祐真朋樹・編集大魔王対談|vol.24 KYOTO JAZZ SEXTET 沖野修也さん
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クリエイティヴ・ディレクター/DJ/選曲家/執筆家/世界唯一の選曲評論家などなど、多彩な顔を持つ沖野修也さんが、最近の録音方法では珍しい「一発録り」にこだわったアルバム、KYOTO JAZZ SEXTET「UNITY」を発表。
以前から沖野氏と親しい編集大魔王 祐真朋樹が、親しいがゆえに話せる内容満載の今回の対談です。はたして会話のの行方は、QJ・・・?
Interview by SUKEZANE TomokiText by HATKEYAMA Satoko
沖野氏独自の音作りから生まれるJAZZ
祐真朋樹・編集大魔王(以下、祐真) 沖野さん率いるジャズユニット・KYOTO JAZZ SEXTETが、セカンドアルバム『UNITY』をリリースしましたね。沖野さんはもう一方で、KYOTO JAZZ MASSIVEというユニットでも活動されていますけれど、今日はまずその違いを教えてください。
KYOTO JAZZ SEXTET 沖野修也さん(以下、沖野) KYOTO JAZZ MASSIVEは僕と弟(=沖野好洋)が一緒にやっていて、基本的には打ち込みでダンスミュージックに特化しているユニットです。KYOTO JAZZ SEXTETのほうは、完全なジャズの生バンドで、全部アナログでやっていいます。テープで録音をし、マスタリングやカッティングといった作業もすべてアナログ。しかも一発録りなので、コンピュータを使って後で直すといった作業をしていません。
祐真 デジタルの時代に、あえて一発録りにこだわるという理由はなんですか。
沖野 そうすることでしか生まれない「緊張感」のようなものがあるんです。今はコンピュータでドラムを組み立てたら、ベース、キーボード、歌、サックスという順番に1人ずつ演奏をして、音を乗せていく作業がメイン。途中でおかしなとこがあったら直せるし、歌のピッチもコンピュータで変えられます。まあそれはすごく便利なことではあるんですけれど、このユニットではあえてその作業をしていません。
祐真 つまり、ライブに行ってアーティストの生声を聞いて、「あれ、なんか下手じゃない?」と違和感を感じたのに、家に帰ってCDで聴いてみたら完璧に歌っている。デジタルでアルバムを製作するとはそうなるということですよね。
沖野 おっしゃるとおりです。一発録りは直せないぶん、ごまかしが効かないんです。今は、昔のジャズが持っていた良さを充分に再現できるはずなのに、便利だからといってコンピュータに取り込み、直しを入れてデジタル化してしまう。アナログな録音方法とはいえ、決してレトロにならないように今のエッセンスを加えているのがKYOTO JAZZ SEXTETのスタイルです。
祐真 どうしてまたそういうことをやろうと思ったんですか?
沖野 一枚目のアルバムは、2年前に開催された「KYOTOGRAPHIE 京都国際写真祭」とのコラボから生まれたものだったんです。モダンジャズの名門レーベル「ブルーノート・レーベル」で写真を取っていたフランシス・ウルフの展覧会があって、その関係者に京都のCLUB METROで「なにかコラボ、できませんか!?」と直訴されて…。
祐真 いきなり待ち伏せですか(笑)。
沖野 はい。いきなりそう言われて「この人たち、誰?」みたいな (笑)。ただ当時はたまたま僕もブルーノートのカバーをするアイデアがあって、タイミング悪くブルーノートの社長が引退されて、企画が飛んだばかりだったんです。その企画というのが、「今までダンスミュージックを作っていた人間が、生音のジャズのバンドをする」ということで、それがKYOTO JAZZ SEXTETの結成に繋がったわけです。「DJに何ができるの?」と言われそうですけれど、年齢的なこともあるし、あえて今までにやったことのない領域にチャレンジしたいという思いもあったんです。
祐真 今回はジャズで、それに初めて作曲もされたわけですよね。沖野さんって、楽器の演奏はするんでしたっけ?
