まれた青森県の海は、寒流と暖流が織り成す、魚たちの宝庫。八甲田や世界自然遺産の白神山地、岩木山など山岳地帯から流れ出る、清らかな水源も、多くの実りをもたらします。青森に来たからには、そんな青森の立地と自然環境の恵みをふんだんに享受した、旬の「うまいもの」をたらふくいただこうじゃありませんか! ダイエットは日常生活に戻ってから。旅先では欲望の赴くままに“食べて”“飲む”べしです(と、筆者自身を鼓舞しているわけですが……)。
Photographs by OHTAKI Kaku|Text by HASEGAWA Aya|Edit by TSUCHIDA Takashi
青森といったら、そりゃあアナタ、あの大間のマグロをこれでもかと食べたいヨ
今回、「青森のうまいもの、いっぱい食べるぞ~」と気合いを入れて出掛けたのは、津軽地方の奥座敷・大鰐温泉の「星野リゾート 界 津軽」(以下、「界 津軽」)。大鰐のシンボルともいえる、標高709メートルの阿闍羅山(あじゃらやま)の斜面に、抱かれるように建つ温泉旅館です。まずは「界」について少しだけ、説明しておきましょう。「界」は、星野リゾートが全国に展開する温泉旅館ブランドで、それぞれの土地の食や伝統工芸、芸能などを満喫できるおもてなし「ご当地楽」に力を入れています。2019年10月現在、全国15カ所に展開しており、2020年3月には16カ所目となる施設「星野リゾート 界 長門」の開業が予定されています。
「界」ブランドの“その地域、季節ならではの体験を提供する”というコンセプトは、「食」の面でも存分にいかされていますが、とりわけ「界 津軽」は、「やるからにはとことんやらせていただきますっ!」という気概を感じます。気のせいでしょうか(笑)。
総支配人の立川久美子さんに料理のコンセプトをたずねたところ、「津軽の四季です」ときっぱり。「津軽の四季を表現できる、会席料理を提供したい」と続けます。はい、望むところです。お腹すかせてきましたよ!
「界 津軽」の夕食は2種類。スタンダードな「季節の会席」か、青森の贅を尽くした「特別会席料理」が選択できます。さらりと“贅を尽くした”と書きましたが、油断(?)は禁物、なかなか突き抜けています。
自慢の「特別会席料理」、早速、ご紹介していくとしましょう。メニューは季節に応じて、3種類を用意しています。春は、青森では欠かせない、とげくり蟹を主役にした、「花見蟹と和牛の会席」を提供。夏には、鮑の刺身をハーブの香るお湯にくぐらせてから、2種類の冷製出汁でいただく「鮑の氷しゃぶしゃぶ」がお目見えします。鮑ちゃんの餌である若芽もたっぷり添えられた、涼やかでゴージャスな料理の登場とともに、どこからかお囃子の音が聞こえてきます。脳内で夏祭りがスタートしたようです(笑)。
そして、秋から冬(9~2月)にかけては、じゃじゃーん出ました、「大間のまぐろづくし会席」の見参です。大間のまぐろは一年中、食べることができますが、旬は、水温が低く、脂が乗る秋から冬にかけてだと言われています。
「特別会席料理」の面々は三者三様ではありますが、どの子も出迎える(=食べる)ほうとしても、気合いが入るラインナップです。どのメニューとも真剣に対峙したいところですが、今回は、シーズンスタート直後の「大間のまぐろづくし会席」と邂逅を果たしました。
結論から申し上げますと、今世でこの子に出会えたこと、本当に幸せに感じております……。
そもそも「大間のまぐろ」って食べたことあります? ここ何年かですっかり有名になってしまい、簡単にお目にかかれる存在ではなくなってしまいました。つーか、まぐろはまぐろだろ、大間で揚ったからってそんなにうまいのかよ、ですと? そうおっしゃるのも分かります。でも、大間のまぐろが美味しいのには、ちゃーんと理由があるんです。詳細は、大間のまぐろ漁師の世代交代をテーマにした映画『魚影の群れ』(相米慎二監督、1983年)(https://www.youtube.com/watch?v=MJHWIos2lkk)をご覧くださいませ。
ウソです、簡単に説明します! 大間のまぐろが揚がる津軽海峡には、黒潮、対馬海流、千島海流の3つの海流が流れ込み、プランクトンが豊富です。うようよいます。これを餌とするイカやイワシは大喜び。元気いっぱいです。で、まぐろちゃんは、そのイカやイワシを餌とし、良質な栄養を蓄えているわけです。
「津軽海峡の荒波を戦い抜いた大間のまぐろは、身がしっかりしまっています」と立川さん。どこか誇らしそうです。
今回、ご紹介する「大間のまぐろづくし会席」は、立川さんをはじめとする「界 津軽」のスタッフたちの、「せっかくなら、まぐろをさまざまな料理で堪能していただきたい」という気持ちを体現したものです。
早速、いただいてみるとしましょうか。先付けに登場したのは、「鮪と長芋のあられ和え」。全国随一の収穫量を誇る、青森の長芋と大間のまぐろをあられ切りにして和え、その上に雲丹をのせた逸品です。味付けにフランスのディジョンマスタードを使っているのですが、これが合うんですね~。「そう来たか!」という感じです。
