MOVIE│アンドレイ・ズビャギンツェフ監督『エレナの惑い』『ヴェラの祈り』
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2015年1月17日

MOVIE│アンドレイ・ズビャギンツェフ監督『エレナの惑い』『ヴェラの祈り』

MOVIE|ベネチア映画祭金獅子賞監督による2作を同時公開

アンドレイ・ズビャギンツェフ監督『エレナの惑い』『ヴェラの祈り』

2003年の長編デビュー作『父、帰る』でベネチア国際映画祭の金獅子賞を獲得したアンドレイ・ズビャギンツェフ監督。受賞後に製作され、いずれもカンヌ国際映画祭で賞に輝いた『エレナの惑い』と『ヴェラの祈り』が12月20日(土)より、ユーロスペースほか全国順次ロードショーされる。

Text by YANAKA Tomomi

ロシアを代表するフィルムメイカーの最新作とは?

アンドレイ・ズビャギンツェフ監督は、1964年、ロシア・ノヴォシビルスク生まれ。俳優ののち、テレビのコマーシャルやテレビシリーズの演出などを手がけてきた。そして2003年に長編デビュー作『父、帰る』がカンヌ国際映画祭でグランプリとなる金獅子賞を受賞。一躍ロシアを代表するフィルムメイカーとして名乗りをあげた。

そんな彼の作品が10年ぶりに日本で公開。2007年に完成させた長編2作目となる『ヴェラの祈り』と、2011年に製作された『エレナの惑い』が上陸。いずれも女性の苦悩と孤独、そして愛が美しく繊細なタッチで描かれている。

夫婦の心の変化をサスペンスフルに描く『エレナの惑い』

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カンヌ国際映画祭の「ある視点部門」で審査員特別賞、さらにモスクワ国際映画祭では最優秀監督賞に輝いた『エレナの惑い』。再婚同士の夫婦に訪れる心の変化を静かにサスペンスフルに描き出す本作。ロシアを代表する女優として知られるナジェジダ・マルキナがエレナを熱演し、強い決意と女の凄みがスクリーンに広がる。

冬のモスクワ。初老の資産家と再婚した元看護師のエレナは生活感のない高級マンションで、一見裕福で何不自由のない生活を送っている。互いに前の結婚での子どもがおり、エレナは働く気のない息子家族の生活費を工面しているのだった。また、夫の一人娘も仕事もせずに遊興生活を送り、夫と没交渉であることをエレナは快くおもっていない。お互いの子どもの話題となると、夫婦の空気は険悪になってしまうのだった。

しかし、夫が急病となり、そんな日常が急変。死期を悟り、「明日、遺言書を作成する」と語る夫の言葉を受け、彼女は思わぬ行動を取る。

妻の告白により、悲劇に飲み込まれる家族

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いっぽうの『ヴェラの祈り』は、夫婦のすれちがいと孤独、愛の果てを描いたアメリカ人作家、ウィリアム・サロヤン原作による夫婦の物語。『父、帰る』につづき主演したコンスタンチン・ラヴロネンコは、この作品でカンヌ国際映画祭の主演男優賞を受賞。妻の思わぬ告白に心を乱され、家族を破滅へと導いてしまう沈黙する夫を演じた。またヴェラには北欧映画界を代表する若手女優の一人、マリア・ボネヴィー。女性の神秘と強さを体現した彼女の演技にも注目したい。

夏を過ごすために、田舎の家を訪れたある家族。美しい景色のなかで流れる静かな時間は妻ヴェラが「妊娠したの、でもあなたの子じゃない」という告白で暗転していく。妻、そして母であるという立場におさまりきれない感情の熱波は、やがて家族全員を巻き込む悲劇を引き起こし──

女性という存在の内面に深く迫った両作品。女の業、内なる炎をあぶり出す、アンドレイ・ズビャギンツェフの静謐な演出に注目したい。

『エレナの惑い』
12月20日(土)より、ユーロスペースほか全国順次ロードショー
監督│アンドレイ・ズビャギンツェフ
出演│ナジェジダ・マルキナ、アンドレイ・スミルノフ、アレクセイ・ロズィン、エレナ・リャドワ
配給│アイ・ヴィー・シー
2011年/ロシア/109分
© NON-STOP PRODUCTIONS - IMP. LEVILLAIN RCS CRÈTEIL B 322 482 710

『ヴェラの祈り』
12月20日(土)より、ユーロスペースほか全国順次ロードショー
監督│アンドレイ・ズビャギンツェフ
出演│コンスタンチン・ラヴェロネンコ、アリア・ボネヴィー、アレクサンドル・バルエフ、ドミトリー・ウリヤノフ
配給│アイ・ヴィー・シー
2007年/ロシア/157分
© REN-Film

http://www.ivc-tokyo.co.jp/elenavera/

           
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