沖野 いや、楽器の演奏は全くできないです。作曲は鼻歌をiPhoneに吹き込んで作っています。ボーカルのメロディーやベースラインしかり。ドラムのパターンにしても、ほとんどが僕の考えたパターンになっているんです。
祐真 えっ、鼻歌でドラム…ってどういうことですか?(笑)
沖野 僕とミュージシャンの間にプログラマーがいて、その彼が僕の鼻歌をベースにコンピュータにドラムを打ち込んだり、キーボードを入れたりします。その打ち込みがデモになるので、メンバーに聴かせるときは「僕の鼻歌がこんなふうになるのか」みたいな、ちょっとした感動があるんですよ。
祐真 なるほど。そこからそれぞれのミュージシャンが演奏してみて、フィックスできたら、スタジオで本番、一発で演ると!
沖野 ただこれが、本番でまた変わっちゃうんです。「あれ、違うやん」みたいな(笑)。でもそれは結果が良ければ採用します。そこも含めてジャズということなのかと思っているので。
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—KYOTO JAZZ SEXTETは「オキノ・ジャパン」と呼んでいます
沖野 KYOTO JAZZ SEXTETはいろんなバンドからの選抜メンバーが集まっているので、サッカー日本代表になぞらえて「オキノ・ジャパン」って呼んでいます。僕が戦術を叩き込むんですけど、なかなか本番でその戦術通りには行かないのがネックで(笑)。
祐真 加茂 周(1994〜97年サッカー日本代表監督)さんみたいな? いや、例えがちょっと古いか(笑)。
沖野 いえいえ、わかります(笑)。例えば、他のバンドのリーダー格の人に脇役にまわってもらうとか、サッカーでいうところの左サイドの本田をボランチで配置するようなこともするので、メンバーは普段やらされてないことをやっていると思いますね。例えば、ピアノの平戸祐介。彼はもちろん普段は他のバンドのリーダーとして活動をしているんですけれど、僕が監督としていろいろとリクエストするので、「えー、これを僕に言われても」と思っている可能性もあるんです。でも、それを嫌だと思う人だったら辞めているし、僕は基本的に「この人だったら、これをやってくれるはずだ」と思って人選をしているので。
祐真 「やってくれるはず」と思うということは、その人がやる気を起こしてくれるだろうという算段が少なからずあるということですもんね。
沖野 その通りです。この人の潜在的な能力や、この人はこれをやった方が活きるだろうという部分は、僕なりに考えているところもあるので。
祐真 素晴らしい!ちなみに、バンド名にあるSEXTETというのは、どういう意味ですか?
沖野 6人編成のグループことをいいます。なので、KYOTO JAZZ SEXTETは、「京都ジャズ6人組」という意味になりますね。
祐真 アルバムのタイトル『UNITY』にはどういう意味があるんでしょうか。
沖野 直訳すると「単一」とか「団結」という意味で、メッセージ色の強いタイトルですけれど、僕としてはそういう意図はありません。ただ、聞く人がこのタイトルからいろんなことを考えて欲しいなという思いは込めています。最初に作った曲が『ソング・フォー・ユニティ』という曲で、ジャズのレジェンドであるファラオ・サンダースの息子さんをフィーチャーしていて、その彼の名前が「トモキ」というんですが…。
祐真 僕も「トモキ・サンダース」というクレジットを見て驚きました(笑)。イニシャルも同じだから他人のような気がしなくて…トモキさん、いくつなんですか?