宝楽盛り ●八寸 鶏と干しぶどうの松風|白玉胡桃味噌|甘海老紹興酒漬いくら|ぶどうの白和え|鮭の幽庵焼き|鱸の棒寿司|秋刀魚油煮ずんだ和え ●割鮮 大間の鮪のお造り 握り寿司|中トロ|赤身 ●酢の物 土佐酢和え旬の恵
宝楽盛りには、赤身と中トロの刺身と握りも付いていました。「大間が誇るまぐろを、やはりお鮨でも味わっていただきたいと思いまして」と立川さん。なるほど、「王道」は外せません。その味わいは、茨城県出身で津軽に来て約1年強という立川さんの言葉を借りて、ご紹介しましょう(さぼっているわけではないですよ)。
「こちらに来て大間のまぐろをいただいたとき、赤身の味の力強さに驚きました」
まさにソレ! だから濃厚なタイプの日本酒にもぜんぜん負けていないんです。あ、青森の食材とお酒とのペアリングもお忘れなく! さまざまな地酒が用意されていますが、なかでも白神山地系伏流水と津軽のお米からつくられた地酒「六根(ろっこん)」と、まぐろの相性の良さは地元の方々の折り紙付きですよ。
TRAVEL|界 津軽
このひと皿と出合うために、界 津軽へ(2)
マグロ出汁のしゃぶしゃぶ、大間のマグロの漬け丼……、づくしづくしで忘れられない体験に!
台の物として用意されていたのは、まぐろ節で出汁をとった牛しゃぶでした。まぐろ節に使用しているまぐろは大間のものではありませんが、小鍋を煮立てている途中で、こっそり味見したところ、え、ちょ、なんですか、これは? ほのかな甘みが鼻腔を突き抜け、身震いする美味しさです。洗面器いっぱい飲めますね、これ。
すみません、ちょっと落ち着きますね。じつはこちらの料理、「追いまぐろ節」まで用意されているんです。なんて気が利いているんでしょうか。エンタメ性、そして、もちろん、お肉との相性も抜群でした。お肉もまぐろ節もどっちもサイコー! お互い、運命の相手に出会えてよかったね。祝福させていただきます。
食事 漬け鮪 薬味 白飯
で、〆は大間のまぐろの漬け丼です。まぐろがイケているのはもちろんのこと、ごはんがまた旨し、なんですよ。これ、地元のお米を使ってるんですって。また、この秋からはオリジナルの土鍋で炊いているのだとか。美味しくないわけがありません、よね。スタッフの方によれば、この漬け丼を心待ちにしているので、その前の料理はポーションを少なめにしてほしいとリクエストされる方もいるそうです。たしかに、こちらの漬け丼、味、風貌、プレゼンテーション──、すべてにおいて主役にふさわしい風格でした。
朝食は、「貝焼き味噌」をメインとした和食膳です。貝焼きというのは、鍋に見立てたホタテの貝のなかで、ホタテの身を鰹節やネギ、しめじなどをお味噌汁仕立てにし、卵でとじていただく津軽の郷土料理です。江戸時代に陸奥湾の漁師が貝殻を鍋代わりにして汁物を煮込んでいたことに端を発すると言われていて、旅館や家庭によってレシピは異なりますが、これがまたご飯に合うんですな、ヤバいくらいに。
青森、なかなかやりよります! 今度は春には、蟹センパイをいただきに再訪しないと!
フィットネスクラブから星野リゾートに転職し、「星野リゾート 界 日光」を経て、はるばる津軽にやってきた立川さんに、改めて津軽の印象を聞いてみました。
「民芸や食など、津軽にはすばらしいものはたくさんありますが、私がいちばん感動したのは、春の桜、夏の新緑、秋の紅葉、冬の雪景色と、四季がとてもはっきりしているところです。津軽の豊かな四季をぜひ味わってください」
その「界 津軽」ですが、立川さんが支配人になった後、2019年4月にリニューアル。全41室が、津軽の伝統工芸である津軽こぎん刺しをテーマにした、ご当地部屋「津軽こぎんの間」に生まれ変わりました。
津軽こぎん刺しは、津軽地方の伝統的な刺しゅう方法のこと。江戸時代、仕事着の強度補強や防寒対策の一環として生まれたものですが、最近ではレトロにもモダンにもアレンジできることもあり、雑貨や小物などにも取り入れられているそうです。お土産ものコーナーでは、津軽こぎん刺しの雑貨やアクセサリーなどが販売されていて、それがまたキュート! ついお財布の紐が緩んでしまいます。
5階にもぜひ足を運ぶべし、ですよ。天井に津軽こぎん刺しの模様を配した、約50メートルの廊下は、「木漏れ日kogin」と名付けられ、海外のメディアによる「ホテルの美しい廊下10選」に選出されました。夜になると、こぎんの文様から光が差し込み、文字通り木漏れ日が降り注ぐような幻想的な世界となります。
で、「津軽こぎんの間」ですが、障子や掛け軸、行灯、ベッドライナーなど、客室の至るところに津軽こぎん刺しのデザインが。気づかない人も多そうですが、客室に置いてある津軽金山焼のコーヒーカップにも、津軽こぎん刺しの模様が付いていました。ルームナンバーを照らす灯りにも、津軽こぎん刺し模様が照らされます。隠れミッキーならぬ、隠れ津軽こぎん刺しを探してみてはいかがでしょうか。いや、ほとんどのこぎんは、隠れていないんですけどね(笑)。
とにかく細かな点にも妥協はありません、とことん津軽こぎん刺しです!
