MOVIE|生きることを問う真実の物語『鉄くず拾いの物語』
MOVIE|ベルリン国際映画祭で3冠を受賞!
生きることを問う──『鉄くず拾いの物語』
愛する人を守るため、人はなにができるのだろう──。『ノー・マンズ・ランド』のダニス・タノヴィッチ監督が、当事者たちを起用して描いた感動の実話『鉄くず拾いの物語』。1月11日(土)より、新宿武蔵野館ほかにて全国順次ロードショーされる。
Text by KUROMIYA Yuzu
人生は理不尽で厳しく、ゆえに人間はたくましい
戦争の愚かさを描いた『ノー・マンズ・ランド』でアカデミー賞外国語映画賞を受賞したダニス・タノヴィッチ監督が、とあるロマ一家の実話を映画化。
2011年、故郷のボスニア・ヘルツェゴヴィナに住むロマ民族の女性セナダが、保険証を持っていないために手術を受けられなかったという記事が新聞に掲載された。これを読んだダニス・タノヴィッチ監督は「なんとか映画にして、世間に訴えなければいけない」と立ち上がり、たった1万3000ユーロを自己資金として、わずか9日間で撮り上げたのが本作だ。
主演には当事者であるセナダとナジフを迎え、まるでドキュメンタリーのような緊張感のある映像世界を演出。“ドキュドラマ”(取材レポートなどをもとにドラマに表現し、両者を混合して構成した番組や映像作品)という斬新なアプローチで、奇跡のヒューマンストーリーを誕生させた。
貧しくも幸せなロマの一家に起こったある出来事
鉄くず拾いで生計を立てているボスニア・ヘルツェゴヴィナに暮らすロマのムジチ一家は、貧しくも幸福な日々を送っていた。ある日、3人目の子供を身ごもる妻・セナダは激しい腹痛に襲われ病院に行く。医師から「いますぐに手術をしなければ危険な状態だ」と告げられるが、保険証を持っていないために、彼らに支払えない高額な手術代を要求される。
妻の手術を懇願するも病院側は受け入れを拒否、その日はただ家に帰るしかなかった。夫・ナジフはセナダの命を救うため、死にもの狂いで鉄くずを拾い、国の組織に助けを求めるのだが……。
演技の経験がまったくないにもかかわらず、ナジフ・ムジチはベルリン国際映画祭で銀熊賞・主演男優賞を受賞。そして本作をきっかけに保険証と定職も手にしたという、まさに一家の実人生まで変えてしまった感動作だ。
家族を守るために懸命に試練と向きあい、大切な人と共に生きることの意味を静かに投げかけるナジフの姿に、観る者は心を揺さぶられるだろう。
『鉄くず拾いの物語』
1月11日(土)より新宿武蔵野館ほかにて全国順次ロードショー
監督・脚本|ダニス・タノヴィッチ
出演|セナダ・アリマノヴィッチ、ナジフ・ムジチ
配給|ビターズ・エンド
ボスニア・ヘルツェゴヴィナ、フランス、スロベニア/74分/原題『Epizoda u životu berača željeza』
http://www.bitters.co.jp/tetsukuzu/