INTERVIEW|映画『夢売るふたり』西川美和監督インタビュー
INTERVIEW|男と女の心と性を激しく揺さぶる衝撃のラブストーリー、ついに公開!
映画『夢売るふたり』 西川美和監督インタビュー
2002年の初監督作品『蛇イチゴ』、2006年『ゆれる』、2009年『ディア・ドクター』――これまで数多くの映画賞を受賞してきた西川美和監督の最新作『夢売るふたり』が、9月8日(土)より全国ロードショー公開される。原案・脚本・監督を手がけた西川監督に公開記念インタビュー!
Text by KAJII Makoto (OPENERS)Photographs by HARA Emiko
これまで避けてきた、女の生き方を描いてみたかった
──『夢売るふたり』というタイトルはいつ決められましたか?
夫婦が結婚詐欺をして、女の人たちに夢を売って、その代償で得たお金で自分たちの夢を叶えるというアイデアが出たときに決まりました。最初からタイトルが決まったのははじめてで、それから迷うこともありませんでした。
──今回は、「女の生き方を描いてみたかった」と西川さんはおっしゃっていて、いろんな悩みを抱えたいろんな女性(松たか子、田中麗奈、鈴木砂羽、木村多江、安藤玉恵、江原由夏など)が登場しますが、西川さんがシンパシーを感じる女性は?
「女の生き方を描いてみたかった」と言ったのは、それをこれまで自分が避けてきたところでもあって、今回は正面からやってみようと思ったんです。登場人物では、意固地なところは松さんに近いだろうと思いますが、好きだなと思うのは安藤さんのソープ嬢の役ですね。
──映画のなかではウェイトリフティングの女子選手のエピソードも出てきますが、ロンドン・オリンピックでは女性選手が活躍しましたね。
今回は女性は頑張りましたね。撮影現場にも女性スタッフが増えて、とても優秀です。女性はこれをやろうと思ったら潔くて、目的に向かってまっすぐ純粋に走りますね。それはたしかなことなんだけれども、もちろん男性陣の力は甚大ですよ。私は男性の多い映画の世界で育ててもらって生きてきたし、男性も女性もお互いを認めながら、補いながらあるのが世の中だと思っているので、どちらかが優れているとは考えません。自分自身も女性監督だというだけで取り沙汰されることに、何となく居心地の悪い思いをしてきましたしね。
表面は美しいけど、良い香りに引きずられて近づくと食われてしまう“夢”
──『夢売るふたり』のなかでお好きなシーンは?
やはり阿部サダヲさんと松さんのシーンですね。ラーメン屋での言い合いのシーンとか、居酒屋でカウンターをはさんでのお芝居とか。火を使ったアクションシーンより、心理戦を交わしてお芝居する“座り芝居”が好きなんです。
──女優、松たか子の魅力を教えてください。
本当にすごい女優さんですね。私は脚本も書いているので、表現の一つひとつ、てにをはの一つにも思い入れがあって、撮影現場で変わっていくことは化学反応だと思っていますが、松さんはすべてが入っています。さらっと基礎ができているし、今回は難しい役だと思いますが、そう思わせないほど一つひとつをしっかり掴んで演じられているので、すいすい進んでいくんです。世間がイメージしているよりもはるかにいろんなことができる女優さんで、これからどんな役者になっていくんだろうと楽しみですね。
──西川さんは原案・脚本・演出も手がけていますが、今回大変だったのは?
原案は4~5年前におぼろげにあって、脚本はリサーチをはじめてから決定稿まで1年半ほどかかりました。一番自分らしい作業は物語を作っていくところなんですが、今回は撮影は楽しかったですが、大変でした。監督業のいいところは、撮影を迎えてなじんだ顔のスタッフが揃ってくれて、撮影の約50日間、スタッフに支えられて、みんなで進んでいくことです。今回は、自分の現場を待ってくれているひとがいるんだなと思ったし、キャストもみんな気さくでつきあいやすい人たちだったので楽しかったですね。
──オリジナル脚本の『蛇イチゴ』と『ゆれる』は、いずれも西川さんが見た夢が題材で、今回はタイトルにも“夢”が入っていますね。
夢はいい意味で使われていますが、もっと怖い意味もふくまれている言葉だと思います。表面は美しいけど、良い香りに引きずられて近づくと食われてしまうこともある。東京という街もそうですが、夢に食いつぶされていく人間もたくさんいるし、怖いところがあるのがひとが見る夢ですね。今回はその両面を描こうと思いました。
──では最後に見どころを監督ご自身から。
この『夢売るふたり』にかんしては、私が見どころをお薦めしても皆さんとずれるんです。本当に観た方によって受け取り方はさまざまなので、自分の見どころをぜひ探していただきたいと思います。