スタッフに尋ねたところ、津軽こぎん刺しの文様は約200~300種あるのだとか。「界 津軽」ではその中から明るく、縁起の良いイメージのある41種類の文様を選び、客室ごとに異なる文様をテーマにしているんですって。
自分でもこぎんを刺してみたくなったら、1階のトラベルライブラリーへ、レッツラゴーです。オリジナルの紙製のしおりを作ることができる、無料の体験キットが用意されています。もっとガチでやりたいというあなたは、有料(1500円、3セット限定)版をお買い求め、刺して刺して刺しまくってください。
ほかにも、「界 津軽」には、津軽を満喫できるトピックスやイベントがあります。
夜は、日本画の巨匠・加山又造氏が津軽をテーマに描いた壁画「春秋波濤(しゅんじゅうはとう)」が抜群の存在感を放つ、ロビーそばのパブリックスペースで、津軽三味線全国チャンピオンの渋谷幸平さんと、渋谷さんから手ほどきを受けた「界 津軽」のスタッフによる津軽三味線の生演奏が行われます。力強く可憐な津軽三味線の音色に、酔いしれてくださいませ。演奏後には、ゲストが津軽三味線を体験できる時間も設けられているので旅の思い出にチャレンジしてみてはいかがでしょう?
また、2019年4月の客室のリニューアルに合わせ、ロビー奥には「津軽四季の水庭」が誕生しました。もともと存在していた池に、水辺にせり出したテラスを設けたのです。枝垂れ桜やもみじなどさまざまな木々が植えられている水庭を借景に、さまざまなイベント、アクティビティを実施していますが、筆者のおすすめは毎朝、宿泊者を対象に無料で実施している「津軽たいそう」です(日によって会場が変わる場合あり)。
花見、ねぶた、りんごの収穫、雪かきと、津軽の四季に関連する動作で体を動かします。体操とかヨガとかいう言葉を聞くと「うへぇ~」と思ってしまう、私のようなへなちょこも、これ、楽しく体を動かせて、よい感じですよ。
「星野リゾートは温泉からスタートしています。ぜひ温泉も味わってください」と立川さん。で・す・よ・ね~。もったいぶっていたわけではないのですが、最後の最後に温泉のご紹介を。
「界 津軽」で楽しめる大鰐温泉は、江戸時代の全国温泉番付で、草津や有馬がカテゴライズされた「横綱」以上の、「行司」と評された名湯なんです。なんだよ行司って、という突っ込みは置いておくとして、トロリとした泉質はいかにも効きそうです。樹齢2千年を超える、古代檜の巨木を使った湯殿からは、大きな窓の向こうにダイナミックな津軽の四季の景観をのぞむことができます。また、例年9月中旬からゴールデンウィーク明けまでは、地元のりんご農家が丹精込めて作ったりんごと一緒に入浴が楽しめちゃいます(※その年の収穫状況によって期間は変更の可能性あり)。これ、なかなか風流でしょ?
津軽で古くから愛されてきたお湯に浸かり、津軽の食を堪能し、津軽の文化に抱かれて眠る──。いいですねぇ。すがすがしいまでに津軽にオールインの「界 津軽」、潔いです! そもそも「界 津軽」は、いわば“津軽”をテーマにした、大人のための娯楽施設、といってもいいかもしれません。そして、この娯楽施設、ハマると大変です。私は昨日、蟹の夢を見ました……。誰か助けてください。
星野リゾート 界 津軽
住所|青森県南津軽郡大鰐町大鰐字上牡丹森36-1
アクセス|JR奥羽本線大鰐温泉駅からタクシーで約5分。東北自動車道大鰐弘前ICより約15分
料金|2万6000円〜(津軽こぎんの間、和室リビングスペース付きに宿泊の場合。1泊2食付き、2名1室)
住所|青森県南津軽郡大鰐町大鰐字上牡丹森36-1
アクセス|JR奥羽本線大鰐温泉駅からタクシーで約5分。東北自動車道大鰐弘前ICより約15分
料金|2万6000円〜(津軽こぎんの間、和室リビングスペース付きに宿泊の場合。1泊2食付き、2名1室)
問い合わせ先
星野リゾート 界 津軽
電話|0570-073-011(界予約センター)
URL|https://kai-ryokan.jp/tsugaru/