沖野 21歳で、お母さんが日本人というハーフです。ボーカルのナヴァーシャは、アフリカ系アメリカ人ですけれど、ネイティブ・アメリカンやアジア、スコットランドがミックスしたハイブリッド。僕がアシッドジャズのドンズバの世代で、ピアノの平戸君はアシッドジャズを聴いて育った世代。トモキはアシッドジャズもその次の世代も知っていて、さらにヒップホップも聴いていますという世代。KYOTO JAZZ SEXTETは、いろんな国の人が居て、しかも3世代のレイヤー。それらを超えて作った音楽だからこその『UNITY』というタイトルです。
祐真 確かに、それは沖野さんの普遍的なテーマともいえますからね。世代を超え、国籍を超え、性別を超え、とにかくやってみようという姿勢は、いつも素晴らしいなと尊敬しています。
沖野 例えば主張したいことがあっても、街頭で演説をするんじゃなくて、音楽でスマートに表現したいというか。僕はデモにも参加しますけれど、ああいうのってなぜか皆ヒステリックで排他的。世代が違っても一緒にやれるとか、男とか女なんて関係ないということを、僕は音楽で表現したいなと…とまあ、言うことだけは一丁前ですけれど、それが実践できて伝わっていればいいなとはいつも思っています。
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一発録りへのこだわり
祐真 今回のアルバムで用いた、生音というか、一発録りという手法って、いつの時代から廃れていってしまったんですか。
沖野 1970年代にはまだありましたよね。やはりコンピュータが普及していった90年代ぐらいからから、みんなバラバラに演奏を重ねていって、歌も直してみたいになっていきましたね。とにかく便利だから。
祐真 実際の作業としてはどっちが大変なんですか。
沖野 考えてみたらコンピュータの方が大変かもしれませんね。一発録りは「せーの」でやるので、メンタル的には大変ですけれど、スタジオに入ったら1日で終わりますからね。コンピュータは機材も買わなくちゃいけないし、それこそ日数だってけっこうかかるし。
祐真 一発録りのほうが「失敗は許されない」と思って全員が緊張して演るというわけですね。デジタルは重ねや直しが可能なぶん、緊張感はなさそうですよね。
沖野 そうなんです。それって非常に良くないです。さっきのライブの話じゃないですけど、CDで聴いたら歌が上手いのに、ライブになると「あれ?」と思う人は本当に多いですよ。歌が強烈に上手いとか演奏が強烈にすごいとかで、観客を圧倒させることが音楽家の本来あるべき姿でもありますからね。
祐真 今回のアルバムは1つの新しい形として、沖野さんワールドの広がりを示してもいますよね。初めてジャズの作曲もしたそうですし、このままミュージシャンになっちゃえば良いんじゃないですか。するとこういう場合は、沖野さんは音楽プロデューサーということになるんでしょうか。
沖野 「音楽プロデューサー兼作曲家」ですね。
祐真 演奏はしないで作曲だけをしていた人たちって、過去にいたりするんですか。例えば、クインシー・ジョーンズもそうだったりしますか。
沖野 いや、ジャズの作曲家で楽器を演奏しない人は基本的にはいませんね。クインシー・ジョーンズはまた別格で、彼は1981年に日本武道館でライブをしたんですが、曲は人が書いて、歌っているのも女性。クインシーは最初こそキーボードを弾いているんですけれど、途中から立って踊りだして、最後までずっと踊っているっていうのがありました(笑)。
祐真 僕もずっとクインシー・ジョーンズの立ち位置はラクでいいなと思って見ていました。でも彼は一般的に「音楽プロデューサー」と呼ばれることが多い人ですよね。沖野さんもいっそ「クインシー・ジョーンズ」という職業にしたらどうですか(笑)。
沖野 いいですね。後釜を狙って「日本のクインシー・ジョーンズ」とか。そうしたら、クレジットはQJ。
祐真 いいですね、QJ!
沖野 見出しは「DJからQJへ」、それでお願いします(笑)。
アルバム発売記念LIVE KYOTO JAZZ SEXTET 「UNITY」 Special Live 2017
日程|2017年8月7日(月)
会場|ビルボードライブ東京
東京都港区赤坂9-7-4 東京ミッドタウン ガーデンテラス
出演|KYOTO JAZZ SEXTET: 類家心平(tp) 栗原健(ts) 平戸祐介(p) 小泉P克人(b) 天倉正敬(ds) 沖野修也(vision) 【ゲスト】タブ・ゾンビ(tp) Tomoki Sanders(ts) Navasha Daya(vo)
http://www.billboard-live.com/pg/shop/show/index.php?mode=detail1&event=10587&shop=1
Musician/類家心平(tp) except 2, 3 栗原 健(ts) 平戸祐介(p) 小泉 P 克人(b) 天倉正敬(ds) 沖野修也(vision) Guest/タブ・ゾンビ(tp) on 2, 3 トモキ・サンダース(ts) on 2, 3 ナヴァーシャ・デイヤ(vo) on 5, 6
Produced by 沖野修也 (Kyoto Jazz Massive) Co-produced by 池田憲一 (ROOT SOUL)
www.kyotojazzmassive.com